免疫アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究

文献情報

文献番号
200500748A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究
課題番号
H15-免疫-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
森川 昭廣(国立大学法人群馬大学小児生体防御学)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 直実(国立大学法人岐阜大学小児病態学)
  • 大田 健(帝京大学医学部)
  • 足立 満(昭和大学医学部)
  • 河野 陽一(国立大学法人千葉大学小児病態学)
  • 小田嶋 博(国立病院機構福岡病院)
  • 徳山 研一(高崎健康福祉大学薬学部薬学科)
  • 吉原 重美(獨協医科大学医学部小児科)
  • 本間 洋子(自治医科大学医学部小児科)
  • 荒川 浩一(国立大学法人群馬大学小児生体防御学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患の増加に係わる胎内・胎外因子の同定、特に感染因子を中心とした研究を行い喘息の発症および増悪の阻止について寄与することを目的とする。
研究方法
胎内因子:1)1~2歳児の母親を対象にした大規模疫学調査、2)臍帯血サイトカン(Cyt)と慢性肺疾患発症との関連、3)臍帯血Cytや皮膚生理機能と出生コホートによる検討、4)CD14遺伝子多型とRSウイルス(RSV)細気管支炎発症とその後の喘鳴の関係、5)RSV感染急性期・回復期のToll様受容体 (TLR)の発現、Th1・Th2 Cyt産生を検討した。
胎外因子:1)RSVが誘導する遺伝子発現に対するIL-4やIFN-γの影響、2)気道上皮に対するウイルス感染モデルであるdsRNA刺激による生理活性物質産生の検討、3)dsRNA刺激によるアレルギー性気道炎症に対する影響、4)デキサメサゾンによるEotaxin発現への影響、5)成熟度の違いによるCyt産生の変動と役割を検討した。
結果と考察
胎内因子:家族歴を有する児でのアレルギー疾患発症率は1歳で31.6%、2歳では75.3%であった。絨毛膜羊膜炎陽性群ではIL-8が高値で、慢性肺疾患との関連はウレアプラズマ保菌群で認められた。アトピー性皮膚炎発症群では、生後1ヶ月での皮膚生理機能は高く、臍帯血中IL-7、MIP-1bは有意に低値を示した。RSV感染による喘鳴や感染後の喘鳴発症にCD14、IFN-γ、IL-13の遺伝子多型が関連していた。これらは、アレルギー疾患発症に、遺伝的背景(家族歴や遺伝子多型)、胎内感染、T細胞免疫の未熟性などが関与することが示唆された。
胎外因子:γδT細胞からのIFN-γ産生はRSV存在下で抑制された。IFN-γ添加ではRSV感染上皮細胞からのCyt産生が低下した。dsRNA刺激では、TLR3を介しNF-kB、IRFの関与により生理活性物質の発現を認めアレルギー炎症と気道過敏性が増強した。デキサメタゾンは、IL-4刺激によるEotaxin産生に2相性の反応を示した。小児期発症喘息モデルマウスではIL-4やIL-2が有意に増加していた。これらは、ウイルス感染においてIFN-γが重要な役割を果たし、自然免疫系の活性化により好酸球炎症ならびに好中球炎症も誘導され気道炎症の増悪および気道過敏性亢進へと結びつくことが想定された。
結論
アレルギー疾患発症に感染と生体との係わり、感染に対する個体の感受性が重要であり、アレルギー疾患の増悪には、自然免疫を介した系やIFN-γが重要な役割を果たすことが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2006-07-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200500748B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究
課題番号
H15-免疫-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
森川 昭廣(国立大学法人群馬大学小児生体防御学)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 直実(国立大学法人岐阜大学小児病態学)
  • 大田 健(帝京大学医学部)
  • 足立 満(昭和大学医学部)
  • 河野 陽一(国立大学法人千葉大学小児病態学)
  • 小田嶋 博(国立病院機構福岡病院)
  • 徳山 研一(高崎健康福祉大学薬学部薬学科)
  • 吉原 重美(獨協医科大学医学部小児科)
  • 本間 洋子(自治医科大学医学部小児科)
  • 荒川 浩一(国立大学法人群馬大学小児生体防御学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、日本を含む世界各国においてアレルギー疾患患者が増加している。その発症には遺伝的な背景、胎児期の胎内環境(胎内因子)、出生後の栄養、生活様式、感染などの胎外因子が関与すると考えられている。本研究では、それら因子を同定し予防法を検討することを目的とした。
研究方法
胎内環境の指標である臍帯血サイトカインとアレルギー疾患発症との関係、感染に関与する感受性遺伝子から検討した。胎外因子では、RSウイルス感染とtoll様受容体の研究を行った。一方、増悪因子としては、気道上皮とウイルスの相互作用の点から検討した。
結果と考察
胎内因子として、妊婦のウイルス性疾患や細菌感染(子宮付属器炎や尿路感染)、母体ウレアプラズマ保菌の観点から検討した結果、1)母体感染は、臍帯血サイトカインに影響を及ぼすが、児の喘息発症とは関連を認めなかった。2)母体ウレアプラズマ保菌は、新生児慢性肺疾患や乳児反復性喘鳴と関連した。3)母親のアレルギー疾患既往や、妊娠中のアレルギー症状の数が多いほど、児の喘息発症率は高かった。4)17種類の臍帯血サイトカインを検討した結果、Tリンパ球の分化や維持、Th1/Th2バランスに関連したIL-7、IL-17、MIP-1bが低値なほど、喘鳴・乳児アトピー性皮膚炎発症が高かった。胎外因子では、1)大規模な疫学調査により、出生後の気道感染、特にその頻度が多いほど喘息発症率が有意に高かった。2)RSウイルス感染で細気管支炎を発症した児ではIFN-γの産生低下を認め、RSウイルスに対するTh1系の反応の低下が関与している可能性を示した。3)RSウイルス感染による喘鳴や感染後の喘鳴発症にIFN-γ、CD14、IL-13の遺伝子多型が関連している可能性が示唆された。4)気道ウイルス感染は、気道上皮に存在するToll様受容体を介して、種々のサイトカイン産生を導き、アレルギー性気道炎症を増幅する機序を明らかにした。
結論
妊娠中あるいは出生後の感染は、それ単独ではなく、感染に対する感受性という素因が複合して、アレルギー疾患の発症へ導くことが示唆された。臍帯血サイトカインや遺伝子多型の検索は、アレルギー疾患の発症を予防する上で、早期介入を行う必要性のある候補者を選択するひとつの指標になると考えられる。今後、このような仮説に基づいた前方視的な検討が重要な課題と思われる。

公開日・更新日

公開日
2006-07-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500748C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アレルギー疾患発症に係わる胎内・胎外因子として母体ウレアプラズマ保菌、臍帯血中の炎症性サイトカイン産生に対するTh1/Th2免疫系の未熟性、母親由来の遺伝素因、出生後のRSウイルス感染に対するTh1系の反応性低下、Th1/Th2サイトカインの遺伝子多型が関与した。一方、胎外因子である気道ウイルス感染は、気道上皮に存在するToll様受容体3を介して、種々のサイトカイン産生を導き、アレルギー性気道炎症を増悪する機序を明らかにした。

臨床的観点からの成果
妊娠中あるいは出生後の感染への罹患は、喘息の発症や増悪に深く関与することを示し、少なくとも衛生仮説のアレルギー疾患発症阻止因子とはなりえないと考えられた。RSウイルス感染に対する喘鳴発症は、免疫の反応性が低下している症例に見られ、それを規定する遺伝的因子が重要と考えられた。気道感染は喘息の増悪を来すことが知られているが、感冒の主要な原因ウイルスは、気道上皮からの種々のサイトカイン産生により喘息の悪化を来す可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
妊娠中あるいは出生後の感染は、それ単独ではなく、感染に対する感受性という素因が複合して、アレルギー疾患の発症へ導くことが示唆された。臍帯血サイトカインや遺伝子多型の検索は、アレルギー疾患の発症を予防する上で、早期介入を行う必要性のある候補者を選択するひとつの指標になると考えられる。これらの成果は、現存する喘息・管理ガイドラインにおける予知・予防に対して有意義な項目を付加することができると思われる。

その他行政的観点からの成果
ウレアプラズマ保菌妊婦への抗菌薬やプロバイオティクスの使用、臍帯血サイトカインや遺伝子多型より候補となった児に対するRSウイルス感染への介入として受動免疫・ワクチンの普及、Th1サイトカイン産生制御を亢進させる治療法の開発は、アレルギー疾患発症予防としての積極的な治療と考えられる。また、toll様受容体3やその下流の信号伝達系に対する抗体や阻害薬の開発は、発症増悪の予防として可能性のあるアプローチと考えられ、今後の課題と思われる。

その他のインパクト
平成17年度厚生労働省免疫アレルギー疾患予防・治療研究推進事業でリウマチ・アレルギーシンポジウムPart1において小児喘息なんでも早わかりを主任研究者が発表した。平成18年11月の第56回日本アレルギー学会秋季学術大会においては、「アレルギー疾患の発症と増悪に係わる胎内・胎外因子」というタイトルのシンポジウムにおいて、各5名の研究分担者がそれぞれの研究内容についての講演を行う予定となっている。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
118件
その他論文(英文等)
18件
学会発表(国内学会)
150件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
川野 豊、森川みき、小田嶋 博 他
1歳児のアレルギー疾患の発症に関与する因子に関する検討
日本小児アレルギー学会誌 , 17 (3) , 246-253  (2003)
原著論文2
Tamura K.arakawa H.morikawa H.et al
Linkage and association studies of Stat6 gene polymorphisms and allergic diseases.
Int Arch Allergy Immunol. , 131 , 33-38  (2003)
原著論文3
Ohki Y, Tokuyama K,Morikawa A.et al
Characteristic Features of Allergic Airway Inflammation in a Murine Model of Infantile Asthma.
Int Arch Allergy Immunol. , 138 , 51-58  (2005)
原著論文4
kawanoY.MorikawaM.odajima H .et al
Fetal growth promotion in allergic children.
Pediatr Allergy Immunol. , 16 , 354-356  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-