IT(情報技術)の応用による地域の保健サービスの円滑化と職域保健サービスおよび医療・福祉との連携の向上に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301351A
報告書区分
総括
研究課題名
IT(情報技術)の応用による地域の保健サービスの円滑化と職域保健サービスおよび医療・福祉との連携の向上に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(ネクストウェア株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 関田康慶(東北大学大学院経済学研究科)
  • 信川益明(杏林大学医学部)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,470,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会の到来を目前にして、地域の保健サービスは医療・福祉あるいは職域保健との連携のもとに提供することが重要となっている。すなわち、高齢者では何らかの疾病罹患者が多く、疾病予防では一予防や二次予防のみならず医療関係者との連携による再発(三次)予防や慢性疾患管理に関する指導が、また重度疾病患者・高齢世帯については福祉関係者との連携も必要となる。一方、定年退職後の高齢者が地域の保健サービスを受ける場合、従来、それまでの職域保健データが退職後の地域での健康管理に全く活用されていないため、職域と地域の保健サービスの連携も要請される。こうした地域での保健と医療・福祉との連携、あるいは職域保健サービスとの連携を進めるには、関係者の努力のみならず、そのためのツールも必要となる。そこで本研究では、地域の保健サービスの実施にあたり、IT(情報技術)の積極的活用をはかり、職域保健サービスおよび医療・福祉との連携をより密にして、地域の保健サービス活動の向上と円滑化をはかろうとする。
研究方法
第2年度にあたる本年度は、前年度に実施した基礎的な調査や検討事項、あるいはシステム設計に基づき、次のような研究を進めた(かっこ内は分担研究者名)。
1.データの共有と保健サービスの向上をはかるためのインターネットを応用したスキップネット健康管理システムの構築(稲田):インターネットを用いて、地域の保健・医療・福祉に関するデータを関係者間で共有可能にするとともに、地域保健サービスの向上をはかるべく、昨年度にモデルシステムを開発したスキップネット健康管理システムという地域保健支援のための情報システムの本格的構築を進め、この機能を宮城県田尻町における従来のスキップ情報システムに付加した。このシステムは、①個人健診情報の蓄積・検索理システム、②健康相談システム、③生活習慣病指導システムの3つの機能を有するが、本年度は、とくに③に関するものとして、健診データが異常な町民に対し、携帯端末から生活習慣病の予防に関する保健指導情報の取得を可能とする健康教室システムを開発した。
2.脳卒中、痴呆、介護など福祉との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能の検討(関田):脳卒中、痴呆、介護などに関する保健・医療・福祉情報を、田尻町の保健・医療・福祉の複合施設であるスキップセンターと共同で実施して、これらを分散管理データベースとして構築した。また、これらの情報の連携を可能とするため、インターネットを応用して、見かけ上、統合化されたデータベースのように扱いうるインターフェイスモデルについて検討した。さらに介護モニタリング情報システムを設計し、モニタリング福祉情報が、保健情報や医療情報に活用される方法について検討を行った
3.医療との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能について検討するための保健・医療・福祉機関を対象とする調査(信川):保健サービス向上のため、医療との連携を推進する上でのサービスの問題点の把握および具体的な解決策実施のための情報システムの機能について検討を行うべく、連携の現状を調査・分析しようとした。調査対象は、医療機関数が少なく連携が日常的に行われるに至っていない田尻町と周辺地域ではなく、東京都の2次医療圏中の北多摩南部医療圏で、住民からの連携に関する問い合わせ、相談内容、相談結果などについて調査・分析した。また田尻町は、平成17年度に周辺の5市町と合併の予定のため、市町村合併後の連携に関する問題点について検討した。
4.糖尿病の予防・疾病管理をめざしたIT携帯端末を用いた保健情報管理システムの構築(吉田):昨年度から開発を進めている糖尿病の予防・治療のためのインターネットを利用した糖尿病治療支援システムを構築するため、運用システムとしてのサーバや端末装置の検討と設置、および糖尿病治療・予防のガイドラインを扱う知識ベースの更新をはかった。また、職域保健と地域保健の連携をはかるべく、職域健診を委託されている総合健診システムなどから地域へ、健診データを電子的に容易に転送しうる方法について検討した。
結果と考察
上に述べた各分担研究についての本年度における主な結果と考察を次に記す。
1.データの共有と保健サービスの向上をはかるためのインターネットを応用したスキップネット健康管理システムの構築:人為的に作成した100例ほどの架空の個人情報(ID番号、氏名など)および各種健診データ(身長、体重、血圧、血液生化学検査など)からなる模擬健診データベースを用い、スキップネット健康管理システムを構築した。これにより、携帯端末から、町民個人が自分の健診データを把握するとともに、異常値を示す場合、それに関連する生活習慣病予防のための保健指導情報を入手することが可能となる。少数のボランティアによる試用の結果、機能的には仕様通りの結果が得られ、とくに就業のため健康教室への参加が困難な人々の健康管理に有用と期待されたが、指導画面にイラストを入れるなど、学習を容易にする工夫が必要と考えられた。
2.脳卒中、痴呆、介護など福祉との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能の検討:分散管理されている保健・医療・福祉の各データベースのインターネットを応用した仮想的な統合化については、プラットホームに依存しないWebブラウザのインターフェイスアプリケーションによるアクセス方式を採用することとしたが、これにより、各種データベースの管理が容易になり、見かけ上、統合化されたデータベースのように扱うことができるものと期待された。
3.医療との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能の検討:前述した連携の現状に関する調査・分析の結果、保健所、医療施設、福祉施設などの関係者が、住民、患者、利用者に対し、相談内容についての適切な説明が可能なマニュアルの作成や、ホームページの開設・充実が重要なことが示唆された。また市町村合併に関しては、合併後の医療・保健・福祉情報の統合を含めた活用方法について検討することや、住民のこれら情報の継続性を確保する方法を、合併前に十分に検討しておくことなどが重要と考えられた。
4.糖尿病の予防・疾病管理をめざしたIT携帯端末を用いた保健情報管理システムの構築:運用システムは、インターネットを中心に糖尿病治療やガイドライン管理用サーバ、患者データを取り扱う診療所単位のサーバおよび患者側の携帯端末から構成されるものとし、その構築を完了するとともに、知識ベースの更新をはかった。今後、試用を通じてその有用性を評価する必要があるが、ITによる生活習慣病対策の一つのモデルになると考えられた。健診データの転送には、HDML(Health Data Mark-up Language)という言語を使用し、検体検査データについて試みたところ、職域と地域の健診データの交換に有用ではあるが、問診など他のカテゴリーのデータについては今後、検討を要すると思われた。
結論
地域における保健サービスの実施にあたり、ITの応用をはかり、医療・福祉および職域保健サービスとの連携をより密にして、地域の保健サービス活動の向上と円滑化をはかることをめざして、第2年度にあたる本年度は前述した4つの分担研究を行った。そして、昨年度に実施したこれらに必要な基本的な調査・検討あるいは設計に基づいて研究を行った結果、ほぼ目的に添った成果が得られ、とくにシステム構築に関するものについては、試用可能な段階にまで研究を進めることができたものと考えられる。

公開日・更新日

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