家屋内での水有効利用と環境負荷低減に資する給水システム構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301367A
報告書区分
総括
研究課題名
家屋内での水有効利用と環境負荷低減に資する給水システム構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
中村 文雄(財団法人給水工事技術振興財団)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 俊幸(山梨大学工学部土木環境工学科教授)
  • 松井 佳彦(岐阜大学工学部社会基盤工学科教授)
  • 長岡 裕(武蔵工業大学工学部都市基盤工学科助教授)
  • 森 一晃(国立保健医療科学院水道工学部施設工学室長)
  • 藤原 正弘(財団法人水道技術研究センター理事長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
14,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道として生活に関わる「水」は、流域圏の大きな水循環系を構成する重要な要素となっており、個別の水利用形態から地域循環まで、健全な水循環を形成するうえで欠くことのできないものである。また、水道水としての利用は、下水道への負荷や消費エネルギー等の環境負荷が大きく、極力低減することが重要な課題となっている。これらの課題に対応するため、水道水利用の原点である各家屋等で、生活用水の利用を量、質の両面から合理化し、節水を促進することで、健全な水循環を確保することが必要である。本研究では、水の有効利用(節水とエネルギー活用)を通じて河川や下水道への負荷のみならずエネルギー消費を軽減した健全な水循環を構築することを目的とし、居住環境に応じた水の有効利用手法(家屋スケール)についての研究開発を行う。また、家屋内での水の循環使用に伴って生ずる衛生的問題を回避するため、給水管・給水装置に由来する漏水および水質汚染等の事故事例の解析や、異常水流・異常水質等の早期検出に基づく維持・リスク管理方法の検討等により、望ましい給水システムの構築方法を研究する。
研究方法
下記の2サブテーマを設定して、調査・研究を実施している。
(Ⅰ)水有効利用のための給水システム構築に関する研究
学識者、水道事業体および民間企業からなる「水有効利用のための給水システム構築に関する研究委員会」を設置し、研究計画その他に関して審議を重ねた上で研究を実施している。3カ年計画の2年目にあたる本年度は、6都市における漏水等の事故事例解析や、給水装置における事故等の実態調査の解析を行うと共に、水圧・水量・水質の異常現象検出のための実験装置作成・改良とその検出感度の検討および逆流防止装置の機能に関する検討を行った。
(Ⅱ)家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究
本研究は産学官の共同プロジェクトとして実施しているが、その実施に当たっては、学識者、水道事業体および民間企業からなる「家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究委員会」を設置し、種々の審議、検討を重ねながら研究開発を推進している。3カ年計画の2年目に当たる本年度は、初年度の調査研究で着目した水道水圧を利用する家庭内利用機器について、プロト機を製作して実験的な検討を行い、その実用性を確認した。
結果と考察
(Ⅰ)水有効利用のための給水システム構築に関する研究
1.給水システムの維持管理方法に関する研究結果
給水システムの維持管理方法を検討する目的で、6大都市における事故事例解析と、事故事例に関するアンケート調査の解析を行ったが、その研究結果の概要は下記の通りである。
6大都市の給水システムにおける事故事例を解析した結果、事故総数の経月変動は12ケ月単位の周期的な変動を反復していること、大多数の都市の事故発生が最少となる月は2月中旬~3月下旬、最大となる月は8月初旬~9月下旬であり春季の1.5~2.5倍に増大すること、周期的変動には気温や季節が関連していることが明らかとなった。
また、回収されたアンケート調査表に対する解析から、全国の水道事業体の給水装置使用材料、漏水・破裂の管種・箇所・原因、給水用具の故障、水質異常、需要者への対応などの実態が明らかとなった。なお、給水装置の耐用年数、維持管理方法等に関するアンケート調査を実施し、現在、調査票を回収してその一部を解析中である。
2.給水システムのリスク管理方法に関する研究結果
給水システムにおける異常現象の早期検出と迅速な対応による事故の未然防止を目的として4研究を実施してきたが、その研究結果の概要は以下の通りである。①「水撃作用(水圧(音・振動)変動異常)の検出方法の研究」では、水撃作用が生じたときの振動波形特性の把握、一般家屋内での水撃作用発生の簡単な検知法(システム)の開発・確立に向けての基礎データの収集と、水撃作用発生の自動判定システムの構築・改善について検討を加えた。また、②「水量、水質(EC、ORP等)異常の検出方法の研究」では蛇口近傍での流量・圧力・電気伝導度の同時計測システムの長時間運転を行い、建物全体の水使用量の推定および水質異常の検出の可能性を明らかにした。さらに、③「濁度・懸濁粒子数・吸光度等を指標とした水質異常の検出方法の研究」では、散乱光量と前方透過光量の測定を可能とする“濁りモニター2号機"の試作と通水実験を行い、10分間の濁度変化が1.51度以上,5分間の濁度変化が3度以上上昇するケースは異常状態として検出することが可能であることを明らかにした。また、④「水質変換装置の給水システムへの導入方法の研究」では、負圧に対して逆止弁の多くは逆流の可能性があること、浄水器等が給水系統に組み込まれる事例が増加してきていることから負圧逆流に対しても配慮する必要があることを指摘した。
3.考察
これらの研究により、① 給水システムの維持管理方法を検討するに際して考慮するべき要件がより明確になりつつあり、また、② 不適切な装置工事や管・装置類の異常発生と、これらに由来する水質・水量・水圧異常の早期検出と迅速対応への可能性がより具体化して来つつあり、したがって、③ 水質異常による衛生的問題発生の未然防止への可能性が示唆された。
(Ⅱ)家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究
1.要素技術の検討
初年度(平成14年度)の研究において設定したアクアハウス内での水有効利用モデルの概念、すなわち、1段目-水道水圧の利用、2段目-風呂水などに利用、3段目-洗濯用水・トイレ洗浄水への利用、といった多段階利用の中で、1段目における水道水圧の利用方法に関してさらに調査、検討を行った。その結果、技術的,コスト的に比較的実現性が高いと考えられる、水道水圧駆動シリンダを用いたカーテン開閉システム(アクアカーテン)、および、窓を利用した貯水システム(アクアウインドウ)の構築に的を絞り、装置を製作して実験的検証を行うこととした。
2.シリンダ性能試験
水道水圧の利用に着目し、水道水圧で駆動するシリンダシステムについて、ガス圧駆動のロッドレスシリンダを用いて実験装置を製作し、水道水を用いてシリンダの性能試験を行った。その結果、ガス圧駆動のシリンダを転用しても、一般的な給水栓の圧力(0.2MPa程度)での駆動は可能で、数千回程度の駆動であれば、シリンダ性能の低下もほとんど生じないことがわかった。また、一般家屋向け水道水圧駆動シリンダの仕様をある程度、設定することができた。さらに、水道水圧駆動シリンダと光センサ、発電機能付自動水栓等とのシステム化の可能性を見いだすことができた。実際の配水管理データを用いた解析の結果、本シリンダの実用性についても確認することができた。
3.プロト機によるアクアカーテン/ウインドウシステムの実用性の検討
シリンダで使用した水の貯水槽としての利用を考えているアクアウインドウに関しては、水槽を用いた予備試験の結果から、窓ガラス内面の汚染防止には、二酸化チタンコーティングによる光触媒効果が有効である可能性が示唆された。貯水した水の昇温も併せて確認できたことから、アクアウインドウを貯水槽として利用することにより、環境負荷低減効果が期待できると考えられた。なお、試作した二重ガラスサッシを用いた貯水試験では、懸念された窓ガラスのたわみは生じず、アクアウインドウを貯水槽に適用できる可能性も確認できた。
4.水質目標値の設定について
水質目標値に関しては、1段目のシリンダ通過水が2段目の風呂水として利用されるまでに、汚染物質の流入等は考えにくく、水質の劣化はほとんど生じないと推定されたことから、新たな目標値を設定する必要性は低く、残留塩素濃度の変化を抑えておけば良いと判断した。
5.考察
本研究により、水道水圧等、水道が有する未利用エネルギーを有効に活用し、家屋内での多段階利用を達成すること、および、各段階における水質目標値を明確にすることで、安全で衛生的、且つ快適な家屋内水循環が形成できる可能性が示唆された。
結論
(Ⅰ)水有効利用のための給水システム構築に関する研究
本研究では、① 給水管・装置に由来する漏水等の事故事例の解析や、② 異常水流・異常水質等の早期検出方法の開発、③ 水質変換装置の給水システムへの影響などに関する研究を実施した。その結果、給水システム内における事故・工事の実態の明確化と望ましい給水システムの維持管理法確立の可能性、不適切な装置工事や給水システム内における管、装置類の異常発生とこれらに由来する水質異常の早期検出と迅速対応の可能性がより具体化し、水質異常による衛生的問題発生の未然防止の可能性などが示唆された。したがって、これらの研究をより発展させることにより、水利用の合理化・有効利用の目的に合致した安全性の高い給水システムの構築が可能となるものと考えられた。
(Ⅱ)家屋内での水有効利用と環境負荷低減に関する研究
水の有効利用による使用量の削減と、環境負荷低減を達成できる“アクアハウス"の構築を目指し、その概念を設定するとともに、装置を製作して実験的検証を行った。その結果、水道水圧で駆動するシリンダシステムの実用性について確認することができた。また、シリンダで使用した水の貯水槽としての利用を考えているアクアウインドウに関しては、環境負荷低減効果が期待できること、貯水槽として適用できる可能性をそれぞれ確認することができた。さらに、水質目標値に関しては、1段目のシリンダ通過水を風呂水として利用する場合には、残留塩素濃度の変化を抑えておけば良いと判断した。以上の要素技術の検討結果から、アクアハウスの実現性をより明確にすることができた。

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