ストレス性精神障害の成因解明と予防法開発に関する研究

文献情報

文献番号
200500762A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレス性精神障害の成因解明と予防法開発に関する研究
課題番号
H15-こころ-005
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
山脇 成人(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 繁(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 岡本 泰昌(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 神庭 重信(九州大学 大学院医学研究院)
  • 尾藤 晴彦(東京大学 大学院医学研究科)
  • 井ノ口 馨(三菱化学生命科学研究所)
  • 利島 保(広島大学 大学院心理学研究科)
  • 田中 康雄(北海道大学 大学院教育学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレス性精神障害の病態に関する、ストレス脆弱性形成の脳内分子機序の解明および脳機能画像解析を行い、児童精神医学の観点も含めた予防法の開発を試みた。
研究方法
1.ストレス脆弱性形成の分子機構の解明.ストレス脆弱性形成と養育環境の関連性やストレスによる海馬の萎縮の機序を解明するために、母子分離ラットを用いて行動学的、分子生物学的検討を行った。2. ストレス性精神障害の病態に関する脳機能画像研究.本障害の脳内機構を解明するために、情動ストレス課題、短期・長期報酬予測課題をもちいてfMRIによる脳機能画像解析を行った。乳幼児の愛着行動の脳内機構を解明するために、乳幼児を対象としたNIRISによる脳機能解析を行った。3. ストレス性精神障害の発症予防に関する児童精神医学的検討.ストレス脆弱高リスク児のスクリーニング法確立を目的に、3歳児健診の場で幼児の行動面からみた発達評価と、養育者への問診票であるPSIによる養育態度評価を行った。 
結果と考察
1. 母子分離によるストレス脆弱モデルラットの海馬CA1-CA3錐体細胞・歯状回顆粒細胞でIGF1受容体発現が低下し、脆弱性形成に関与することが推測された。母子分離によって、PTSDモデルラットの不安恐怖行動やanalgesiaが、有意に亢進していた。BDNF情報系の活性化で、ストレスによるアクチン機能の障害が抑制された。2. fMRIを用いたストレスへの脳内認知機構の解明から、身体イメージに関する不快な情報(ストレス)を処理する神経基盤が男女で異なることや、ストレスへの適応強化に関与する将来の報酬予測の検討から、この機能は線条体を中心として分化した情報システムによってなされ、セロトニンによって調節を受けることがわかった。乳幼児を対象としたNIRSの検討で、母子相互作用に関わる視覚的要因が、乳幼児の愛着行動の発達に関与することを明らかにした。3. 母親の年齢が若く、子供の行動面の問題(機嫌・困らせる度合・規制)が高いと、養育ストレス度の大きくなることがわかった。
結論
母子分離に伴う海馬神経発達の障害は成長後のストレス脆弱性形成に関与し、PTSD病態形成にも影響することが示唆された。脳機能画像解析から、ストレス対処の脳科学的理解が可能となった。児童精神医学的観点からは、脳科学的研究成果による本障害予防のための養育支援方法確立への方向性を示すことができた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500762B
報告書区分
総合
研究課題名
ストレス性精神障害の成因解明と予防法開発に関する研究
課題番号
H15-こころ-005
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
山脇 成人(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 繁(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 岡本 泰昌(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 神庭 重信(九州大学 大学院医学研究院)
  • 尾藤 晴彦(東京大学 大学院医学研究科)
  • 井ノ口 馨(三菱化学生命科学研究所)
  • 利島 保(広島大学 大学院心理学研究科)
  • 田中 康雄(北海道大学 大学院教育学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレス性精神障害の病態に関する、ストレス脆弱性形成の脳内分子機序の解明および脳機能画像解析を行い、児童精神医学の観点も含めた予防法の開発を試みた。
研究方法
1.ストレス脆弱性形成の分子機構の解明に関する研究.ストレス脆弱性形成と養育環境の関連性やストレスによる海馬の萎縮の機序を解明するために、母子分離ラットを用いて行動学的、分子生物学的検討を行った。2. ストレス性精神障害の病態に関する脳機能画像研究.ストレス性精神障害の脳内機構を解明するために、情動ストレス課題、短期・長期報酬予測課題をもちいてfMRIによる脳機能画像解析を行った。乳幼児の愛着行動の脳内機構を解明するために、乳幼児を対象とした光トポグラフィー(NIRIS)による脳機能解析を行った。3. ストレス性精神障害の発症予防に関する児童精神医学的検討.ストレス脆弱高リスク児のスクリーニング法確立を目的に、3歳児健診の場で幼児の行動面からみた発達評価と、養育者への問診票であるPSIによる養育態度評価を行った。
結果と考察
1. 母子分離によるストレス脆弱モデルラットの海馬では、IGF1受容体, IGF結合蛋白やIntergrin β3の発現が低下し、脆弱性形成に関与することが推測された。この脆弱性は、離乳後の良好な飼育環境で修復可能であった。ストレス曝露によりアクチン機能が障害され、BDNFが障害を抑制することもわかった。2. fMRIを用いた検討で、うつ病では前頭前野の機能である快・不快予測機能が障害されることや、セロトニンが関与する長期報酬予測機能の低下による将来展望機能の障害が示唆された。身体イメージに関するストレス課題では、男女でストレスに反応する脳部位が異なることが示された。乳幼児を対象としたNIRSの検討で、母子相互作用に関わる視覚的・臭覚的要因が、乳幼児の愛着行動の発達に関与することを明らかにした。3. 母親の年齢が若く、子供の行動面の問題(機嫌・困らせる度合・規制)が高いと、養育に対するストレス度の大きくなることがわかった。
結論
母子分離に伴う海馬神経発達の障害は成長後のストレス脆弱性形成に関与し、脆弱性が豊かな環境によって修復される可能性が示唆された。本障害の脳機能画像解析から、病態や精神病理の脳科学的理解が可能となった。脳科学的研究成果に基づいた児童精神医学的観点からの、本障害予防のための養育支援方法確立への方向性を示すことができた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500762C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 ストレス脆弱性形成の分子機構の解明に関する研究から、1) 母子分離ラットでは成長後のストレス脆弱性が形成され、離乳後の豊かな環境の提供によって脆弱性の修復が得られる、2) その分子機序には海馬でのIGF情報系の低下や、Integrin 発現の低下が関与する、ストレス依存性海馬神経細胞形態変化の分子機構の研究から、ストレスによりアクチン機能が障害され、海馬神経樹状突起スパインの形態変化を誘発し、この変化をBDNFが抑制する、など国際的に画期的な成果を示した。
臨床的観点からの成果
 ストレス性精神障害の病態に関する脳機能画像解析研究から、1) うつ病では快予測(左前頭前野)機能が低下する一方で、不快予測(右前頭前野)機能が亢進している、2) うつ病ではセロトニンが関与する長期報酬予測機能が低下することから、将来展望が持てず悲観的思考となる、などや乳幼児の認知・情動機能の発達に関する研究から、母子相互作用に関わる視覚的・臭覚的要因が、乳幼児の脳機能発達に影響を及ぼし、愛着行動に関与する、など国際的に画期的な成果を明らかにした。 
ガイドライン等の開発
該当事項なし
その他行政的観点からの成果
健診制度を用いたストレス性精神障害高リスク児のスクリーニングとそのケアーの研究から、母親の年齢が若く、子供の行動面の問題(機嫌・困らせる度合・規制)が高いと、養育に対するストレス度の大きくなることがわかり、このような特性をもつ家族への3歳児健診を利用した早期発見スクリーニング法を確立し、養育支援がストレス性精神障害の発症予防に重要であることを示した。
その他のインパクト
 本研究の成果は、下記のような新聞報道で取り上げられた。 
平成16年7月5日付け中国新聞・平成16年7月9日付け科学新聞・平成16年7月21日付け読売新聞・2005年1月5日付けBBC NEWS・平成17年2月6日付け毎日新聞・平成17年12月20日付け中国新聞。 
 本研究の成果を、下記のような公開シンポジウムにて一般に公開した。 
「第7回若手研究者のための生命科学セミナー」(平成16年10月22日実施:福岡)・「脳とこころの健やかな発達と養育環境」(同18年1月28日実施:広島)。

発表件数

原著論文(和文)
28件
原著論文(英文等)
50件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
121件
学会発表(国際学会等)
51件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morinobu,S., Fujimaki,K. Kawano,K., et al.
Influence of immobilization on stress on the expression and phosphatase activity of protein phosphatase 2A in the rat brain.
Biological Psychiatry , 54 (10) , 1060-1066  (2003)
原著論文2
Suenaga,T., Morinobu,S. Kawano,K., et al.
Influence of immobilization stress on the levels of CaMKII and phospho-CaMKII in the rat hippocampus.
International Journal of Neuropsychopharmacology , 7 (3) , 299-309  (2004)
原著論文3
Kusaka,K., Morinobu,S., Kawano,K. et al.
Effect of neonatal isolation on the noradrenergic transduction system in the rat hippocampal slice.
Synapse , 54 (4) , 223-232  (2004)
原著論文4
Morinobu,S., Kawano,K., Yamawaki,S.
Lithium and protein phosphatases:apoptosis or neurogenesis?
Clinical Neuroscience Research , 4 (3) , 263-269  (2004)
原著論文5
Ueda,K., Okamoto,Y., Okada,G., et al.
Brain activity during expectancy of emotional stimuli: An fMRI study.
NeuroReport , 14 (1) , 51-55  (2003)
原著論文6
Shirao,N., Okamoto,Y., Mantani,T., et al.
Gender differences in brain activity toward unpleasant word stimuli concerning body image: an fMRI study.
British Journal of Psychiatry , 186 (1) , 48-53  (2005)
原著論文7
Mantani,T., Okamoto,Y. Okada,G., et al.
Reduced activation of posterior cingulate cortex during imagery in subjects with high degrees of alexithymia: a functional magnetic resonance imaging study.
Biological Psychiatry , 57 (9) , 982-990  (2005)
原著論文8
Kurosaki,M., Shirao,N., Yamashita,H., et al.
Distorted images of one's own body activates the prefrontal cortex and limbic/paralimbic system in young women: a functional magnetic resonance imaging study.
Biological Psychiatry , 59 (4) , 380-386  (2006)
原著論文9
Takemoto-Kimura,S., Terai,H., Takamoto,M., et al.
Molecular cloning and characterization of CLICK-III /CaMKI, a novel membrane-anchored neuronal Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase (CaMK).
Journal Biological Chemistry , 278 (20) , 18597-18605  (2003)
原著論文10
Bito,H., Takemoto-Kimura,S.
Ca2+/CREB/CBP-dependent gene regulation: a shared mechanism critical in long-term synaptic plasticity and neuronal survival.
Cell Calcium , 34 (4) , 425-430  (2003)
原著論文11
Bito,H.
Dynamic control of neuronal morphogenesis by Rho signaling.
Japanese Biochemical Society , 134 (3) , 315-319  (2003)
原著論文12
Nonaka,M., Doi,T., Fujiyoshi,Y., et al.
Essential contribution of the ligand-binding B-C loop of PDZ1 and PDZ2 in the regulation of postsynaptic clustering, scaffolding and localization of PSD-95.
Journal fo Neuroscience , 26 (3) , 763-774  (2006)
原著論文13
白尾直子, 岡本泰昌, 岡本百合, 他
摂食障害患者と健常者における負の身体イメージ・負の情動に関連した単語と中性の単語の評価の検討
脳と精神の医学 , 14 (2) , 141-147  (2003)
原著論文14
岡本泰昌, 岡田剛, 上田一貴, 他
うつ病の病態解明に向けて―fMRIを用いた検討―
脳と精神の医学 , 14 (2) , 119-126  (2003)
原著論文15
岡本泰昌, 山下英尚, 上田一貴,
ストレスの適応破綻の脳内メカニズム:fMRIとMEGを用いた脳機能画像解析
心身医学 , 44 (3) , 185-192  (2004)
原著論文16
岡本泰昌, 白尾直子, 上田一貴, 他
ストレス適応の脳内メカニズム
精神神経学雑誌 , 106 (3) , 365-371  (2004)
原著論文17
岡本泰昌, 岡田剛, 上田一貴, 他
情動・行動の脳内機構に関するfMRI研究―うつ病の病態解明に向けて―
心身医学 , 45 (6) , 439-447  (2005)
原著論文18
岡本泰昌, 山脇成人
感情(気分)障害の精神病理と脳科学
神経進歩 , 50 (1) , 133-141  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-