住民参加による地域保健活動の実態と促進に関する研究-歯科保健対策を中心として-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301345A
報告書区分
総括
研究課題名
住民参加による地域保健活動の実態と促進に関する研究-歯科保健対策を中心として-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
石井 拓男(東京歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 米満正美(岩手医科大学歯学部予防歯科学)
  • 大久保満男((財)8020推進財団)
  • 池主憲夫((財)8020推進財団)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,070,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、これまで地方自治体と郡市区歯科医師会の事業について、住民参加型の地域保健活動を具体的に把握し、次いで、町作りの観点から住民参加を検討し、NPO活動の重要性を確認したことから、本年度は住民参加型の地域保健活動を行うために、全国のNPO法人がどのように健康保健活動とかかわりを持っていけるかについて調査することとした。さらにNPO法人まちづくり学校の協力の下、モデル的に住民参加型の歯科保健活動を実施することにより住民参加型まちづくり活動において行われている具体的な方法論を調査把握し、住民参加型地域保健活動へ応用する際の課題等を検討することを目的とした。また、岩手県T町において住民主体型歯科保健活動の促進要因を探ることを目的として、データ分析を行った。
研究方法
1.2003年11月13日から12月5日にかけて北海道の全NPO法人475法人を対象に質問紙による調査を実施した。次に2004年1月7日から1月21日にかけて「健康・医療・福祉」、「社会教育」、「まちづくり」、「子供の健全育成」、「文化・芸術・スポーツ」の分野に限定して、全国のNPO法人から無作為系統抽出を行い、質問紙による調査を行った。定量回答に対しては、各項目ごとに単純集計を行い、NPO法人の主な活動分野とのクロス集計を行った。さらにこれらの項目に対し、因子分析により構成概念を作成した後、共分散構造分析により因子構造の把握を行った。健康日本21,8020運動、健康増進法等の自由回答に対してはText Mining for Clementineにて自由回答文をコンセプトに分け、キーワード抽出を行い各調査項目ごとにキーワードをその発現頻度に従い、発現頻度が調査項目によって5または10以上のものを示した。さらに健康増進法から連想されることに対しては健康日本21,8020運動を知っているかの調査結果と各コンセプトの出現をカテゴリーとしてコレスポンデイング分析を行いキーワードのバイプロットを作成した。その他の項目に対してはサンプルとキーワードをカテゴリーとしてコレスポンデイング分析により、キーワードをクラスターに分類した。2.NPO法人まちづくり学校を中核として、行政保健部門、歯科医師会、大学等の関係者からなる住民参加型歯科保健活動実行委員会を組織し、これを中心に成人歯科保健活動を推進していくための対応策について、様々な機会を通じて住民からの意見を集約しながら検討することを目的としたモデル事業を実施した。モデル事業で行った住民からの意見集約のための具体的な実施事業としては、①歯科保健関係者(歯科医師、行政関係者)および一般市民へのグループインタビュー、②市民と歯科保健関係者との意見交換会(ワークショップ)の開催、③「にいがた食の陣」での普及啓発・アンケート調査の実施、④青年会議所メンバーへの歯科健診体験と意見交換会の開催、⑤歯科保健に関する親子体験学習会の開催の5項目を行った。上記のようなモデル事業の実施過程を通じて、住民参加型まちづくり活動において行われている具体的な方法論を調査把握するとともに、それを住民参加型地域保健活動へ応用する際の課題等を検討した。3.2003年1月、岩手県T町において実施した質問紙調査によって得られた年齢20歳から75歳までの574名(男性:275名、女性:294名、不明:5名)のデータをもとに分析を行った。質問に対する回答は5段階の順位尺度によって評価されることから、パラメトリックデータとして処理した。分析にはχ2検定、母比率の多重比較検定、相関分析、一元配置分散分析、因子分析を用いた。統計
解析用ソフトウェアにはSPSS 12.0J for Windows(SPSS株式会社製)を用いた。
結果と考察
1.地域への密着度、住民参加型地域保健活動への参加意欲において、保健・医療・福祉分野が特に他に比べ優れているという状況ではなかった。このことは、他の分野で住民参加が推進されており、保健・医療・福祉分野が立ち後れていることを示すものであると思われた。一方、住民参加型の保健事業への参加意欲は全国を対象とした5分野のNPO法人では61.1%というかなり高い値が得られた。子供の健全育成が69%、まちづくりが66%と高い値であったことは、これらのNPOを巻き込んだ新たな住民参加型の地域保健活動を展開する余地があることになる。この時、健康日本21の認識度がこれらNPOにおいて大変低いこと、一方8020運動の認識度が高いことを考慮すると、NPOと地域保健の連携は歯科保健から、という切り口は妥当性の高いもののようにおもわれた。健康増進法に対するキーワードの布置図において、健康日本21,8020運動の両方を知っているNPO法人では、タバコ、禁煙などがそのイメージとしてあり、8020運動のみを知っているNPO法人では、高齢者、介護など高齢者に関することがそのイメージとしてあることが推測された。また、各クラスタリングの結果から、いくつかの明確なカテゴリーを見いだすことができた。2.まちづくりの分野で住民参加型活動を支援するための人材育成などの取り組みを行っているNPO法人まちづくり学校の協力のもと、モデル的に住民参加型歯科保健活動を実施したところ、ワークショップを基本として、「ゆるやかな関係づくり」、「インタビューゲーム」、「マーケティングゲーム」、「ファシリテーショングラフィック」などの住民参加をより積極的かつ効果的に進めるための様々な手法が多くの実績に裏付けされる形で体系化されていることが明らかになった。また、これらの手法は住民参加型歯科保健活動を展開するうえでも十分効果的に適応可能だと考えられた。あらゆる段階での住民の理解促進、合意形成のための忍耐強い努力なくしては真の意味での住民参加による住民主体の地域保健活動が展開されることはありえない。しかし、これを保健医療専門家の責務として取り組んでいたのでは長期的・広範な展開は望めないと考える。保健医療専門家も、住民に参加してもらうのではなく、自らが対等な立場で住民の中に加わり、ともに学び、取り組みという意識をもち、その上で住民活動を効果的にファシリテートできる的確な技術を身に付けていくことが必要だと考える。今後、住民参加型歯科保健活動を展開する上では、まちづくり活動との一体的取り組みを進めるなど、まちづくりにおける豊富なノウハウを吸収しつつ、これらのネットワークや資源を有効に活用していくことが効果的だと考えられる。3.住民主体型歯科保健活動の促進要因として、「社会参加への自己決定」、「社会性を重視した価値観」があることが認められ、50代男性がその要因の影響を強く受けている可能性が示された。また、阻害要因として存在する「時間」は価値観によって変化することが推測された。
結論
1.地域への密着度、住民参加型地域保健活動への参加意欲において、保健・医療・福祉分野が特に他に比べ優れているという状況ではなかった。このことは、他の分野で住民参加が推進されており、保健・医療・福祉分野が立ち後れていることを示すものであると思われた。一方、住民参加型の保健事業への参加意欲は全国を対象とした5分野のNPO法人では61.1%というかなり高い値が得られた。子供の健全育成が69%、まちづくりが66%と高い値であったことは、これらのNPOを巻き込んだ新たな住民参加型の地域保健活動を展開する余地があることになる。この時、健康日本21の認識度がこれらNPOにおいて大変低いこと、一方8020運動の認識度が高いことを考慮すると、NPOと地域保健の連携は歯科保健から、という切り口は妥当性の高いもののようにおもわれた。2.まちづくりの分野で住民参加型活動を支援するための人材育成などの取り組みを行っているNPO法人まちづくり学校の協力のもと、モデル的に住民参加型歯科保
健活動を実施したところ、ワークショップを基本として、「ゆるやかな関係づくり」、「インタビューゲーム」、「マーケティングゲーム」、「ファシリテーショングラフィック」などの住民参加をより積極的かつ効果的に進めるための様々な手法が多くの実績に裏付けされる形で体系化されていることが明らかになった。また、これらの手法は住民参加型歯科保健活動を展開するうえでも十分効果的に適応可能だと考えられた。今後、住民参加型歯科保健活動を展開する上では、まちづくり活動との一体的取り組みを進めるなど、まちづくりにおける豊富なノウハウを吸収しつつ、これらのネットワークや資源を有効に活用していくことが効果的だと考えられる。3.住民主体型歯科保健活動の促進要因として、「社会参加への自己決定」、「社会性を重視した価値観」があることが認められ、50代男性がその要因の影響を強く受けている可能性が示された。また、阻害要因として存在する「時間」は価値観によって変化することが推測された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-