地域保健サービスの担当職員における連携評価指標開発に関する統計的研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301386A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健サービスの担当職員における連携評価指標開発に関する統計的研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
筒井 孝子(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 麻原 きよみ(聖路加看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
11,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、これまで主観的な評価に留まっていた地域保健サービスの担当者の調整能力や交渉・折衝能力などの機関間および他の専門職との「連携」に関する能力を評価する指標を新たに開発し、その妥当性や信頼性を検証し、これらの評価得点と業務の実態との関係を統計的な手法によって明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、本年度の研究では、地域保健サービス従事者として、とくに市町村の保健師に対する業務の実態及び「連携活動能力」尺度を用いた全国調査を実施した。なお、全国調査における調査票をすべての保健師に確実に配布するために事前に全市町村の保健師の勤務形態に関する調査も実施し、各市町村別の保健師従事者に関するデータベースを作成した。このデータベースに基づいて本調査を実施し、わが国の市町村で働く保健師21631名(平成15年度厚生労働省医政局看護課調べ)のうち、13503名(62.4%)の保健師の回答を得た。
研究方法
平成15年度の研究では、特に地域における保健医療福祉の連携の中核的役割を担っている市町村の保健師に対する業務の実態及び「連携活動能力評価尺度」を用いた全国調査を実施するためにまず①本年度、わが国で保健師として従事する者についてのデータベースを作成した。具体的には、わが国の全市町村のどの部署に何人の保健師が存在するのかを明らかにした。
この調査に際しては、総務省統計局が発表している平成12年国勢調査人口及び世帯数の確定数(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2000/kakutei/index.htm)に示された市町村コードを基礎とし、すべての市町村に対して、実働している保健師の人数とその配置実態に関する調査を実施した。
次に、②保健師の業務内容やその主要な課題を明らかにするための調査票を設計した。この調査票の設計にあたっては、作成した調査票の妥当性を検討するためのプレテストを調査対象となる市町村保健師に実施し、修正を加え、さらに、③学識経験者、都道府県に勤務する保健師らへのヒアリング調査を実施し、修正を加えた。これにより、対象者の基本的属性(性別、年齢)・最終学歴・総勤務歴・所属機関・雇用形態・役職、連携する際の目的・時間・回数、新事業の企画、機関との連携の有無と有益性、専門職との連携の有無と有益性、連携活動状況、業務評価、精神的健康、介護保険業務等の項目から構成される調査票が完成した。これらの調査票を用いて④全国の保健師に対する調査を実施した。
この市町村リストの作成によって、市町村の各部署の個々の保健師あての調査票の送付先のリストの作成と当該市町村における調査責任者が選定された。これにより本調査は、各市町村で決定された調査責任者あてに送付されることになった。
②③によって設計された調査票は、「保健師の連携活動に関する調査」として、「調査票の記入上の注意」と調査1「保健師の一般的な連携活動に関する調査」の調査内容は、対象者の基本的属性(性別、年齢)・最終学歴・総勤務歴・所属機関・雇用形態・役職、連携する際の目的・時間・回数、新事業の企画、機関との連携の有無と有益性、専門職との連携の有無と有益性、連携活動状況、業務評価、精神的健康、介護保険業務についてであった。この調査票と調査2「各保健師別の事例調査」では印象に残っている1事例について尋ね、調査内容は、利用者の年齢、性別、相談内容、面接の頻度、面接の所要時間、事例の取り組みに対する評価、他の事例を担当していたか、1年間で対応する個別事例数、連携活動状況、機関との連携の有無と有益性、事例におけるトラブルについてであった。
本調査は、これら2種類の調査票で構成されている。これらの調査票からは、保健師の連携活動の日常と特別な事例に対して保健師が実施している活動の実態を明らかにした。
結果と考察
平成15年度の研究では、地域保健サービス従事者、とくに市町村の保健師に対する業務の実態及び「連携活動能力」尺度を用いた全国調査を実施するために、①本年度、わが国で保健師として従事する者が全市町村に何人、存在するかを明らかにした。
まず、①の保健師勤務実態調査としては、平成12年度の総務省の発表による3,341箇所の市町村に調査票を送付したが、実際には、市町村合併によって、全市町村の実数は、3,190(平成15年4月時点)と減少していた。これら3190市町村の中から、1959(回収率61.2%)市町村の回答を得た。
さらに、これによって調査票の送付先のリストの作成と本調査の責任者を選定がなされた。本調査の速報結果から、保健師の連携活動の日常と特別な事例に対して保健師が実施している活動の実態が明らかにされることとなった。④の本調査は、平成15年12月から平成16年2月にわたって、1959市町村の16,352名の市町村保健師に実施され、13503部の調査票が回収されている(回収率78.6%)。3月からは、回収された調査票の不備な点、不明点について再調査を継続しつつ、入手されたデータのクリーニングを実施している。
これらの作業が終了した調査票から、データファイルを作成するためのデータ入力を開始している。これらの調査研究事業と併行して、分担研究として、地域保健サービスの主な担当者である保健師に焦点を当て、(1)(2)により保健師実践における「連携」を明確化することを目的とした文献検討を実施した。(1)保健師実践に関する文献から「連携」の定義、目的、対象、手段、関連要因およびアウトカムを明らかにした。(2)保健師実践における「連携」に関する行為を類型化し、その特徴を論述した。(2)文献検討の結果、明らかとなったのは次のとおりである。保健師実践における連携は、①個別の事例と地域(コミュニティ)を対象としていること、②連携する対象は個人だけでなく組織単位であり、多領域にわたること、③事例に関する連携であっても、組織間の連携から地域資源の拡大を視野にいれるなど、地域を改善する視点と目的をもっていること、④複数の連携手段を複合的に用いていること、⑤情報や目的、意思および知識などを他職種、他機関と共有し、互いに役割を理解することが重要であるととらえていること、⑥保健師は他職種、他機関に連携を働きかける役割があること、などの特徴がみられた。しかし、連携の定義が明確になされないまま、連携を論じる文献がほとんどであり、連携を定義した上で系統的に調査した研究論文はあまりみられないことが明らかになった。
結論
保健師の日常業務を評価する評価指標の開発を試みたところ、日常的な業務の評価や負担は、「業務量」、「業務能力」、「業務環境」によって構成されており、これらの因子によって、負担感を説明できる可能性が示された。このことから、「連携活動能力尺度」の分析をすすめたいと考えている。これについても、現在、再調査をしている全国の保健師データでさらに解析をすることが必要であると考えており、平成16年度の研究内容では、平成15年度に実施した実態調査のデータを基にこれらの①再調査を終了させ、すべての調査票のクリーニングを終了すること。②調査票に示された情報を入力すること。③②の入力データから解析用ファイルを作成すること。また自由記述データに関しては、④調査によって得られた市町村保健師が考えている重要な業務を明らかにすること、⑤保健師が考える評価の視点について記述された内容を分類すること。を実施する予定である。
また、実際に地域で保健サービスを担当している現場の声が示されている調査データであることから、とくに記述データに関しての詳細な分析を実施し、これらの内容を発表することを予定している。また連携活動能力の平均得点が低い地方自治体群や高い自治体群といった特徴が示されるか否かの分析を実施し、連携活動を規定している要因の分析を行ないたいと考えている。

公開日・更新日

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