新任保健師の遠隔継続教育プログラムの開発(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200301352A
報告書区分
総括
研究課題名
新任保健師の遠隔継続教育プログラムの開発(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
佐伯 和子(金沢大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宇座美代子(琉球大学)
  • 和泉比佐子(札幌医科大学)
  • 大柳俊夫(札幌医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成14年度に開発した新任保健師の対人支援能力に焦点をあてた新任保健師、中堅指導者、管理者への教育プログラムおよび遠隔通信システムを活用した支援プログラムを北海道、石川県、沖縄県で実施し、現任教育の中間評価を行うことを目的とした。
研究方法
1.研究デザイン:地域で活動している保健師やその組織のスタッフ、現任教育を職務とする保健所や本庁のスタッフ、そして大学のスタッフが協働で進める実践者参加型のアクションリサーチの方法を用いた。
2. 対象:新任保健師の対象は、平成15年4月現在、北海道、石川県、沖縄県の行政機関に勤務する新任者(行政機関に就業して5年以内)18名とした。平均年齢23.9歳、行政における保健師経験年数は平均1.3年、勤務自治体は道県5.6%、市町村94.4%であり、保健師専門教育は、養成所・短期大学、大学が各50.0%であった。
中堅指導者の対象は、新任者の直接的な指導者(プリセプター)17名とした。平均年齢35.3歳、保健師経験年数は平均12.3年であった。職位はスタッフと主任・係長が同じ5割弱で、課長・課長補佐が1名であった。
管理者の対象は、新任者、中堅指導者の指導的立場にある保健師で、Off-JTに新任者・中堅指導者・管理者ともに参加した10名とした。
3. データ収集と分析:データ収集は、平成15年6月~平成16年3月に、郵送法による自記式質問紙調査を3回(管理者は2回)実施した。
新任者は、Off-JT評価として研修会後の自記式質問紙を、OJT評価として、ベースライン調査、中間調査における自記式質問紙およびOJTで用いた事例体験票、関係機関体験票、発達評価票、自己学習行動評価票、教育計画票を活用し、主に量的分析を行った。あわせて研修会実施時の記録の分析を行った。
中堅指導者は、量的データとして、ベースライン調査、中間調査における基本属性、職務遂行能力、自己啓発の状況、職場内の教育的環境、職務満足、対人支援発達能力、プリセプター役割機能を、質的データとして、新任者の教育プログラムの目標と計画(目標管理シート)、助言指導の記録(教育レポート)およびOff-JTの際のグループワークでの発言を活用した。
管理者は量的分析として、ベースライン調査における基本属性、専門職務遂行能力、役割の認知、管理者の機能等を、質的分析として目標管理シートと教育レポートを活用した。
4. 倫理的配慮:研究の実施にあたり、参加組織および参加者に文書と口頭で研究の説明を行い、署名による承諾を得た。さらに、研究代表者および分担研究者の所属である金沢大学医学部「医の倫理審査委員会」、琉球大学医学部「医の倫理審査委員会」、札幌医科大学「倫理審査委員会」の承認を得て研究を実施した。
結果と考察
1.新任者プログラム:Off-JTでは2回の研修を行い、オリエンテーション研修で新任者のOJTを含めた教育プログラムの立案と実施への導入を、事例検討研修では、各自が自分の実践事例をまとめ、アセスメントを重視した事例検討を行い、中堅指導者からの助言を得た。
OJTは、新任者が教育計画票によって、自分自身の学習計画を立案することからスタートした。新任者が系統的な体験の蓄積と振返りをするためのツールとして、事例体験票と関係機関体験票を活用し、新任者が中堅指導者から積極的に指導を受けることとしたが、教育計画票はうまく活用できない結果であった。個別事例の体験状況は、中間時には全体的に体験なしの割合は低下していた。関係機関との接触体験は、中間時には「挨拶・見学」から「事例紹介」、「連絡・調整」まで接触体験の幅が広がっていた。業務への自信については、ベースライン時よりも中間時が高くなっていた。新任期に幅広い体験を蓄積することの必要性を新任者自身が認識することも大切であるが、新任者を着実に育成していくためには、組織としての教育体制の構築と環境整備が重要になると考える。
2.中堅指導者プログラム:Off-JTでは中堅指導者に対し、オリエンテーション研修で新任者のOJTを含めた教育プログラムの立案と実施への導入を行った。現任教育研修会Ⅰでは新任者教育プログラムの形成評価と事例検討研修会で新任者への助言を実施した。現任教育研修会Ⅱでは新任者教育プログラムの結果評価を行った。
Off-JTの研修後の評価から、プリセプターの役割やコーチングといった考え方は理解されていたものの、目標による管理(MBO)の考え方に基づいた新任者の教育プログラムの作成や新任者のコンピテンシーの客観的評価の理解は不十分であった。これは、教育プログラムで使用されている用語の難しさが反映されたと考えられ、今後、用語をできるだけ具体的な内容に変更していくことが必要と考える。
OJTでは、目標管理シートの使用を通して、中堅指導者は新任者の1年後の到達目標にむけ段階をおった教育目標を明確化していた。新任者の事例援助について、援助前にアセスメント・計画について新任者から相談を受け、助言指導を行い、月ごとに教育レポートを作成していた。中堅指導者は、OJTにおいてプリセプターシップ、コーチチング、役割モデルを果たしていたといえる。そして、中堅指導者自身の対人支援能力(個人・家族事例のアセスメント・実施・評価)に対する自己評価が向上していた。一方、新任者教育プログラムの系統化、新任者教育プログラム展開のための職場内環境の調整については課題を残し、今後、中堅指導者への教育プログラムの修正が必要と考える。
3.管理者プログラム:管理者への現任教育プログラムは、Off-JTとOJTを組み合わせた目標管理による手法を用いた。
Off-JTは、オリエンテーション研修と評価研修の2回実施し、オリエンテーション研修後の評価では、新任者教育プログラムの概要や新任者・中堅指導者・管理者の役割の理解はされていたが、管理者としての教育対応能力の理解はほとんどが無回答であった。
OJTでは、対人支援能力に関する新任者の行動目標について、中堅指導者の指導計画を管理者の立場から指導・助言し、主に中堅指導者を支援した。
管理者は、自己研鑽やOJT等を通して管理者自身の対人支援能力を高めるとともに、管理者としてのマネジメント能力の向上を図る必要があり、また現任教育プログラムでは、管理者としてビジョンをもつことと中堅指導者に対するスーパーバイズの力をつけることについて強化する必要がある。
4.遠隔通信プログラム:(1)遠隔通信システムの改良、(2)多地点接続会議の試験、(3)接続履歴を管理するためのホームページの作成、(4)テレビ電話の利用マニュアルの作成を行った。
(1)に関しては、マイク内蔵スピーカを使った場合に、発話者の最初の音声が聞き取れない状況が頻繁に生じることへの対応として行なったものであり、外部マイクとマイクアンプを別途導入し、マイク内蔵スピーカのマイクは使わないようにすることで解決した。(2)は、エヌ・ティ・ティ・ビズリンク株式会社のテレビ会議多地点接続サービスを利用することで実現した。3度の多地点接続会議を行い、その結果、2地点間接続の場合に比べて、(a)画質が悪い、(b)エコーが生じやすい、こと等を経験した。(a)については内部カメラよりも外部カメラを利用する、(b)についてはテレビ電話の音声ミュートの機能を使うことで解決するようにした。(3)は、分担研究者が管理するコンピュータ上にWEBサーバを立ち上げ、ユーザ認証によりアクセス制限するようにして実現した。(4)は、さまざまな利用状況を想定して作成したもので、テレビ電話利用の初心者でも設定や接続が行えることを目指した。設定や接続がうまくいかない場合は、テレビ電話を通してリアルタイムに設定や接続のアドバイスを行い、その際に本マニュアルを活用することができた。
結論
新任保健師の対人支援能力に関する現任教育のプログラムを実施した。Off-JTでは新任者、中堅指導者、管理者と合同でオリエンテーション研修を行い、OJTの動機づけとした。新任者の育成は目標管理方式を活用し、個別事例の実践を蓄積することを内容として、プリセプターによる指導体制をとった。
新任者は、中間時には事例体験数、対人支援能力の自己評価ともに上昇していた。中堅指導者は、OJTにおいてプリセプターシップ、コーチチング、役割モデルを果たしていた。そして、中堅指導者自身の対人支援能力の自己評価が向上していたが、新任者教育プログラムの系統化、新任者教育プログラム展開のための職場内環境の調整については課題を残した。管理者は、管理者自身の対人支援能力を高めるとともに、管理者としてのマネジメント能力の向上を図る必要があり、現任教育プログラムでは、管理者としてビジョンをもつ、中堅指導者に対するスーパーバイズの力をつける、の内容について強化する必要がある。遠隔支援では、大学が中堅指導者に直接スーパーバイズすることができ、効果的であった。また、多地点接続は、本プロジェクトのように、全員が一同に会することが頻繁には実現できない場合に有効な手段であることを確認することができた。

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