ピンポイントデリバリー用バイオナノキャリアの開発とがん遺伝子治療への応用

文献情報

文献番号
200609008A
報告書区分
総括
研究課題名
ピンポイントデリバリー用バイオナノキャリアの開発とがん遺伝子治療への応用
課題番号
H16-ナノ-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 昭彦(神戸大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田 俊一(大阪大学産業科学研究所)
  • 妹尾 昌治(岡山大学自然科学研究科)
  • 上田 政和(慶応義塾大学医学部)
  • 平岡 真寛(京都大学大学院医学研究科)
  • 近藤 科江(京都大学大学院医学研究科)
  • 山本 健二(国立国際医療センター研究所医療生態学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究【ナノメディシン分野】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
32,513,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎ウイルス(HBV)外皮タンパク質(Lタンパク質)から形成されるL粒子が、ヒト肝細胞に高い標的化能力を持つ「中空バイオナノ粒子」であることに注目し、ピンポイントに遺伝子や薬物送達が可能なナノキャリアーとして利用することを検討する。また、肝細胞特異的なレセプター部を他の特異性を持つ配列に変換して、任意の臓器にピンポイント送達すことを試みる。さらに中空バイオナノ粒子を用いたがんの遺伝子治療法(対象として肝細胞がんと脳腫瘍)を開発する。
研究方法
中空バイオナノ粒子を分子標的療法のキャリアーとして確立することを目指して、任意の組織・細胞に特異性を示す粒子の開発、低免疫原性を示すステルス型の中空バイオナノ粒子の創製とその効率的な生産法の開発等、バイオナノキャリアを確立する研究開発を進めた。また、バイオナノキャリアのバイオイメージング法への展開に関する検討を進めるとともに、がん遺伝子治療への適用を目指して抗がん剤や遺伝子の肝臓へのピンポイントデリバリーに関して検討した。 
結果と考察
まずL粒子の特異性を変換するため、50-159aa欠失型 L粒子(d50-159)の欠失部位に各種のペプチドやタンパク質を挿入することで組織・細胞特異性を変換した中空バイオナノ粒子を創製した。ZZドメイン(抗体のFcドメインと結合)、EGF(EGFレセプターと結合)、膜透過ペプチド等を欠失部位へ挿入することで、各種特異性変換を行なった粒子を生産することができた。またLタンパク質にホタルルシフェラーゼを融合した粒子では、in vivoでルシフェリンを投与することで、発光計測からその局在を知ることができた。さらに、L粒子の低抗原性化を行うために、L粒子のS抗原内部に2アミノ酸置換を施した低抗原性バイオナノ粒子候補について、酵母を用いた大量発現系と簡易生産法を確立した。一方、中空バイオナノ粒子をがん治療に適用するための基盤として、パクリタクセル封入HBs抗原結合MPCポリマーを作製した。これをヒト肝細胞癌2株、ヒト大腸癌およびヒト扁平上皮癌細胞株に添加したところ、ヒト肝細胞癌でのみ殺細胞効果増強作用が認められたことから、肝細胞癌のみを特異的に死滅できることが明らかになった。
結論
以上の様に、平成18年度において、バイオナノ粒子を遺伝子や薬剤のピンポイントデリバリーを行うナノキャリアーとして利用していく上での基盤がほぼ確立された。また、イメージングや細胞肝がん治療への応用についても、基礎的な知見が集積できた。

公開日・更新日

公開日
2007-07-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200609008B
報告書区分
総合
研究課題名
ピンポイントデリバリー用バイオナノキャリアの開発とがん遺伝子治療への応用
課題番号
H16-ナノ-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 昭彦(神戸大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田 俊一(大阪大学産業科学研究所)
  • 妹尾 昌治(岡山大学自然科学研究科)
  • 上田 政和(慶応義塾大学医学部)
  • 平岡 真寛(京都大学大学院医学研究科)
  • 近藤 科江(京都大学大学院医学研究科)
  • 山本 健二(国立国際医療センター研究所医療生態学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究【ナノメディシン分野】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎ウイルス(HBV)外皮タンパク質(Lタンパク質)から形成されるL粒子が、ヒト肝細胞に高い標的化能力を持つ「中空バイオナノ粒子」であることに注目し、ピンポイントに遺伝子や薬物送達が可能なナノキャリアーとして利用することを検討する。また、肝細胞特異的なレセプター部を他の特異性を持つ配列に変換して、任意の臓器にピンポイント送達すことを試みる。さらに中空バイオナノ粒子を用いたがんの遺伝子治療法(対象として肝細胞がんと脳腫瘍)を開発する。    
研究方法
中空バイオナノ粒子を分子標的療法のキャリアーとして確立することを目指して、任意の組織・細胞に特異性を示す粒子の開発、低免疫原性を示すステルス型の中空バイオナノ粒子の創製とその効率的な生産法の開発等、バイオナノキャリアを確立する研究開発を進めた。また、バイオナノキャリアのバイオイメージング法への展開に関する検討を進めるとともに、がん遺伝子治療への適用を目指して抗がん剤や遺伝子の肝臓へのピンポイントデリバリーに関して検討した。 
結果と考察
L粒子の酵母菌体から菌体抽出液を得た後に、熱処理(70℃、30分)を加え、硫酸化セルロファインを用いて精製することで、簡便に粒子製造を行うことができた。このLタンパク質におけるシステイン残基を置換することで、粒子の安定性を向上することに成功した。また、リポソームを利用した効率的な遺伝子や薬剤のL粒子封入法を確立した。次にL粒子のヒト肝細胞認識部位付近を欠失させて、各種分子認識ペプチド・タンパク質を挿入することで、任意の組織や臓器に特異性を変換(リターゲッティング)した中空バイオナノ粒子の創製を行うことに成功した。一方、Lタンパク質のC末端へ側に目的タンパク質を遺伝子融合することで、タンパク質封入L粒子の創製を行ったが、タンパク質の標的細胞への送達、イメージング解析等に有効なことが明らかとなった。また、HBVエスケープ変異体の解析から、L粒子のS抗原内部に2アミノ酸置換を施した低抗原性バイオナノ粒子候補について、酵母を用いた大量発現系と簡易生産法を確立した。L粒子に、チミジンキナーゼ発現プラスミドを封入し、尾静脈より注射した後に、プロドラッグであるガンシクロビルを投与する、あるいは可溶性VEGFRを肝細胞特異的に発現させることで、有効な抗腫瘍性効果を示すことが確認された。
結論
バイオナノ粒子を遺伝子や薬剤のピンポイントデリバリーを行うナノキャリアーとして利用するための基盤を確立した。また、イメージングや肝がん治療への応用についても、基礎的な知見を集積した。

公開日・更新日

公開日
2007-07-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200609008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
酵母や昆虫細胞により、平均粒子径約100nmのL粒子(バイオナノキャリア)を生産し、これに遺伝子や薬剤を効率よく封入する手法を開発することで、肝細胞のみに特異的かつ効率的に遺伝子や薬剤の導入を行うことができた。また、Lタンパク質のC末に目的タンパク質を融合することで、粒子内に封入できた。一方、Lタンパク質の肝細胞認識領域を他のホーミングペプチドやタンパク質に置換することで、任意の標的細胞へターゲッティングする(リターゲッティング)ための基盤を確立できた。
臨床的観点からの成果
バイオナノキャリアに、HBVエスケープミュータントの配列を導入することで、免疫系に対するステルス化を行えることを明らかにした。これにより免疫応答を抑えた効率的なピンポイントDDSの可能性が大きく広がった。さらにバイオナノキャリアによりチミジンキナーゼ(プロドラッグであるガンシクロビルを投与との組み合わせ )や可溶性VEGFRを肝細胞特異的に発現させることに成功し、有効な抗腫瘍性効果を確認することができたことから、癌治療への応用が期待される。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
「任意の抗体を外部に提示して、その特異性に依存した遺伝子及び薬剤の生体内ピンポイントデリバリ用バイオナノカプセルの開発に成功」した事が報道された(日経産業新聞(H.19.2.10))。また、「ナノサイズのDDS、治療応用間近に:バイオナノカプセル技術の開発の経緯並びにそのインパクト」について紹介された。(日経ナノビジネス(H.18.11.27))

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
55件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
51件
学会発表(国際学会等)
42件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計14件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada, T., Seno, M., Kondo, A. Ueda, M., et al.
Pinpoint Drug Delivery System Using Hollow Bio-Nanoparticles.
高分子論文集 , 61 (12) , 606-612  (2004)
原著論文2
Yamada, T., Kondo, A., Ueda, M. Seno, M., etal.
Novel Tissue and Cell Type-specific Gene Delivery System Using Surface Engineered Hepatitis B Virus Nanoprotein Particles.
Current Drug Targets: Infectious Disorders , 4 (2) , 163-167  (2004)
原著論文3
Yu, D., Amano, C., Fukuda, T., Yamada, T.,et al
The Specific Delivery of Proteins to Human Liver Cells by Engineered Bio-Nanocapsules.
FEBS J. , 272 (14) , 3651-3660  (2005)
原著論文4
Yu D, Fukuda T, Tuoya, Kuroda S, Tanizawa K,et al.
Engineered bio-nanocapsules, the selective vector for drug delivery system.
IUBMB Life , 58 (1) , 1-6  (2006)
原著論文5
Shishido T, Muraoka M, Ueda M. Seno, M., et al.
Secretory production system of bionanocapsules using a stably transfected insect cell line.
Appl Microbiol Biotechnol , 73 (3) , 505-511  (2006)
原著論文6
Iwasaki Y, Ueda M, Yamada T, Kondo A,et al.
Gene therapy of liver tumors with human liver-specific nanoparticles
Cancer Gene Ther. , 14 (1) , 74-81  (2007)
原著論文7
Nagaoka, T., Fukuda, T., Yoshida, S., Yu, D.et al.
Characterization of bio-nanocapsule as a transfer vector targeting human hepatocyte carcinoma by disulfide linkage modification.
Journal of Controlled release , 118 , 348-356  (2007)
原著論文8
Shishido, T., Muraoka, M., Ymaji, H., Kondo, A.,et al.
Production of Bionanocapsules in Immobilized Insect Cell Culture Using Porous Biomass Support Particles.
Journal of Bioscience and Bioengineering , 103 (6) , 572-574  (2007)
原著論文9
近藤昭彦,黒田俊一,谷澤克行,妹尾昌治,ら
中空バイオナノ粒子を用いたDDSの開発とその産業化
Drug Delivery system , 4 , 435-443  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-