健康関連指標を用いた健康寿命の都道府県較差の原因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301384A
報告書区分
総括
研究課題名
健康関連指標を用いた健康寿命の都道府県較差の原因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
平尾 智広(香川大学医学部医療管理学)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立保健医療科学院政策科学部)
  • 宮尾克(名古屋大学情報連携基盤センター)
  • 渡辺智之(社会福祉法人仁至会 高齢者痴呆介護研究・研修大府センター)
  • 嵯峨井勝(青森県立保健大学健康科学研究センター)
  • 大西基喜(青森県上北地方健康福祉こどもセンター保健部)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 畑山善行(長野県飯田保健所)
  • 佐々木隆一郎(長野県諏訪保健所)
  • 崎山八郎(沖縄県保健福祉部)
  • 等々力英美(琉球大学医学部医学科保健医学講座)
  • 佐藤敏彦(北里大学医学部公衆衛生)
  • 實成文彦(香川大学医学部衛生・公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域における健康水準の評価には健康寿命などの保健指標が用いられているが、それは本来地域の健康水準の改善に結びつけなければならない。そのためには単なる結果の記述や比較に留まらず、指標の格差の原因を理解する必要がある。現在わが国は世界最高の健康水準に到達しているが、国内には依然地域格差が存在し、その要因については明らかではない。本研究の目的は、都道府県を単位に時系列要素を含む分析手法を用いることにより、健康日本21の中心目標である健康寿命と、それに関連する諸健康指標の関係を明らかにし、健康格差の原因を推定することである。本研究の成果は、国内格差の是正や健康水準の確保の為の重要因子を提示することによって、今後の地域診断にも応用ができるものと考えられる。
研究方法
研究は、従来の健康指標の整理とデータベース化、国内における健康水準の記述的分析、社会基礎統計指標と健康指標群の関係、都道府県で独自に行われた調査を組み合わせた分析の4つからなる。本年度は、都道府県別、年次別の健康指標、社会指標の整理とデータベース化、全国、都道府県を対象とした記述的分析、ライフコースアプローチ理論に基づいた仮説形成とモデリング、青森県、長野県、徳島県、沖縄県において各県が独自で保有する資料の検索と基礎的分析を行った。
現象の理解と先行研究のレビューでは、代表的な健康指標である平均寿命、区間死亡確率、健康寿命の格差の現状とそのトレンドを整理し、さらに本研究の根幹を成す生涯疫学についてのレビューを行った。
分析モデルと仮説形成では、健康転換理の応用、平均寿命への寄与の推定、コホート区間死亡確率による都道府県比較、出生コホート別の乳児死亡率と成人期死亡の関係について分析を行った。健康転換理の応用では、1899年以降100年間におけるわが国の疾病構造の変化について疫学転換の観点から分析を行い、健康寿命格差との関係について考察を行った。平均寿命への寄与の推定では、都道府県生命表をポラード法により分解し、青森県、長野県、大阪府、徳島県、沖縄県の性・年齢・傷病別寿命延伸寄与割合の推定を行った。コホート区間死亡確率による都道府県比較では、1975年から2000年までの6時点の都道府県生命表よりコホート生命表を作成し、1915年生から1975年生まれ(30年間)のCLSM(Cohort life stage mortality)の推定を行った。出生コホート別の乳児死亡率と成人期死亡の関係では、各出生コホートの乳児死亡率と成人期の死亡の関係について、全国データを用いて分析を行った。以上の分析の結果を踏まえ、二年度目のための仮説形成を行った。
各県で独自の資料検索と基礎的分析では、青森県、長野県、徳島県、沖縄県について、過去に各県が独自に行った調査の検索、及び予備的研究として記述的分析を行った。なお本研究で用いたデータはすべて公開されたものであり、個人の情報は扱っていない。
結果と考察
指標の整理とデータベース化は、従来の健康指標の整理と健康寿命との関係についての整理を行い、公開資料、先行研究の中から、以後の分析に利用可能な都道府県別、時系列の健康関連指標、社会指標等の電子データベース化を行った。
現象の理解と先行研究のレビューでは、都道府県の平均寿命の格差は時代と共に改善していること、健康寿命についてはコンセンサを得られた算出方法は無く、今後の検討課題であることが明らかになった。また生涯疫学については、近年欧州を中心に研究が行われており、その成果として、出生時体重と中年期の身体特徴が、生活習慣病へのリスクとなっていることが明らかになっている。わが国においても各都道府県でのコホートを想定し、それぞれの身体状況についての分析が可能となれば、日本人の未来の健康状況に対する予測が可能となり、健康日本21や当該研究、更には各都道府県別の健康政策に大きな貢献があると考えられた。
健康転換理を応用した分析では、死亡で見た疫学転換は第二次世界大戦直後に起きており、疫学転換後は、伝染性疾患と非伝染性疾患の開きがさらに拡大していた。平均寿命への寄与では、全国、青森県、長野県、大阪府、徳島県、沖縄県のいずれにおいても全死因における寿命の延長は減少傾向にあり、死因別では循環器疾患死亡率の低下による寿命の延長が示唆され、特に脳血管疾患が占める割合が大部分であった。コホート区間死亡確率による都道府県比較では、1915年生から1975年生まれの都道府県別CLSM(Cohort life stage mortality)の推定を行ったところ、若年層良好型、高齢層良好型、一様型、その他にパターン化が可能であった。出生コホート別の乳児死亡率と成人期死亡の関係では、各コホート出生時の乳児死亡率と成人期の死亡に相関が見られた。これは生涯のうち重要な時期における環境要因がその後の健康に関与している可能性を示唆するものである。
以上の分析により得られた仮説、問題点は、(1)健康決定因子として、1.クリティカルウインドウの存在、2.社会環境要因、3.リスク要因があり、都道府県格差はこれらの作用により起きている可能性がある(三層構造仮説)。(2)都道府県格差は単なる発展段階の違いで説明できる可能性がある(健康転換仮説)。(3)都道府県間の社会移動の影響について知る必要がある。の3点であった。
青森県では、健康寿命関連の研究は、平均寿命、ないし年齢調整死亡率のみ使用されており、横断的な研究が主体であった。長野県の死因、生活習慣の分析では、脳血管障害は全国より高いものの、悪性新生物、心疾患死亡は全国より低く、低い喫煙率、ビタミン類や野菜摂取量が全国より多いことなどの特徴があることが分かった。これより生活習慣の特徴が、長野県の健康長寿の要因ではないかとの仮説が得られた。また、長野県の健康ハイパフォーマンスの要因として、「よく働き学ぶ県民性」、「保健予防活動が盛ん」、「よき保健医療のリーダーがいた」、「医療施設や医師数が少ない」、「在宅死亡率が高い」の5要因が、また健康モデルとしては「高齢者の就労、雇用促進モデル」、「夫婦仲良く、共白髪モデル」、「地域(コミュニテイ)ケアモデル」、「在宅ケアモデル」、「健康をまなぶ」生涯教育モデル、の5つのモデルが考えられた。沖縄県において他都府県との平均寿命の差が縮小した最大の原因は、脳血管疾患、心疾患死亡率の低下が全国に比べ小さいことによると考えられた。また、青・壮年層の自殺、肝疾患、脳出血、虚血性心疾患、糖尿病等による死亡率が高いこと、乳児死亡率、高齢者における肺がん死亡率が高いことや胃がん死亡率の低下が小さいことなども影響していると考えられた。
結論
1.都道府県の平均寿命は延伸しており、またそのばらつきは減少していた。2.都道府県格差の原因追求の糸口として、三層構造仮説(クリティカルウインドウの存在、社会環境要因、リスク要因)、健康転換仮説を得た。3.都道府県で独自に行った調査はそれほど無く、自治体によってバラツキがあった。しかし近年都道府県版の健康栄養調査が行われている自治体が多く、格差分析に利用できる可能がある。

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