高次脳機能障害におけるD-セリンシステムの病態解明と治療法開発への応用

文献情報

文献番号
200400775A
報告書区分
総括
研究課題名
高次脳機能障害におけるD-セリンシステムの病態解明と治療法開発への応用
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
西川 徹(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 福井 清(徳島大学分子酵素学研究センター遺伝制御学部門)
  • 川井 充(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高次脳機能障害の分子病態を明らかにし新しい治療法の手がかりを得るため、高次脳機能に深く関わるNMDA型グルタミン酸受容体の活性化に必須で、精神神経症状を改善する作用をもつ脳の内在性物質D-セリンについて、代謝・機能と高次脳機能障害における病態の分子機構を解明する。
研究方法
本研究は、各所属施設の倫理委員会の承認を得た上、ガイドラインを遵守して行った。D-セリン関連候補遺伝子と蛋白の解析には、NorthernおよびSouthern blotting法、RT-PCR法、アフリカツメガエル卵母細胞発現系、COS培養細胞系等を用いた。脳内細胞外液中アミノ酸はin vivoダイアリシス法により採取した。D-セリンその他アミノ酸は、蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフィーで定量した。
結果と考察
脳の内在性D-セリン関連遺伝子として主任研究者らが単離した、D-セリン選択的応答を示すdsr-2と、D-セリンの細胞内蓄積を減少させるdsm-1の解析を進め、dsr-2は、ゲノム上、NMSDA受容体機能に影響するneurexin-3αの反対鎖に位置し、脳選択的でD-セリンやNMDA受容体R2Bサブユニットと酷似した分布と発達に伴う分布変化を示す等の結果より、D-セリンやNMDA受容体の調節への関与が示唆された。dsm-1は、細胞内の内在性D-セリン濃度も減少させ、脳内分布がD-セリンと類似していること、ほ乳類培養細胞に発現させた蛋白は主に細胞質に認められること等から、D-セリンの細胞内外の膜を介した輸送や代謝の過程で重要な役割を果たす可能性が推測された。また、D-セリン分解活性をもつD-アミノ酸酸化酵素が大脳グリア細胞に存在し、D-セリンが過剰になるとその分解を介して細胞死に関与することが示唆された。一方、脊髄小脳変性症患者において、NMDA受容体機能促進作用をもつD-サイクロセリンの失調症状改善効果は少なくとも3ヶ月間持続することがわかった。
結論
脳の内在性物質D-セリンの関連候補遺伝子dsr-2とdsm-1について、発現分布、ゲノム構造、細胞内局在、D-セリンとの相互作用等の特徴を明らかにした。また、D-セリンとグリア細胞との関係、D-セリン過剰の病態生理学的意義、D-サイクロセリンの高次脳機能障害治療効果等について新知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2005-04-28
更新日
-