インターネットおよび情報端末機器を用いた中高年期の健康づくり支援システムの開発

文献情報

文献番号
200301347A
報告書区分
総括
研究課題名
インターネットおよび情報端末機器を用いた中高年期の健康づくり支援システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 星旦二(東京都立大学)
  • 渡辺修一郎(桜美林大学)
  • 櫻井尚子(東京慈恵会医科大学)
  • 藤原佳典(東京都老人総合研究所)
  • 山田敦弘(日本総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,490,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康づくりの基盤となる住民の意識や知識、生活習慣の形成には、急速に普及が進むインターネットをはじめとした情報技術(IT)機器を介した情報提供が次第に影響力を増しつつある。本研究事業は、インターネットや情報端末機器による中高年者の健康づくり支援システムを開発することを目的とした。初年度は、インターネットおよび携帯情報端末、タッチパネル式情報端末機器を用いて、住民(勤労者)の生活習慣や健康に関わる情報を収集するシステムを開発した。さらに、得られた健康情報をデータベース化し、健康状態の推移を視覚的に把握するためのシステム、電子メールを活用した個別の健康教育情報提供システム、およびメーリングリストにより健康関連情報を提供するシステムの開発に着手し、その試作版を作成した。二年目は、収集された情報を総合して、住民(勤労者)の生活習慣の問題点や生活習慣病の危険因子等を分析し、健康づくりのためのアドバイスを即時に還元するシステムを開発した。最終年度にあたる本年度は、こうしたシステムを地域、職域などで活用し、その際の課題を整理するとともに、これらのシステムをすべてネットワーク化して、住民(勤労者)の健康づくりを支援するeヘスルプロモーションシステムの提案を行うことを目的とした。さらに、ITを活用した健康支援システムの役割と課題、費用対効果などに関わる研究を実施した。
研究方法
1.インターネットによる中高年者の健康づくり支援システムの開発と評価:前年度までの研究成果を応用してインターネットによる中高年者の健康づくり支援システムを開発・公開し、利用者調査を行い、その有用性を検討する。2.タッチパネル式情報端末を活用して住民の健康づくりを支援するeヘルスプロモーションシステムの構築と試験的運用:これまでに開発してきたタッチパネル式情報端末およびノートパソコンを活用して、群馬県草津町におけるeヘルスプロモーションシステムを開発する。3.ITを活用した健康づくり支援システムに搭載するコンテンツの検討:1)介護予防チェック項目の予測妥当性 草津町の70歳以上の在宅高齢者約1,151人を対象とした訪問面接調査を行い、生活自立度を調べる。平成13年の初回調査時に把握した「介護予防チェックリスト」総得点が、今回(2年後)認められた要介護の新規発生をどの程度予測しうるかを分析する。2)低栄養リスク判定票の開発 初回調査時に生活自立度がJ1ランクで、かつ血清アルブミン値が4.0g/dl以上の地域在宅高齢者255人を2年間追跡し、その血清アルブミン値が0.2g/dl以上の低下を示した高齢者の特徴を、多重ロジスティック回帰分析により明らかにする。4.システムの応用に関わる研究:1)基本健康診査への応用 本研究事業の中で開発されたコンテンツを用いて、老人保健法にもとづく健康診査の場を活用した健康づくり支援システムを新たに開発し、新潟県与板町における基本健康診査受診者を対象にして試験的な運用を行う。2)カイロプラクティック診療支援ITシステム 痛みを治療するカイロプラクティック診療におけるITシステムを活用する有効性と将来展望を考察する。3)産業保健における看護職のIT活用の実態を意識 ITの活用が先行している産業保健における保健指導の現状と携わる看護職の意識を調査し、ITを活用した保健活動について考察する。対象は、関東地域にある健康保険組合と企業(事業所)に勤務する看護職203人とした。4)携帯情報端末(PDA)を訪問保健指導に活用した場合の効果 PDAを用いて訪問
保健指導を行った場合の時間削減効果をいくつかの前提条件を設定して推計する。
結果と考察
1.インターネットによる中高年者の健康づくり支援システムの開発と評価:利用者の年齢分布や地域住民に対する健康情報源の調査により、若い世代に比較すると中高年者ではインターネットの利用は未だ普及段階にあり、利用可能な対象は限られていることが示された。また、個人情報保護の観点から個人の特定は行っていない。個人同定が必要な縦断変化を考慮した健康支援システムの開発は今後の課題である。本システムは、利用者個人に有益な情報を提供するだけでなく、利用者全体の疫学的な分析にも応用可能であると考えられた。2.タッチパネル式情報端末を活用して住民の健康づくりを支援するeヘルスプロモーションシステムの構築と試験的運用:公共施設などに設置されたタッチパネル式情報端末により健康情報の収集および結果の還元が簡便にできるのみならず、ノートパソコンに搭載されたシステムは訪問保健活動に活用することができる。また、システムを町内LANや同町のホームページに載せることにより、広範な住民からのアクセスが可能となる。これらをもとに地域包括的なeヘスルプロモーションシステムを考案した。3.ITを活用した健康づくり支援システムに搭載するコンテンツの検討:1)介護予防チェック項目の予測妥当性 初回調査時の「介護予防チェックリスト」総合点と2年後に要介護になる確率との間には有意な正の関連が確認された。また、ロジスティック回帰分析を用いて、要介護の発生予知における同チェックリスト総合点の寄与を、性、年齢、老研式活動能力指標を調整して検討したところ、同チェックリスト総合点は有意な寄与を示した。同チェックリストは将来の要介護発生を予測し得る点で、有用な指標であることが確認された。2)低栄養リスク判定票の開発 低栄養状態(2年間で血清アルブミン値が0.2g/dl以上した場合と定義)の独立した予知因子として、「1年以内の転倒歴あり」、「1年以内の入院歴あり」、「趣味や稽古ごとをしない」、「手段的自立障害がある」が抽出された。いずれか1項目該当群のオッズ比は1.83(95%CI、0.76-4.43)、2項目以上該当群では同7.12(同、2.41-21.01)であった。これらの結果を踏まえ「低栄養リスク判定票」を作成した。これは自立高齢者にも適用でき、将来の低栄養の出現を予測できるような問診票を開発することができた。4.システムの応用にかかわる研究:1)基本健康診査への応用 受診者への結果報告会に使用したサンプルは、個人の生活習慣→検査データの異常→生活習慣病の保有という流れを視覚的に表現でき、受診者の行動変容を支援するツールとして有用であると考えられた。2)商品化 開発したシステムの一部をノートパソコンに搭載し、自分で簡便に健康チェックができ、アドバイスが還元されるものに商品化した。さらに、高齢者向けの生活機能および介護予防に関連した評価項目リストを、民間企業と共同で紙ベースなものに商品化した。これらは今後市区町村で広く活用されると期待される。3)カイロプラクティック診療支援ITシステム 体の痛みを治療するカイロプラクティック治療院IT支援システムは、全国の治療院90箇所がネットワークをくみ、全体データベースを構築することで、データの一元管理と分析を可能にしていた。このITシステムは世界で初めのものであり、アンケート調査や治療群と対照群を設定した介入研究が、経済的・効率的に展開できる可能性がある。4)産業保健における看護職のIT活用の実態と意識 98.7%が職務に電子メールを使用し、93.1%が毎日職場でコンピューターを使用していた。ホームページからの健康相談は15.3%が可能であった。セルフチェックのツールを51.1%が掲載し、メンタルヘルスに関するものが最も多かった。電子メール使用の健康支援プログラムを25.1%が有し、ストレスに関するものが最多を占めていた。看護職による健康支援は個別相談や面談が原則であるという考えが多くみられ、保健指導における電子メールの利用の意義は認めるも、個人情報の保護を確保しながら、どう活用していくか苦
慮していた。電子メールを通じた健康支援のあり方についての学習・研修が必要である。5)携帯情報端末(PDA)を訪問保健指導に活用した場合の効果 相談員が携帯情報端末に親しんでいることを大前提として、作業項目、作業時間、訪問スケジュールなどの前提条件を設定して試算したところ、21.7%の時間削減が実現できることが示された。
結論
インターネット、携帯情報端末(PDA)、およびタッチパネル式情報端末機器を用いて、住民(勤労者)の生活習慣や健康に関わる情報を収集し、それをもとに生活習慣の問題点や生活習慣病・要介護状態の危険因子等を分析し、健康づくりのための個別アドバイスを還元するシステムを開発した。こうしたシステムをインターネットで全て結び地域包括的なeヘルスプロモーションシステムとするモデルを考案した。今後、地域における導入・運用を予定しているが、その際明らかになった問題を改善しながら、より充実したシステムに改良していく予定である。なお、システムやコンテンツの一部は、民間と共同で商品化した。これらは簡便で安価な健康づくり支援ツールと考えられ、今後、全国的に広く活用されることが期待できる。

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