免疫性末梢神経障害の病態解明と治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200500767A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫性末梢神経障害の病態解明と治療法に関する研究
課題番号
H15-こころ-015
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
楠 進(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 結城伸泰(独協医科大学)
  • 千葉厚郎(杏林大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
免疫性末梢神経障害患者血中の抗ガングリオシド抗体に着目し、有用な診断マーカーを開発し、病態を解明して、新たな治療ストラテジーの構築を行う。
研究方法
昨年度までにGuillain-Barré症候群(GBS)血中に二種のガングリオシドの作る複合体を認識する抗体の存在を見出し、とくに抗GD1a/GD1b複合体抗体が重症化と関連することを報告した。今年度は抗GD1b抗体単独陽性のGBS血清について、GD1bと他のガングリオシドとの混合抗原に対する反応の強さを測定してGD1b単独に対する反応と比較した。GBSおよび関連疾患患者の便より分離培養したC.jejuni菌株のリポオリゴ糖(LOS)合成関連遺伝子を解析し、患者血中抗体や臨床型との比較を行った。軸索型GBSのモデルウサギについて、絞輪部やその周囲を病理学的に検討した。ヒトの動眼神経における糖脂質の局在を検討した。
結果と考察
抗GD1b抗体単独陽性のGBS血中抗体は、GD1bと他のガングリオシドの混合抗原に対しては反応が有意に低下した。GD1bが他のガングリオシドの糖鎖とinteractionすることにより、新たなエピトープを形成することが示唆された。GBS株のLOS合成酵素関連遺伝子は有意に高頻度にクラスAで、Pennerの血清型がHS:19の割合が高く、高頻度にGM1やGD1aエピトープを発現していた。これらがGBS発症のリスクを高めると考えられる。軸索型GBSモデルウサギでは、前根の絞輪部にIgGや補体の沈着がみられ、一部傍絞輪部へも拡大していた。絞輪部への抗体の結合により、同部や周辺部の構造を傷害すると考えられた。ヒト動眼神経の傍絞輪部にGQ1bとGD1bのcolocalizationがみられ、またGM3の局在もみられた。これらはFisher症候群の自己抗体の標的になる可能性がある。
結論
二つの異なるガングリオシドの糖鎖は、共存することにより新たなエピトープ(ガングリオシド複合体)を形成する。GBS血中には、そのような複合体に特異的な抗体がみられ、予後や治療法決定の指標として用いることができる。C.jejuniのもつガングリオシド様LOSは、特定の遺伝子座により決定され、LOSの糖鎖構造によりGBSの惹起しやすさが規定される。軸索障害型GBSのモデルウサギでは、抗体と補体により絞輪部障害がおこり、傍絞輪部に波及して運動神経伝導障害をきたす。ヒト動眼神経では傍絞輪部においてGQ1bとGD1bがcolocalizeしており、そこへの自己抗体の結合が眼球運動麻痺をきたす。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500767B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫性末梢神経障害の病態解明と治療法に関する研究
課題番号
H15-こころ-015
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
楠 進(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 結城伸泰(独協医科大学)
  • 千葉厚郎(杏林大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
免疫性末梢神経障害患者血中の抗ガングリオシド抗体に着目し、有用な診断マーカーを開発し、病態を解明して、新たな治療ストラテジーの構築を行う。
研究方法
Guillain-Barré症候群(GBS)血中抗体の活性を、二種のガングリオシドの混合抗原を用いたELISA法で測定し、薄層クロマトグラム免疫染色(TLC)でも検討した。肺炎マイコプラズマの脂質成分(M.lipid)をウサギに接種して血中抗体を検討した。GBSおよび関連疾患患者の便より分離培養したC.jejuni菌株のリポオリゴ糖(LOS)合成関連遺伝子を解析した。軸索型GBSのモデルウサギについて、絞輪部やその周囲を病理学的に検討した。ヒトの動眼神経における糖脂質の局在を検討した。
結果と考察
ELISAとTLC免疫染色により、二種のガングリオシドの混合抗原(ガングリオシド複合体)に特異的に強く反応するGBS血中抗体の存在を見出した。とくにGD1aとGD1bの複合体(GD1a/GD1b)に対する抗体をもつ例は有意に高頻度に重症化し、同抗体は重症化の指標と考えられた。M.lipidを接種したウサギでは脱髄因子である抗Gal-C抗体の上昇がみられた。GBS株のLOS合成酵素関連遺伝子は有意に高頻度にクラスAで、Pennerの血清型がHS:19の割合が高く、高頻度にGM1やGD1aエピトープを発現していた。軸索型GBSモデルウサギでは、前根の絞輪部にIgGや補体の沈着がみられ、一部傍絞輪部へも拡大していた。絞輪部への抗体の結合により、同部や周辺部の構造を傷害すると考えられた。ヒト動眼神経の傍絞輪部にGQ1bとGD1bのcolocalizationがみられ、Fisher症候群の自己抗体の標的になると考えられた。
結論
GBS血中には、二つの異なるガングリオシドの糖鎖が形成する新たなエピトープ(ガングリオシド複合体)に特異的な抗体がみられる。とくに抗GD1a/GD1b複合体抗体は重症化の指標であり、重症化メカニズム解明の手がかりである。マイコプラズマ肺炎では分子相同性機序により抗Gal-C抗体が産生され脱髄に関わる。C.jejuniのもつガングリオシド様LOSは、特定の遺伝子座により決定され、LOSの糖鎖構造によりGBSの惹起しやすさが規定される。軸索障害型GBSのモデルウサギでは、抗体と補体により絞輪部障害がおこり、傍絞輪部に波及して運動神経伝導障害をきたす。ヒト動眼神経では傍絞輪部においてGQ1bとGD1bがcolocalizeしており、そこへの自己抗体の結合が眼球運動麻痺をきたす。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500767C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ガングリオシド複合体に対する抗体という全く新しい概念を提唱した。ラフトにおいてガングリオシドが集簇していることを支持する所見として基礎医学者からも注目されている。ガングリオシドの異常とイオンチャネルの機能障害をつなぐ所見が得られたことは、糖鎖生物学における大きな進歩である。C.jejuni以外の感染因子と抗糖脂質抗体産生について分子相同性が示されたのは初めてである。末梢神経における糖脂質抗原の局在について初めて免疫電顕による検討結果を報告した。
臨床的観点からの成果
ガングリオシド複合体に対する抗体の存在が明らかとなり、従来の方法では検出できなかった自己抗体が検出可能となったことによって、Guillain-Barré症候群(GBS)の早期診断のための検査としての抗ガングリオシド抗体検査の有用性が向上した。また抗GD1a/GD1b複合体抗体とGBSの重症化の関連が明らかとなり、重要な予後判定マーカーが得られた。重症化のマーカーの存在は、より強力な治療法の適応を考慮する際にもきわめて有用である。
ガイドライン等の開発
GBSの治療法としては、免疫グロブリン大量療法(IVIg)とプラズマフェレーシスが有効であることが報告されよく知られているが、GBSのサブタイプごとの治療戦略はまだ確立されていない。今後のサブタイプごとの治療戦略の開発にとって、抗GD1a/GD1b複合体抗体とGBSの重症化の関連が明らかになったことは重要な知見と考えられる。
その他行政的観点からの成果
GBSに対して、現在IVIgあるいはプラズマフェレーシスが使用されているが、近年IVIgにステロイドパルス療法を組み合わせるといったようなより強力な治療法も提唱されている。本研究によりGBSの重症化を予見しより強力な治療の適応を示唆する指標が得られたことは、医療資源の適正な使用に役立つと考えられる。GBSを発症しやすいC. jejuniの特徴が明らかとなったことから、散発性下痢症においてGBS高リスク菌の動向をモニタリングすることが可能となった。
その他のインパクト
ガングリオシド複合体に対する抗体という新しい概念については、海外からの反響も高く、英国のDr. H. WillisonによりNature Clinical Practice Neurology 1: 2-3, 2005において大きく取り上げられた。また、今回の研究により、末梢神経の正常機能には糖脂質が重要であることが明らかになった。従来糖脂質は末梢神経における自己免疫の標的分子として注目されてきたが、今後免疫性以外のニューロパチーの病態解析においても糖脂質を念頭において行う必要性が示唆された。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
41件
その他論文(和文)
32件
その他論文(英文等)
17件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaida K, Kusunoki S, Kamakura K, et al.
GalNAc-GD1a in human peripheral nerve: target sites of anti-ganglioside antibody.
Neurology , 61 , 465-470  (2003)
原著論文2
Kaida K, Kusunoki S, Kanzaki M, et al.
Anti-GQ1b antibody as a factor predictive of mechanical ventilation in Guillain-Barré syndrome.
Neurology , 62 , 821-824  (2004)
原著論文3
Kaida K, Morita D, Kanzaki M, et al.
Ganglioside complexes: as new target antigens in Guillain-Barré syndrome.
Ann Neurol , 56 , 567-571  (2004)
原著論文4
Yuki N, Susuki K, Koga M, et al.
Carbohydrate mimicry between human ganglioside GM1 and Campylobacter jejuni lipooligosaccharide causes Guillain-Barré syndrome.
Proc Natl Acad Sci U S A , 101 , 11404-11409  (2004)
原著論文5
Susuki K, Nishimoto Y, Koga M, et al.
Various immunization protocols for an acute motor axonal neuropathy rabbit model compared.
Neurosci Lett , 368 , 63-67  (2004)
原著論文6
Kamakura K, Kaida K, Kusunoki S, et al.
Harmful effects of anti-GalNAc-GD1a antibodies and TNF-alpha on rat dorsal root ganglia.
J Periph Nerv Sys , 10 , 190-201  (2005)
原著論文7
Hirakawa M, Morita D, Tsuji S, et al.
Effects of phospholipids on antiganglioside antibody reactivity in GBS.
J Neuroimmunol , 159 , 129-132  (2005)
原著論文8
Takahashi M, Koga M, Yokoyama K, et al.
Epidemiology of Campylobacter jejuni isolated from patients with Guillain-Barré and Fisher syndromes in Japan.
J Clin Microbiol , 43 , 335-339  (2005)
原著論文9
Koga M, Gilbert M, Li J, et al.
Antecedent infections in Fisher syndrome: a common pathogenesis of molecular mimicry.
Neurology , 64 , 1605-1611  (2005)
原著論文10
Yuki N, Odaka M.
Ganglioside mimicry as a cause of Guillain-Barré syndrome.
Curr Opin Neurol , 18 , 557-561  (2005)
原著論文11
Li J, Koga M, Brochu D, et al.
Electrophoresis-assisted open-tubular liquid chromatography/mass spectrometry for the analysis of lipooligosaccharide expressed by Campylobacter jejuni.
Electrophoresis , 26 , 3360-3368  (2005)
原著論文12
Yuki N
Carbohydrate mimicry: a new paradigm of autoimmune diseases.
Curr Opin Immunol , 17 , 577-582  (2005)
原著論文13
Koga M, Takahashi M, Masuda M, et al.
Campylobacter gene polymorphism as a determinant of clinical features of Guillain-Barré syndrome.
Neurology , 65 , 1376-1381  (2005)
原著論文14
Koga M, Koike S, Hirata K, et al.
Ambiguous value of Haemophilus influenzae isolation in Guillain-Barré and Fisher syndromes.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 76 , 1736-1738  (2005)
原著論文15
Koga M, Gilbert M, Takahashi M, et al.
Comprehensive analysis of bacterial risk factors for the development of Guillain-Barré syndrome after Campylobacter jejuni enteritis.
J Infect Dis , 193 , 547-555  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-