高齢者の脳血管障害の進展予防を目的とした漢方薬によるテーラーメード医療の開発

文献情報

文献番号
200500321A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の脳血管障害の進展予防を目的とした漢方薬によるテーラーメード医療の開発
課題番号
H17-長寿-001
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 博三(富山大学医学部和漢診療学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 祥泰(島根大学医学部附属病院)
  • 済木 育夫(富山大学和漢医薬学総合研究所病態生化学)
  • 嶋田 豊(富山大学医学部和漢診療学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会を迎えた本邦において、高齢者の生活の質の向上、医療費削減の面から脳血管障害に対する医療上の対策が急務である。一方、漢方薬は多臓器に疾患を抱え薬の副作用も出現しやすい高齢者において好ましい治療手段である。本研究では、漢方薬の有用性を脳卒中の発症や脳血管性痴呆への進展予防効果、脳卒中患者の機能障害や能力低下の抑制効果の観点から検討する。また、プロテオーム解析などの手法を用い漢方薬の作用機序と至適病態の解明を行い、脳血管障害に対する漢方薬によるテーラーメード医療の開発を試みる。
研究方法
無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸を主とした漢方薬の長期投与の有効性を、多施設におけるコホート研究により評価する。これまでに登録した約400症例を経過観察し、精神症状、自覚症状、脳卒中発症などの経過を1-3年毎に評価し、桂枝茯苓丸投与群、他の和漢薬治療群、和漢薬未治療群に分けて比較検討した。また、漢方薬の作用機序と適応病態を検討するため、無症候性脳梗塞患者に当帰芍薬散を投与し血液レオロジー因子等に及ぼす影響を検討した。予備的検討として高齢者の認知機能障害に対する漢方薬の効果を客観的に検討するため、記憶課題を作成し課題施行時の脳賦活部位とそれに対する加齢の影響を機能的MRIにより検討した。基礎研究として脳卒中易発症高血圧ラット(SHRSP)における脳卒中発症前後の血漿プロテオーム解析と黄連解毒湯投与による血圧、死亡率、蛋白発現に及ぼす影響を検討した。
結果と考察
無症候性脳梗塞患者に対し、桂枝茯苓丸の長期投与により精神症状が改善し、うつ状態に関しては健常高齢者に比べても有意に改善した。当帰芍薬散は、無症候性脳梗塞患者の眼球結膜微小血管の血流量を増加させ、全血粘度と赤血球変形能を改善し、Hb、Ht値を上昇させた。また、記憶課題施行時の脳賦活の部位の検討では、特に帯状回の加齢性賦活変化が漢方薬の効果を検討する上で有用である可能性が示された。基礎研究では、SHRSPの脳卒中の発症前後で、大きく変動する蛋白を認め、黄連解毒湯投与群では、収縮期血圧の低下と生存率の改善傾向を認めたのみならず、発現する蛋白にも影響を与えた。
結論
無症候性脳梗塞患者に対して、桂枝茯苓丸は精神症状、自覚症状の改善に有効であることが示された。当帰芍薬散は同患者の微小循環改善作用を有することが明らかになり、高齢者における認知機能障害の漢方薬の評価を行う上で前部帯状回に及ぼす影響が重要であることが明らかになった。基礎研究では、黄連解毒湯のSHRSPに対する有効性を分子生物学的な観点から解明できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2006-04-20
更新日
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