地域保健を担う公衆衛生専門家の養成とマンパワー確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301388A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健を担う公衆衛生専門家の養成とマンパワー確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
高野 健人(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 二塚信(熊本大学)
  • 川口毅(昭和大学)
  • 相澤好治(北里大学)
  • 岸玲子(北海道大学)
  • 佐藤洋(東北大学)
  • 實成文彦(香川大学)
  • 瀬上清貴(国立保健医療科学院)
  • 三角順一(大分医科大学)
  • 中村桂子(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
11,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医学教育の変革期にあたり地域保健を担う公衆衛生専門家の養成システムを再構築すること、質の高いマンパワーを継続的に確保するための方策を提示することを目的として、本年度は以下の調査研究を行った。公衆衛生専門家の生涯教育に関する研究では、公衆衛生専門家の生涯教育、なかでも初期の教育のあり方を現任教育及び大学院教育の両面から提示することを目的とした。医師卒後臨床研修における公衆衛生技能の養成に関する研究では、臨床研修におけるプライマリケア研修の充実を図るためのカリキュラムを作成し、将来地域において予防医学を含めたプライマリケアを実践できる医師を養成することを目的とした。米国ならびに欧州諸国における公衆衛生学専門教育に関する研究では、衛生学公衆衛生学教育の21世紀における将来像と方向性を考えるために、海外の大学院教育の現状を調べることを目的とした。パブリックヘルスマインド養成に関する研究(社会医学サマーセミナー)では、医学部・医科大学学生を対象に社会医学サマーセミナーを実施し、公衆衛生志向臨床医と公衆衛生専門家専攻を選択するパブリックヘルスマインドの養成をはかり、チュートリアル教育の効果について総合評価を行うことを目的とした。
研究方法
全国の医育機関における衛生学、公衆衛生学教室等の教授により構成される衛生学公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者とし、これまでの経験を踏まえ、内外の実地調査・文献調査、ワークショップ、小グループによるワーキングにより討論を重ね、所期の目的を達成した。公衆衛生専門家の生涯教育に関する研究では、公衆衛生専門家とくに地域保健従事者の新任時期における現任教育の全国的な事例を検討分析した。併せてワークショップを開催し、既存の公衆衛生系大学院における教育システムを分析し、そのあり方を検討した。医師卒後臨床研修における公衆衛生技能の養成に関する研究では、ワークショップを開催した。さらにこれまでプライマリケア研修のカリキュラム作成にどのように衛生学・公衆衛生学教室がかかわったかを実態調査した。米国ならびに欧州諸国における公衆衛生学専門教育に関する研究では、米国における公衆衛生専門教育プログラムについて調べた。ASPH(Association of School of Public Health)及びCouncil on Education for Public Health(CEPH、公衆衛生教育協議会)の資料による文献調査をおこなった。また実際に数校を訪問して資料を収集し、組織やカリキュラム、公衆衛生に関する専門教育の最近の動向などを調べた。パブリックヘルスマインド養成に関する研究(社会医学サマーセミナー)では、全国の医学部・医科大学学生を対象に、平成15年8月25日~27日にかけてサマーセミナーを実施し、成果の評価をおこなった。
結果と考察
公衆衛生専門家の生涯教育に関する研究では、公衆衛生専門家とくに地域保健従事者の新任時期における現任教育のあり方について、求められる能力、教育目標・教育方法及び内容のモデル案の提示を行った。公衆衛生系大学院のあり方について検討し、既存の大学院を強化・充実することが基本であるが、国立大学法人化等の教育変革のなかでは、全国の資源を集中させた公衆衛生系大学院の構築化も必要だと考える。医師卒後臨床研修における公衆衛生技能の養成に関する研究では、臨床研修2年次における地域医療・保健研修カリキュラムとして、地域の現状把握と地区診断、健康危機管理(伝染病
、食中毒の発生、災害について想定モデルの元に対策の樹立)、健康教育の企画・立案・実施・解析・評価、在宅高齢者の保健・医療・福祉・介護プログラムの作成と評価、在宅難病患者の管理プログラムの作成、各職場における保健予防・管理プログラム、高齢者保健施設、福祉施設等における健康管理プログラム、地域保健・医療(医師会、地域医療機関との協同でプライマリ・ケア実習)、僻地住民の健康管理の各項目について研修目標を作成した。地域医療・保健研修をすすめるための地域での体制づくりのモデル組織規定を作成した。衛生学・公衆衛生学教室のプライマリケア研修カリキュラム作成への係わりについての実態調査では、有効な回答の得られた66校のうち約6割が何らかの係わりを持っていた。また、保健所・産業保健施設・医師会等との係わりについては、係わり持った割合が高かったほうから、保健所、都道府県・市区の衛生部局、医師会、産業保健施設、老健施設、老人福祉施設、僻地医療施設、市町村保健センターとなっていた。米国ならびに欧州諸国における公衆衛生学専門教育に関する研究においては、米国における公衆衛生専門教育プログラムについて以下のことが明らかとなった。①アメリカにおける独立した公衆衛生大学院数は、1990年代はじめの23校から32校へと数が増え続けている。②組織機構的には、独立した学校ではないが、Graduate program in Community Health/ Preventive Medicineから39校、Graduate program in Community Educationから16校に上るMaster of Public Health program がCEPHにより正式に認定され提供されている。③医学校などにおかれたMaster of Public Health Programは、それぞれの卒業に必要な単位数、期間、内容は異なっていた。④MD・MPHをはじめ多種類のCombined (Joint) degree programを、各大学が関連学部の種類や、設立基盤、周辺の大学、教育ターゲットとする大学院学生のキャリアや年齢などにあわせて設置し、独自の特色を出している。⑤他国からの学生は全体の平均では17%であるが、大学によっては3割を越えている。アジア各国をはじめ世界の公衆衛生従事者の高等教育訓練にアメリカの公衆衛生大学院は大きな役割を果たしている。これらの結果をふまえ、我が国では、1)高度職業人としての医師に対する教育としての医学部と大学院レベルにおける社会医学・予防医学教育のありかた、2)特に保健所医師や産業医など公衆衛生専門職の卒後教育訓練のありかた、3)様々なバックグラウンドを持つ他学部からの出身者で、将来は公衆衛生の実践や研究を担うことになる学生を含めた21世紀の日本の公衆衛生教育と人材育成について、4)日本国内の健康や安全、環境保全のみならず国際的な役割を視野にいれて公衆衛生大学院、あるいはmaster of public health program構想を考えることが重要であると考えられた。パブリックヘルスマインド養成に関する研究では、平成15年8月25日~27日にかけて神戸市にてセミナーを実施した。全国から51名の学生の参加があり、衛生学公衆衛生学教育協議会の教授陣および厚生労働省からの特別講師が講義・特別講演を行い、学生の討議に参加した。参加学生の評価結果は、パブリックヘルスの多様な課題を横断的に傾聴する機会が貴重な体験であること、チュートリアル方式のグループディスカッションの有用性を示した。今後の課題として、特定課題について情報を収集し、それらの情報をパブリックヘルスの観点から解釈する能力を養成するためには、学生に事前に課題を提示して行う教育手法の効果について検討することも必要と考えられた。
結論
公衆衛生専門家の生涯教育に関する研究では、公衆衛生専門家、ことに地域保健従事者の新任時期における教育目標、教育内容・方法等について検討し、モデル案の提示を行った。また、公衆衛生系大学院における教育システムを分析し、そのあり方を検討した。医師の卒後臨床研修後の初期における現任教育及び大学院教育を通しての専門家の育成の体系化と組織化は極めて重要であり、このことは公衆衛生行政分野の専門家としての保健所長に求められる資質要
件の明確化とも密接な関係を持つ。医師卒後臨床研修における公衆衛生技能の養成に関する研究では、臨床研修の2年次における必修科目である地域医療・保健研修カリキュラムについて研修目標を作成し、地域医療・保健研修をすすめるためのモデル組織規定を作成した。各大学における、プライマリケア研修カリキュラム作成への衛生学・公衆衛生学教室の係わりについて現状を明らかにした。米国ならびに欧州諸国における公衆衛生学専門教育に関する研究では、衛生学公衆衛生学教育の21世紀における将来像と方向性を考えるための基礎資料として、米国の公衆衛生専門教育プログラムについて調べた。我が国でも従来の医学部における衛生公衆衛生教育とともに、大学院らしい教育システムへと一層充実する方向が問われている。パブリックヘルスマインド養成に関する研究では、医学部・医科大学学生に対し社会医学サマーセミナーを実施し、参加学生の評価結果は、パブリックヘルスの多様な課題を横断的に傾聴する機会が貴重な体験であること、チュートリアル方式のグループディスカッションの有用性を示した。これらの要素を含む教育手法が、パブリックヘルスマインド養成に効果をもたらすことが明らかになった。

公開日・更新日

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