次世代アデノウイルスベクターの開発基盤研究

文献情報

文献番号
200607011A
報告書区分
総括
研究課題名
次世代アデノウイルスベクターの開発基盤研究
課題番号
H16-遺伝子-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
水口 裕之(独立行政法人 医薬基盤研究所 基盤研究部 遺伝子導入制御プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 中川 晋作(大阪大学大学院 薬学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
32,513,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、わが国における遺伝子治療の実用化と一層の進展に向けて、安全性が高く、機能面で優れた次世代遺伝子治療用ベクターの開発、及び関連する遺伝子導入・発現制御技術に関する基盤研究を行うことを目的とした。
研究方法
既存のベクターでは最も遺伝子導入効率に優れるアデノウイルス(Ad)ベクターの長所を生かしつつ、1)標的細胞指向性の制御、2)免疫反応の回避、3)目的遺伝子の発現抑制、4)異なった血清型に属する35型Adを基盤とした新規ベクターの開発、および5)これらを統合したAdベクターの開発を行い、対象疾病や標的細胞に適した遺伝子導入・発現制御技術の開発、さらにそれらの技術を利用した応用研究を行った。
結果と考察
1)腹腔動脈からAdベクターをin vivo投与し膵島を初代培養することで、β細胞を含む膵島細胞への高効率遺伝子発現法を開発した。遺伝子工学的にファイバーノブのHI loop領域にHIV由来TATペプチドを提示したAdベクターが遺伝子導入効率に優れることを明らかにした。ターゲティングAdベクターのための基盤ベクターとして、ファイバー欠損Adベクターを作製し、その特性を明らかにした。2)腫瘍選択的プロモーターを搭載したPEG(ポリエチレングリコール)化Adベクターが、全身投与において未修飾Adベクターと比較し、腫瘍で高い遺伝子発現を示し、肝臓での発現を大きく低減可能であることを見出した。また、用いるPEGの分子量により、PEG化Adベクターの体内動態を制御可能であることを明らかとした。3)ベクタープラスミドに予めshRNA発現のためのプロモーター配列を付与し、その転写開始点にユニークな制限酵素部位を挿入することで、1ステップのin vitroライゲーションに基づく簡便なsiRNA発現Adベクター作製法を開発した。4)35型Adベクター感染により、細胞種によっては細胞表面CD46発現量が減少することを明らかにした。今後CD46を受容体として認識するAdベクターを使用する際には注意を要することが示唆された。
以上のような基盤技術が我が国独自に開発されたことは、その技術の汎用性と応用面での広がりを考えると大きな意義を持つと予想される。
結論
次世代Adベクターの開発研究を進め、我が国独自の独創的で安全性の高い次世代遺伝子治療薬の基盤技術の確立に向けた十分な成果を得た。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200607011B
報告書区分
総合
研究課題名
次世代アデノウイルスベクターの開発基盤研究
課題番号
H16-遺伝子-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
水口 裕之(独立行政法人 医薬基盤研究所 基盤研究部 遺伝子導入制御プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 中川 晋作(大阪大学大学院 薬学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、遺伝子治療の実用化と一層の進展に向けての最大の鍵である安全性が高く、機能面で優れたわが国独自の次世代遺伝子治療用ベクター、および遺伝子導入・発現技術の開発を目的とした。
研究方法
既存のベクターでは最も遺伝子導入効率に優れるアデノウイルス(Ad)ベクターの長所を生かしつつ、1)ウイルス表面タンパク質の遺伝子工学的改変により標的細胞指向性を有したAdベクター、および遺伝子発現制御能を有したAdベクターの開発、2)血中滞留性の向上、抗体回避能の付与、標的細胞指向性の制御を目的に水溶性高分子(PEG;ポリエチレングリコール)によるバイオコンジュゲート化Adベクターの開発、3)遺伝子発現抑制型(siRNA発現)Adベクターの開発、4)従来型Adと異なる血清型に属する35型Adを基盤とした新規ベクターの開発、5)これらを統合したAdベクターの開発を行い、対象疾病や標的細胞に適した遺伝子導入・発現技術の開発を行った。
結果と考察
1)膵島(ベータ細胞を含む)への高効率遺伝子導入法を確立した。プロモーター・ファイバー改変の最適化により各種幹細胞への高効率遺伝子導入に成功した。これらのベクターに発現制御能を組み合わせ、その有用性を実証した。ターゲティングAdベクターの基盤としてNativeの受容体とは結合しないAdベクターを開発した。2)AdベクターのPEG化により、血中滞留性および腫瘍での遺伝子発現の向上、さらにこれらを用いた癌遺伝子治療実験に成功した。PEG修飾による体内動態制御とプロモーターの最適化により、全身投与後の各臓器での遺伝子発現を制御可能であることを示した。3)1ステップのin vitroライゲーションに基づく簡便なsiRNA発現Adベクター作製法および発現制御能を有したsiRNA発現Adベクターを開発した。4)35型Adベクターによるヒト骨髄CD34陽性細胞への高効率遺伝子導入系を確立した。35型Adベクターの評価系としてヒトCD46トランスジェニックマウスを用いた実験系を確立し、評価を行った。35型Adベクターの感染機構を明らかにした。
以上のような基盤技術が我が国独自に開発されたことは、その技術の汎用性と応用性を考えると大きな意義を持つと予想される。
結論
次世代Adベクターの開発研究を進め、我が国独自の独創的で安全性の高い次世代遺伝子治療薬・治療法の確立に向けて十分な成果を得た。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では遺伝子工学的手法と化学的手法を駆使して広い感染域、標的細胞指向性、および高い安全性を付与した次世代アデノウイルス(Ad)ベクター系の開発、発現制御型Adベクターの開発、次世代Adベクターを用いた癌遺伝子治療研究、遺伝子発現抑制型(siRNA発現)Adベクターの開発、35型Adベクターの開発・機能評価などを行ったが、これらの多くは世界に先駆けて行われたものであり、原著論文61件を発表するなど極めて大きな意義を持つものと思われる。
臨床的観点からの成果
本研究で開発された次世代Adベクターは、従来のAdベクターの問題点である①Ad受容体陰性細胞における低い遺伝子導入効率、②in vivo遺伝子導入における高い毒性、③低い標的細胞指向性、④高い抗原性などが克服可能であり、本研究においてもモデル動物を用いた癌遺伝子治療研究において優れた治療効果を実証した。従って、将来の遺伝子治療臨床研究に向けて応用が期待される。さらには各種幹細胞への高効率遺伝子導入法の開発にも成功しており、再生医療への応用が期待される。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
本研究により得られた成果は遺伝子治療の実現のみならず、ポストゲノムにおける遺伝子機能解析など基礎研究においても極めて有用な技術になると考えられ、ひいては国民の健康・福祉の向上にもつながるものと思われる。
その他のインパクト
日本Biotechnology Japan(2007年1月19日、2005年3月30日)、日経産業新聞(2005年5月20日、2004年11月4日)、日本経済新聞(2004年10月11日)に本研究で開発した次世代アデノウイルスベクターが取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
61件
その他論文(和文)
22件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
148件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
研究室ホームページにおいて研究成果を公表した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mukai E., Fujimoto S., Sakurai F.,
Efficient gene transfer into murine pancreatic islets using adenovirus vectors.
Journal of Controlled Release  (2007)
原著論文2
Sakurai F., Akitomo K., Kawabata K., et al.
Downregulation of human CD46 by adenovirus serotype 35 vectors.
Gene Therapy  (2007)
原著論文3
Mizuguchi H., Funakoshi N., Hosono T., et al.
Rapid construction of small interfering RNA-expressing adenovirus vectors on the basis of direct cloning of short hairpin RNA-coding DNAs.
Human Gene Therapy , 18 , 74-80  (2007)
原著論文4
Gao J-Q., Kanagawa N., Motomura Y., et al.
Cotransduction of CCL27 gene can improve the efficacy and safety of IL-12 gene therapy for cancer.
Gene Therapy , 14 , 491-502  (2007)
原著論文5
Koizumi N., Yamaguchi T., Kawabata K., et al.
Fiber-modified adenovirus vectors decrease liver toxicity through reduced interleukin 6 production.
Journal of Immunology , 178 , 1767-1773  (2007)
原著論文6
Kurachi S., Koizumi N., Sakurai F., et al.
Characterization of capsid-modified adenovirus vectors containing heterologous peptides in the fiber knob, protein IX, or hexon.
Gene Therapy , 14 , 266-274  (2007)
原著論文7
Sakurai F., Murakami S., Kawabata K.,
The short consensus repeats 1 and 2, not the cytoplasmic domain, of human CD46 are crucial for infection of subgroup B adenovirus serotype 35.
Journal of Controlled Release , 113 , 271-278  (2006)
原著論文8
Sakurai F., Kawabata K., Koizumi N., et al.
Adenovirus serotype 35 vector-mediated transduction into human CD46-transgenic mice.
Gene Therapy , 13 , 1118-1126  (2006)
原著論文9
Koizumi N., Kawabata K., Sakurai F., et al.
Modified adenoviral vectors ablated for coxsackievirus-adenovirus receptor, αv integrin, and heparan sulfate binding reduce in vivo tissue transduction and toxicity.
Human Gene Therapy , 17 , 264-279  (2006)
原著論文10
Okada N., Sasaki A., Niwa M., et al.
Tumor suppressive efficacy through auqmentation of tumor-infiltrating immune cells by intratumoral injection of chemokine-expressing adenoviral vector.
Cancer Gene Therapy , 13 , 393-405  (2006)
原著論文11
Okada Y., Okada N., Mizuguchi H., et al.
Transcriptional targeting of RGD fiber-mutant adenovirus vectors can improve the safety of sucide gene therapy for murine melanoma.
Cancer Gene Therapy , 12 , 608-616  (2005)
原著論文12
Eto Y., Gao J-Q., Sekiguchi F., et al.
PEGylated adenovirus vectors containing RGD peptides on the tip of PEG show high transduction efficiency and antibody evasion ability.
Journal of Gene Medicine , 7 , 604-612  (2005)
原著論文13
Hosono T., Mizuguchi H., Katayama K., et al.
RNA interference of PPARg using fiber-modified adenovirus vector efficiently suppresses preadipocyte-to-adipocyte differentiation in 3T3-L1 cells.
Gene , 348 , 157-165  (2005)
原著論文14
Okada N., Mori N., Koremoto R., et al.
Augmentation of the migratory ability of DC-based vaccine into regional lymph nodes by efficient CCR7 gene transduction.
Gene Therapy , 12 , 129-139  (2005)
原著論文15
Mizuguchi H., Xu Z-L., Sakurai F., et al.
Efficient regulation of gene expression using self-contained fiber-modified adenovirus vectors containing the tet-off system.
Journal of Controlled Release , 110 , 202-211  (2005)
原著論文16
Kawabata K., Sakurai F., Yamaguchi T., et al.
Efficient gene transfer into mouse embryonic stem cells with adenovirus vectors.
Molecular Therapy , 12 , 547-554  (2005)
原著論文17
Sakurai F., Kawabata K., Yamaguchi T., et al.
Optimization of adenovirus serotype 35 vectors for efficient transduction in human hematopoietic progenitors: comparison of promoter activities.
Gene Therapy , 12 , 1424-1433  (2005)
原著論文18
Gao J-Q., Sugita T., Kanagawa N., et al.
A single intratumoral injection of a fiber-mutant adenoviral vector encoding interleukin 12 induces remarkable anti-tumor and anti-metastatic activity in mice with Meth-A fibrosarcoma.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 328 , 1043-1050  (2005)
原著論文19
Mizuguchi H., Sasaki T., Kawabata K., et al.
Fiber-modified adenovirus vectors mediate efficient gene transfer into undifferentiated and adipogenic-differentiated human mesenchymal stem cells.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 332 , 1101-1106  (2005)
原著論文20
Hosono T., Mizuguchi H., katayama K., et al.
Adenovirus vector-mediated doxycycline-inducible RNA interference.
Human Gene Therapy , 15 , 813-819  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-