脳卒中患者の失認・失行と生活障害に関する研究

文献情報

文献番号
200400327A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中患者の失認・失行と生活障害に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 龍太郎(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団(東京都老人総合研究所)(介護・生活基盤研究グループ))
研究分担者(所属機関)
  • 今福一郎(横浜労災病院神経内科)
  • 村嶋幸代(東京大学大学院医学系研究科)
  • 永田智子(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
1,623,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中患者に合併する失認・失行は日常生活動作能力の負の影響要因である。失認・失行を有する初発の右大脳半球損傷脳卒中患者を対象に、失認・失行関連行動スケールthe Catherine Bergego Scale 日本語版(以下CBS-J)を用いて検討するとともに、自分の病や健康体験に関するインタビューで語られた内容を質的に分析し大脳半球損傷の左右差が病の語りにどのような違いを生むかを検討した。
研究方法
初発、失認・失行を有する右大脳半球損傷脳卒中患者を対象に、CBS-Jによる調査を実施した。脳卒中の重症度別に、CBS-J-観察得点、CBS-J-自己評価得点、CBS-J-病態失認得点、Barthel Index(BI)、MMSE得点について検定をおこなった。また、脳卒中高齢者に健康の意味を問いかけ、それに対する対象者の語りを文字化した後、van Kaam法に基づいて分析した。
結果と考察
脳卒中重症度が重いと失認・失行関連行動、病態失認が強くなった(観察得点と病態失認得点)。自己評価得点は3群共に低く群間差はなかった。脳卒中が重症になると失認・失行関連行動が強く、自身の生活における障害や病態への認識が困難になるようである。脳卒中症例へのインタビュー分析から103のトピック要素が選択され、そのトピックから7つのテーマが抽出された。その中で「現在の健康状態に適応させようとする」というテーマに含まれたトピックは計11あり、そのほとんどが右大脳半球損傷例(全例左片麻痺あり)のインタビューから得られたトピックであった。右大脳半球損傷例では病態失認や自分の身体状況への無関心まで広い範囲の病態がみられるが、これは予想に反し失った健康、心身機能をなんとか再復帰、再適応させようとしていることを支持する。
結論
右大脳半球脳卒中患者は、失認・失行関連行動があるにもかかわらず自己評価ができない、自身の障害に気づかないことがわかった。生活動作への意識は知覚と運動の同時並列処理(=注意を束ねる?)に後れて起こり、この入力情報に不具合(失認・失行関連症候)があっても後の祭りでもう注意を喚起することはできない。このメカニズムを患者に説明し、再帰的な自己意識を刺激することによって生活機能を是正させることができるかもしれない。

公開日・更新日

公開日
2005-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200400327B
報告書区分
総合
研究課題名
脳卒中患者の失認・失行と生活障害に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 龍太郎(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団(東京都老人総合研究所)(介護・生活基盤研究グループ))
研究分担者(所属機関)
  • 今福一郎(横浜労災病院神経内科)
  • 村嶋幸代(東京大学大学院医学系研究科)
  • 永田智子(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中患者の失認・失行の生活機能への影響を調べること、急性期からの発生状況とその変化を前向きに調べること、そのための評価尺度開発を行うことである。
研究方法
左右大脳半球損傷脳卒中初発例を対象として失認・失行の有無、認知機能、ADLを測定し比較検討を行うとともに、健康や障害の認知について質的分析を行う。また右大脳半球損傷失認・失行群の急性期からの変化を失認・失行関連症候スケールthe Catherine Bergego Scale日本語版(以下CBS-J)によって評価し、脳卒中重症度の影響を検討した。CBS-Jの研究者観察得点をCBS-J-観察得点、自己評価得点をCBS-J-自己評価得点、その得点差をCBS-J-病態失認得点とした。
結果と考察
脳卒中患者の34.9%に失認・失行の両者ないしいずれかが認められた。失行群における基本的ADL低下の程度は軽く、失認のみの群、および両方を合併した群と有意な差が認められた。右大脳半球損傷群でのみ、ADLの起居動作、着脱衣、排泄行為、上下肢・手指機能障害について失行・失認の有無で有意な差が認められた。健康や障害の認知についてインタビューを行い質的に分析したところ、予想に反し右大脳半球損傷群の特徴として、生活に合わせて行動できない自分に疲労し、何とか再適応、和解させたいという表出がみられた。急性期から追跡すると、右大脳半球損傷失認・失行群では共同偏視、追視、視線という目の動き、声掛けへの反応に問題が出現し、脳卒中の重症度によりCBS-J-観察得点、CBS-J-病態失認得点の有意差がみられたがCBS-J-自己評価得点の差はなかった。意識の階層構造に基づくと(苧坂直行、2000)、日常行動への意識は知覚(視覚情報など)と運動が同時並列処理され、誤りへの気づきは後の祭りとなるため修正できず自己弁明的、あるいは病態失認的になり、一方反省的自己意識は逐次直列処理系で再帰的であり何とかしたい、和解させたいという表出が行われたのではないだろうか。
結論
失認・失行関連症候スケールCBSの日本語版(CBS-J)を作成しその有用性を示すことができた。右大脳半球損傷群における障害への無関心や病態失認、上肢関連動作不良は、知覚と運動の同時並列処理(=注意を束ねる?)へ意識を喚起しても無効で、自分でつじつまを合わせながらもその矛盾に疲労している状況を反映しているのかもしれない。

公開日・更新日

公開日
2005-04-11
更新日
-