WHO飲料水水質ガイドラインの改定等に対応する水道おける化学物質等に関する研究

文献情報

文献番号
200301372A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO飲料水水質ガイドラインの改定等に対応する水道おける化学物質等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
眞柄 泰基(北海道大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 国包 章一(国立保健医療科学院)
  • 安藤 正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 遠藤 卓郎(国立感染症研究所)
  • 長谷川隆一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 米澤 龍夫((社)日本水道協会)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院工学研究科)
  • 伊藤 雅喜(国立保健医療科学院)
  • 秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
98,831,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2003年のWHOガイドラインの全面改訂等に対応し、我が国においても水道水質に関する基準を全面的に見直すべきと考えられるが、そのためには農薬その他の化学物質の存在状況の包括的な把握、基準値達成のための浄水処理技術開発の基礎的知見、理論的根拠となる浄水処理過程における挙動の理論的解明、毒性情報の収集、評価を総合的に行う必要がある。また、今後、鉛の基準値が引き下げられたが、それに伴い測定方法の在り方の検討、鉛含有資機材からの溶出等について把握する必要が出てきた。また、カビ臭以外の水道水における異臭味被害も生じている。これらのWHOガイドライン改訂対象項目以外についても、我が国の水道水質に関して問題となる項目については、その実態把握、除去対策等について、科学的な検討を行い、水質基準の改正に資する知見を得ることを目的とする。
研究方法
主任研究者及び分担研究者の他、水道事業体等技術者、研究者約60名の研究協力者からなる分科会を設け、全国レベルでの実態調査等をおこなった。
分科会およびそれぞれの課題はつぎのようである。
主任研究者及び分担研究者の他、水道事業体等技術者、研究者約60名の研究協力者からなる分科会を設け、全国レベルでの実態調査等をおこなった。研究の対象とした分野および分科会は次のようである。
①農薬分科会
②重金属分科会
③一般有機物分科会
④消毒副生成物分科会
⑤サンプリング方法分科会
⑥鉛分科会
⑦毒性評価分科会
⑧微生物分科会
⑨総合評価分科会
結果と考察
①農薬分科会 水源および浄水場の農薬に対する水質管理を適正に行うには、監視のあり方を独自に構築する必要があり、水道への影響度を評価するための基礎情報を収集・解析した上で監視のための評価手法を作る必要がある。本研究では農薬の水道への影響要因として農薬生産量、毒性、水処理性などの基礎情報を収集し、それを評価パラメーターに用いて5段階のスコア化を図り、その総スコアまたはスコア率を評価値として解析した上で、監視プライオリティーリストを作成した。更に、監視農薬プライオリティーリストで上位にランクされた農薬で、測定法が未確立の農薬を選定し、農薬の構造的な特長からグループ化し前処理を含めたLC/MS法の検討を行った。その結果、四級アンモニウム系、アニオン系解離性有機リン系、ウレア系農薬群等、多くの農薬についてLC/MSによる分析条件と一斉分析法が確立できた。
② 重金属分科会 アンチモンをNF膜で処理する際の実験効率を高めるため、小規模と実用規模プラントの比較実験を実施し、そのためのシュミレーションモデルを確立した。塩ビ管等の製造の際に使用される有機スズは水道水の溶出することが明らかとなった。また、ニッケルおよびアルミニュウムについての実態調査を行い、とくに、アルミニュウムを低減化するためのマニュアルを策定した。さらに、重金属類についての、GISを用いたリスクコミニュケーションモデルを提案することが出来た。
③ 一般有機物分科会 塩化フェノールを含む供試水を実際に口に含んで感じる臭気を調べたところ、従来の鼻で感応する方法に比べ数倍から数十倍の低濃度で臭気を感じることが明らかとなった。
TOCと過マンガン酸カリウム消費量の比較の追加調査を行った結果、昨年度までに得られた結果と同様、浄水については良い相関は見られなかった。しかし、水源と浄水場の原水のTOCと過マンガン酸カリウム消費量の相関は高いことが明らかとなった。
浄水処理における各プロセスの同化性有機炭素(AOC)は、オゾン処理で増加し、活性炭処理を含めた生物処理で減少し、消毒剤である遊離塩素処理で増加する挙動を示していた。国内の水道水は微生物増殖の潜在能を有することを否定しうるレベルではなく、さらに、配水システムでも漸増する傾向を示していたことから、残留消毒剤の重要性が明らかとなった。なお、オゾン・遊離塩素の酸化処理によるAOC増加は、非酸化物である前駆物質が存在することを示唆し、詳細な増殖ポテンシャルの把握にはAOC前駆物質量を測定する必要があることが明らかとなった。その実用的なガイドラインとしては、DOC、UV260、蟻酸、しゅう酸、酢酸等の理化学的水質項目により迅速に算出できることを提案した。
④消毒副生成物分科会 臭素酸イオン濃度の生成状況は、平均値4~7μg/Lであっても最高値は10μg/Lレベルに達する場合がある。生成した臭素酸イオンは除去が困難であるが、溶存オゾン濃度の制御、pH制御、アンモニア添加などによる削減効果を把握した。また、市販および製造次亜塩素酸ナトリウム中に、臭素酸イオンが存在することが確認された。製造次亜の注入に伴う浄水中の臭素酸イオン濃度上昇を抑制するためには、臭素イオン含有量の低い原料塩の使用が有効である。また、より高濃度の次亜を製造できる隔膜方式の次亜製造設備を導入することも有効な可能性があることを指摘した。
ハロ酢酸低減化技術についての「対策ガイドライン」として、その対策フローの概念図を描き、その考え方を示すとともに、水源対策、浄水処理対策、制御監視とがあることを示した。
⑤サンプリング方法分科会 水道水等の水質検査は、特に中小の水道事業者においては、ややもすれば水質検査結果を得ること自体が目的化されてしまいがちである。しかし、水質検査を行って結果を得ることはむしろ手段であり、その結果を日常の水質管理や、将来における施設の改善等にどう結びつけて行くかが本来問われるところである。このようなことから、水道事業者が、水道水等の定期水質検査における検査項目の選定、検査箇所の選定、検査頻度の設定等を行う際のガイドラインとなる『水質検査計画』策定のための手引書(案)」を作成した。
⑥鉛分科会 鉛製給水管の実態や、今後の更新計画、その際の負担区分等について、末端給水を行っている1,866団体を対象にアンケート調査を実施したところ、鉛管の布設替えが着実に進行していることが確認できるが、なお多くの鉛管が残存していることが明らかとなった。なお、食品中、血中鉛濃度について文献調査を行うとともに、室内ダストの鉛に調査を行った。これらのことから、日本人の血中鉛濃度は、1990年の値は1980年の値に比べ有意に低い値を示していることが明らかとなった。
⑦毒性評価分科会 アクリル酸、酢酸ビニル、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、N,N-ジメチルアニリン、トリエチレンテトラミン、ヒドラジン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、アセトアルデヒドの10物質について毒性情報を収集し、整理すると共に健康影響評価値の設定が行えるかどうか検討したが、アクリル酸および酢酸ビニルについては基準値等設定が可能であるが、それ以外については今後の検討が必要であることが明らかとなった。
⑧微生物分科会 水道水中の感染性生物の試験法を検討し、水質基準での大腸菌と一般細菌の妥当性について明解にした。さらに、クリプトスポリジュムについて、その試験法をふくめて、そのリスク制御のためのマニュアルを提案した。
⑨総合評価分科会 WHOガイドラインの改訂の対象となった化学物質等から、わが国の水道でリスク管理が必要な項目について、それらの水道水中の存在等についての情報を基に水道水質基準の改訂を行うべき項目を提案した。また、感染性生物のうちクリプトスポリジュムについて、その試験法をふくめて、そのリスク制御のためのマニュアルを提案した。
結論
WHO飲料水ガイドラインの改訂および水道法に定める水質基準の見直しに際して必要な水道における毒性、挙動および低減化に関する科学的な知見を得ることが出来た。これらの成果を基に平成15年5月に水道水質基準が改訂されたものの、水質基準については科学的な知見の集積に伴い、逐次改訂すべきとされたことから、今後とも水道水中の化学物質等についての調査研究を継続して行わなければならないものと考える。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-