地域の健康危機管理における保健所保健婦の機能・役割に関する実証的研究

文献情報

文献番号
200301355A
報告書区分
総括
研究課題名
地域の健康危機管理における保健所保健婦の機能・役割に関する実証的研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 美砂子(千葉大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 牛尾裕子(千葉大学看護学部)
  • 春山早苗(自治医科大学看護学部)
  • 錦織正子(茨城県立医療大学)
  • 松永敏子(千葉県健康福祉部健康増進課)
  • 藤本眞一(滋賀県草津保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、保健所を中核とする地域の健康危機管理において、保健所保健師の果たすべき固有の機能・役割を明らかにすることを目的とするものである。近年、全国的に、様々な健康危機が発生している。保健師は保健所組織の一員として、他の専門職と協働して、地域住民の生命・健康・生活を守る役割を担っている。感染症・食中毒の集団発生、自然災害、汚染物質の流出等の事故・事件の健康危機に対して、発生時の対応はもちろんのこと、危機発生に備えた平常時の予防活動についても数多くの実践活動報告がみられる。しかし保健師の機能・役割について、健康危機管理の概念を踏まえた知見の抽出並びに概念整理は充分に成されていない現状にある。本研究では、健康危機発生時の対応、被害からの回復への対応はもとより、平常時の予防活動における保健所保健師の活動実態を詳細に調べることから、地域の健康危機管理における保健所保健師の機能・役割を実証的に解明することを目指す。本研究の成果により、現代の保健所保健師に求められる資質を明らかにし、保健師の教育並びに活動条件づくりに貢献する資料を提示したい。
研究方法
本研究は、3年計画であり、本年は2年目にあたる。昨年度は、(1)健康危機管理に対する保健師の実践活動についての報告資料調査、(2)保健師の関与した健康危機管理事例についての個別調査、(3)一県の全保健所保健師を対象にした、健康危機管理に関する活動経験調査から成る、分担研究を行った。これら初年度の分担研究から、健康危機管理における保健所保健師の活動経験の現状を概観し、健康危機管理の種別ごとに、危機発生から終息後の平常時に至る活動過程における保健師の機能・役割として重要と考えられることについて、成果を得ることができた。しかし同時に、以下の点が課題として明らかになった。すなわち初年度に成果として得られた、保健師の機能・役割に関する普遍性、また近年、保健所の組織形態が多様になってきている状況下での保健師の配属、分掌などの組織体制との関連、さらに、市民生活と直結する市町村の保健活動との関連、の検討を踏まえ、健康危機管理における保健所保健師の機能・役割の特徴を検討する必要性のあることが課題として明らかになった。そこで本年度は、上記の課題に焦点をあてて、保健所保健師の健康危機管理における機能・役割をより詳細に検討するために、以下の(1)~(7)の発展的調査を行った。(1)保健所保健師の健康危機管理に関する活動体制・活動実態に関する全国調査(分担研究者:宮崎)、(2)市町村保健師の健康危機管理機能に関する実態調査(分担研究者:牛尾)、(3)健康危機発生時における市町村保健師の役割と今後の課題-危機発生時の活動経験調査から-(分担研究者:錦織)、(4) 滋賀県における保健所保健師の健康危機管理機能・役割に関する研究-県内市町村保健師との比較から-(分担研究者:藤本)、(5)へき地の健康危機管理体制づくりにおける保健所保健師の機能・役割-へき地診療所看護職の健康危機管理に関わる活動の現状と認識から-(分担研究者:春山)、(6)食品媒介等感染症対策における保健所保健師の取り組み(分担研究者:松永)、(7)諸外国における地域の健康危機管理体制と看護職の機能・役割:1)英国の医療機関におけるインフェクションコントロールナースの活動調査(分担研究者:宮﨑・牛尾)、2)台湾の健康危機管理体制における公衆衛生看護職の役割と教育研修体制(分担研究者:春山)である。
結果と考察
「保健所保健師の健康危機
管理に対する活動体制・活動実態に関する全国調査」から、保健師の保健所組織内における活動体制上の特徴、健康危機の発生時及び平常時の保健師の活動内容実態を明らかにした。それにより危機発生の初動期における被害者への個別対応、予防教育の市民生活への浸透等に保健師の機能・役割の重要性を確認した。「市町村保健師の健康危機管理機能に関する実態調査」から、市町村への支援に対して、保健所の専門的広域的機能を活かした企画調整、健康危機への対応評価に基づく健康危機管理体制づくり、市町村地域防災計画の点検の重要性を明らかにした。「健康危機発生時における市町村保健師の役割と今後の課題」から、健康危機発生時における市町村保健師の役割意識として、日常活動の中に危機意識をもつなどが明らかになった。保健所保健師への期待として、問題が起きた時だけでなく、日常的な業務の中で交流できる機会を求めていた。「滋賀県における保健所保健師の健康危機管理機能・役割に関する研究」から、県と市町村の保健師の担うべき業務の差異を確認した。健康危機事例の認識や関与は、圧倒的に県職員の方が多いことから、保健所の健康危機管理に対する役割の重要性が再認識された。「へき地の健康危機管理体制づくりにおける保健所保健師の機能・役割」から、防災マニュアル等を周知し、へき地診療所看護職の健康危機管理の意識を高めること、地域の健康危機管理についてへき地診療所看護職が話し合ったり考えたりする場や機会づくり、健康危機発生時に地域住民と共に診療所看護職が対応できる体制づくりの重要性が示唆された。「食品媒介等感染症対策における保健所保健師の取り組み」から、他職種の保健師に対する役割期待として、保健師の専門知識を生かした対人業務、医学的知識をベースにした健康問題の予測と予防まで視野に入れた対応、かつ住民の置かれた状況を踏まえた不安の解消、多様な職種や機関との協力、あらゆる段階での住民への対応を行うことなどが明らかになった。「英国の医療機関のインフェクションコントロールナース(ICN)への活動調査」から感染症管理チームの一員として、情報収集及び情報発信を担うICNの活動特徴を確認した。また「台湾の健康危機管理体制における公衆衛生看護職の役割と教育研修体制の調査」から、平常期における、国内外の感染症に関する動向や流行している感染症の情報収集、感染症予防のためのセルフケアや環境を整える教育とそれを推進していくことのできる人づくり等が示唆された。
結論
本年度は、昨年度の研究成果を基に、健康危機管理における保健所保健師の機能・役割をより多角的な観点から検証し確認することができた。次年度は、初年度及び本年度の各分担研究から産出した保健師の機能・役割についてのそれぞれの知見を、より体系的に集約し、実践現場で活用できる指針のような形にしたいと考える。それについては、保健所の保健師等の実践者をはじめとする、様々な立場の関係者からの意見聴取を加えながら作業を行うことが有効であると考える。また、本年度は地理的特性との関連から、へき地の条件下における健康危機管理活動をひとつの分担研究で取り上げたが、次年度は、人口密集地などの他の地理的特性との関連についても合わせて検討する必要がある。

公開日・更新日

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更新日
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