アルツハイマー病発症の分子機構におけるコレステロールの役割の検討

文献情報

文献番号
200400316A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病発症の分子機構におけるコレステロールの役割の検討
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(国立長寿医療センター臨床研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤仁一(名古屋市立大学大学院医学研究科第一生化学)
  • 藤野貴広(愛媛大学総合科学研究支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
21,247,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
痴呆老人の増加は我が国をはじめとして先進国の抱える深刻な問題である。なかでもアルツハイマー病は痴呆性疾患患者数の大きな割合を占めるにも関わらずその原因は不明であることから、その病因解明は予防法、治療法の開発に重要である。最近の研究から、コレステロール代謝変動とアルツハイマー病発症機構との強い相関が指摘されているが、脳内コレステロール代謝の理解は不十分である。本研究班は、脳内コレステロールの意義とその脳内代謝を明らかにし、本研究で得られた知見から脳内コレステロールを制御することでアルツハイマー病の予防法の開発に道を開くことを目指した。
研究方法
(1) アストロサイト培養は、生後1日目のapoE3-, E4ノックインマウス脳から準備した.
培地中へ放出された脂質(コレステロールおよびリン脂質)はキットにより定量した。 (2) ヒトapoE3, apoE4, 変異apoE4の神経細胞培養に対する影響を検討した。(3) NPC1及び野生型マウス脳およびそれらから培養した神経細胞およびアストロサイトを解析に用いた。これら検体について電子顕微鏡解析、ミトコンドリア機能評価を行った。(4)ApoE受容体のノックアウトマウスを作製し、脳内神経細胞障害を評価した。
結果と考察
(1)ApoE3はapoE4に比べて、より多くの脂質搬出作用を持ち、HDL新生能が高かった。(2)ミトコンドリア膜におけるコレステロール代謝変動がミトコンドリア機能障害を引き起こし、それが神経細胞変性を引き起こしていることが明らかになった。このカスケードは、NPC1病とアルツハイマー病で共通している可能性があり、治療や予防法の開発に新たな視点を提供すると考えられた。(3)海馬神経のリン酸化亢進はApoER2及びLDLR依存的に起こることが示された。
結論
(I) ApoE3とapoE4の生物活性の違いは、両者の構上の違いで説明可能である。(2)LDLRを欠損したニューロンの解析から、LDLRがニューロンに於ける主要なApoE受容体である。(3)今回発見した絶食によるタウ蛋白の高度リン酸化が大脳皮質や海馬においてApoER2及びLDLR依存的に起こる現象は、アルツハイマー病におけるタウ蛋白リン酸化メカニズムを解明、および神経細胞障害を抑制する上で重要な発見である。

公開日・更新日

公開日
2005-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200400316B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病発症の分子機構におけるコレステロールの役割の検討
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(国立長寿医療センター臨床研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤仁一(名古屋市立大学大学院第一生化学)
  • 藤野貴広(愛媛大学科学総合研究支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
コレステロール代謝に深く関与するapolipoprotein E (apoE)4はアルツハイマー病の危険因子である。本研究班は、主にapoEによって制御される脳内コレステロール輸送機構を神経系細胞において明らにし、apoE受容体依存的なコレステロール代謝変動とアルツハイマー病病理との関連を明らかにすることを目的に研究を行った。
研究方法
(1)アストロサイト培養を、apoE3-, E4ノックインマウス脳から準備し、各種脂質解析を行った。(2)Niemann-Pick C1(NPC1) 病マウス脳および培養神経細胞とアストロサイトを生化学的に解析した。(3)マウスApoE受容体2(ApoER2)及びLDL受容体関連タンパク5(LRP5)遺伝子をジーンターゲッティング法により破壊し、ApoER2及びLRP5欠損マウスを作製した。また、ApoE/LRP5遺伝子、VLDLR/ApoER2遺伝子を欠損したダブルノックアウト(DKO)マウス、更にApoE/VLDLR/ApoER2遺伝子を欠損するトリプルノックアウト(TKO)マウスを作製した。これらのKOマウスを組織学及び生化学レベルで比較解析した。
結果と考察
アストロサイトからのHDL新生量(粒子数)はapoE3型ではapoE4型のそれに比べ約2倍であった。その理由として、apoE4はapoE構造がコンパクトになっているためとわかった。脳内HDLはコレステロール供給能を持つためapoE3はapoE4に比べ神経細胞のコレステロール代謝恒常性維持能力に優れていると考えられ、これがコレステロール代謝変動によるアルツハイマー病発症を遅くしていると考えられた。また、ミトコンドリア膜におけるコレステロール代謝変動がミトコンドリア機能障害(ATP産生量の低下)を誘導し、その結果神経細胞変性を起こすことがわかった。各種リポ蛋白受容体が欠損した遺伝子改変マウス系の確立は、この分野では世界をリードした成果であり、脂質代謝と神経変性メカニズム(特にタウのリン酸化)の検討に有用である。
結論
(1)ApoE3はapoE4に比べて、HDL様粒子を新生する能力が高い。(2)ミトコンドリア膜におけるコレステロール代謝変動がミトコンドリア機能障害を引き起こし、それが神経細胞変性を引き起こす。(3)apoEがアイソフォーム特異的に細胞骨格蛋白の動きに影響を与える。(4)アストロサイトから分泌されるapoE・コレステロール複合体はリポタンパク受容体に対する結合特異性が血清リポ蛋白とは異なるため、脳内コレステロール代謝調節には、脳内のapoEの特質に基づく知見が必要である。

公開日・更新日

公開日
2005-04-11
更新日
-