地域における地方衛生研究所の健康危機管理のあり方(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301354A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における地方衛生研究所の健康危機管理のあり方(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 一夫(福島県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 織田肇(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 金田麻里子(東京都健康安全研究センター)
  • 宮崎豊(愛知県衛生研究所)
  • 中澤秀夫(大阪市立環境科学研究所)
  • 大道正義(千葉市環境保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,780,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、健康危機事例に適切に対応するために、地方衛生研究所(以下地研と略)が目指すべき地域における役割と体制の方向を整理し、地研が本来保持すべき4基本機能(調査研究機能、試験検査機能、公衆衛生情報処理機能及び研修指導機能)の強化・充実による危機対応能を高めることと健康危機管理対応時に必要となる相互情報交換手段を始め各種データベース構築・整備を行い、健康危機事例発生時において全国どの地域でも正しい初動体制構築が可能である状況の形成を図ることを目的とした。そのために、平成13 年度より3 ヶ年計画で以下の5つの研究課題(①健康危機管理事例のデータベース化とその利用に関する研究、②健康危機管理関連の情報ネットワークの構築に関する研究、③健康危機管理のための試験検査の開発と標準化に関する研究、④健康危機管理のための試験検査技術の充実・普及に関する研究及び⑤健康危機管理のための地域での連携体制の構築に関する研究)に取り組んだ。これによって、地域における健康危機管理対応を実践する上での問題点を明らかとし、現存の障害克服を企図したものであり、得られた成果を検証することによって、全ての地域で正しい初動体制が取れることを到達目標とした。
研究方法
5分担研究者を中心に全国6支部から推薦された研究班員で構成する研究班に、研究協力者として地研協議会全会員(76研究所)が参加・連携して、①健康危機管理事例集の内容充実とその利用に関する研究(事例データベースの作成と充実、その利用と管理方法の確立)、②健康危機管理関連の情報ネットワークの構築に関する研究(地研間情報交換手段としてのホームページと検索システムの構築、各種情報の電子情報化とデータベース作成)、③健康危機管理事例に関連する試験検査の開発標準化に関する研究(緊急的に必要とされる可能性のある検査法情報の収集、検査法の開発と標準化、精度管理の充実)、④健康危機管理のための試験検査技術の充実普及に関する研究(検査技術の遠隔研修方法の確立、研修支援システムの構築)、⑤地域での連携体制の構築に関する研究(分野毎の連携の検討を含めた地域ごとの連携協力の具体化、連携システムモデルの検討、地研・国研の連携協力体制の構築)を行った。
結果と考察
平成15年度までに、①でこれまでの健康危機管理事例集の詳細版を含む内容の充実を図りその管理・利用システムを確立し、危機管理における衛生研究所版チェックリストを作成し、検証した。更に健康危機事例の早期探知と早期原因究明のための食品苦情対応システムと症状からの健康危機原因絞り込みソフトの開発を行った。②で地研ホームページを中心とした地研情報ネットワークの構築を行い、各種メーリングリストの作成・運営を行い、各種データベースとのリンクを行った。③で近年地研に整備が進み、健康危機管理で汎用が想定される定量PCR装置を利用した検査法の開発とその標準化を行い、バイオテロモデル菌を用いた同装置での病原体検出能を検証した。また、西ナイル熱診断に有用な検査法を開発し、それに使用するPCR用プライマーの全国配布を行った。④でリファレンス情報データベース(残留農薬)を作成し、検査技術(エンテロウイルスの迅速同定のための一本鎖高次構造多型解析及びエンテロ71の遺伝子塩基配列の決定による血清型分別)の開発と同定支援システムの構築・普及を行い、情報システム上での遠隔研修プログラムを作成し、毒劇物スクリーニング検査用簡易キット使用上の問
題点とその解決法を提示した。⑤で健康危機事例発生時における時系列対応プログラムを開発し、シミュレーションと模擬訓練による検証を行い、その有用性を確認するとともに、地域における地研の役割の検討と健康危機発生時の迅速対応と連携体制の構築に向け18事例研究を行った。これらにより、健康危機管理事例発生時における地研の対応として必要な、そして基本的資本である地研情報ネットワークの基盤整備が完成し、地研間の情報交換及び情報共有化が推進された。加えて各種データベースが整備され、これも情報ネットワーク上で運用されてきた。更に、食品苦情対応システム運用が開始され、健康危機事例の早期探知手段が確保され、症状からの健康危機原因絞り込みソフトによって早期原因究明のための体制が可能となった。更に、危機管理における衛生研究所版チェックリストを作成・検証した結果、平常時、危機事例発生時、事件記録等の対応がその研究所の実情にあった形で可能となったことも明らかとした。これらにより、当初目的としていた全国どの地域で発生した健康危機管理事例への正しい初動対応が行えることがほぼ確実になったものと考えた。
結論
健康危機事例発生時における備えるべき体制と機能には、大きく分けると①事例の探知能力②発生事例の原因究明能力③被害対処及び拡大防止能力が挙げられる。この中で地研が担うべき部分は、迅速かつ正確な発生事例の原因究明であると考えられる。これを可能とするため、地研が備えるべき4本柱の基本機能を強化し、それを有効に活用する体制を構築する必要がある。本研究では、地方衛生研究所全国協議会全会員(76地研)が参加・連携し、5つの分担研究を通して、健康危機管理事例発生時の対応として必要な地研情報ネットワークの構築、各種対応マニュアル、各種データベース、検査法の開発・精度管理・普及を行った。その結果、当初目的としていた全国どの地域で発生した健康危機管理事例への地研としての正しい初動対応が可能な体制構築がほぼ確実になった。

公開日・更新日

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