分子生物学的知識に基づいた感音難聴の新しい治療法の確立

文献情報

文献番号
200400585A
報告書区分
総括
研究課題名
分子生物学的知識に基づいた感音難聴の新しい治療法の確立
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
山岨 達也(東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 雄一(国立精神・神経センター微細形態学)
  • 鈴木 光也(東京警察病院耳鼻咽喉科)
  • 石本 晋一(社会保険中央病院耳鼻咽喉科)
  • 淺野 知一郎(東京大学医学部代謝生理化学)
  • 岡 芳知(東北大学医学部内分泌代謝内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①遺伝性難聴への遺伝子治療法の開発②感音難聴に対する薬物治療の拡大③有毛細胞の再生による慢性期感音難聴の治療法の開発
研究方法
1)Wolfram症候群のモデル動物(WFS KOマウス)を解析した。2)Glut5のKOマウスを作成した。3)0.15%ゲルマニウムを与えたマウス(ミトコンドリア脳筋症モデル)およびミトコンドリアDNA変異が集積するよう作成したマウス(POLG)の聴覚障害について解析した。4)音響外傷に対する薬剤の予防・治療効果について評価した。5)老人性難聴のモデル動物(DBA/2J とC57/BL6マウス)においてOligonucleotide array解析を行い、カロリー制限の効果を調べた。7)p27siRNA組み込みベクターを投与して、蝸牛の形態を観察した。8)モルモットの蝸牛有毛細胞障害後の細胞増殖能について検討した。
結果と考察
1)WFS KOマウスでは後天的に糖尿病が発症した。2)0.15%ゲルマニウム投与マウスでは高度難聴が生じ、血管条・コルチ器・ラセン神経節に変性が生じた。3)POLGマウスでは寿命が短縮し、早期に老化現象を生じ、アポトーシスが亢進した。難聴も早期に出現し、有毛細胞、らせん神経節が変性した。4)ebselenはexcitotoxicityを抑制してtemporary threshold shiftを予防した。iNOS inhibitorおよびcaspase inhibitorも著明に音響外傷を軽減した。5)C57BL/6マウス、DBA/2Jマウスの蝸牛では聴覚関連、神経伝達物質、エネルギー代謝などの遺伝子群がdownregulateし、アポトーシスや炎症に関連した遺伝子群がupregulateしていた。カロリー制限ではC57BL/6マウスの難聴は完全に予防できた。6)p27siRNA投与により、支持細胞が聴毛様の形態を持つ細胞に変化できた。7)有毛細胞障害後、モルモット蝸牛コルチ器のダイテルス細胞にわずかながら増殖能がみられ、これは障害後3-5日目がピークであった。
結論
難聴の研究に役立つマウスモデル(WFS KOマウス、POLGマウス)を作成できた。またOligonucleotide array解析の併用で詳しい病態解析が可能となった。種々の薬剤の難聴発症予防効果が判明し、その機序も徐々に明らかになっている。これまで増殖能が無いとされていたほ乳類蝸牛支持細胞に増殖能があることを見いだし、これを増幅させることで有毛細胞様の細胞を再生させることができた。これらの組み合わせにより、感音難聴の新たな治療法の開発が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2005-04-21
更新日
-