アルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200500314A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発に関する研究
課題番号
H15-長寿-009
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
原 英夫(国立長寿医療センター研究所血管性認知症研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 田平 武(国立長寿医療センター研究所)
  • 高橋 慶吉(国立長寿医療センター研究所血管性認知症研究部)
  • 鍋島 俊隆(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,815,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、アルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発を行っている。分泌型Ab 発現アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの経口投与により抗Ab抗体を腸管粘膜免疫において産生させ、脳に沈着した老人斑を除去、Abの凝集を抑制することが目的である。アルツハイマー病の動物モデルであるAPPトランスジェニック(Tg2576)マウスに経口投与し、脳のアミロイド沈着・老人斑形成がコントロールに比べ明らかに減少した。今回は経口ワクチンにより高次脳機能の改善の有無と、霊長類への効果を見るために高齢のサルに投与し、アミロイド沈着の減少を免疫組織学的に検索した。
研究方法
1. 経口ワクチンによる高次脳機能改善の有無を検索するため、10ヶ月齢のTg2576マウスに投与し、13ヶ月齢で自発的交替行動試験、新規物質認識試験、モリス水迷路試験、恐怖条件付け学習試験を行い解析した。
2. 経口ワクチンの霊長類への効果を見るために、高齢のサルに経口投与を行った。20歳以上のアフリカミドリザル・カニクイサルにAb1-43/rAAV腸溶剤カプセルまたはコントロール群にGFP_rAAV腸溶剤カプセルを経口投与し、3,6,12ヶ月後に解剖した。
結果と考察
APPトランスジェニック(Tg2576)マウスは、10ヶ月齢になると、アミロイド沈着は著明になり、老人斑の形成も認められる。このTg2576マウスは、6ヶ月齢で自発交替行動の障害が認められ、この月齢で既にAbオリゴマーによるシナプス障害が起こっている可能性が示唆された。10ヶ月齢のTg2576マウスに経口ワクチンを投与したところ、自発的交替行動試験、新規物質認識試験、モリス水迷路試験、恐怖条件付け学習試験の各試験で経口ワクチンによる改善が認められた。
老齢サル脳では、成熟型老人斑とびまん型老人斑の両方の型が認められた。経口ワクチン投与により、高齢のアフリカミドリザル・カニクイサルの脳老人斑は減少を示した。著明な変化は、前頭葉・頭頂葉・海馬に認められた。神経細胞内Ab蛋白も治療群では減少していた。
結論
我々が開発した経口ワクチンは、老人斑の減少などアルツハイマー病脳病理の改善とともに高次脳機能の改善も示し、有効な治療法と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200500314B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発に関する研究
課題番号
H15-長寿-009
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
原 英夫(国立長寿医療センター研究所血管性認知症研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 田平 武(国立長寿医療センター研究所)
  • 高橋 慶吉(国立長寿医療センター研究所血管性痴呆研究部)
  • 鍋島 俊隆(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、分泌型Ab発現アデノ随伴ウイルスベクターを用いたアルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発を行った。経口ワクチン療法により抗Ab抗体を腸管で産生させ、脳に沈着した老人斑の除去・Abの凝集を抑制し、高次脳機能の改善を目的とする。
研究方法
1.分泌型Ab発現アデノ随伴ウイルスベクターを構築した。2.アルツハイマー病の動物モデルであるAPP transgenic mouse (Tg2576) にAb/rAAVを1回のみ経口投与した。高齢のアフリカミドリザル・カニクイサルに対してはAb1-43/rAAVまたはGFP/rAAVの腸溶剤カプセルを1回のみ経口投与した。3.マウス・サル血清中の抗Ab抗体をELISA法で測定した。4.免疫組織染色:組織中のAb蛋白、リンパ球、アストロサイト、ミクログリアに対する抗体を用いて凍結切片を染色した。5.経口ワクチン投与後のTg2576の高次脳機能解析を行った。
結果と考察
10ヶ月齢のTg2576にAb1-43/rAAVを1回のみ経口投与した。血清中の抗体価は、投与後4週間でピークを示し、6ヶ月後まで持続した。Tg2576は、10ヶ月齢より著明なアミロイド沈着・老人斑の形成を認める。経口ワクチンを投与したTg2576マウス(12~13ヶ月齢)の脳を解析すると、アミロイド沈着・老人斑が有意に減少していた。定量的解析では、コントロール群の5分の1まで減少していた。脳へのリンパ球浸潤・炎症は認められなかった。治療群のマウス血清中・脳組織のTGF-b1 濃度は有意に減少していた。経口ワクチン投与により、自発的交替行動試験、新規物質認識試験、モリス水迷路試験、恐怖条件付け学習試験の各試験で高次脳機能改善が認められた。老齢のアフリカミドリザル・カニクイサルへの経口ワクチン投与により、前頭葉・海馬老人斑は減少し、神経細胞内Ab蛋白も激減していた。
結論
経口ワクチンを投与したアルツハイマー病動物モデルマウスでは、脳老人斑の著明な減少が認められ、高次脳機能の改善も実証された。脳組織及び血清TGF-b 1の減少により、脳血管へのアミロイド沈着を改善する可能性が示唆された。老齢サルに経口ワクチン投与により、前頭葉・頭頂葉・海馬の老人斑の減少を認めた。アデノ随伴ウイルスを用いた経口ワクチン療法は、脳炎などの副作用もなく、アルツハイマー病に対して有効な治療法と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2006-03-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500314C

成果

専門的・学術的観点からの成果
分泌型Abを発現するアデノ随伴ウイルスベクターを用いたアルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発を行った。経口ワクチンの利点としては、1回の投与で比較的長期 (約6ヶ月間) に腸管において抗原提示ができ、しかも胃液などにより分解されにくい。腸管上皮細胞に感染後多くはepisomalとして核内に存在し、ウイルス粒子は複製できないので、細胞内で自己増殖せず、安全性も確認されている。またアジュバントを使用しないため、細胞性免疫を惹起せず、脳炎も起こりにくい。
臨床的観点からの成果
アルツハイマー病のモデルマウスに経口ワクチン療法を行い、脳の老人斑の減少および高次脳機能改善を確認した。さらに、脳に老人斑が数多く蓄積した高齢のサルに経口ワクチンを投与し、神経細胞内Ab蛋白沈着が減少し、前頭葉・頭頂葉・海馬のアミロイドb蛋白沈着や老人斑の減少などの改善を示した。アデノ随伴ウイルスを用いた経口ワクチン療法は、脳炎などの副作用もなく、アルツハイマー病に対して有効な治療法と考えられる。
ガイドライン等の開発
この研究は、治療法の開発研究であり、ガイドラインは作成していない。
その他行政的観点からの成果
経口ワクチン療法が確立されれば、アルツハイマー病型認知症患者の数が減少し、高齢者の生活向上、医療費の削減など多くの社会的貢献が期待される。
その他のインパクト
平成15年にアルツハイマー病に対する経口ワクチンの開発の内容が、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、中日・東京新聞、共同通信、日経BPで報道され、ズームインsuper(テレビ)でも報道された。第16回ヒューマンサイエンス総合研究セミナーでワクチン療法について講演した。第4回「アルミニウムと健康」フォーラム(2004年11月19日、経団連会館)アルツハイマー病のワクチン療法について講演した。平成17年3月31日中日新聞に掲載された。平成17年5月25日NHK テレビ「おはよう日本」で放送された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
20件
神経治療学会誌、臨床神経、基礎老化研究他。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
日本神経学会、日本神経免疫学会、神経治療学会、日本痴呆学会他。
学会発表(国際学会等)
3件
Neuroscience他。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hideo Hara, Alon Monsonego, Katsutoshi Yuasa, et al
Development of a safe oral Aァ vaccine using recombinant adeno-associated virus vector for Alzheimer's disease.
Journal of Alzheimer's disease , 6 , 483-488  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-