地域におけるたばこ対策とその評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301340A
報告書区分
総括
研究課題名
地域におけるたばこ対策とその評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大島 明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中村正和(大阪府立健康科学センター)
  • 野津有司(筑波大学)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 大野ゆう子(大阪大学)
  • 三上 洋(大阪大学)
  • 中村 顕(大阪府健康福祉部)
  • 柳 尚夫(大阪府茨木保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるたばこによる死亡数は2000年には11.4万人で、総死亡数の12%を占めていたと推定されている。喫煙は予防しうる最大の疾病・早死の原因との認識のもとに、欧米先進国では種々の喫煙対策が実施され成果を上げているにもかかわらず、わが国での取り組みは欧米先進国に比べて著しく立遅れており、このため成人男性の喫煙率は50%弱と欧米先進国の約2倍の異常な高さにとどまっている。このような中において、府県、保健所、市町村が取り組むことのできるたばこ対策としていろいろのものがあり、しかも成果を上げうることを示すことが、本研究の当面の課題である。また、喫煙習慣を個人の問題としてその解決を個人にゆだねるのでなく、社会の問題としてとらえて社会全体で解決し、たばこを吸わないのが当たり前という社会的規範を作りあげていくのが中・長期的な課題である。
研究方法
1.大阪府を地域ぐるみのたばこ対策の調査研究のフィールドとして位置付け、行政と連携して、2001年度から3年計画で医療機関におけるたばこ対策に焦点をあてた取り組みとその評価をおこなうこととした。(1) 2002年度に府内(政令市を含む)の全ての保健所が医療監視等の機会を利用して行った病院の分煙・禁煙化ならびに禁煙サポートの実態調査のデータの集計解析をおこなった。調査対象は564病院、回収出来たのは564病院、回収率100%であった(2)大阪府の茨木保健所において、地域の実情に応じたたばこ対策の取組みを実施した。
2.大阪大学医学部保健学科では、昨年度に引きつづき、保健学科3専攻の学部学生を対象に、喫煙行動とたばこに対する態度に関する調査を行った。また、看護学専攻2年生を対象に、2回完結のたばこ教育プログラムを作成し、その効果を検討した。
3.地域でのたばこ対策に役立つ情報を広く発信するために、研究班でこれまで収集してきた先進事例や、研究班の研究者が開発してきた禁煙サポート、喫煙防止教育、分煙の教材やプログラムを、インターネットを用いて情報発信するための作業をおこなった。
4.地域におけるたばこ対策の取組みをモニターする一環として、ベイズ型ロジット・コウホートモデル(APCモデル)による分析を行い、年齢、時代、出生コウホートの影響を検討した。また、地域におけるたばこ対策の評価のモデルとしてハクリネンの提唱したモデルを検討した。
5.FCTCへの署名、批准、およびこれにあわせての国内法等の整備の実現を図るため、政策決定者やメディアへの働きかけに関するノウハウを得るべく、2003年8月フィンランドのヘルシンキで開催されたワークショップ(German-Japanese ACS/UICC Tobacco Control Leadership Fellows Program)に参加した。
結果と考察
1.大阪府における取組み(1)保健所による医療監視等の機会を利用して2002年度に実施した病院の分煙・禁煙化ならびに禁煙サポートの実態調査結果:患者が出入りする場所である「病室、診察室、処置室、手術室、検査室、病棟詰所、待合室、廊下、トイレ」のすべてが禁煙となっていた病院は59.6%(前年の2001年度調査では54.5%、以下2001年度の成績を括弧内に示す)、たばこの煙が喫煙場所から流れ出ない完全分煙としていた病院は5.7%(5.3%)、あわせてガイドラインの目標をクリアしていた病院は59.6%(54.5%)であった。しかし、ガイドラインの最終目標である施設全館を全面禁煙、たばこの煙が喫煙場所から流れ出ない完全分煙を実施しているものは全体の9.8%(8.7%)に過ぎず、まだ1割にも到達していなかった。何らかの禁煙サポートを実施している病院は69.7%(68.1%)で、前年に比し増加が鈍化していた。2003年5月に施行された健康増進法の第25条には、多数のものが利用する施設の管理者に受動喫煙防止の義務規定が盛り込まれた。これを受けて、(財)日本医療機能評価機構による病院機能評価においては、2004年度から一部の病院をのぞき、全館禁煙の方針が確立し、それが適切に実施されていなければ認定されない方針が示された。これらの状況の変化により、病院の全館禁煙は2003年度以降一層進んでいくものと考えられる。このことを引き続き調査を実施して確認する予定である。(2)2003年度は、柳班員が新たに赴任した茨木保健所での取り組みを開始した。分煙の科学的根拠に基づく指導を目指して、大阪府のモデル事業として、管内20病院にうち10病院と飲食店1か所において、デジタル粉塵計による24時間連続測定をおこなった。2病院のみで煙の漏れない分煙がおこなわれていたが、他では喫煙空間から禁煙空間への煙の漏れが測定された。また、管内小中学校での喫煙防止教育の研修会を実施したところ、学校の敷地内禁煙を実施しているS市、あるいは実施予定のS町では、小学校の関心は高く参加率は高かったが、その目処の立たないI市では参加率は低かった。ただし、中学校では逆の結果であった。地域におけるたばこ対策の推進において、保健所は、必要であれば直接的な支援や事業実施をおこなうが、対策の進展に伴って、ネットワーク作りや指導者研修などのコーディネーターとしての役割が求めるようになるものと考えられる。
2.大阪大学医学部保健学科の取組み
2003年度の調査によると、喫煙率は学科全体では5.3%で前年度の5.7%と比較してやや低かった。全体として学年が上昇するにつれ喫煙率は上昇していたが、学年の上昇に伴う喫煙率の上昇は前年度より弱かった。たばこに対する態度では、医療施設の禁煙化や禁煙指導方法に関する教育の普及には肯定的であったが、学生の生活に近い保健医療系学校の禁煙化や保健医療従事者は禁煙するべきであるといった項目にはやや否定的な傾向が見られた。ただし、高学年においてはより積極的な態度を示す傾向も見られ、さらに持続的な働きかけが必要と考えられた。次に、2年次学生を対象に教育プログラムを実施したところ、たばこの知識に関する知識の正解率は着実に上昇したが、たばこに対する態度は介入前の評価で高いものはやや低下する傾向があり、低かったものでは上昇が見られた。より効果的な介入をおこなうため保健指導へ意欲を持ち、禁煙指導や模範的役割へ積極的な態度を示すことが出来るようなプログラム内容のさらなる改善が必要と考えられた。
3.インターネットによるたばこ対策情報の提供
中村正和班員は、本研究班の報告書やこれまで収集してきた地域での先進事例や研究者が開発してきた禁煙サポート、喫煙防止教育、分煙のプログラムについてインターネットを通して情報発信を行うため、2002年度に大阪府立健康科学センターのホームページに本研究班のホームページを立ち上げ(http://www.kenkoukagaku.jp/)、今年度は、2002年10月のシンプソン教授講演会の記録やビデオをホームページで公開した。さらに、2003年9月のシンポジウム「健康増進法と公共施設の禁煙化」の記録、産科・小児科の医療従事者向けの禁煙サポートの指導者マニュアルの内容についても、閲覧ならびにダウンロードできるように、このホームページ上に公開した。大和班員はこれまで開発した喫煙対策プログラムを引きつづき、産業医科大学のホームページ(http://tenji.med.uoeh-u.ac.jp/smoke.html)上で紹介した。2003年度には、北九州市の保健総合福祉センターとの共同で、「受動喫煙防止対策の手引き」を改定した。一方、これまでに開発してきた喫煙対策プログラムをパワーポイントのファイルとし、CD-ROMに焼き付け配布した。野津班員は、喫煙防止教育プログラムとして「インターネット版ケムケムケロ」(http://hoken2.taiiku.tsukuba.ac.jp/kero/index.html)を完成した。そして、小学校3年生80名を対象に介入評価した結果、本プログラムのインターネット版は、小学校3年生にとって十分に利用可能であり、キャラクターも覚えやすいものであることが示された。
4. 地域におけるたばこ対策の取組みのモニタリングシステムの構築
大野班員は、喫煙率、肺がん罹患率、肺がん死亡率のAPCモデルによる分析の結果、男性で昭和10年代出生コウホートが喫煙率、肺がん罹患率、肺がん死亡率ともに低い世代であることを示した。ハクリネンのモデルでは、肺がん罹患率に対する禁煙期間、喫煙期間、喫煙開始年齢、禁煙開始年齢の影響を検討している。とくに、未成年の喫煙についても調査値にもとづいて喫煙開始時期、喫煙期間を設定しており、モデル作成における基礎資料の充実が必須であることが示された。
5.FCTCの署名、批准に合わせての国内法等の整備
2003年5月WHOタバコ・コントロール枠組み条約(FCTC)が日本政府を含む192の加盟国・地域の全会一致で採択された。「現在および将来の世代をたばこ消費とたばこ煙への暴露によっておこる甚大な健康的・社会的・環境的・経済的被害から守る」ため各国が国内外で実施すべき規制の枠組みを提供することにある。今後は、FCTCへの署名、批准、およびこれにあわせての国内法等の整備が課題である。ワークショップで得たノウハウを今後の活動に活かすよう、努力したい。
結論
たばこ対策に関する環境がまだ整っていない現在のわが国においても、地域における各種のたばこ対策は実行可能で成果が上がることが示された。今後タバコ・コントロールの国内法等の整備が進む中で、取り組みは一段と進むものと考える。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-