ヒト多段階発がん過程における遺伝子異常の把握に基づいたがんの本態解明とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200621001A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト多段階発がん過程における遺伝子異常の把握に基づいたがんの本態解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H16-3次がん-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
広橋 説雄(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 牛島 俊和(国立がんセンター研究所 発がん研究部)
  • 金井 弥栄(国立がんセンター研究所 病理部)
  • 細田 文恵(国立がんセンター研究所 ゲノム構造解析プロジェクト)
  • 村上 善則(国立がんセンター研究所 がん抑制ゲノム研究プロジェクト)
  • 坂元 亨宇(慶應義塾大学 医学部)
  • 稲澤 譲治(東京医科歯科大学難治疾患研究所 疾患医科学研究系分野)
  • 今井 浩三(札幌医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
195,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
諸臓器のがんにおいてジェネティック・エピジェネティックな遺伝子異常を網羅的に解析し、がんの遺伝子型と表現型の相関 (genotypephenotype correlation)を明らかにして、ヒトの諸臓器における多段階発がん過程のシナリオの全貌を解明する。
研究方法
独自に開発した高密度アレイを用い、諸臓器のがんで比較ゲノムハイブリダイゼーション解析を行った。Tslc1/Igsf4欠損マウスを作成・解析した。TCF-4を含む核内複合体構成蛋白質を網羅的に同定した。G蛋白共役型受容体等の発現制御機構等を明らかにした。プロテオーム解析技術の革新を図り、個別医療に有用なマーカー蛋白の同定を目指した。CpGアイランドメチル化形質 (CIMP)の予後予測力を検証した。発がん過程においてDNAメチル化制御機構の異常を解析した。
 厚生労働省告示「臨床研究に関する倫理指針」を遵守し、所属施設の倫理委員会の承認を得た。米国実験動物資源協会の「実験動物の管理と使用に関する指針」を遵守し、所属施設の動物倫理委員会の承認を得た。
結果と考察
ゲノム構造異常の蓄積過程が複数の組み合わせで並立し、肝・膵等における多段階発がん過程が進展していることを示した。胃がん・肝がん・膵がん等のがん関連遺伝子の同定をすすめた。
 Tslc1/Igsf4の欠損マウスが、肺腺腫、肺腺癌を高率に自然発生することを見出した。TCF-4の結合蛋白としてポリ(ADP-リボース) ポリメレース-1 (PARP-1)とKu70を同定した。G蛋白共役型受容体Gpr49の発現がソニックヘッジホッグ経路の下流で制御され、肝細胞がん株ではWnt-βカテニン系の標的分子であることを示した。蛍光二次元電気泳動法により、消化管間葉系悪性腫瘍の術後転移予測指標となる蛋白質フェチンを特定した。
 ドイツ人神経芽細胞腫症例においても、日本人例と同様に、CpGアイランドメチル化形質(CIMP)強い予後予測力を持つことを示した。DNAメチル化異常の観点から、腎腫瘍症例より得られた非腫瘍部腎組織は、組織学的に特記すべき所見を示さなくても既に前がん段階にあることを示した。ゲノム網羅的なDNAメチル化異常を伴う前がん状態からより悪性度の高いがんを生じる可能性がある。
結論
がんの病理像と遺伝子・分子・細胞レベルの変化との対応の理解が進み、新しいがんの病態診断や標的治療の基盤となる知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200621001B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト多段階発がん過程における遺伝子異常の把握に基づいたがんの本態解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H16-3次がん-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
広橋 説雄(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 牛島 俊和(国立がんセンター研究所 発がん研究部)
  • 金井 弥栄(国立がんセンター研究所 病理部)
  • 細田 文恵(国立がんセンター研究所 ゲノム構造解析プロジェクト)
  • 村上 善則(国立がんセンター研究所 がん抑制ゲノム研究プロジェクト)
  • 坂元 亨宇(慶應義塾大学 医学部)
  • 稲澤 譲治(東京医科歯科大学難治疾患研究所 疾患医科学研究系分野)
  • 今井 浩三(札幌医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
諸臓器のがんにおいてジェネティック・エピジェネティックな遺伝子異常を網羅的に解析し、genotypephenotype correlationを明らかにして、多段階発がん過程のシナリオの全貌を解明する。
研究方法
諸臓器がんのゲノム構造異常を網羅的に解析した。Tslc1/Igsf4欠損マウスを作成した。TCF-4/β-カテニンを含む核内複合体構成蛋白質を網羅的に同定した。諸臓器がんで、トランスクリプトーム・プロテオーム解析を施行し、DNAメチル化異常を網羅的に解析した。「臨床研究に関する倫理指針」を遵守し、所属施設の倫理委員会の承認を得た。米国実験動物資源協会「実験動物の管理と使用に関する指針」を遵守し、所属施設の動物倫理委員会の承認を得た。
結果と考察
諸臓器のがんで高頻度にコピー数の減少・増加を示す微小染色体領域を新規に見出し、新規がん関連遺伝子を同定した。病態診断・治療法選択の指針となる可能性のあるゲノム構造異常プロファイルを同定した。
 TSLC1に結合蛋白DAL-1のDNAメチル化は、肺がんの予後不良因子となる。TSLL2は前立腺がん抑制遺伝子の可能性がある。Tslc1/Igsf4の欠損マウスは、肺腺腫・肺腺がんを高率に自然発生する。TCF-4の結合蛋白としてPoly PARP-1・Ku70を同定した。β-カテニンが核内でFUSと相互作用し、プレmRNAスプライシングに関わる可能性を示した。アクチニン-4は、細胞運動能を亢進させがんのリンパ節転移を亢進させる。ディスアドヘリンは、アクチン細胞骨格の構築制御を介して細胞運動能を亢進させる。Gpr49は、ソニックヘッジホッグ経路の下流で発現制御される。消化管間葉系悪性腫瘍の術後転移予測マーカーとしてフェチンを特定した。大腸がん肝転移予測のためのスコアシステムを確立した。
 PCDHB遺伝子を指標とするCpGアイランドメチル化形質は、神経芽細胞腫症例の強い予後予測因子である。DNAメチル化状態伝達の忠実度が低下しCpGアイランド内にde novoのメチル化が蓄積するがん細胞株の存在を示した。DNMT1発現亢進ががん関連遺伝子のDNAメチル化蓄積と相関し、諸臓器のがんの予後予測因子となる。ゲノム網羅的なDNAメチル化異常を伴う前がん状態からより悪性度の高いがんを生じる可能性がある。
結論
がんの病理像と遺伝子・分子・細胞レベルの変化との対応の理解が進み、新しいがんの病態診断や標的治療の基盤となる知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
諸臓器のがんにおいて遺伝子の発現異常ならびにジェネティック・エピジェネティックな遺伝子異常を網羅的に解析し、臨床病理学的因子との相関を詳細に検討することで、がんの遺伝子型と表現型の相関 (genotype-phenotype correlation)が明らかになりつつあり、ヒトの諸臓器における多段階発がん過程のシナリオの理解がすすんだ。革新的ながん診断の指標あるいは新しいがん予防・治療標的の同定の基盤となる成果を示し得た。
臨床的観点からの成果
同定したがん関連遺伝子が治療標的分子となることが期待される。フェチンの発現は、消化管間葉系悪性腫瘍の術後転移の予測マーカーとなり得ると考えられ、術後転移が予測される症例に早期からグリベックを投与すれば治療成績を向上させる得る可能性がある。CpGアイランドメチル化形質 (CIMP)やDNMT1発現亢進は、諸臓器のがんの新規予後マーカーとして臨床応用に値すると考えられた。
ガイドライン等の開発
がんに特異的なゲノム構造異常の網羅的スクリーニングを可能にする高精度・高密度ゲノムアレイを開発・改良したので、がん関連遺伝子の単離が効率的に進むことが期待される。プロテオーム解析技術の革新を図ったので、個別医療に有益なマーカー開発に有用と期待される。
その他行政的観点からの成果
第3次対がん10か年総合戦略企画運営会議に報告した研究成果は、「中間・事後評価委員会」において第3次対がん10か年総合戦略第2期への継続を決定し、第2期の課題を設定する際の基盤資料となった。
その他のインパクト
2006年2月6-7日学術総合センターにおいて、第3次対がん10か年総合戦略厚生労働省・文部科学省第1回合同シンポジウム“がんの罹患率と死亡率の激減を目指して”を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
160件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
141件
学会発表(国際学会等)
54件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計17件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
第3次対がん10か年総合戦略企画運営会議中間・事後評価委員会における施策決定に反映された。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第3次対がん10か年総合戦略厚生労働省・文部科学省第1回合同シンポジウムを開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Katoh H, Shibata T, Kokubu A, et al.
Epigenetic instability and chromosomal instability in hepatocellular carcinoma.
Am J Pathol , 168 , 1375-1384  (2006)
原著論文2
Fujii K, Kondo T, Yokoo H, et al.
Database of two-dimensional polyacrylamide gel electrophoresis of proteins labeled with CyDye DIGE Fluor saturation dye.
Proteomics , 6 , 1640-1653  (2006)
原著論文3
Katoh H, Shibata T, Kokubu A, et al.
Genetic inactivation of the APC gene contributes to the malignant progression of sporadic hepatocellular carcinoma: A case report.
Gene Chrom Cancer , 45 , 1050-1057  (2006)
原著論文4
Okano T, Kondo T, Kakisaka T, Fujii K, Yamada M, et al.
Plasma proteomics of lung cancer by a linkage of multi-dimensional liquid chromatography and two-dimensional difference gel electrophoresis.
Proteomics , 6 , 3938-3948  (2006)
原著論文5
Suehara Y, Kondo T, Fujii K, et al.
Proteomic signatures corresponding to histological classification and grading of soft-tissue sarcomas.
Proteomics , 6 , 4402-4409  (2006)
原著論文6
Fujii K, Kondo T, Yamada M, et al.
Toward a comprehensive quantitative proteome database: proteome expression map of lymphoid neoplasms by 2-D DIGE and MS.
Proteomics , 6 , 4856-4876  (2006)
原著論文7
Hatakeyama H, Kondo T, Fujii K, et al.
Protein clusters associated with carcinogenesis, histological differentiation and nodal metastasis in esophageal cancer.
Proteomics , 6 , 6300-6316  (2006)
原著論文8
Ono M, Shitashige M, Honda K, et al.
Label-free quantitative proteomics using large peptide data sets generated by nanoflow liquid chromatography and mass spectrometry.
Mol Cell Proteomics , 5 , 1338-1347  (2006)
原著論文9
Loukopoulos P, Shibata T, Katoh H, et al.
Genome-wide array-based comparative genomic hybridization analysis of pancreatic adenocarcinoma: Identification of genetic indicators that predict patient outcome.
Cancer Sci , 98 , 392-400  (2007)
原著論文10
Kondo T, Hirohashi S.
Application of highly sensitive fluorescent dyes (CyDye DIGE Fluor Saturation Dye) to laser microdissection and two-dimensional difference gel electrophoresis (2D-DIGE) for cancer proteomics.
Nat Protocol , 1 , 2940-2956  (2007)
原著論文11
Okano T, Kondo T, Fujii K, et al.
Proteomic signature corresponding to the response to gefitinib (Iressa, ZD1839), an epidermal growth factor receptor (EGFR) tyrosine kinase inhibitor in lung adenocarcinoma.
Clin Cancer Res , 13 , 799-805  (2007)
原著論文12
Shitashige M, Naishiro Y, Idogawa M, et al.
Involvement of splicing factor-1 in β-catenin/T cell factor-4-mediated gene transactivation and pre-mRNA splicing.
Gastroenterology , 132 , 1039-1054  (2007)
原著論文13
Idogawa M, Masutani M, Shitashige M, et al.
Ku70 and poly(ADP-ribose) polymerase-1 competitively regulate β-catenin and T-cell factor-4-mediated gene transactivation: Possible linkage of DNA damage recognition and Wnt signaling.
Cancer Res , 67 , 911-918  (2007)
原著論文14
Koide N, Yamada T, Shibata R, et al.
Establishment of perineural invasion models and analysis of gene expression revealed an invariant chain (CD74) as a possible molecule involved in perineural invasion in pancreatic cancer.
Clin Cancer Res , 12 , 2419-2426  (2006)
原著論文15
Shibata R, Mori T, Du W, et al.
Overexpression of cyclase-associated protein 2 in multistage hepatocarcinogenesis.
Clin Cancer Res , 12 , 5363-5368  (2006)
原著論文16
Imoto I, Izumi H, Yokoi S, et al.
Frequent silencing of the candidate tumor suppressor PCDH20 by epigenetic mechanism in non-small-cell lung cancers.
Cancer Res , 66 , 4617-4626  (2006)
原著論文17
Takada H, Imoto I, Tsuda H, et al.
Genomic loss and epigenetic silencing of very low density lipoprotein receptor involved in gastric carcinogenesis.
Oncogene , 25 , 6554-6562  (2006)
原著論文18
Arai E, Kanai Y, Ushijima S, et al.
Regional DNA hypermethylation and DNA methyltransferase (DNMT) 1 protein overexpression in both renal tumors and corresponding nontumorous renal tissues.
Int J Cancer , 119 , 288-296  (2006)
原著論文19
Peng DF, Kanai Y, Sawada M, et al.
DNA methylation of multiple tumor-related genes in association with overexpression of DNA methyltransferase 1 (DNMT1) during multistage carcinogenesis of the pancreas.
Carcinogenesis , 27 , 1160-1168  (2006)
原著論文20
Suehara Y, Kondo T, Seki K, et al.
Pfetin as a prognostic biomarker of gastrointestinal stromal tumors revealed by proteomics.
Clin Cancer Res , 14 , 1707-1717  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-