環境中の発がん及び発がん抑制要因の検索とその作用機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200604006A
報告書区分
総括
研究課題名
環境中の発がん及び発がん抑制要因の検索とその作用機構の解明に関する研究
課題番号
H18-国医-指定-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
若林 敬二(国立がんセンター研究所がん予防基礎研究プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 中釜 斉(国立がんセンター研究所 生化学部)
  • 安仁屋洋子(琉球大学大学院医学研究科 感染制御医科学専攻分子機能薬理学分野)
  • 葛西  宏(産業医科大学産業生態科学研究所職業性腫瘍学教室)
  • 椙村 春彦(浜松医科大学医学部病理学第一講座)
  • 能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 国際医学協力研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
14,827,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん発生の原因となる遺伝子変化を引き起こすものには多くの外的及び内的要因があり、中でも喫煙、食事性要因及び感染症が大きな役割を果たしている。これらの要因に加えて、遺伝的背景も発がんに多大な影響を及ぼしている。本研究においては、ヒトのがん発生要因及びがん感受性要因を総合的に把握し、最終的にはヒトのがんの第一次予防推進のための基礎的研究成果をあげることを目的とする。
研究方法
がん発生の外的要因の検索として、表層土壌中及び食用油中の変異原物質の解析を行った。内的要因の検索としては、ヌクレオチドプールの酸化が突然変異を誘発するかについて、ヒトDNAポリメラーゼを用いて検討した。また、PhIPにより誘発されるラット大腸がんのエピジェネティックな機構についても検討した。酸化的DNA傷害修復遺伝子MYHの新規多型と大腸がん症例対照研究を行った。がん予防法の研究として、沖縄産薬草の肝薬物代謝酵素への作用を検討した。

結果と考察
表層土壌中の変異原物質として、ニトロアレーンを分離・同定した。これらは採取地点に隣接する工業地域において生成し、近隣の表層土壌に蓄積した可能性があると考えられる。ω-3不飽和脂肪酸の過酸化反応に伴って生成する新規変異原物質、4-OHEが実際の加熱調理食品や使用されている食用油の中に比較的多量に存在する事を見いだした。Polηは、酸化損傷dNTPを誤ってDNA中に取り込むことにより、さまざまな突然変異を誘発することが示唆された。遺伝子変異の有無に依存せず、翻訳抑制因子SND1の発現異常によりWNTシグナルの活性化を起こす新規の分子機構が、大腸がんの初期発生に重要な役割を果たす可能性があることがわかった。DNA修復酵素MYHの新しい遺伝子多型が、大腸癌のリスクになる可能性を示した。ベニバナボロギクの熱水抽出液は薬物代謝酵素のCYP1A2 ならびに2E1を選択的に抑制することが確認され、がん化学予防に寄与する可能性が示唆された。
結論
本研究は、ヒトのがん発生要因及びがん感受性要因を総合的に把握することを目的として、変異原物質の分析やヌクレオチドプールの酸化の発がん要因としての重要性を明らかにした。更に、実験動物を用いた新規の発がん分子機構の解析やヒトにおける遺伝子多型の解析等により、発がん感受性要因を見い出した。以上の成果は、がん予防対策を講ずる上に有用な基礎的研究資料になるものと確信する。

公開日・更新日

公開日
2007-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200604006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、環境中の変異原や発がん物質を明らかにすると共にがん発生要因及び感受性要因を総合的に把握し、がんの第一次予防推進を目的とする。本年度は、環境中の変異原・がん原物質の分析や変異機構の解明、大腸癌の発生に対する新規の発がん分子機構の解析等を行い、重要な基礎的資料を得たものと確信する。

臨床的観点からの成果
修復遺伝子多型は、大腸がんなど頻度の高い癌の感受性に関与する可能性が高く、この多型によるリスク評価がおこなえれば、有効なサーベイランス戦略の立案に役立ち、ヒトのがんリスクの一部を明らかに出来る。更に、発生した腫瘍の性格を明らかにすることにより、個別化予防や個別化治療の基礎的知見、実用的な診断試薬の開発に結びつくと思われる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
がんの第一次予防推進のための基礎的研究成果をあげることは、我が国の保健医療の向上に役立つものと考えられる。
その他のインパクト
中国、韓国等のアジア諸国と我が国におけるがんの発生要因及び感受性要因の共通性と差異を明確にすることにより、がん予防に関する有効な情報をアジア諸国に発信できる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
45件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohe T, Wakabayashi,K,et al.
Mutagenicity and levels of 2-phenylbenzotriazole (PBTA)-type mutagens in sewage effluent, river water, sediment and drinking water collected from the Yodo River system, Japan.
Genes and Environ , 28 , 108-119  (2006)
原著論文2
Watanabe T, Wakabayashi K, et al.
Detection of 3, 3′-dichloro benzidine in water from the Waka River in Wakayama
Genes and Environ , 28 , 173-180  (2006)
原著論文3
Takahashi H, Nakagama H, et al.
Inhibition of PPARg activity in esophageal carcinoma cells results in a drastic decrease of adhesive and invasive properties followed by an induction of apoptotic cell death
Cancer Sci. , 97 , 854-860  (2006)
原著論文4
Asami Y, Nohmi T, et al.
Visualization of the interaction between archaeal DNA polymerase and uracil-containing DNA by atomic force microscopy
Genes to Cells , 11 , 3-11  (2006)
原著論文5
Yamada M, Nohmi T, et al.
Development of a bacterial hyper-sensitive tester strain for specific detection of the genotoxicity of polycyclic aromatic hydrocarbons
Genes and Environ , 28 , 23-30  (2006)
原著論文6
Yamashita K, Sugimura H et al.
Chromosomal numerical abnormality profiles of gastrointestinal stromal tumors
JJCO , 36 , 85-92  (2006)
原著論文7
Hirano T. Kasai H, et al
Fragmentation of the DNA repair enzyme, OGG1, in mouse nonparenchymal liver cells by arsenic compounds
Genes and Environment , 28 , 62-67  (2006)
原著論文8
Kawai K. Kasai H, et al
Detection of genotoxic nucleosides, 8-hydroxydeoxyguanosine, 8-hydroxyguanosine and free base 8-hydroxyguanine in fish food products
Genes and Environment , 28 , 120-122  (2006)
原著論文9
Watanabe T, Wakabayashi K, et al.
Isolation and identification of non-chlorinated phenylbenzotriazole (non-CIPBTA)-type mutagens in the Ho River in Shizuoka Prefecture, Japan
Mutat. Res. , 609 , 137-145  (2006)
原著論文10
Qingjie Li, NakagamaH, et al.
Bcl-2 overexpression in PhIP-induced colon tumors: cloning of the rat Bcl-2 promoter and characterization of a pathway involving b-catenin, c-Myc and E2F1
Oncogene  (2007)
原著論文11
Fukuda H, Nakagama H, et al.
Induction of abnormal nuclear shapes in two distinct modes by overexpression of serine/threonine protein phosphatase 5 in HeLa cells
J. Cell Biochem  (2007)
原著論文12
Fuku N, Nakagam H, et al.
Effect of running training on DMH-induced aberrant crypt foci in rat colon
Med Sci Sports Exerc , 39 , 70-74  (2007)
原著論文13
Osawa E, Nakagama H, et al.
Predominant T helper type 2-inflammatory responses promte murine colon cancers
Int. J. Cancer , 118 , 2232-2236  (2006)
原著論文14
Suzuki R, Nakagama H, et al.
Strain differences in the susceptibility to azoxymethane and dextran sodium sulfate-induced colon carcinogenesis in mice
Carcinogenesis , 27 , 162-169  (2006)
原著論文15
Barone F, Nohmi T, et al.
Replication of 2-hydroxyadenine-containing DNA substrates and recognition by human MutS alpha
DNA Repair  (2007)
原著論文16
De Felice M, Nohmi T, et al.
Biochemical evidence of a physical interaction between Sulfolobus solfataricus B-family and Y-family DNA polymerases
Extremophiles  (2007)
原著論文17
MaekawaM,Kasai H, et al
Identification of 4-Oxo-2-hexenal and other direct mutagens formed in model lipid peroxidation reactions as dGuo adducts
Chemical Research in Toxicology , 19 , 130-138  (2006)
原著論文18
Midorikawa Y, Sugimura H et al.
Molecular karyotyping of human hepatocellular carcinoma using single-nucleotide polymorphism arrays
Oncogene , 25 , 5581-8890  (2006)
原著論文19
Sugimoto M, Sugimura H et al.
Influence of chymase and Angiotensin I- onverting enzyme gene polymorphisms on gastric cancer risks in Japan
Cancer Epitdemiol Biomarkers Prev. , 15 , 1929-1934  (2006)
原著論文20
Svoboda P. Kasai H, et al
Urinary 8-hydroxyguanine may be a better marker of oxidative stress than 8-hydroxydeoxyguanosine in relation to the life spans of various species
Antioxid Redox Signal , 8 , 985-992  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-