地域保健における健康づくりと疾病予防のための関連要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301344A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健における健康づくりと疾病予防のための関連要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 元伸(福岡大学)
研究分担者(所属機関)
  • 畝 博(福岡大学)
  • 門脇謙(秋田県成人病医療センター)
  • 上芝元(東邦大学)
  • 今任拓也(福岡大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生活習慣病のうち虚血性心疾患における外部環境要因および生活習慣要因に関して、それぞれの要因毎に各要因間の関係を疫学的に明らかにすることで日本人独自の特徴を解明し、虚血性心疾患の一次予防対策の効果を上げることを目的とする。
研究方法
循環器疾患の治療を専門分野のひとつとしている秋田県内の一医療機関を対象としてCase-control studyを行なった。この医療機関に胸痛等を主訴として訪れた者を症例群としている。症例群は全例冠動脈造影を実施している。今年度は症例の中から急性冠症候群(Acute coronary syndrome, ACS)に焦点を当てて検討した。過去に虚血性心疾患の既往がなく本医療機関にてACSとの診断を初めて受けた者(Incidence case)を患者群(ACS群)とした。ACS群は31例(43-74歳)で、不安定狭心症(Braunwald IIIB、17例)と急性心筋梗塞(14例)から構成されている。コントロール群は、この医療機関に基本健康診査のために来院した者のうち、安静時の心電図が正常かつ過去に虚血性心疾患の既往のない者の中から、性、年齢を一致させ無作為に抽出した。コントロール群62例(43-79歳)である。コントロール群も男性のみを対象とした。入院時あるいは外来時に健康調査を目的とした質問票を用いて、高血圧症や糖尿病等の既往歴あるいは食生活や喫煙、飲酒に関して聞き取りを行なった。この研究の参加者からは同意を得ている。
測定した血清脂質の種類は、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白A-I (Apo A-I)、アポリポ蛋白A-II (Apo A-II)、アポリポ蛋白B (Apo B)、およびリポプロテイン(a) (Lp(a))である。ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori, H. pylori) IgG抗体の測定は、Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)にて行なった。H. pylori抗体陽性者に対しては、CagA抗体の測定をEnzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)により行なった。クラミジアニューモニアIgG抗体およびIgAの測定は、ELISAにて行なった。統計解析には、Statistical Product and Service Solution 11.5J (SPSS Inc, Chicago, IL, USA)を用いた。オッズ比(OR)および95%信頼区間(95%CI)を求め、p<0.05を有意差ありと判断した。
(倫理面への配慮)
本研究に関しては、福岡大学医学部倫理委員会の承諾を得ている。研究対象者に対しては、研究目的について説明し、書面にて同意を得ている。
結果と考察
結 果
1.ACS群とコントロール群との比較
ACS群(62例)とコントロール群(62例)を比較した結果、BMI(p<0.01)、LDL-C(p<0.05)、HDL-C(p<0.001)、HbA1c (p<0.05)、喫煙(p<0.01)、高血圧(p<0.05)およびH. pylori IgG抗体陽性率(p<0.05)に関して有意差が認められた。
2.ACSの危険因子に対するロジスティック回帰分析
BMI、喫煙、飲酒、H. pylori IgG抗体陽性率およびH. pylori CagA抗体陽性率に関してBMI、喫煙、飲酒で補正し、ロジスティック回帰分析を行なった結果、25?BMI(肥満、OR=10.55、95%CI;2.78-40.01、p<0.01)、1日20本未満の喫煙(OR=9.90、95%CI;1.43-68.47、p<0.05)、1日20本以上の喫煙(OR=11.99、95%CI;2.80-51.35、p<0.01)、H. pylori IgG抗体陽性率(OR=3.88、95%CI;1.14-13.26、p<0.05)およびH. pylori CagA抗体陽性率(OR=3.70、95%CI;1.06-12.97、p<0.05)に関して、有意な差を呈した。
=考 察
当該年度は、ACSに焦点を当て危険因子に関して検討した。コントロール群としては、この医療機関に基本健康診査のために来院した者のうち、安静時の心電図が正常かつ過去に虚血性心疾患の既往のない者の中から、性、年齢を一致させ無作為に抽出した。ACSの危険因子と言われている肥満や喫煙に加えて、H. pylori IgG抗体陽性およびH. pylori CagA抗体陽性についても有意差を呈した。ACSを含む虚血性心疾患とH. pylori感染との関係に関して、関係ありという報告は認められるが、我が国における研究も含めCagA抗体まで追究した報告はほとんどない。
H. pyloriは、胃潰瘍や胃がん等の原因菌として注目され、CagA抗体陽性H. pyloriは特に重要視されている。そのため予防策として除菌療法が行なわれるようになった。本研究によりH. pylori IgG抗体陽性においてACSとの間に関係が認められたことに加え、H. pylori CagA抗体陽性に関しても関係が認められたことは、H. pylori感染に対する予防対策のさらなる必要性を示しているものと思われる。
結論
ACSを起こす要因として、従来から言われている肥満、喫煙、低HDL-C血症あるいは糖尿病に加えて、H. pylori感染も関係していることが示唆された。

公開日・更新日

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