市町村の指標化された中長期サービス政策立案に関する研究

文献情報

文献番号
200301334A
報告書区分
総括
研究課題名
市町村の指標化された中長期サービス政策立案に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 啓(宮城大学)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤清司(福島県立医科大学)
  • 安齋由貴子(宮城大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 がん予防等健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,710,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
市町村においての健康日本21を初めとする事業の評価指標をもった中長期保健サービス政策(計画)立案方法について多角的な研究は少なく、本研究は具体的な策定立案方法論の確立を目的とするものである。初年度および2年度において、特殊な研修や技術がなくとも、健康増進計画が策定できる 体系化(既存事業再編成)⇒優先順位付け⇒事業指標化⇒住民周知(住民参加)策定方法論を確立した。この方法論にはいわゆる住民会議による住民参加型策定手法への応用が可能であるかどうかの検証が3年目の課題であった。また、この研究は東北宮城県および福島県の市町村を対象とした介入研究であることから、全国の市町村について健康増進計画策定についてアンケート調査を行った。このアンケート調査は健康日本21計画の策定状況、策定方法を調査し、市町村における健康増進計画策定方法のニーズを分析した。さらに、保健所が市町村支援を行う場合に必要とされる要素について分析し、保健所からの市町村の政策立案能力向上支援方法論を確立することも目的とした。また、住民参加および住民自主グループを推進する政策立案手法について明らかにし、これらの手法を身につけ、その実践能力を伸ばしていくための課題を分析した。
研究方法
策定立案方法論の確立については、初年度、2年度に基本的な方法論の開発確立を行い、3年目の最終年度は住民参加型策定法の確立を行った。これらの研究はすべて町村への介入研究として、宮城県の12町村へ実際に大学側で策定支援の形で介入研究を行なった。うち住民会議による住民参加型策定方法は4町で行った。初年度、2年度に開発した策定方法は、体系化(既存事業再編成)⇒優先順位付け⇒事業指標化 という手順を基本として3年目には、策定住民会議の討議結果と、保健行政スタッフが同様に行った 体系化(既存事業再編成)⇒優先順位付け⇒事業指標化 による結果との調整作業を行ったうえで、住民周知を行う方法をとった。市町村の保健計画策定に対する保健所の支援ついては、1)南会津保健所および管内町村を対象に、健康日本21二次医療圏計画策定および推進に関する参与観察を通しての、保健所による町村支援の実証的調査(平成13~15年度)、2)新地町における健康日本21町計画策定に関する参与観察を通しての、保健所による町村支援の実証的調査(平成15年度)、3)福島県内全市町村を対象とした、保健計画策定上の問題点および保健所の支援に対する期待に関する質問紙調査(平成13,14年度)、4)保健所保健師を対象とした、保健所の市町村支援上の問題点に関する聞き取り調査(平成13年度)、5)福島県内保健所を対象とした、市町村支援に関する質問紙調査(平成14年度)、という方法とした。住民参加および住民自主グループを推進する政策立案手法については、1年目は、2事例の分析を詳細におこなって、住民参加および住民自主グループを推進する政策立案手法の概観し、2年目は、事例を追加して分析し、さらに文献検討を加えて、保健師が行う住民参加および住民自主グループを推進する政策立案の特徴を考察、3年目は、2年目で明らかとなった保健師の行う政策立案の手法について、保健師を対象とした質問紙調査を実施し、また有識者の意見を聞く会を開催する方法をとった。
結果と考察
初年度、2年度に 体系化(既存事業再編成)⇒優先順位付け⇒事業指標化⇒住民周知(住民参加)策定方法を開発確立した。開発確立については実証的に宮城県の12町村で介入支援研究を行った。最終年度には、住民会議による住民参加型策定を4町で介入研究しながら開発確立した。平成15年度中に10町村で健康日本21(市町村健康増進計画)が策定され
、2町が平成16年度策定完了の予定である。初年度、2年度に開発確立た体系化(既存事業再編成)⇒優先順位付け⇒事業指標化⇒住民周知(住民参加)策定方法につていては、いわゆる住民会議を主体とする住民参加型策定についても十分に応用が可能であり、どのような市町村においても住民参加型策定方法としても無理なく策定できることが実証された。最終年度では、本研究で開発した 体系化⇒優先順位⇒評価指標⇒住民周知策定方法のマニュアル化を行い、さらに、この策定法の効率化を図るために、策定において最も時間のかかる体系化作業を円滑に行うことを目的に、事業整理カードを開発した。このマニュアル、事業整理カードは北海道の保健所主催の市町村研修会で試行的に使用し、その有効性を確認した。このような結果を踏まえて、全国の約3200の市町村から無作為に1150ヶ所を抽出して健康日本21策定方法に関してアンケート調査を行った。回収は796カ所(回収率は68.9%)であった。結果、平成15年7月31日までに、健康日本21計画策定済みは27.9%、策定中は20.5%、策定予定ありが17.2%、検討中が22.1%、予定なしが12.2%であった。策定方法(策定に利用した、あるいは今後利用する)については、わからないが27.8%、地域づくり保健活動論24.6%、特になし22.1%、ミドリの理論11.7%、PCM1.6%、その他の方法が6.7%であった。市町村の健康日本21計画は予定も含めると、過半数を越える65%で策定されるが、その方法については、わからないが27.8%でもっとも多かった。策定で困難なものは、最も多いのが予算化で約3割りである。以下、他の部局との調整(コンセンサスをとること)25.8%、住民参加21.4%、策定方法自体が分からないが2割弱であった。予算化、役場内のコンセンサスを取ること、そして住民参加が策定にあたって困難なものであった。さらに健康増進計画策定につての市町村への啓発が必要であることが示され、このようなアンケート調査結果から、本研究で開発した計画策定方法は、ほとんど予算がかからず、住民参加型にも対応し、保健所の支援策にも活用でき、容易でシンプルな策定方法であることから、全国調査の市町村のニーズに合致していると思われた。
保健所が市町村支援する場合の保健所の課題としては、保健所内の共通理解の構築、支援体制および支援の窓口という組織的問題と、支援する職員の力量形成という属人的問題があげられた。地域担当が総括的役割を担いつつ業務担当と連携することで所内の共通理解を図るとともに、担当者が積極的に町村の計画策定の実務に参加することで力量を形成・保持しておくことが必要と思われた。小規模な二次医療圏では、保健所が管内町村職員の参加のもとに二次医療圏計画を策定・推進することで、町村職員の力量形成を図ることができるとともに、二次医療圏計画をもとに町村の事業を整理する機会ともなることが観察された。また、小規模の町村の場合、業務の分担の仕方により保健担当職員の意思疎通が少なくなることが危惧されるが、保健所の介在によりその弊害を防ぐことができると思われた。具体的な保健計画策定支援では、初期の策定の方向性を模索する段階から相談にのることで、町の意志決定が容易になった。策定および推進組織は、保健担当者以外にも健康にかかわる事業を担当すると思われる部局の担当者を加えることが、町の行政の全体との整合性を得る上で効果的であると思われた。
住民参加および住民自主グループの推進については、5事例の分析結果を基に分析した。政策立案手法の研究として、次の9つのカテゴリが明らかになった。住民へのアプローチとして「住民の実態を把握し、対応の必要性を判断する」、「地域に必要な対策案についてその妥当性を検討する」、「試行的に対策案を実施する」、「事業継続に向けて、住民の主体性を育成し、自主的活動を支援する」、「事業の発展・拡大を企画する」の5つのカテゴリに分類された。行政組織へのアプローチとして「組織の理解を得ながら、実施の機会を判断する」、「国、県、町の政策・施策に位置づける」、「事業実施のために行政組織および組織間の体制を整える」、「事業の効果を評価する」の4つのカテゴリに分類された。これら9つのカテゴリを意識しながらの保健活動の有効性が示唆された。
結論
策定方法論について
体系化⇒優先順位⇒評価指標⇒住民周知という策定方法の有効性と実用性を宮城県の12町村の介入研究で実証した。うち10町村が策定完了し、残りの2町が平成16年度の完成である。この策定方法については保健所での市町村計画策定支援策としての有効性も実証した。全国市町村の調査においても本研究で確立した策定方法は有効な健康増進計画推進手段となることが示唆された。
保健所が市町村支援を行う場合に必要とされる要素については、保健所は1)所長の他に所内に公衆衛生専門医等の配置、2)所内での情報の共有化をはかり、地域支援グループを中心とした所内横断的な支援チームでの支援、3)担当者の力量形成のためにも、積極的に市町村の計画策定を支援、が望ましく、一方、市町村としては、1)これまでの事業を再整理する機会ととらえること、2)策定段階での住民参加にこだわらず、計画推進段階での住民参加を重視すること、3)策定、進行管理組織は庁内横断的なメンバー構成をすること、4)初期の策定の方向性を模索する段階から保健所と相談する、が重要であることが示唆された。

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