AAVベクターを用いた筋ジストロフィーに対する遺伝子治療のpre-clinical study-筋ジス犬骨格筋で認められた免疫応答の克服-

文献情報

文献番号
200607010A
報告書区分
総括
研究課題名
AAVベクターを用いた筋ジストロフィーに対する遺伝子治療のpre-clinical study-筋ジス犬骨格筋で認められた免疫応答の克服-
課題番号
H16-遺伝子-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 埜中 征哉(国立精神・神経センター神経研究所武蔵病院)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
  • 山元 弘(大阪大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
34,425,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターとmicro-dystrophin遺伝子を用いる方法論についてDuchenne型筋ジストロフィーへの臨床応用を図るために、ジストロフィン欠損のモデル動物である筋ジストロフィー犬(筋ジス犬)に対する導入で見出されたAAVベクターに対する免疫応答を克服すると共にカニクイザル骨格筋を用いて、この方法論の安全性を検討する。
研究方法
1. 正常対象犬及び筋ジス犬の前・後肢筋に対し、血清2型あるいは8型のAAVベクターを導入し、2, 4, 8週後に導入筋を採取し、組織学的に導入遺伝子の発現を検討する。
2.8型のAAVベクターをmdxマウスに対し、尾静脈経由の静注あるいは皮下注により、正常対象犬及び筋ジス犬に対してはlimb perfusion法を用いて静脈から下腿全体に導入し、導入効果の検定を行う。
3. カニクイザルの左右の上腕筋及び前脛骨筋の計4箇所に2型のAAVベクターを直接注入し、1, 2, 4週間後に生検により解析する。導入前後の血清についてAAVに対する抗体価も測定する。
結果と考察
1. AAV2-CMVmicro-dystrophinを用いた筋ジス犬骨格筋に対する遺伝子導入では、micro-dystrophinの発現が見出されなかったのに対し、AAV8-CMVmicro-dystrophinの導入では始めて発現が検出された。
2. 8型のAAVベクターを用いると尾静脈による挿入でも皮下注でも骨格筋よりも高い効率で心筋におけるmicro-dystrophinの発現が確認された。limb perfusion法を用いて、正常犬及び筋ジス犬に導入を行った実験では何れも下腿の広い範囲で遺伝子発現が見出された。
3. カニクイザル骨格筋に対する2型AVVベクターの導入では、導入遺伝子の発現が限られていることがあり、その場合にはAAVに対する既感染が疑われた。
結論
1. 8型AAVベクターを用いて局所注入を行うことにより始めて筋ジス犬骨格筋におけるmicro-dystrophinの発現を得た。しかも8型AAVベクターは静注あるいは皮下注など血管を介した導入に優れており、特に骨格筋と心筋が良い標的であることが明らかになった。事実、limb perfusion法の採用により、筋ジス犬下腿の広い範囲でmicro-dystrophinの発現が観察された。
2. カニクイザル骨格筋に対するAAVベクターの導入結果から、AAVに対する感染の有無を検出する方法を確立することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200607010B
報告書区分
総合
研究課題名
AAVベクターを用いた筋ジストロフィーに対する遺伝子治療のpre-clinical study-筋ジス犬骨格筋で認められた免疫応答の克服-
課題番号
H16-遺伝子-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 埜中 征哉(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
  • 山元 弘(大阪大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ジストロフィン欠損のDuchenne型筋ジストロフィーに対して遺伝子治療を開発する過程で、モデルマウス骨格筋では有効であった血清2型のAAVベクターが、筋ジストロフィー犬(筋ジス犬)及びその正常対照犬骨格筋では強い免疫応答を引き起こし有効ではなかったため、その機序を解明すると共に、免疫抑制剤の使用方法、新たな血清型のAAVベクターを用いた投与方法などについて検討を加え、導入法の確立を目指す。一方、カニクイザル骨格筋についても導入を行ない、AAVベクターを用いる方法の安全性を検討する。
研究方法
1. 正常対照犬及び筋ジス犬の前・後肢筋に対し、LacZ遺伝子あるいはmicro-dystrophin遺伝子を組み換えた血清2型あるいは8型のAAVベクターを導入した後に導入筋を採取し、組織学的に検討する。更に、免疫抑制剤を併用し、遺伝子発現及び細胞浸潤が改善されるか検討する。
2. 血清8型のAAVベクターについて、マウスに対する尾静脈を介した静注、皮下注、並びに筋ジス犬及びその正常対照犬に対しlimb perfusionを用いた下腿に対する投与を行なう。
3. カニクイザルの骨格筋に2型のAAVベクターを直接投入し、解析すると共に血清の抗体価を検出する。
結果と考察
1. (1) AAV8-CMVLacZを用いた正常対照犬骨格筋への導入では、導入遺伝子の発現が高く、細胞浸潤についても減少し、筋ジス犬骨格筋への導入ではmicro-dystrophinの発現が初めて確認された。
(2)cyclosporineにmycophenolate mofetilを併用して、2型のAAVベクターをイヌ骨格筋に導入した場合には、免疫応答が軽減していた。
(3)8型AAVベクターを用いるとマウスに対する静注あるいは皮下注、筋ジス犬に対するlimb-perfusion法により、広範な遺伝子発現が可能になった。殊に心筋に対する導入の有効性が高い。
2. カニクイザル骨格筋へのAAVベクターの導入では、導入量依存的に遺伝子発現が観察されたが、発現が低い場合に、AAVに対する既感染性が疑われることがあった。
結論
1. 血清8型のAAVベクターを用いた遺伝子導入により、筋ジス犬骨格筋で初めて治療用遺伝子の発現に成功した。
2. 血清8型のAAVベクターは、経静脈、皮下注による導入が可能で、殊に心筋において高い遺伝子発現を示した。
3. カニクイザル骨格筋へのAAVベクターの導入では、AAVに対する既感染の有無を検出する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200607010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、これまで用いられてきた血清2型のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターでは実現できなかった筋ジストロフィー犬骨格筋における遺伝子発現を血清8型のAAVベクターを採用することにより達成できたことが特筆される。8型ベクターの使用により細胞浸潤が軽減し、遺伝子発現認められた背景として、8型ベクターが局所的導入でも導入骨格筋内でよく拡散し、しかも免疫担当細胞からのサイトカインの遊離を刺激しにくい点が考えられる。
臨床的観点からの成果
血清8型のAAVベクターを採用することにより、局所注入のみならず静注あるいは皮下注を介しても全身の多くの骨格筋、更には心筋における遺伝子発現が可能になった点が特筆される。これは、治療法開発の対象としている筋ジストロフィーが全身の骨格筋と心筋が進行性に障害される疾患であることを考えると極めて重要な成果である。今後、治療用遺伝子による筋ジストロフィー犬の表現型の改善効果並びに長期の安全性の検証が求められる。
ガイドライン等の開発
本研究を進める過程で、臨床グレーディング、歩行テスト、MRI等を用いた筋ジストロフィー犬の治療評価系について確立することができた。これまで使われてきた小型のモデル動物に加えて、より大型のモデル動物を治療研究に使用できることになったことで、内外の研究施設から多くの共同研究の申込みを受け、アンチセンス・モルフォリノによるエクソン・スキッピングについては既に治療評価を行うことができた。
その他行政的観点からの成果
筋ジストロフィーに対して治療を開発するための研究は、論文・学会発表のみならず、国立精神・神経センターのホームページ、筋ジストロフィー協会の全国大会や広報等を通じて全国に発信された。殊に、05年9月に開催された筋ジストロフィー協会全国大会での主任研究者の講演はファイルとして同協会のホームページ上で公開されて広く受け容れられただけでなく、韓国の筋ジストロフィー協会の手によって翻訳の上、公表されている。
その他のインパクト
本研究を推進している主任研究者は、05年6月モナコ円卓会議、07年1月フランス筋ジストロフィー協会ワークショップ、07年6月筋疾患に対して治療を開発するためのTreat-NMDワークショップなど欧米で開催された数多くの研究集会に非アメリカ、非ヨーロッパからただ一人招待を受け研究成果を発信することができた。また、その取り組みは05年7月朝日新聞、06年2月NHK教育テレビ「サイエンス・ゼロ」等により、メディアにも取り上げられている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
58件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
55件
学会発表(国際学会等)
44件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki N, Miyagoe-Suzuki Y, Takeda S
Gene Therapy for Duchenne Muscular Dystrophy
Future Neurology , 2 (1) , 87-96  (2007)
原著論文2
Yugeta N, Urasawa N, Fujii Y, et al.
Cardiac involvement in Beagle-based canine X-linked muscular dystrophy in Japan (CXMDJ): electrocardiographic, echocardiographic, and morphologic studies
BMC Cardiovasc Disord , 6 (47)  (2006)
原著論文3
Uezumi A, Ojima K, Fukada S, et al.
Functional heterogeneity of side population cells in skeletal muscle
Biochem Biophys Res Commu , 341 , 864-873  (2006)
原著論文4
Ampong BN, Imamura M, Matsumiya T, et al.
Instracellulat localization of Dysferlin and its association with the Dihydropyridine receptor
Acta Myologica , 24 , 134-144  (2005)
原著論文5
Shimatsu Y, Yoshimura M, Yuasa K, et al.
Major clinical and histopathological characteristics of canine X-linked muscular dystrophy in Japan, CXMDJ
Acta Myologica , 24 , 145-154  (2005)
原著論文6
Yoshimura M, Sakamoto M, Ikemoto M, et al.
AAV vector-mediated micro-  dystrophin expression in a relatively small percentage of mdx myofibers improved the mdx phenotype
Mol Ther , 10 (5) , 821-828  (2004)
原著論文7
Ojima K, Uezumi A, Miyoshi H, et al.
Mac-1low early myeloid cells in the bone marrow-derived SP fraction migrate into injured skeletal muscle and participate in muscle regeneration.
Biochem Biophys Res Commu , 321 (4) , 1050-1061  (2004)
原著論文8
Fukada S, Higuchi S, Segawa M, et al.
Purification and cell-surface marker characterization of quiescent satellite cells from murine skeletal muscle by a novel monoclonal antibody
Exp Cell Res , 296 (2) , 245-255  (2004)
原著論文9
Malicdan MC, Noguchi S, Nonaka I, et al.
A Gne knockout mouse expressing human V572L mutation develops features similar to distal myopathy with rimmed vacuoles or hereditary inclusion body myopathy
Hum Mol Genet , 16 , 115-128  (2007)
原著論文10
Nishino I, Malicdan MC, Murayama K, et al.
Molecular pathomechanism of distal myopathy with rimmed vacuoles
Acta Myologica , 24 , 80-83  (2005)
原著論文11
Yan C, Tanaka M, Sugie K, et al.
A new congenital form of X-linked autophagic vacuolar myopathy
Neurology , 65 , 1132-1134  (2005)
原著論文12
Sugie K, Noguchi S, Kozuka Y, et al.
Autophagic vacuoles with sarcolemmal features delineate Danon disease and related myopathies
J Neuropathol Exp Neurol , 64 , 513-522  (2005)
原著論文13
Mohri T, Fujio Y, Maeda M, et al.
Leukemia inhibitory factor induces endothelial differentiation in cardiac stem cells
J.Biol.Chem , 281 , 6442-6447  (2006)
原著論文14
Oyama T, Nagai T, Wada H, et al.
Cardiac side population cells have a potential to migrate and differentiate into cardiomyocytes in vitro and in vivo
J Cell Biol , 176 (3) , 329-341  (2007)
原著論文15
Suzue N, Nikawa T, Onishi Y, et al.
Ubiquitin ligase Cbl-b down-regulate bone formation through suppression of OGF-1 signaling in osteblasts during denervation
J Bone Miner Res , 21 (5) , 722-734  (2006)
原著論文16
Yokota T, Lu QL, Morgan JE, et al.
Expansion of revertant fibers in dystrophic mdx muscles reflects activity of muscle precursor cells and serves as an index of muscle regeneration
J Cell Sci , 119 , 2679-2687  (2006)
原著論文17
Shiga K, Yoshioka H, Matsumiya T, et al.
zeta-Sarcoglycan is a functional homologue of gamma-sarcoglycan in the formation of the sarcoglycan complex
Exp Cell Res , 312 (11) , 2083-2092  (2006)
原著論文18
Pramono ZA, Lai PS, Tan CL, et al.
Identification and characterization of a novel human dysferlin transcript: dysferlin_v1
Hum Genet , 120 (3) , 410-419  (2006)
原著論文19
Dezawa M, Ishikawa H, Itokazu Y, et al.
Bone marrow stromal cells generate muscle cells and repair muscle degeneration
Science , 309 (5732) , 314-317  (2005)
原著論文20
Nakamura A, Yoshida K, Ueda H, et al.
Up-regulation of mitogen activated protein kinases in mdx skeletal muscle following chronic treadmill exercise
Biochim Biophys Acta , 1740 (3) , 326-331  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
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