保健サービスを利用した生活習慣介入による2型糖尿病の予防に関する研究

文献情報

文献番号
200301342A
報告書区分
総括
研究課題名
保健サービスを利用した生活習慣介入による2型糖尿病の予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 英嗣(独立行政法人国立病院機構京都医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤茂秋(神戸大学医学部衛生学)
  • 鎌江伊三夫(神戸大学都市安全研究センター)
  • 佐藤祐造(名古屋大学総合保健体育科学センター)
  • 佐藤寿一(名古屋大学医学部付属病院総合診療部)
  • 富永真琴(山形大学医学部臨床検査医学)
  • 河津捷二(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 辻井悟(天理よろづ相談所病院)
  • 吉田俊秀(京都府立医科大学第1内科)
  • 清原裕(九州大学医学部第2内科)
  • 津下一代(愛知県総合保健センター)
  • 坂根直樹(神戸大学医学部衛生学)
  • 臼井健(京都医療センター)
  • 小谷和彦(鳥取大学医学部臨床検査医学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耐糖能異常者(IGT)を対象に生活習慣への介入が2型糖尿病の発症予防に及ぼす影響について検証する多施設共同大規模介入研究である。(1)ハイリスク者で生活習慣の改善により2型糖尿病の発症を予防できるのか、(2)効果的な介入方法は何か、を明かにし、さらに(3)糖尿病一次予防のための保健サービスの在り方と体制づくりについて研究することを目的とする。
研究方法
「協力施設」全国の保健所、市町村保健センター、事業所、人間ドックを有する医療機関から協力施設を募集する。「対象者」健診で見い出されたIGTで30歳以上60歳未満の者を対象とする。対象者は中央の管理センターで、性、年齢、BMI、ブドウ糖負荷試験における血糖値(0と2時間値)をマッチさせて、強力介入群と普通介入群(対照群)とに無作為に割付る。「研修会」介入方法の標準化、介入担当の保健従事者のトレーニングのため、全国および地区レベルで研修会やワークショップを開く。「介入プロトコール」①適正な体重(BMI 22)の達成(過体重・肥満者にあっては7%以上の減量)、②運動習慣の獲得、および③それらを継続させることを目標とする。強力介入群にたいしては、保健従事者が研究班で作成したマニュアルと教材を用いて、食事と運動の介入を、集団指導(最初の6ヶ月に4回実施)と個別指導(年2回)のかたちで行う。最初の6ヵ月間は強力介入期として、この間に集約的に目標を達成させ、後の期間は維時期と位置づける。普通介入群には糖尿病についての一般的な知識及び運動や食事について留意すべき事を最初に集団指導により説明する。観察期間は3(~6)年とし、エンドポイントの主評価項目は糖尿病の発症(GTTで判定)とする。検査はデータ精度管理が水準以上である同一検査機関での集中測定とする。「研究組織」精度の高いデータを確保するために、対象者の登録、強力介入群・普通介入群への割り付け、検査・調査記録表の記載点検等のデータ管理および分析は管理センターで行う。
結果と考察
結果=平成15年度の研究結果の概要は以下のごとくである。
1) 協力施設数と対象者数
平成15年11月現在における協力施設数は32施設で、登録対象者(耐糖能異常者、IGT)数は304名に達した。対象者は中央の管理センターで無作為に、強力介入群(152名)と普通介入群(152名)に割付られた。
2) 介入効果の中間解析
脱落率:平成14年11月の時点で強力介入群の33名、普通介入群の28名が脱落例となった。自己都合による脱落が最も多く、強力介入群で19名、普通介入群で14名あった。その他、施設の脱落による脱落が、それぞれ、8名と5名、ベースラインにおいて除外規定に該当(既に運動を十分している等)したため脱落とされたものが3名と6名あった。
身体計測値の変化:2年目を経過した194名(強力介入群92名、普通介入群102名)の中間解析では、強力介入群では体重(1.6kgの減、2.5%の減に相当)、BMI(0.6の減)、体脂肪率(0.4%の減)、ウエスト(1.5cmの減)ともベースラインに比し有意に減少した。普通介入群では、体重(0.9kgの減、1.4%の減に相当)、BMI(0.4の減)とも軽度に減少したが、体脂肪率、ウエストの変化は有意でなかった。
2年間における糖尿病への移行:ブドウ糖負荷試験は開始時、6ヶ月後、1年後、2年後、3 年後に行い、2回続けて糖尿病型を呈したものを糖尿病発症例とした。2年を経過した194名についてみると、普通介入群のうち10名(9.8%)が糖尿病を発症したのに対し、強力介入群で糖尿病を発症したのは4名(4.3%)であった。
3) 平成15年度研修会の開催
平成15年10月17日- 18日にわたって、愛知健康プラザで、介入担当者の指導技術の向上と情報交換を目的に研修会を開催した。全国18の協力施設から32名(保健師24名、管理栄養士6名、運動指導士1名、臨床検査技師1名)が参加した。①介入研究を通じて得たもの、②糖尿病予防活動において未解決の課題、③課題の解決に向けて、 ④日常業務への応用という4つのテーマについてグループワークを行った。また、既存の保健サービスシステムを活用した糖尿病予防活動のあり方について全体で討論した。講演のかたちで、①本研究の進捗状況、②飲酒問題へのアプローチ、③保健指導者QOLに関する調査、④糖尿病と心血管疾患、を行い、指導者の資質と意欲の向上を図った。
4) 保健指導者を対象とした調査
糖尿病一次予防に必要とされる指導者養成のあり方を検討する目的で、JDPP研修会参加者に対して、カリキュラムの理解度と重要度についてのフォローアップ調査を郵送にておこない、介入継続中の全施設より52名の回答を得た。研修会に2回以上参加しているものでは、1回のみ参加者より、境界型や高トリグリセライド血症についての理解度が良好であった。研修会で取り上げるべきテーマとして重要度が高いものは、①食事、運動などの生活習慣介入法の実際、②境界型の病態、③検査データの読み方の順であった。研修会については、グループワークにおける情報交換により効果的な介入方法を見いだすことができた、研修会に参加することにより指導に自信がもて意欲が向上したとする意見が多かった。多施設長期生活習慣介入研究において保健指導者の資質と意欲の向上を図ることが大切であると考えられた。
5) 社会経済的評価研究
糖尿病予防の社会経済的評価である費用効用分析のための効用値測定を、昨年に引き続き行った。その際、昨年と同様の面談法により保健医療従事者から測定することにより、耐糖能障害、糖尿病等の追加的な効用値データが得られた。これらの効用値と本年度までのランダム化介入試験の結果を用い、費用効用および費用効果分析を新たに実施した。また、これらの測定とは別に、測定された効用値の信頼性の確認のため、昨年度に測定をおこなった医療従事者を対象として2回目の測定を行い、1回目の測定値との比較検討を行った。
6) DNAの採取と保管
これまでに95名について同意を得られた検体が得られており、全血350μLよりジェノミックDNAを抽出している。DNAの抽出はBioRobot EZ1を用いた自動抽出を行っておりクオリティーの均一性を確保している。SNP解析はABI PRISM 7000を導入しTaqManプローブ法にて行う準備を進めている。また解析するSNPに関してはPPARs,アディポネクチン、β3受容体等を予定している。 
考察=今回は2年目を経過した194名(強力介入群92名、普通介入群102名)の身体計測値の変化、糖尿病発症した割合の中間解析をおこなった。中間解析では強力介入群において、体重(ベースラインより2.5%の減少)、体脂肪率、ウエストの減少を認めた。また糖尿病への移行が普通介入群よりすくないことが示された。追跡期間は3年として、この点を確認する。また、一次予防には、運動がよいのか、体重減少がより重要であるのか、何が効果に結びついているかも明らかにしていく。
これらと平行して、ハイリスク者(IGT)に対する生活習慣介入のもたらす生活の質への影響および社会経済学的評価、2型糖尿病に関連した疾患感受性遺伝子研究を続けていく。
結論
介入開始2年目の中間報告を行った。

公開日・更新日

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