社会保障の制度横断的な機能評価に関するシミュレーション分析

文献情報

文献番号
200601040A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障の制度横断的な機能評価に関するシミュレーション分析
課題番号
H18-政策-一般-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
府川 哲夫(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 克也(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)
  • 酒井 正(国立社会保障・人口問題研究所企画部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、制度横断的に社会保障の機能を分析し、家族形態や就労形態の変化に対応した社会保障の機能を考察するとともに、シミュレーション分析を通じて、政策の選択肢が社会保障の機能に与える影響を評価することを目的としている。
研究方法
主な研究方法は以下の通り。第1に、先進各国との比較を通じて、社会保障の各種機能について、個別制度ごと、あるいは制度横断的な検討を行った。第2に、総務省統計局「就業構造基本調査」を用いて、介護保険導入前後の介護を理由とする離職の動向について統計分析を行った。第3に、アメリカと日本の給付算定方法が再分配所得に与える影響についてシミュレーション分析を行った。第4に、ライフサイクル一般均衡モデルを用いて、年金支給開始年齢の引き上げが経済厚生等に与える影響について検討した。第5に、高齢期の介護リスクを確率的に記述する介護費用推計モデル用いて、同リスクに対して介護保険と基礎年金が果たしている機能について検討した。
結果と考察
本研究から得られる主な知見は以下の通りである。第1に、医療や介護による現物給付はリスク・プーリング機能をよく果たしていると考えられるが、現在の社会保障制度による所得再分配機能は負担の逆進性や低所得者対策の面で再考する必要がある。第2に、日本の年金制度では、定額給付である基礎年金が存在するために、アメリカと比べて所得再分配機能が強いものとなっている。ただし、アメリカのベンド・ポイント方式のもとでも、パラメータの設定によって再分配機能は大きく変化する。第3に、年金支給開始年齢の引き上げは、労働供給、資本労働比率に大きな影響を与えると同時に、これらの影響は余暇に対する選好の度合いにも大きく依存することが明らかとなった。第4に、介護保険制度の導入によっても介護の就業抑制効果を十分に緩和できていない可能性を示唆する結果が得られた。公的年金のみならず、介護の就業阻害要因についても十分な配慮が求められる。第5に、高齢期の介護リスクに対して、介護保険と基礎年金によるリスク・プーリング機能と貧鉱抑制機能を検討した結果、施設入所に伴う食費の全額自己負担化がこれらのリスク・プーリング機能に与える影響は限定的であることを示唆する結果が得られた。
結論
社会保障制度の持続可能性を高めるために、制度のスリム化が求められているが、社会保障制度から得られる国民の効用は社会保障の規模にのみ依存するものではない。社会保障の負担と給付に関する全体的な議論の中で、社会連帯と自己責任のバランス、あるいは、現金給付と現物給付のバランスについて、方向付けを行っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2007-04-12
更新日
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