感情障害の発症脆弱性素因に関する神経発達・神経新生的側面からの検討並びにその修復機序に関する分子生物学的研究

文献情報

文献番号
200400726A
報告書区分
総括
研究課題名
感情障害の発症脆弱性素因に関する神経発達・神経新生的側面からの検討並びにその修復機序に関する分子生物学的研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(群馬大学大学院医学系研究科脳神経精神行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 白尾 智明(群馬大学大学院医学系研究科高次細胞機能学分野)
  • 川戸 佳(東京大学大学院総合文化研究科広域科学)
  • 内山 眞(国立精神・神経センター精神保健研究所精神生理部)
  • 神庭 重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野)
  • 渡辺 義文(山口大学医学部高次機能神経科学講座)
  • 池田 研二(慈圭病院・慈圭精神医学研究所)
  • 加藤 忠史(理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム)
  • 山田 光彦(国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では感情障害の発症脆弱性について神経発達期と退行期との両面から脳画像解析や死後脳解析で明らかにするとともに、発症脆弱性について前方視的に追跡調査し、PET画像での感情障害発症予測の可能性を明らかにすることを目的としている。さらにその修復機序を解明するための基礎的研究を推進し、根治的な薬物療法の開発や一次予防法の確立の糸口を得ることも目標としている。
研究方法
 中高年初発のうつ病の病死脳の解析やMRIのT2強調画像での白質高信号の出現の程度の解析と、がん告知後、精神症状が認められない平均60歳のがん患者についての前方視的調査を実施した。一方、躁うつ病のモデル動物がないので、ミトコンドリア遺伝子複製酵素に一塩基変異を導入し、校正活性を失わせた変異体を作製した。ラット海馬の免疫電子顕微鏡学的観察や、海馬切片を用いた電気生理学的解析で、エストラジオールの合成や神経保護作用について解析した。
結果と考察
前頭前野深部白質にはマクロファージを伴う白質細動脈数が中高年初発うつ病群で多く、ミクログリアを反映するlba-1陽性細胞の増加も認められ、炎症性反応の亢進が示唆された。MRI解析では、中高年初発うつ病でのみ深部白質や側脳室周囲の高信号の程度が重く、若年発症うつ病と健康対照とでは有意差はなかった。また、がん患者の追跡研究の結果、悪化群では左側BA9野の背外側の一部、右上前頭回(BA6野)の一部、右上側頭回(BA22野)ですでにFDG-PETでのグルコースの取り込みが低下していた。
ミトコンドリア遺伝子変異を加速させたマウスを作成することに成功したが、そのマウスは行動科学的分析により不安水準が高いことが明らかにされ、しかも、その海馬CA1錐体細胞内のGTP結合タンパク質を介するカルシウムシグナリングが低下していることを明らかにした。
海馬神経細胞自身が局所的にコレステロールから17--エストラジオールを合成していることを証明し、エストラジオール受容体がCA1-CA3やDG領域の神経シナプスに存在することを証明するとともに、ラット海馬神経細胞のシナプス伝達の長期増強をコルチコステロンは抑制し、その抑制をエストラジオール処理が解除することも明らかにした。
結論
中高年初発のうつ病には微小な脳血管障害が脆弱性として存在している可能性がある。また、神経ステロイドの合成とストレスから神経細胞の保護効果が明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
2005-06-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200400726B
報告書区分
総合
研究課題名
感情障害の発症脆弱性素因に関する神経発達・神経新生的側面からの検討並びにその修復機序に関する分子生物学的研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(群馬大学大学院医学系研究科脳神経精神行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 白尾 智明(群馬大学大学院医学系研究科高次細胞機能学分野)
  • 川戸 佳(東京大学大学院総合文化研究科広域科学)
  • 内山 眞(国立精神・神経センター精神保健研究所精神生理部)
  • 神庭 重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野)
  • 渡辺 義文(山口大学医学部高次機能神経科学講座)
  • 池田 研二(慈圭病院・慈圭精神医学研究所)
  • 加藤 忠史(理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム)
  • 山田 光彦(国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では感情障害の発症脆弱性について神経発達期と退行期との両面から脳画像解析や死後脳解析で明らかにするとともに、発症脆弱性について前方視的に追跡調査し、PET画像での感情障害発症予測の可能性を明らかにすることを目的としている。さらにその修復機序を解明するための基礎的研究を推進し、根治的な薬物療法の開発や一次予防法の確立の糸口を得ることも目標としている。
研究方法
若年初発と中高年初発のうつ病の病死脳の解析やPET、MRIでの解析を実施し、うつ状態依存的な変化と非依存的変化並びに脳器質的変化について解析した。一方、躁うつ病のモデル動物がないので、ミトコンドリア遺伝子複製酵素に一塩基変異を導入し、校正活性を失わせた変異体を作製した。ラット海馬の免疫電子顕微鏡学的観察や、海馬切片を用いた電気生理学的解析で、エストラジオールの合成や神経保護作用について解析した。
結果と考察
BA9野での機能低下はうつ状態依存的変化であるが、死後脳解析では皮質第二層のみでの小型神経細胞密度の有意な低下という知見が得られ、神経発達期の障害が示唆された。しかも、同部位におけるセロトニン-2A(5-HT-2A)受容体の陽性細胞が第二層でのみ有意に増加していることが明らかにされ、感情障害の発症脆弱性や病態生理にとって皮質第二層の重要さが明らかになった。一方、中高年初発のうつ病では前頭前野深部白質にはマクロファージを伴う白質細動脈数が多く、炎症性血管病変が示唆された。また、がん患者の追跡研究の結果、悪化群では左側BA9野の背外側の一部、右上前頭回(BA6野)の一部、右上側頭回(BA22野)ですでにFDG-PETでのグルコースの取り込みが低下していた。
ミトコンドリア遺伝子変異を加速させたマウスを作成することに成功したが、そのマウスは行動科学的分析により不安水準が高いことが明らかにされ、しかも、その海馬CA1錐体細胞内のカルシウムシグナリングが低下していた。
海馬神経細胞自身が局所的にコレステロールから17--エストラジオールを合成していることを証明した。ラット海馬神経細胞のシナプス伝達の長期増強をコルチコステロンは抑制し、その抑制をエストラジオール処理が解除することも明らかにした。
結論
うつ病には発達期の神経細胞構築の異常と退行期の脳血管障害が脆弱性として存在している可能性がある。また、神経ステロイドの合成とストレスから神経細胞の保護効果が明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
2005-06-23
更新日
-