健康危機管理情報の網羅的収集と評価に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301357A
報告書区分
総括
研究課題名
健康危機管理情報の網羅的収集と評価に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 裕光(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 山本都(国立医薬品食品研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 上木隆人(東京都立衛生研究所)
  • 藤本眞一(滋賀県草津保健所)
  • 磯野威(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、あらゆる健康危機を想定し、そのための平常時の情報収集、解析、および予測を行い、健康被害を最小限に抑制するために、「健康危機管理情報」の網羅的収集方法と解析評価手法を確立することを目的とする。健康危機の発生防止や早期解決のためのデータベースは全国に遍在しているが、これを集約することにより、日本における健康危機に関しての統合的な情報源を構築しうる。本研究に期待される成果としては以下の点が考えられる。1) 健康危機管理情報の網羅的なリストの作成による危機管理能力の向上(放射性物質、化学物質、病原体等に関する系統的な情報、情報収集・提供の対象となる関連機関情報、専門家リスト、健康危機対応事例集、地域健康危機管理手引書の集約など)。2) 健康危機発生時における対応を円滑に進めるための情報相互交換、情報検索および情報の科学的な評価手法の確立などにより、正しい情報が短時間で活用しうる環境が保証される。3) 事例集、ガイドラインなどを参考に健康危機発生時の対応シミュレーションの演習手法が確立される。4) 海外情報の収集と評価を進めることにより、起こりうる健康危機発生への準備作業がより効率的となる。
研究方法
想定しうる情報利用者(保健所、地方衛生研究所、自治体保健衛生環境部門、など)が必要とする情報源、情報利用の伝達回路、情報の利用手法に関して総合的に検討を行う。具体的には、国立保健医療科学院に設置された健康危機管理情報支援システム上に、現時点で収集可能なデータを収載する。主なデータとして、1)健康危機管理事例、2)健康危機管理対応マニュアル、3)厚生労働省が自治体主管部局あてに通知した文書、4)健康危機管理チェックリスト、5)関連機関情報、6)その他健康危機管理に関連する参考資料、などである。特に、健康危機管理担当者の能力向上と組織の改善を目標とし、そのために必要な情報システムの構築について知識管理の観点から検討する。
結果と考察
平成15年度では、以下のような検討を重ねた。[1]情報の網羅的情報収集:文献検索データベースを用いた情報検索によって得られた健康危機関連文献につけられた参考/引用文献を利用することによって、対応マニュアル、ガイドライン、事例集などを探し出す方法は、基本となる資料、関連機関/組織の把握には有効であった。ただし、文献への引用までのタイムラグがあり、必ずしも最新の資料が得られないことや、地方自治体などで作成されたマニュアル類が探索できないなどの制約がある。今後は他の健康危機分野への適用を進め、「対象情報源」「利用対象者」「提供媒体」をデータベース構造として構築できるよう、印刷媒体のみならず、インターネットサイトなどの電子媒体からの情報探索と一次情報の入手方法を進めるべきである。[2]利用者のシステム環境および研修支援:研修支援の基礎的資料を得るために、健康危機管理支援情報システムの利用機関におけるPC環境の調査を行った。また、研修支援のためのモデル的な対応マニュアルを作成することを目指し、システム利用機関から送られてきた対応マニュアル等を分類・整理し、マニュアルに記載すべき必須事項の検討を行った。インターネットを使えるPCの設置台数は全体で約68%が「正職員1人に1台」となっていた。OS(複数回答)はWindowsXP,Windows2000が50%を越えていて、Windows98は12%、Mac OSは2%であった。インターネットのブラウザはほとんどの機関でInternet Explorerを有していた。通信の回線速度は75%近くがMe
gaBPSであった。対応マニュアルに関しては337冊(電子媒体、VTRも含む)が送付された。健康危機全般に関する対応マニュアルは多かったが、個別分野では一般災害や大気に関するマニュアルが少なかった。[3]健康危機管理チェックリスト:
「健康危機管理支援情報システム」においては、様々な健康危機管理情報が提供されているが、健康危機チェックリストについては未だ内容が確定しておらず、掲載されていない。そこで、「健康危機管理支援情報システム」の健康危機チェックリスト部門の完成を目的として、今年度は厚生労働省に設置された「地域における健康危機管理のあり方検討会」による「地域における健康危機管理について~地域健康危機管理ガイドライン~」に基づき作成された小窪らによる「健康危機管理チェックリスト」の内容を再度点検し、保健所における現実的使用を視野に入れた修正を検討した。その結果、国立保健医療科学院のとりあえずウェブ・サイトにまず掲載し、広く保健所長や保健医療関係者の眼に触れながらより良いチェックリストを構築していくことが適切と判断された。[4]地域フォーラム:健康危機管理支援情報システムの中で地域フォーラムを設定し、システムの活用の普及を図るために、地域の設定の仕方、取り扱う内容を検討するとともに、システムに載せられるモデルを検討した。地域の範囲としては都道府県の範囲を超えた視点をもって県境地域を取り上げることとし、テーマとしては、保健所や地方衛生研究所が中心となって動けるもので、地域の中のニーズもあり、現状の中で取り扱いやすく、健康危機管理事例対応に繋がるものとして感染症を選び、感染症発生動向調査結果を取り扱うものとした。県境を越えた情報は日常殆ど入らないことから、その情報交換は大きな意義があった。定点数の設定の県毎の相違、定点数が少ないことなどが問題点として上げられたが、比較検討は可能と考えられた。[5]ハザードマップ:地域において健康危機の予測や防止を行うためには、各地域でどのような健康危機の発生の可能性があるかを日常的に把握しておく必要がある。そのためには様々な地域的状況や地理的特性に関連した詳細な健康危機管理情報の蓄積が重要となる。本研究では、地理情報と健康危機管理情報との関連に重点をおき、健康危機管理情報システムにおいて、より有効な情報となるようなハザードマップの作成を試みた。具体的には、1)健康情報(地域別、時系列に傷害、疾患、死亡、出生などの直接的な健康指標)、2)地図情報、3)環境情報(人工的環境、自然環境)4)時間的情報、5)データ解析機能(記述統計、分析統計など)などを連結させたプロトタイプのハザードマップを作成した。[6]SARSへの対応例:SARS(重症急性呼吸器症候群)については、地球規模での症候群サーベイランスがWHOのイニシアテイブで行われた。我が国は幸いSARS例の発生はなかったが、WHOの提示した症例定義に基づいた症候群サーベイランスが行われた。我々は平成14年度研究の症候群サーベイランスを応用するかたちでこれを実施した。また感染症情報センターでは、SARS対策チームを編成し、国内外の情報の収集に努め、またそれらの情報の提供を情報センターホームページなどを通じて迅速に行った。これらの経験は、さらに平成16年1月より我が国でも見られたトリ型インフルエンザ発生にあたっても応用された。[7]情報評価:合理的な健康危機管理を行うには、現時点で存在しているあらゆる情報を最大限に活かすことが重要である。そのためには、必要な情報の抽出、情報の信頼性の評価、結果の統合や一般化などの過程を経る必要がある。この情報評価のプロセスの一部は機械化できる可能性があるが、最終的には人間の判断に依存する部分が大きく、情報評価のための基準を確立することや意思決定者・実務担当者などの人材育成が急務である。さらに、1) 情報の評価を誰が行うのか、2) 未公表の重要情報をどのようにして収集するのか、3) 不測の事態をどこまで予測できるのか、4) 一般公衆への情報伝達やコミュニケーションの方法をどうするのかなどの課題についても検討していく必要がる。[8]コンテンツの公開方法:化学物質、食品、医薬品等の安全性情報も、情報入手の主力はWeb情報になっているといって過言ではない。情報入手、情報提供、情報交換などに関して、インターネットは情報の受け手、送り手双方にと
って大きなメリットがある。Web情報には印刷物やCD-ROMなど従来の媒体と異なるさまざまな長所があり便利な反面、利用法が不適切だとこれまで見られなかった問題も生じる可能性がある。Web情報の長所・短所を含めた特徴を十分に理解し、長所を最大限に活かした情報の提供がもとめられる。今後情報の収載量が増加すると、情報内容、メニュー項目、分類などを見直す必要が出てくる。また従来非公開情報だったものが公開になる可能性もある。したがって、コンテンツの公開については、定期的もしくは必要に応じて見直す体制が必要と考えられる。
結論
事例集やマニュアル類などの情報収集と蓄積を図るとともに、既存ネットワークの有効利用、情報の維持・更新の方法、ハザードマップの作成、情報発信のルール作成、情報の分類方法、科学的な情報の評価方法、などを検討した。これらの検討結果は随時「健康危機管理情報支援システム」上に反映された。

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