運動ニューロン疾患の病態に基づく治療法の開発

文献情報

文献番号
200500772A
報告書区分
総括
研究課題名
運動ニューロン疾患の病態に基づく治療法の開発
課題番号
H15-こころ-020
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 道勇 学 (名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科)
  • 田中 啓二(東京都医学研究機構東京都臨床医学総合研究所 分子腫瘍学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側索硬化症(ALS)および球脊髄性筋萎縮症(SBMA)における運動ニューロン変性には、異常蛋白質の蓄積と蛋白質品質管理機構の破綻という共通した病態が関与していることが示唆されている。ALSおよびSBMAの神経変性の病態における分子機構を明らかにし、病態に基づく治療開発を行った。

 
研究方法
マウスへの薬剤投与については、17-AAGは週3回腹腔内注射を行い、GGAは粉末試料に混和して経口投与を行った。動物実験は名古屋大学動物実験指針に基づき、動物の苦痛の緩和除去に十分配慮した。
SBMAに対するLHRHアナログの臨床試験は名古屋大学医学部付属病院IRBの承認を得たプロトコールに基づき施行した。

結果と考察
CHIPのU-Box部位をN末に持ち、Dorfinの変異SOD1結合部位をC末側に有するキメラ蛋白質を得た。いずれのキメラ蛋白質も、野生型Dorfinに比べて培養細胞内での半減期は長く、E3活性を認めた。
培養細胞およびマウスモデルにおいて17-AAGは濃度依存性にARの蛋白量を減少させ、マウスモデルでは筋萎縮、歩行運動能などを有意に改善した。17-AAGはAR-Hsp90複合体からp23を離脱させるとこによりユビキチンープロテアソーム系による変異ARの分解を促進し、神経変性を抑制することが示された。
培養細胞およびマウスモデルにおいてGGAはheat shock factor-1(HSF-1)の活性化を促進して各種HSPの発現を誘導し、マウスの運動機能を改善した。GGAは分子シャペロンの発現量を上昇させることで変異AR蛋白のrefoldingを促進し、凝集体形成を抑制して神経変性を軽減すると考えられた。
Leurprorelin投与によりSBMA患者の血清テストステロンは全例去勢レベルまで低下した。血清CKは有意に減少し、陰嚢皮膚の免疫染色における抗ポリグルタミン抗体陽性細胞の割合は有意に低下した。また、嚥下の自覚的改善が認められ、嚥下造影所見の改善が認められた。

結論
 ユビキチン-プロテアソーム系の構成蛋白質の強制発現や薬剤投与による異常蛋白質の凝集抑制の効果を、運動ニューロン疾患の培養細胞およびマウスモデルにおいて明らかにした。とくにSBMA患者に対するleurprorelinの治療効果は臨床第Ⅱ相試験においても示され、この結果を元に医師主導治験の準備が進められている。

公開日・更新日

公開日
2006-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200500772B
報告書区分
総合
研究課題名
運動ニューロン疾患の病態に基づく治療法の開発
課題番号
H15-こころ-020
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 道勇 学(名古屋大学大学院医学系研究科 神経内科)
  • 田中 啓二(東京都医学研究機構東京都臨床医学総合研究所 分子腫瘍学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人発症の運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)および球脊髄性筋萎縮症(SBMA)について、運動ニューロン変性を惹起する分子病態を解明し、それに基づく治療開発を行った。
研究方法
リコンビナント蛋白質は、大腸菌あるいは昆虫細胞系で発現・精製した。その他、電気泳動(SDS-PAGE)・Western blot 分析などについては、定法に従って行った。動物実験は名古屋大学動物実験指針に基づき、動物の苦痛の緩和除去に十分配慮した。SBMAに対するLHRHアナログの臨床試験は名古屋大学医学部付属病院IRBの承認を得たプロトコールに基づき施行した。

結果と考察
新規ユビキチンリガーゼの強制発現により変異SOD1マウスの生存期間を延長した。CHIPとDorfinの基質結合部位を融合したキメラタンパク質を開発した。Dorfinと相互作用するタンパク質としてVCP/p97を同定した。
酪酸ナトリウム、17-allylamino-17-demethoxygeldanamycin(17-AAG)、およびgeranylgeranylacetone(GGA)の有効性と安全生を、SBMAの細胞およびマウスモデルをにおいて明らかにした。また、LHRHアンログ(leuprorelin)につき、SBMA患者を対象とする第Ⅱ相臨床試験を実施し、Leurprorelinが変異AR核内集積を抑制し、嚥下機能を改善することを明らかにした。また、陰嚢皮膚における変異ARの核内集積が優れたバイオマーカーであることを示した。
CHIPと小胞体関連分解(ERAD)に関与するSCFFbs (糖鎖認識ユビキチンリガーゼ)の役割を解明した。細胞内の品質管理には、ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー・リソソーム系が連携していることを世界で初めて証明した。
結論
異常蛋白質の蓄積による神経変性の機序を解明し異常蛋白質の凝集抑制が運動ニューロン疾患の病態を抑止することを培養細胞およびマウスモデルにおいて明らかにした。とくにSBMA患者に対するleurprorelinの治療効果は臨床第Ⅱ相試験においても示され、この結果を元に医師主導治験の準備が進められている。異常蛋白質の処理機構につき、とくにユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー・リソソーム系の機能解析を行った。本研究の成果は他の神経変性疾患研究にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-10-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500772C

成果

専門的・学術的観点からの成果
蛋白質品質管理システムの機構解明については、ユビキチン-プロテアソーム系、オートファジー、ERADがそれぞれ相互作用を有していることを明らかにした。ALSについては、病態関連分子であるDorfinの機能や結合蛋白質を解明し、Dorfinを用いた治療法を解析した。SBMAについては、変異ARの核内集積、転写障害といった神経変性の中心的病態を明らかにし、LHRHアナログや17-AAGなどそれに基づく治療法をマウスにおいて解析し、他の神経変性疾患にも応用可能な方向性を示した。
臨床的観点からの成果
モデルマウスにおいて有効性が示されたSBMAの病態に基づく治療法の中で最も治療効果の著しかったLHRHアナログについては、臨床第Ⅱ相試験を施行し、本治療法の臨床における有効性と安全性を示すことができた。この試験結果に基づき現在我々はleuprorelinの多施設共同臨床第Ⅲ相試験として医師主導治験治験の準備を進めている。また今後治療法の臨床応用を進めるのに必要性なバイオマーカーについても重要な知見を明らかにした。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
われわれは神経内科領域としては他の疾患に先駆けて医師主導治験に取り組み、実施計画書の作成、治験体制の整備などを行った。基礎研究から医師主導治験へとトランスレーショナルリサーチを進めることは行政が最も重点的に推進している研究事業であり、先駆的研究として他の研究に先鞭をつけるものである。今後、我々の研究成果などを起爆剤として神経変性疾患のトランスレーショナルリサーチが加速的に進められるものと期待される。
その他のインパクト
我々の研究成果はNature Medicineなどのeditorialなどで大きく取り上げられており、世界的にも注目を集めている。事実、米国では我々の後を追う形でSBMA患者に対する抗アンドロゲン薬の臨床試験の準備が進められている。また、我々のALSやSBMAについての基礎臨床研究の成果は数多くの公開シンポジウムのみならず新聞や国内外の研究基金や患者団体のホームページでも大きく取り上げられ、関係者からの問い合わせも多数寄せられている。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
43件
その他論文(和文)
29件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
厚生労働省精神・神経疾患研究委託費神経疾患合同研究班一般公開講座、先端脳公開シンポジウムなど

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Katsuno, M., Adachi, H., Waza, M., et al.
Pathogenesis, animal models and therapeutics in spinal and bulbar muscular atrophy (SBMA).
Exp. Neurol.(in press)  (2006)
原著論文2
Komatsu, M., Waguri, S., Chiba, T., et al.
Loss of autophagy in the central nervous system causes neurodegeneration. Nature, in press (2006).
Nature (in press)  (2006)
原著論文3
Banno, H., Adachi, H., Katsuno, M., et al.
Mutant androgen receptor accumulation in spinal and bulbar muscular atrophy scrotal skin: A pathogenic marker.
Ann. Neurol. , 59 , 520-526  (2006)
原著論文4
Matsumoto, A., Okada, Y., Nakamichi, M., et al.
Disease progression of human SOD1 (G93A) transgenic ALS model rats.
J. Neurosci. Res. , 83 , 119-133  (2006)
原著論文5
Sato, S., Chiba, T., Sakata, E., et al.
14-3-3eta is a novel regulator of parkin ubiquitin-ligase.
EMBO J. , 25 , 211-221  (2006)
原著論文6
Matsuda, N., Kitami, T., Suzuki, T., et al.
Diverse effects of pathogenic mutations of Parkin that catalyze multiple monoubiquitylation in vitro.
J. Biol. Chem. , 281 , 3204-3209  (2006)
原著論文7
Kumanomidou, T., Mizushima, T., Komatsu, M., et al.
The Crystal Structure of Human Atg4b, a Processing and Deconjugating Enzyme for Autophagosome-forming Modifiers.
J. Mol. Biol. , 355 , 612-618  (2006)
原著論文8
Iwata, J., Ezaki, J., Komatsu, M., et al.
Excess peroxisomes are degraded by autophagic machinery in mammals.
J. Biol. Chem. , 281 , 4035-4041  (2006)
原著論文9
Katsuno, M., Sang, C., Adachi, H., et al.
Pharmacological induction of heat-shock proteins alleviates polyglutamine-mediated motor neuron disease.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. , 102 , 16801-16806  (2005)
原著論文10
Waza, M., Adachi, H., Katsuno, M., et al.
17-AAG, an Hsp90 inhibitor, ameliorates polyglutamine-mediated motor neuron degeneration.
Nature. Med. , 11 , 1088-1095  (2005)
原著論文11
Jiang, Y.M., Yamamoto, M., Kobayashi, et al.
Gene expression profile of motor neurons in sporadic amyotrophic lateral sclerosis.
Ann. Neurol. , 57 , 236-251  (2005)
原著論文12
Adachi, H., Katsuno, M., Minamiyama, et al.
Widespread nuclear and cytoplasmic accumulation of mutant androgen receptor in SBMA patients.
Brain , 128 , 659-670  (2005)
原著論文13
Hirano, Y., Hendil, K.B., Yashiroda, H., et al.
A heterodimeric complex that promotes the assembly of mammalian 20S proteasomes.
Nature , 437 , 1381-1385  (2005)
原著論文14
Yoshida, Y., Fukiya, K., Adachi, E., et al.
Glycoprotein-specific ubiquitin-ligases recognize N-glycans in unfolded substrates.
EMBO Rep. , 6 , 239-244  (2005)
原著論文15
Sugasawa, K., Okuda, Y., Saijo, M., et al.
UV-induced ubiquitylation of XPC protein mediated by UV-DDB-ubiquitin ligase complex.
Cell , 121 , 387-400  (2005)
原著論文16
Minamiyama, M., Katsuno, M., Adachi, H.,
Sodium butyrate ameliorates phenotypic expression in a transgenic mouse model of spinal and bulbar muscular atrophy.
Hum. Mol. Genet. , 13 , 1182-1192  (2004)
原著論文17
Katsuno, M., Sobue, G.
Polyglutamine diminishes VEGF; passage to motor neuron death?
Neuron , 41 , 677-679  (2004)
原著論文18
Katsuno, M., Adachi, H., Sobue, G.
Sweet relief for Huntington disease.
Nat. Med. , 10 , 123-124  (2004)
原著論文19
Mizushima, T., Hirao, T., Yoshida, Y., et al.
Structural basis of sugar-recognizing ubiquitin ligase.
Nature Struct. & Mol. Biol. , 11 , 365-370  (2004)
原著論文20
Katsuno, M., Adachi, H., Doyu, M., et al.
Leuprorelin rescues polyglutamine-dependent phenotypes in a transgenic mouse model of spinal and bulbar muscular atrophy.
Nat. Med. , 9 , 768-773  (2003)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-