初期齲蝕および歯列等の新たな診断技術の開発に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200501254A
報告書区分
総括
研究課題名
初期齲蝕および歯列等の新たな診断技術の開発に関する総合的研究
課題番号
H15-医療-019
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
神原 正樹(大阪歯科大学(歯学部))
研究分担者(所属機関)
  • 川崎 弘二(大阪歯科大学(歯学部))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、実質欠損に至るまでのエナメル質内のう蝕進行状態(初期う蝕)をエナメル質内の蛍光を利用して光学的に検出できるQLF法を用いて、病巣の微細な変化をモニタリングする定量的診断方法および適切な処置プログラムを確立し、かかりつけ歯科医システムの中で個別に口腔保健管理するシステムを構築することである。
研究方法
1)異なる種類の局所的フッ化物応用および異なる濃度の唾液タンパク質をエナメル質に作用させ、経時的な脱灰/再石灰化過程のモニタリングをQLF法により行った。
2)歯周疾患に罹患している被験者の歯垢を採取し、QLF法による蛍光性歯垢とPCR法で解析した歯垢構成微生物の相関を検索した。
3)感染象牙質の除去を行う際に段階的なQLF法による評価を行った。
4)ブラッシングを停止させた被験者に初期歯肉炎が発症する過程をCCDカメラにより撮影し、得られた歯肉のデジタル画像を解析した。
5)義歯装着患者の口腔内および義歯をQLF法によりデジタル画像を取得し、画像解析を行うことによって光学的診査技術の応用を試みた。
6)初期う蝕検出用にデザインしたプローブを作製し、初期う蝕に作用させ蛍光顕微鏡による撮影を行った。
7)叢生、空隙および低位咬合の状況と、歯垢・歯石付着および初期う蝕状態との関連性について、QLF法を用いて検討を行った。
結果と考察
1)唾液タンパク質には脱灰抑制作用があること、再石灰化を阻害する作用があることが分かった。
2)PCR法により解析した歯周疾患患者の歯垢を構成する微生物と、その歯垢が発する自家蛍光とのあいだに相関がみられることがわかった。
3)感染象牙質の露出および除去の状態がQLF法により定量的に評価できることが明らかとなった。
4)デジタル画像の画像処理により、初期歯肉炎を実験的に観察できることが明らかとなった。
5)義歯装着患者においてもQLF法による歯石や歯垢の定量的評価が可能であることがわかった。
6)極めて初期のう蝕の検出が本研究により開発したプローブ併用法で行えることがわかった。
7)叢生/低位咬合部位はう蝕リスクが高く、叢生/空隙/低位咬合部位は歯周病関連菌付着のリスクが高いことが分かった。
結論
QLF法の応用により初期う蝕や初期歯周炎および為害性のある歯垢を定量的、経時的な画像モニタリングが可能であることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

文献情報

文献番号
200501254B
報告書区分
総合
研究課題名
初期齲蝕および歯列等の新たな診断技術の開発に関する総合的研究
課題番号
H15-医療-019
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
神原 正樹(大阪歯科大学(歯学部))
研究分担者(所属機関)
  • 川崎 弘二(大阪歯科大学(歯学部))
  • 松村 英夫(独立行政法人産業技術総合研究所光技術研究部門)
  • 相馬 邦道(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科咬合機能矯正学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のう蝕学ではエナメル質表層は脱灰と再石灰化を繰り返しており、表層下脱灰の初期う蝕は再石灰化現象により健全に回復することが明らかにされているなどの新しい知見が出現してきている。将来の歯科医療を考えると、う蝕が減少しほとんどが健全歯である状況の中で、Minimum Intervention(最小の侵襲)で行なう治療に至るまでのステップである初期う蝕の状態でいかに管理するかが重要であり、歯科医療における包括的なシステムを構築することが急務であるといえる。本研究では初期う蝕の脱灰状態をデジタル画像として保存し、定量化できる新たな技術、可視光誘導蛍光定量法(QLF;Quantitative Light-induced Fluorescence)の妥当性、応用の可能性を基礎的研究、臨床研究および臨床応用法の検索により明らかにしようと企画したものである。
研究方法
基礎的研究ではQLF法の光学的検討により歯が持つ蛍光特性を明らかにし、in vitro環境下で人工的に初期う蝕を作製し脱灰の大きさと各種フッ化物応用による再石灰化過程の違いを明らかにした。また、再石灰化に及ぼす唾液タンパク質の影響についてもあわせて検討を加え、初期う蝕表層の特性をプローブ粒子の吸着現象の解析により検索を行なった。臨床研究では、光照射によって得られる赤色の蛍光を発する歯垢を、歯周病患者、矯正患者および義歯装着患者について、歯垢付着特性および蛍光強度の面から検討を加えた。歯列不正患者によるう蝕発生状況を検索した。
結果と考察
QLF法が初期う蝕検出の妥当性の高い方法であることが明らかになるとともに、う蝕検出だけでなく高度のポテンシャル(歯垢検出等)を保有していることが明らかになった。
結論
QLF法による光学的診査は、疾患を検出し評価するためだけの機器ではない。光学的診査は従来の技術ではなしえなかった、健全な部位を健全であると数値で表現することが可能であり、さらにその部位を継続的にモニタリングすることも可能なのである。これは、キュアからケアへ移行する21世紀の口腔保健を考える上で重要なポイントであり、光学的診査は健康増進を念頭に置いた口腔保健プログラムを構築する上において、必須のテクノロジーとなるものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-11-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200501254C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の成果として歯科保健に対する明確な基準の設定ができたことにある。初期う蝕や初期歯肉炎の目に見えない変化を明らかにすることにより、個人の疾病罹患傾向に基準を設け、個人に対する適切な予防処置のための基礎的データを確立することができた。また、為害性のある歯垢の検出および評価を行う基準の設定を確立でき、歯科疾患予防のためのブラッシングに対する基準も与えることができた。
臨床的観点からの成果
光学的診査技術の応用により得られた口腔内診査情報は、これまでの技術では得ることができなかった新しい情報であり、初期う蝕や初期歯周炎および為害性のある歯垢を定量的に把握した上での経時的なモニタリングは、かかりつけ歯科医システムの中での積極的かつ個別の予防管理を主体とした新たな歯科医療体制の構築を実現するための基礎データおよび指針として活用・提供できる。
ガイドライン等の開発
それぞれ異なる初期う蝕の程度を定量的に診査できる技術を確立し、さらに異なる脱灰程度の初期う蝕に対し、至適再石灰化条件を設定することができた。為害性の高い歯垢の検出ならびに評価の手法を確立し、光学的診査から歯垢の病原性を診断する基準を設定することができた。感染象牙質の臨床研究によって感染象牙質の診断および除去の指標が明らかとなった。
その他行政的観点からの成果
光学的診査技術を用いた、病巣の微細な変化をモニタリングする定量的診断方法および適切な処置プログラムにより、初期う蝕や歯肉炎を定量的に把握し経時的にモニタリングすることにより、かかりつけ歯科医システムの中での積極的かつ個別の予防管理を主体とした新たな歯科医療体制の構築が可能となり、日本の歯科医療が予防歯科医療管理やテーラーメード予防歯科医療を実践できる時代に対応できる契機となる。
その他のインパクト
主任研究者は平成17年3月にアメリカ、ボルチモアにて開催されたIADR(International Association for Dental Research)総会において、Early Detection of Dental Cariesのシンポジウムを開催し好評を博した。平成17年11月には大阪にて初期う蝕に関する国際シンポジウムを開催し、新たなう蝕評価システム開発の中心的存在であるイギリスのNigel Pitts教授をはじめ多数の研究者の参加を得た。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
出願中
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
公開国際シンポジウムを開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
川上富清,川崎弘二,神原正樹
光誘導蛍光定量法により観察したin vitroにおけるエナメル質再石灰化に及ぼす各種フッ化物応用の影響
歯科医学 , 69 (2) , 110-115  (2006)
原著論文2
Matsumura H, Saburi M
Protein adsorption and wetting of the protein adsorbed surfaces studied by a new type of laser reflectomete
Colloids and Surfaces B: Biointerfaces , 47 (2) , 138-144  (2006)
原著論文3
高島隆太郎,川崎弘二,神原正樹,他
エナメル質人工初期う蝕試料の再石灰化におけるQLF観察
口腔衛生学会雑誌 , 55 (1) , 41-49  (2005)
原著論文4
Petersson LG, Kambara M
Remineralisation study of artificial root Caries lesions after fluoride treatment. An in vitro study using electric caries monitor and transversal micro-radiography
Gerodontology , 21 (2) , 85-92  (2004)
原著論文5
Matsumura H, Neytchev V, Terezova N, et al.
Ca ion permeation through liposome membraneswith heat generation by square-wave electric field
Colloids and Surfaces B: Biointerfaces , 33 (3) , 243-249  (2004)
原著論文6
Yang B, Furusawa K, Matsumura H
Adsorption state of PC vesicles on solid colloidal particles and their aggregation behavior induced by the PC vesicle
Langmuir , 19 (21) , 9023-9027  (2004)
原著論文7
Furusawa K, Matsumura H, Majima T
Characterization of silica coated hematite and application to the formation of composite particles including PC liposomes
J Colloid Interface Sci , 364 (1) , 95-100  (2003)
原著論文8
Kambara M, Uemura M, Izu M, et al.
Effect of dentifrice containing fluoride on incipient caries using QLF method
Dentistry in Japan , 40 , 83-84  (2003)
原著論文9
Kawasaki K, Kawakami T, Kambara M
Effect of various fluoride applications on remineralization of bovine tooth enamel using quantitative light-induced fluorescence in vitro
Caries Research , 40  (2006)
原著論文10
伊津元博,神原正樹
画像解析を応用した初期歯肉炎診査
歯科医学 , 68 (1) , 99-110  (2005)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-