糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発

文献情報

文献番号
200400042A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
岡 芳知(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 秀樹(東北大学大学院医学系研究科)
  • 谷澤 幸生(山口大学大学院医学系研究科)
  • 浅野 知一郎(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
なぜ糖尿病は増加しているのか。現代の飽食・肥満・運動不足は膵β細胞にインスリン分泌の増加を強要する。このような膵β細胞負荷状況下において、膵β細胞の維持・生存機構が遺伝的に脆弱な者が糖尿病を発症するのではないか。糖尿病発症遺伝子WFS1は膵β細胞ストレス状況下での維持機構に関わることから、最近の糖尿病増加を解く鍵と考え、WFS1とその関連遺伝子機能の解明から新たな治療法開発を目指す。
研究方法
1)WFS1ノックアウトマウスを用いたWFS1蛋白機能解析
2)WFS1ノックアウト膵ラ島におけるDNAマイクロアレーを用いての検討
3)膵β細胞への負荷を減少させる対策のひとつとしてのエネルギー消費亢進による治療法
4)患者遺伝子解析のための候補遺伝子ならびにそのSNP同定
結果と考察
作製に成功したWFS1欠損マウスは膵β細胞の脱落により糖尿病を発症し、ウオルフラム症候群と同様であった。WFS1蛋白欠損膵島では、ERストレス誘導刺激に対し、アポトーシスを惹起しやすいことが明らかとなった。DNAマイクロアレーを用いた網羅的解析では、小胞体ストレスセンサーの一つであるPERKのリン酸化の亢進およびATF4の発現増強が認められ、小胞体ストレス応答における翻訳抑制経路が作動していることが明らかとなった。WFS1ノックアウトマウスにインスリン分泌を強要すると糖尿病発症は早まり重症化することも示された。Ayマウスは食欲の亢進をきたし、軽度の肥満と耐糖能異常を示す。WFS1ノックアウトマウスと交配することにより作出した[B6]WFS1-/-・Ayマウスでは、6週齢ですでに約半数の個体で明らかな高血糖が認められた。また、食事性肥満・糖尿病モデルマウスの肝へのUCP1遺伝子導入により、高カロリー食を継続しているにもかかわらず、体重の減少、血糖値の改善を示した。脂肪肝は改善し、脂肪組織や筋肉組織でのインスリン感受性の改善がもたらされ、膵β細胞のさらなる肥大化や脱落を抑制した。
結論
WFS1は膵β細胞を小胞体ストレスから防御する役割を果たしており、その根幹ないしその近傍に位置している。したがって、WFS1の機能解明は膵β細胞維持という新たなコンセプトの創薬につながる点できわめて重要であり、また、WFS1関わる遺伝子(群)は膵β細胞を守るという観点からの有力な糖尿病候補遺伝子と思われる。

公開日・更新日

公開日
2005-05-10
更新日
-