個人レベルの公的年金の給付と負担等に関する情報を各人に提供する仕組みに関する研究

文献情報

文献番号
200500017A
報告書区分
総括
研究課題名
個人レベルの公的年金の給付と負担等に関する情報を各人に提供する仕組みに関する研究
課題番号
H16-政策-007
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
臼杵 政治(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 中嶋邦夫(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
  • 俊野雅司(大和総研 年金事業本部)
  • 米澤康博(早稲田大学大学院 ファイナンス研究科)
  • 北村智紀(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
6,405,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、公的年金の負担と給付に関する情報を被保険者個人に提供する仕組みのあり方を対象とする。当年度は、2号被保険者を対象にして、①ライフプランに役立つ給付の通知、②年金制度への信頼・評価を高める情報開示、③加入者の合理的な意思決定をサポートするための情報開示、④経済厚生や企業競争力に与える影響、について考察した。
研究方法
文献サーベイ、専門家や社会保険庁からのヒアリング、2号被保険者を対象にした実験、グループインタビュー及びアンケート調査を実施した。
結果と考察
第1章では、加入者が、①将来の見込額については複数の仮定に基づく、②年金見込額と年齢との関係を表形式にする、③終身給付や物価スライドがある、④受給資格を得た、という情報を求めているという知見が得られた。第2章・第3章では、①厚生年金における標準的な保険料と給付額、②給付の内容、の他、③少子高齢化に対する備え、④世代間扶養の仕組みとその下での支給額、などを内容とする通知を送付すると、制度への納得度合いや安心感が得られるとする度合いが有意に向上する、という知見が得られた。
第4章?第6章の実験では、老後の支出と年金のキャッシュフローの連動性や年金に加入しない場合のリスクに関する情報がわかりやすく提供されれば、損失回避的な傾向が強まり、老後の生活費を確保できる公的年金への加入率が高まることが示唆された。第7章では、事業主が年金保険料を負担する場合、雇用者が保険料負担と年金給付の対応関係を理解し、①余命に関する正しい見積もりの元となる情報により、年金制度への信頼を高められれば、経済厚生にも、企業の競争力にも悪影響が生じないことを明らかにした。
第8章では、厚生年金が非正規雇用者やパートタイマーに適用されても、①年金額はあまり改善しない、②中長期的には1人あたりGDPが増大し、③年金財政には短期的にプラスとなるものの、中長期的には負担となる、という知見が得られた。
結論
2号被保険者に対して、給付や余命に関する適切な情報を開示することにより、制度への信頼や評価を高められ、ライフプランに役立たせることができる。ただし、人間の認知能力の限界を認めた上での簡潔さと、内容が求められる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200500017B
報告書区分
総合
研究課題名
個人レベルの公的年金の給付と負担等に関する情報を各人に提供する仕組みに関する研究
課題番号
H16-政策-007
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
臼杵 政治(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 米澤 康博(早稲田大学大学院 ファイナンス研究科)
  • 俊野 雅司(大和総研 年金事業本部)
  • 北村 智紀(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
  • 中嶋 邦夫(ニッセイ基礎研究所 金融研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、公的年金の保険料と受給額(負担と給付)に関する情報を被保険者個人に提供する仕組みのあり方を対象とする。
研究方法
先行研究に関する文献サーベイ、内外の専門家や実務家のヒアリング、アンケート調査及びインタビュー調査、取引ソフトウェアによる実験、を用いた。
結果と考察
1.公的年金への不信の原因について、①流動性制約、②高い時間選好率、③予想寿命が短い、④情報・知識の不足、の4つがあることを確認した。保険料と給付額や遺族・基礎年金、国庫負担などを情報提供することで、それに対応できる。
2.老後の収入と支出の計画(ライフプラン)を助けるためには、さまざまな媒体を活用すると共に、①将来の給付見込額については複数の仮定、②年金見込額と年齢との関係を表形式にする、③終身給付や物価スライド、④受給資格を得たこと、を情報提供するべきである。
3.老後の支出に関する人々の合理的な判断を助けるためには、比較的若い間から、年金に加入しない場合のリスクに関する情報を提供する必要がある。それにより、老後の生活費を安全に確保できる公的年金への加入率が高まることが示唆された。
4.事業主負担の年金保険料負担が雇用者に円滑に転嫁されるためには、情報提供によって雇用者が保険料負担と年金給付の対応関係を理解することが前提になる。①余命に関する正しい見積もりができるような情報、②年金制度への信頼を高めるような情報提供が求められる。
5.パートタイマーへの厚生年金の適用拡大によっても、パートタイマーの年金額はあまり改善しない、年金財政には短期的にプラスとなるものの、中長期的には負担となる、という知見が得られた。
6.海外での情報提供は、予測給付額の通知を核とし、読みやすさを優先している。
結論
1.年金の一般的な情報と給付見込額と保険料の情報を提供することで、制度への評価が高まる。情報には①障害年金や遺族年金の存在、②終身年金の支給、③財政方式、④国庫負担の存在、⑤保険料の免除や追納制度、⑥物価スライド、を含めるべきである。
2.年金見込額の通知においては、年金制度への信頼を高めるだけでなく、老後のライフプランに役立つように、①給付の予測額の通知については表形式を使う、②将来の収入について複数のケースを提示する、③受給資格を得たことを通知する、などの工夫をすべきである。
3.年金に関する合理的な意思決定を助けるためには、年金がカバーする将来の生活費のリスクと給付の対応関係が理解しやすいように心がけるべきである。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
年金加入や資産選択に関する人々の判断は、決して合理的に下されておらず、主観的要因や提供される情報内容の影響を受けることを明らかにした。中でも余命が過小評価されていたことがについては、適切な情報を提供する必要がある。また、長寿による支出の増加など老後のリスクへの対処を助けるためには、①年金加入により引退後、死亡するまでの必要な支出がカバーされること、②加入しないことのリスク、を情報提供するべきであるとした。
臨床的観点からの成果
国民年金の1号被保険者の加入・納付意欲を高める上では、生涯で支払う保険料以上に受け取る給付総額が大きいことを示すことが有効であった。また、2号被保険者では、情報開示が世代間扶養や少子高齢化の影響について納得を高めることができることがわかった。さらに、給付見込額などの情報開示は海外諸国でも進展していることを明らかにした。諸外国では書面による通知が、インターネットや電話、窓口での相談を含めた、総合的な広報活動の一環となっていた。
ガイドライン等の開発
1号・2号被保険者における負担と給付の通知のひな型を作成した。
その他行政的観点からの成果
負担と給付に関する通知のひな型を社会保険庁に示した。
その他のインパクト
スウェーデンにおける通知(オレンジ・レター)及びキャンペーンの責任者を招聘し、コンファレンス「スウェーデンにおける年金通知の導入と現状」を開催して、厚生労働省、社会保険庁からも出席いただき、学術研究者、報道関係者等の参加者との間で活発な議論を行い、また、研究機関を訪問して意見交換を行い、比較研究を行った。社会保険庁の加入記録(放置)問題の解決策としても、通知の送付の効果が注目された。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
有識者・マスコミなどへの公開研究会を行った

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
臼杵政治・中嶋邦夫・北村智紀
国民年金1号被保険者の加入・納付行動の分析-なぜ・保険料を払わないのか
リスクと保険 , 3 , 21-42  (2007)
原著論文2
臼杵政治・中嶋邦夫・北村智紀
公的年金の給付と負担に関する通知の効果と課題
年金と経済 , 25 (1) , 39-48  (2006)
原著論文3
北村智紀・中嶋邦夫・俊野雅司他
投資家は将来支出(経費)変動リスクに対してヘッジするか
日本保険・年金リスク学会誌 , 2 (2) , 19-36  (2007)
原著論文4
北村智紀・中嶋邦夫・臼杵政治
マクロ経済スライド下における積立金運用でのリスク
経済分析 ,  (178) , 23-52  (2006)
原著論文5
中嶋邦夫・北村智紀・臼杵政治
厚生年金の最低給付水準保証に必要なコストの推計
日本保険・年金リスク学会誌 , 2 (1) , 75-92  (2006)
原著論文6
臼杵政治・中嶋邦夫・北村智紀
厚生年金制度に関する通知の送付とその効果
季刊社会保障研究 , 44 (2) , 234-251  (2008)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-