救急治療薬としてのヒト抗体調製に関する研究

文献情報

文献番号
200501101A
報告書区分
総括
研究課題名
救急治療薬としてのヒト抗体調製に関する研究
課題番号
H16-医薬-068
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 良和(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所免疫学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 奥野良信(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 盛根信也(沖縄県衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、各種疾患に対する治療薬としてのヒト抗体単離調製法を開発し、具体的に医療現場へ製剤化して送り出す道筋を確立する。今までに水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、ロタウイルス、ジフテリア毒素に対する治療薬として充分強い中和活性を示す抗体の作製に成功した。本プロジェクトではantigenic driftにより抗原性を毎年変化させるインフルエンザウイルスに対する治療薬としてのヒト抗体開発、および現在ウマ血清が用いられているハブ毒素に対して代替可能なヒト抗体開発を目指す。
研究方法
平成17年度は、3名の小児科医の対内に存在するH3N2型インフルエンザウイルスに対する中和抗体のレパートリーの全体像を明らかにすることとした。具体的には1968年から2005年に至る12種類のワクチン株抗原として用いた。ハブ毒出血因子HR2に対する中和抗体単離を目指した。
結果と考察
平成17年度には、藤田保健衛生大学21世紀COE(医学分野)プログラムの中心テーマの一つとして本研究が採用され、3名の研究支援者が本プロジェクトに加わったために研究は急速に展開した。既に7390個の抗体クローンを解析し、317種類のウイルス中和抗体が単離されている。近い将来3名の小児科医の体内に存在するインフルエンザウイルス中和抗体レパートリーの全体像が明らかになるであろう。更に、この結果は現在社会問題化しているトリインフルエンザが新型ウイルスとしてpandemicを引き起こすことへの対等法確立へ結うような情報を与えると期待される。ハブ毒HR2に対する中和活性には複数の抗体の関与が必要であることが示唆された。
結論
本プロジェクトの展開により、病原性ウイルス、病原菌が分泌する毒素、ヘビ毒に対してそれぞれ治療薬としてのヒト抗体単離法を開発し、幾つかの疾患については臨床試験を開始できる段階まで研究は進んだ。インフルエンザウイルスに対してヒト体内で産生される抗体の全体像が明らかにされる意義は大きい。

公開日・更新日

公開日
2009-07-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200501101B
報告書区分
総合
研究課題名
救急治療薬としてのヒト抗体調製に関する研究
課題番号
H16-医薬-068
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 良和(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所免疫学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 奥野良信(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 盛根信也(沖縄県衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトは、ウイルス性疾患、病原菌の分泌する毒素、ヘビ毒素に対してそれぞれ治療に役立つヒト抗体を単離調製することを目標とした。ヒト体内で成熟した抗体は、我々が採用した戦略(3L血液相当の成分採血―巨大ライブラリーの構築)に基づく抗体ライブラリーの中に必ず入っておりクローン化できる。そこでハブ毒に対する強い中和抗体価を有するヒトから作製した抗体ライブラリーを用いて、ハブ毒成分に対する治療用抗体の単離調製、更に3名の小児科医の成分血から作製した抗体ライブラリーを3組作製し、その中にインフルエンザウイルスに対してどのような中和抗体を含むか解析することを研究目標に掲げた。
研究方法
ヒト体内に存在する抗体の種類は、H鎖配列として多様性は10の9乗種類、L鎖は数百種類程度である。そこで成分採血により10の9乗程度のBリンパ球を採取し、10の9乗のクローンからなるH鎖ライブラリーをつくり、(H+L)ライブラリーとしては10の11乗のクローンからなるライブラリーを作る。ハブ毒成分として出血因子HR1、HR2を抗原として用いた。インフルエンザウイルスは1968年から2004年にかけてワクチン株として用いられた12種類のH3N2型のウイルス粒子を抗原として用いた。
結果と考察
ハブ毒中和抗体については、出血因子HR1分子に対してHR1の作用を強く阻害する活性を示すクローンを得た。このクローンはIgG型ヒト抗体として調製され、ウマ抗血清に匹敵する強いHR1中和活性が確認された。出血因子HR2に対しては、複数の抗体が共存して初めて毒素を中和できる可能性が示された。インフルエンザウイルスについては、7,390個の抗体クローンを単離し、その中に317種類のHAに結合するクローンが含まれており、それらはウイルス中和活性を示した。それぞれのクローンについて1968年から2004年に至る12種類のワクチン株のどれを中和できるか体系的に解析している。1968年から2004年まで全ての株を中和できる特異性の広い抗体から、特異性の狭い抗体まで、様々な特異性を示すクローンが含まれていた。
結論
本プロジェクトの最大の成果は、抗体が予防または治療に役立つ疾患であるなら治療用ヒト抗体を単離調製できることを具体的に示したことである。更に現在行っているインフルエンザウイルスに対する抗体の解析で示したように、感染―発病後、治癒過程でどのような抗体がヒト体内に産生されているか、モノクローン抗体レベルで解析可能になった。

公開日・更新日

公開日
2009-07-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501101C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インフルエンザウイルス及びハブ毒に対して、治療に役立つヒト抗体の単離を目標に研究を進めた。ハブ毒出血因子HR1に対して強い中和活性を示すヒトモノクローン抗体の単離に成功し、HR2に対しては中和効果を示すには複数の抗体に関与が必要であることが示された。インフルエンザウイルスに対して3名の小児科医の協力を得て、体の中の中和抗体レパートリーの全体像の解析が進められている。1968年―2005年のH3N2型12株を抗原として用いた。antigen-driftの影響を受けないクローンの単離に成功した。
臨床的観点からの成果
現在ウマ抗血清が治療に用いられている各種毒素に対して、モノクローン抗体を治療薬として開発するニーズがある。ハブ毒もその一つであり、出血因子HR1、HR2に対して中和効果を示すヒト抗体取得はその目標達成に合致する。インフルエンザウイルスは、抗原性が変化するantigenic driftのために治療用抗体開発は試みてこられなかった。1968年―2005年に至る全てのH3N2型ウイルスを中和できる抗体が見つかり、治療薬となり得るかもしれない。この研究戦略はH5N1型新型ウイルス対策に応用できる。
ガイドライン等の開発
現在、創薬の対象として抗体の位置が非常に高まっており、本研究はその社会的要請に応える位置を占めている。
その他行政的観点からの成果
本研究は献血に頼った輸血の現体制を補完するために血液代替物として人工赤血球、人工血小板、人工抗体作製を目標としている。人工抗体の場合は、治療薬としての側面が強く、本プロジェクトの展開により主として感染症に対して抗体治療薬を開発するメドがたった。
その他のインパクト
ここで得られた成果に基づき平成18年2月24-25日に「ヒト抗体を用いたインフルエンザの制御は可ここで得られた成果に基づき平成18年2月24-25日に「ヒト抗体を用いたインフルエンザの制御は可能か」と題した国際ワークショップを開催した。その中で3題の発表をした。300名を越える聴衆が集まり非常に熱気溢れる講演会であった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
K.Higo-Moriguchi, Y.Akahori, Y.Iba, Y.Kurosawa, et al.
Isolation of human monoclonal antibodies neutralizing rotaviruses.
J. Virol. , 78 , 3325-3332  (2004)
原著論文2
M.Kakita, T.Takahashi, T.Komiya, Y.Iba, et al.
Isolation of a human monoclonal antibody with strong neutralizing activities against diphtheria toxin.
Infect Immun. , 74 (6)  (2006)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-