貧困の世代間再生産の緩和・解消するための支援に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200400101A
報告書区分
総括
研究課題名
貧困の世代間再生産の緩和・解消するための支援に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
杉村 宏(法政大学現代福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡部 卓(東京都立大学人文学部)
  • 六波羅詩朗(国際医療福祉大学医療福祉学部)
  • 平野方紹(日本社会事業大学社会福祉学部)
  • 宮永 耕(東海大学健康科学部)
  • 吉浦 輪(法政大学現代福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、社会的孤立が顕著な生活保護母子世帯の自立支援のあり方を検討するため、貧困の世代的再生産のメカニズムと自立を阻害している要因を試論的に明らかにすることを目的とした。
研究方法
 2004年度は、首都圏のA区(下町区)と北海道後志支庁管内のB町(山麓町)、九州旧産炭地のC市(炭都市)を候補地として選定し調査・研究を行った。これらの地域において、生活保護ケースワーカー,民生委員・児童委員等からの聞き取り調査およびアンケート調査を行い、生活困難母子世帯に対する支援方策の検討およびソーシャル・インクルージョンを視野に入れた地域社会に対する働きかけのあり方に関する研究、分析をおこなった。
結果と考察
 2004年度、中心的に調査を行った九州旧産炭地の場合、北海道農村地と同様に、結婚・出産後の生活が破綻した後、親族やかつての近隣・知人などのネットワークを活用して住居の確保、再就職をするものもすくなくない。しかし旧産炭地は、就労先が限られているため生活保護を受給する母子世帯が多くなっている。
 4地域に共通点は、第1には、母子双方にさまざまな健康障害が認められ、そのことが就学・就労のネックになっている世帯、親族・近隣のネットワークがないかあってもほとんど機能しない状況にある世帯は、被保護母子世帯、保護受給経験世帯に集中していることである。第2には、前夫と母親自身および前夫の出身家庭における類似性である。前夫に関する情報は妻としての母親からのものであるから、一定のバイアスがかかっていることに留意しなければならないが、それでもなお飲酒・ギャンブルなどにともなう浪費と妻子への暴力が、生活困窮化と家庭解体の直接的原因のように思われる。さらに出身家族における父母の折り合いの悪さ、父親の暴力、父母に離別などで共通性が認められた。
結論
 これらの傾向の基底をなしていて、自立支援を考える場合避けて通れない課題として、安定的な「居場所」を確保する問題、語弊を恐れずにいえば「低学歴」に伴う不安定な生活基盤の問題、そして家庭内暴力の問題があり、「低学歴」と家庭内暴力の連鎖を断ち切り、住宅条件を含む近隣・親族、地域社会における安定的な「居場所」を確保することにつながる自立支援の方向が、いま求められているといえる。

公開日・更新日

公開日
2005-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
200400101B
報告書区分
総合
研究課題名
貧困の世代間再生産の緩和・解消するための支援に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成16(2004)年度
研究代表者(所属機関)
杉村 宏(法政大学現代福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡部 卓(東京都立大学人文学部)
  • 六波羅詩朗(国際医療福祉大学医療福祉学部)
  • 新保美香(明治学院大学社会学部)
  • 平野方紹(日本社会事業大学社会福祉学部)
  • 宮永 耕(東海大学健康科学部)
  • 吉浦 輪(法政大学現代福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、社会的孤立が顕著な生活保護母子世帯の自立支援のあり方を検討するため、貧困の世代的再生産のメカニズムと自立を阻害している要因を試論的に明らかにすることを目的とした。
研究方法
「疎外された地域社会」(deprived area)を首都圏の市街区、過疎地域としての北海道の農村部、九州の旧産炭地を設定して生活保護母子世帯を中心とした聞き取り調査を実施した。また生活保護担当ケースワーカー、民生委員のアンケートも同時に実施した。
また首都圏市街区では、被保護世帯の子ども達を対象にした学習支援ボランティアの活動に注目し、その実態と機能を検討した。
結果と考察
①新たな世帯を形成する時点ですでに、家計の形成、就労など社会生活上の基盤的条件を欠いており、そのまま結婚・出産・子育てに至っている。配偶者の飲酒やギャンブル・暴力は、出身世帯においても見られ、夫の飲酒やギャンブルによって生活困難になったというよりは、もともと不安定であった生活基盤が根底から崩壊したものと捉えられる。
②義務教育のみの就学や高校等の中退は、すでに不安定な生活環境の中で育つものにとって不利の重層化を意味する。子どもの進学の悩みや相談に応えられない状況は、子どももまた不十分な就学歴のまま世の中に送り出さざるを得ず、貧困の再生産を促進する。
③貧困の世代的再生産は現象的には、家庭内暴力の連鎖として現れる。母子世帯の母親の多くは、子ども時代に父親からそして結婚後は夫から暴力を受けていて、このことが早すぎる結婚・妊娠の伏線になっているし、子どもの引きこもり・不登校の遠因にもなっている。
結論
①低い就学歴の連鎖を断ち切り、安定的な生活基盤を確立するためには、最低限高校教育以上の就学に結びつけるための個別の援助が必要となる。不登校や引きこもりによる学力の遅れを取り戻し、進学への意欲を取り戻すための個別の学習支援活動が、単に子どもだけでなく、親子関係や地域社会との関係をもかえる可能性がある。②暴力の連鎖を断ち切るための支援は、困難ではあるが、暴力から逃れるためのシェルターの積極的な活用など必要である。その際着の身着のままで暴力から逃れてくる親子の窮状を的確に把握し、経済的安定とともに精神的な安定を図るためにも、生活保護を活用することの積極的な意義が確認できた。③中長期的な課題として、被保護母子世帯に象徴される貧困層の多くは社会的に孤立しているため、地域関係の形成や地域の社会資源の有機的連携および創造が求められている。

公開日・更新日

公開日
2005-06-29
更新日
-