健康づくりセンター等を活用した生活習慣病予防の地域連携ネットワークの形成(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301346A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりセンター等を活用した生活習慣病予防の地域連携ネットワークの形成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 尚平(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋香代(岡山大学教育学部)
  • 亀山英之(岡山市医師会)
  • 菊永茂司(ノートルダム清心女子大学人間生活学部)
  • 鈴木久雄(岡山大学教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
15年度は、これまで開発してきた運動プログラムと栄養改善プログラムを地域で展開して、その実用性の評価に重点をおいた。
研究方法
1. 運動普及応援団づくり講座を通して拡がる地域の健康づくり:1)講座期間:平成15年11月18日~12月19日の計5日。 2)対象者:24名。
2. 2つの身体活動・運動教室の1年後:平成14年度2つの介入教室に参加した292名を対象に郵送法によるアンケート調査を行った。アンケートの回収は161部であった(回収率55.1%)。このうち、署名記入のなかった3部を除いた男性54名、女性104名の計158名(54.1%)を分析対象とした。
3. 日常生活活動量を増加させるための因子に関する検討:対象は、岡山県矢掛町で開催した健康いきいき教室に参加した男性10名、女性66名、計76名であった。内容は、1回90分、週1回、1年間の男性肥満者のための運動プログラムを基に、講話と実技を加え、総合的な健康づくりが行えるように配慮した。
4. 未就学児を持つ母親を対象にしたエアロビクス教室の実践:ママビクスは、30分間の講話と1時間のエアロビクスを中心とする5回シリーズで行った。
5. 生活習慣病患者に対する出張栄養指導の有効性の検討:岡山市の某クリニックを受診し糖尿病や高脂血症などの生活習慣病を指摘された患者のうち、患者自身が食事を調理する女性を対象に出張栄養指導を実際に試みた。
6. 地域における携帯情報端末(ウェルナビ)を用いた食生活改善の試み:対象は、矢掛町の健康いきいき教室に参加した76名であった。教室は週1回90分、全15回で健康づくりに関する医学、運動、食事、休養指導の総合的な健康づくり教室であった。食事指導では、教室の前半と後半にそれぞれ3日間、携帯情報端末を使用して食事データを送受信することを依頼した。
7. 岡山県矢掛町の成人非肥満者と肥満者の栄養素摂取状況並びに食事調査における記録法とウェルナビ法の比較:30歳以上65歳以下の女性の非肥満者17名、肥満者14名、男子の非肥満者と肥満者各4名、全対象者39名について2003年1~2月に3日間連続した食事調査を秤量記録法とウェルナビ法(カメラ付携帯情報端末)で行った。
8. ウェルナビを用いた食事調査法と従来の食事調査法(秤量法、24時間思い出し法)の比較研究:対象者は、某大学管理栄養士課程の大学2年生の女子27名とした。平成15年5~7月と11~12月の期間に、同じ調査を1回ずつ計2回実施した。
9. 食生活状況及び体重調節志向と疲労自覚症状との関連について:平成15年10月にO市某大学の女子大学生330名を対象として、自記式調査票の記入による調査を実施した。調査票内の食生活状況の信頼性を検討する目的で、調査票記入者の中から希望者15名を募り、ウェルナビを用いて、連続3日間の食生活調査を実施した。
10. 町内ケーブルテレビを利用した体操番組の制作:ケーブルテレビで放送する体操番組を作成し、作成した体操番組を11月からケーブルテレビで放送開始した。放送開始から1ヶ月後、町民にアンケート調査を実施した。
11. 健康日本21に対応した健康づくり計画策定・実施・評価に関する調査:岡山県内78市町村すべてを対象にアンケート調査を行った。アンケートは首長あてに郵送し、回答は健康日本21の推進を担当している課の課長または担当課職員にしてもらい、郵送にて回収を行った。
結果と考察
1. 運動普及応援団づくり講座を通して拡がる地域の健康づくり:参加者は5回講座を受講することで、知識・技術の習得ができ自信の獲得にもつながった。講座生は自主的に月1回の定例日を決め、今後の活動について検討し、学習を深めている。
2. 2つの身体活動・運動教室の1年後:L群(ライフスタイル方式)の週2回以上の持久的運動実施者は介入前13%、介入1年後47%であり、E群(エクササイズ方式)は同順に37%、56%であった。介入1年後では、両群ともほぼライフスタイル方式を採用していた。L群の介入1年後の自己効力感得点は、運動実施頻度の多い順位に高い値を示し、「週0群」と「週2群」との間で有意な差がみられた。以上により、ライフスタイル方式とエクササイズ方式の身体活動量増加方策としての有効性が確認でき、今後はエクササイズ方式による指導の際にもライフスタイル方式を併せた指導が必要と思われた。
3. 日常生活活動量を増加させるための因子に関する検討:15回の健康教室に継続して参加し、期間を通じて歩数の記録を行った男性5名、女性34名、計39名の教室前後での変化を検討すると、体重、BMI、体脂肪率、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積が有意に減少し、安静時最高血圧が有意に低下した。1日歩数は約1000歩有意に増加した。岡山県南部健康づくりセンターと矢掛町が協力して行った健康教室で、日常生活活動量を増加させるための因子を検討したところ、教室参加時の日常生活活動を増加させたいという意欲がその後の歩数増加に結びついていることがわかった。
4. 未就学児を持つ母親を対象にしたエアロビクス教室の実践:健康教育の内容に関しては、身体活動・運動、栄養、肩こり・腰痛に関して取り上げたが、特に身体活動・運動、栄養に関しては、小さな子供がいる参加者の生活に十分配慮した具体的かつ実践可能な内容が重要であると思われる。また、家事や育児、運動不足等で肩こりや腰痛に悩んでいる参加者も多く、より参加者の生活に即した内容の健康教育が必要であろう。
5. 生活習慣病患者に対する出張栄養指導の有効性の検討:食生活には大きな問題がないと思われた患者でも、調味料の使い方などに問題があることが明らかとなった。今後は、地域の栄養士等との連携を図ることが必要である。
6. 地域における携帯情報端末(ウェルナビ)を用いた食生活改善の試み:携帯情報端末を用いたアドバイスを地域で実施した結果、「自分に適した体重を維持することのできる食事量を知る」などの食生活の改善が認められた。特に食生活や栄養の知識が乏しいとされる男性での使用率が高く、地域での食生活指導法の一つとして有効であると考えられた。
7. 岡山県矢掛町の成人非肥満者と肥満者の栄養素摂取状況並びに食事調査における記録法とウェルナビ法の比較:栄養素摂取量は、女性の対象者の非肥満者が肥満者よりも脂質の摂取量が有意に高かった。ウェルナビと記録法による結果の間に有意な相関が認められたのは、エネルギー、たんぱく質、脂質などであった。アンケート調査の結果から、従来の調査法に比べてウェルナビ法は、所用時間が短く簡便性が高い等、負担が少ない方法と思われた。
8. カメラ付携帯情報端末を用いた食事調査法と従来の食事調査法の比較研究:ウェルナビ法と秤量法がよく一致したのは、エネルギー、三大栄養素、ミネラル、ビタミンの主な栄養素であった。使い勝手に関するアンケート調査の結果から、ウェルナビ法は秤量法に比べて所要時間が短く負担が少ない方法と思われた。
9. 食生活状況及び体重調節志向と疲労自覚症状との関連について:BMIによる肥満度区分では「普通群」84.3%、「肥満群」1.6%であったが、「痩せたい」とする者は約8割であった。食生活の乱れはその影響を自覚しにくいために改善への働きかけが難しい。しかし、疲労との関連でこれらの食生活状況による疲労への影響を若者に示すことによって、より明確な食生活の見直しのきっかけを提供し、また若者に対して、指導、アドバイスする際の資料となり得ると考えられる。
10. 町内ケーブルテレビを利用した体操番組の制作:放送開始から1ヶ月後にアンケート調査を行ったところ、回答者の23%が放送を見ながら体操を行っていたが、放送しているのは知っているが体操を行っていない者は47%であった。
11. 健康日本21に対応した健康づくり計画策定・実施・評価に関する調査:回答率は84.6%であり、職種の内訳は保健師・看護師64%、栄養士・管理栄養士24%であった。現状は、大学・研究機関との連携を行っている市町村は少ないものの、連携を望む市町村は多く、市町村と大学がネットワークを形成することで、より効果的な健康日本21の推進がはかれると考えられた。
結論
健康日本21の実施主体としては、行政機関だけではなく、マスメディアや、職場・学校・地域・家庭、保健医療専門家等を対象にネットワークづくりが期待されている。また健康づくり事業従事者、とくに地域で眠っているヒューマンパワーを掘り起こし、地域の健康づくり指導者として機能できるようにする高度な専門性についての再教育システム、そのためのカリキュラム開発を行うことも切望されている。これまでの健康づくり事業や指導者のスタンスは、ややもすれば正しい生活習慣の押しつけ、知識の切り売りとなりがち、等のスキルの未熟な点が見受けられる。ここでいう「健康づくりエキスパート」とは、人々が豊かな生活文化を享受する中で、気楽で楽しい健康づくりの援助を行う者を意味している。しかしながらこの面に対する行政的対応を見ると、事業は短期的、時限的予算化に基づいて行われることが多く、長期間にわたる活動の継続を困難なものとしているのが現状であろう。このような現状認識のもとに平成10~12年度に引続き、13~15年度は地域連携ネットワークの形成に必要な要因を明らかにすることを目的に研究を行った。その結果は前述の通りであり、地域連携ネットワークの形成に可能性が示された。また、新しい健康支援ツールの採用等で住民の興味も増すことが分かり、産業との連携も今後の課題が出てきた。そこで私たちは、この班研究に参加した教育・研究者の生活習慣病予防に関わる研究成果を基に、岡山大学が持つ高度な専門性が生かせる「健康づくりエキスパート」養成プロジェクトとして地域に提案することにした。その結果、平成15年度には「岡山大学リエゾンオフィス」の第1号プロジェクトとして採用され、将来的には、岡山大学NPOとして事業を継続することで、地域住民の健康づくりに貢献しようとするものである。

公開日・更新日

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