トランスジェニック・マウスを用いた肝発がんメカニズムの解析

文献情報

文献番号
200400683A
報告書区分
総括
研究課題名
トランスジェニック・マウスを用いた肝発がんメカニズムの解析
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
小池 和彦(東京大学医学部感染制御学・感染症内科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所ウイルス第二部)
  • 塚本和久(東京大学医学部糖尿病代謝内科学)
  • 森屋恭爾(東京大学医学部感染制御学)
  • 堀江利治(千葉大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
18,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HCV感染症における肝発癌機序としては、肝炎による炎症説と肝炎ウイルスそのものによる直接発癌作用説の二つが考えられている。私たちは、HCVが肝発癌に直接的に関与しているとの仮説のもとに、HCVのコードする蛋白が持つ肝発癌活性をトランスジェニックマウスの系を用いて検証してきた。HCVコア蛋白のもつ肝発癌作用を中心として、HCVのもつ肝発癌作用、その機序を明らかにし、慢性C型肝炎患者における肝発癌抑制法の開発を目指す。
研究方法
ヒトHCV関連肝発癌の動物モデルであるコアマウスおよび他のHCV遺伝子トランスジェニックマウスを用いて、HCV感染症における肝発癌機序の解明を検討した。また、マウスで得られた結果をC型肝炎患者においても検討した。
結果と考察
コア遺伝子トランスジェニックマウスでは、肝において活性酸素(ROS)の産生が肝炎という炎症無しに増加しており、肝発がんの主要な経路の一つと考えられた。ROS産生の機序としては、ミトコンドリアの機能異常が推定された。HCV感染症は、炎症不在のもとで、すでにROSの産生過剰状態にあるといえる。そこへさらに炎症やアルコールが加わることで、ROSの更なる過剰発生が起こり、抗酸化系によっても充分にスカベンジされなくなる。
 一方、コア蛋白は、MAPKの3つのシグナル伝達経路のうち、JNKだけを活性化する。最終的に転写因子AP-1による転写を活性化し、cyclin D1、CDK4等の発現亢進をきたして癌化等の病原性をもたらしていると考えられる。
 Tacrolimusの有するミトコンドリア保護作用によりHCVコア蛋白による脂質代謝異常が改善していることが示された。免疫抑制作用を有しないTacrolimusの誘導体によって、HCV感染症により引き起こされる肝脂肪化の抑制が可能であることが示された。
結論
HCVは、ROSの産生と細胞内遺伝子発現・シグナル伝達の修飾という二つの経路を介して、肝発がんに直接的に(ウイルス側の因子として)関与していることが明らかとなった。前者においては、肝細胞のミトコンドリアがROS産生において主要な役割を演じることも明らかになってきている。ミトコンドリアを保護する方策をとることによって、C型肝炎における肝発がんを抑制できる可能性が示されたといえる。

公開日・更新日

公開日
2005-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200400683B
報告書区分
総合
研究課題名
トランスジェニック・マウスを用いた肝発がんメカニズムの解析
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
小池 和彦(東京大学医学部感染制御学・感染症内科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所ウイルス第二部)
  • 塚本和久(東京大学医学部糖尿病代謝内科学)
  • 森屋恭爾(東京大学医学部感染制御学)
  • 堀江利治(千葉大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)コア蛋白のもつ肝発癌作用を中心として、HCVのもつ肝発癌作用、その機序を明らかにし、慢性C型肝炎患者における肝発癌抑制法の開発を目指す。
研究方法
ヒトHCV関連肝発癌の動物モデルであるHCV遺伝子トランスジェニックマウスを用いて、HCV感染症における肝発癌機序の解明を検討した。また、マウスで得られた結果をC型肝炎患者においても検討した。
結果と考察
HCVコア遺伝子トランスジェニックマウスにおいては初期より脂肪肝が発生し、ヒトC型肝炎における肝細胞癌と同様に、マウスの寿命の後半において肝細胞癌が発生した。ROS産生が肝炎という炎症無しにコア蛋白によって惹起されており、肝発がんの主要な経路の一つと考えられた。ROS産生の機序としては、ミトコンドリアの機能異常が推定された。一方、コア蛋白は、MAPKのシグナル伝達経路のうちJNKだけを活性化していた。最終的に転写因子AP-1による転写を活性化し、cyclin D1、CDK4等の発現亢進により癌化等の病原性をもたらしていた。
このように、HCVコア蛋白は、特異的な肝脂肪化、ROSの産生、細胞遺伝子の転写亢進、細胞内シグナルや転写因子の活性化、等の一連の現象を引き起こす。コアマウスにおいては、組織学的な炎症像はなくても生化学的には炎症が既に存在する。すなわち、HCVが感染した時点において、C型肝炎における炎症の質が他の肝炎とは既に異なったものとなっているといえる。これによって、C型慢性肝炎における高頻度かつ多中心性の肝発癌が説明可能となる。
Tacrolimusの有するミトコンドリア保護作用によりHCVコア蛋白による脂質代謝異常が改善していることが示された。さらに、今回の私達の検討によって、HCV蛋白とインスリン抵抗性のダイレクトな関連性が示された。肝発がんを含めたC型慢性肝炎患者の病態解明において極めて重要な所見と考えられた。
結論
C型慢性肝炎における肝発癌の機序解明に一歩近づいた。なかでも、酸化ストレス産生、糖代謝、脂質代謝とC型肝炎の病態の関連性は重要であり、C型慢性肝炎患者への栄養指導・服薬等によって、C型肝炎による肝癌等の発生を減少させる可能性が示された。
 飲酒と慢性C型肝炎進行、肝発癌との強い関連性が実験的に証明された。禁酒指導によってC型肝炎の進行を食い止める可能性を示しており、行政施策上も意義が大きい。

公開日・更新日

公開日
2005-04-08
更新日
-