日本の社会保障制度における社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)効果の研究

文献情報

文献番号
200500021A
報告書区分
総括
研究課題名
日本の社会保障制度における社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)効果の研究
課題番号
H16-政策-013
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 大石亜希子(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論部)
  • 後藤玲子(立命館大学)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析部)
  • 菊地英明(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
6,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、我が国において「社会的排除と包摂(ソーシャル・インクルージョン)」概念を確立し、社会保障制度の企画立案に係る政策評価指標として活用する可能性を探ることを目的としている。研究では(1)諸外国の経験を資料・文献・データから複眼的に捉えて整理するとともに、(2)我が国の社会保障制度の機能を「社会的包摂」の観点から評価し、政策提言を行うものである。具体的には以下の作業を行う。
研究方法
本年度は、社会的排除またはその複合的現象の一端を表す指標として、相対的剥奪、相対的貧困、所得格差などに着目し、既存の大規模調査の個票を用いて、その実態、時系列的推移、および我が国の社会保障制度が発揮してきた効果を「社会的包摂」の観点から検証した。特に、社会的排除概念の原型ともいえる相対的剥奪の分析では、複数の次元のfunctioning(具体的には、食、衣、医、住、社会生活、保障)を考慮し、個人の嗜好と強制された欠如を明確に区別することで、相対的剥奪指標を社会的排除により近い概念に精錬した。最後に、社会的排除により適切な指標の開発を目的とした基礎データ構築のために、『社会生活に関する実態調査』を設計・実施した。
結果と考察
分析の結果、社会的排除のリスク・グループとして若者および「標準的なライフコースからの逸脱者」=中年期において無配偶状況にある人々、母子世帯、傷病者をかかえる世帯などが特定された。さらに、社会的排除のStaticな指標ともいえる相対的剥奪指標と所得の関係を調べると、世帯所得が400?500万円以下の世帯において剥奪指標が急増することから、イギリスを始め多くの国で観察された閾値が日本にても存在することがわかった。また、1980年代から2000年代にかけての、所得格差および貧困率の上昇が確認され、この上昇の多くは、人口高齢化や世帯規模の縮小といった人口動態的な要因で説明できるものの、貧困率については、市場所得における貧困率の悪化が大きく寄与していることがわかった。
結論
今年度に設計、実施された『社会生活に関する実態調査』は、欠如と排除の違いを明らかに、金銭的な理由のみならず、あらゆる理由による強制された欠如を調査概念とし、排除する側、そして、排除する理由をも視野にいれた調査である。換言すれば、被排除の状況を調べるのみではなく、排除する側が何なのか、どのような理由で排除するのか、といった観点をも含める調査内容となっている。調査結果の分析は、日本における社会的排除のプロセスが少なからず明らかになることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2006-04-27
更新日
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