ダイオキシン類の健康影響とくにそのTEFを中心としたリスク評価のための実験的基盤研究

文献情報

文献番号
200301310A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の健康影響とくにそのTEFを中心としたリスク評価のための実験的基盤研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
江馬 眞(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 安田峯生(広島国際大学保健医療学部)
  • 高木篤也(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菅野純(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 矢守隆夫(癌研究会癌化学療法センター)
  • 藤井義明(筑波大学先端学際領域研究センター)
  • 鎌滝哲也(北海道大学薬学部)
  • 鈴木勝士(日本獣医畜産大学獣医学部)
  • 松木容彦(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 井上達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 広瀬明彦(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
52,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非意図的に生活空間で産生されるダイオキシン類の生体障害に対する正確なリスクアセスメントはそれらの生体障害の機構が充分に明らかでない中でも設定されなければならない。一方、ダイオキシン類の本体に関する様々な分子種の働きについての解明はこの数年で飛躍的に発展した。この認識に対応したTEFの設定、それを修飾するそれら分子種の変化の可能性をとらえることはリスクアセスメントの信頼性を高めるために必要である。本研究の目的は、ダイオキシン類の生体影響に関する様々な分子種の発現を指標としてTEFを求めると共に、発現の亢進と抑制を介在する分子種を指標とし、これらの結果を短期および長期の暴露実験と関連づけて進めることにある。
研究方法
C57BL/6の妊娠マウス(妊娠12.5日)に2,3,7,8-TCDD、1,2,3,7,8-PCDD、1,2,3,7,8-PCDF、2,3,4,7,8-PCDF、1,2,3,7,8,9-HxCDD、1,2,3,4,7,8-HxCDDあるいは、2,3,7,8-TCDFの7化合物をそれぞれ、単回経口投与し、口蓋裂発生用量とTEF値を比較し、口蓋裂発生用量とTEF値の相関性に関する検討を引き続き実施した。また、C57BL/6の妊娠マウス(妊娠12.5日)に20_g/kg体重の2,3,7,8-TCDDを単回経口投与し、投与48時間後に胎児を採取し、上顎部位で変化する遺伝子を検索した結果を引き続き解析した。また、口蓋突起からのRNA抽出法の技術的検討を行った(江馬、高木)。アカゲザルを交配し、約60匹を3群に分け、妊娠20日TCDD 0(溶媒)、30または300 ng/kgを皮下投与し、その後30日毎に初回投与量の5%量を維持量として投与した。妊娠動物は自然分娩させ、児(F1a)を哺育させた。母体へのTCDD投与は分娩後90日まで続けた。F1aの離乳後、期間をおいて母体を再度交配し、同様にTCDDを負荷して、第2産児(F1b)を得た。F1aについては生後約1000日、F1bについては生後約200日に軽麻酔下で児の歯を肉眼およびX線により観察した。なお、300 ng/kgでは新しい母体を数匹追加し、これらより生まれたF1aは生後約200日に観察した。また、妊娠80日の時点での血漿中のTCDD濃度を測定した(安田)。ES細胞 (E14-2a)をゼラチンコートDish上で LIFが存在あるいは非存在ES培地で培養した。TCDDはDMSOに溶解して、最終濃度0、1、10あるいは100nMで添加した。対照群にはDMSOを0.1%の最終濃度で添加し、それぞれ、コロニーの分化状態並びに細胞数を計測した。また、ES細胞を LIF非存在ES培地で浮遊培養し、4日後に形成された胚様体(EB)の細胞数を計測した。また、RNAを抽出し、RT-PCR法によりCyp1a1の誘導を検索した(高木)。 p53ヘテロ欠失マウスにDiethyl nitrosamine (DEN) を10mg/kg体重の用量で単回腹腔内投与し、投与7日後より、2,3,7,8-TCDDを0.0003、0.001、0.003、0.01、0.03及び0.1μg/kg体重の用量で週2回経口投与し、生涯観察を行った。プロモーター作用高感受性動物としてTgACマウス(癌遺伝子のv-Ha-ras導入トランスジェニックマウス)を用いたTCDDの発がん作用の解析に適したマウスを樹立し、TCDDのプロモーター作用を調べる。TCDD、TCDFほか11種のダイオキシン類のがん細胞パネルにおいての結果を受けて、遺伝子発現のプロファイリングをAffymetrics社のGeneChipを用いて行った(菅野
)。TCDDおよびTCDFの42種がん細胞パネルにおける増殖阻害効果の比較およびFinger Printの解析を行った。42種がん細胞パネルは、乳がん10系、胃がん21系および肝がん11系よりなる(矢守)。ヒトのAhRのcDNAを高感受性マウス(C57BL/6)のAhR遺伝子座に相同組み換え法によって置き換え、薬物代謝酵素の誘導,水腎症,口蓋裂の発症の3MCやダイオキシンに対する感受性を検討した(藤井)。AhR欠損マウスにMC(80 mg/kg bdw)を腹腔内単回投与1週間後の肝臓のH.E.染色および中性脂肪酸染色を行った。また、MC投与後、経時的に肝臓を摘出し、RXRαのmRNAおよびタンパク質量をリアルタイムRT-PCRおよびウェスタンブロット分析により調べた。MCによるPPARαシグナル伝達抑制の分子機構の解析には、AhRおよびPPARα/RXRαシグナル伝達経路の両経路が働くヒト肝がん由来HepG2細胞を用いた。 26Sプロテアソーム阻害剤であるMG132およびlactacystinがRXRαタンパク質レベルに及ぼす影響をウェスタンブロット分析により調べた。また、PPARα/RXRαヘテロダイマーを介した転写活性に与える影響はPPAR応答配列を連結したルシフェラーゼレポータープラスミドを用いて調べた(鎌滝)。精巣摘出ラットにテストステロン及び、2,3,7,8-TCDDを併用投与した際の各TCDDの抗アンドロジェン作用の影響を副生殖器重量の変化の程度によって検討した(鈴木)。24日齢のラットに、TCDDの媒体であるコーン油、あるいはTCDDの1、4あるいは16 _g/kgを経口投与し、その24時間後にウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)5IUを皮下投与して96時間以上経過した後に排卵検査を行い、卵巣試料におけるTCDDの動態ならびに遺伝子発現の定量解析をおこなった。また、TCDD投与による既報再現性の確認とTCDF投与との組織中濃度ならびに影響の相関性に関する比較を行った(松木)。最近の国際機関や各国政府機関で行われていたダイオキシン類の健康リスク評価の状況をうけて、化学物質安全評価における毒性病理と作用機序研究の動向について調査した(井上)。米国のボストンで開かれた23th International Symposium on Halogenated Environmental Organic Pollutants and Persistent Organic Pollutants (POPs):Dioxin'2003における最新のダイオキシン類の汚染・暴露状況や健康影響に関する研究の進展状況に関する情報を収集した(広瀬)。既に存在する内分泌かく乱化学物質試験スキームを解析し、ダイオキシン独自、あるいは、内分泌かく乱化学物質のためのスキームを「受容体原性毒性試験スキーム」として拡張、一本化するかを検討した。また、virtual screening系の情報収集、in vitro試験系の利用可能なものの検討、in vivo試験系の利用可能なものを検討した(高木、菅野)。
結果と考察
7種のダイオキシン類をそれぞれ投与したマウス胎児での口蓋裂発生の用量-反応曲線をプロビット変換し、ED50を求め、REP(relative potency)とWHOのTEFと比較したところ、比較的良い相関性が見られた。TCDD投与マウス胎児の上顎部位で変化する遺伝子をマイクロアレイ法で検索し、定量PCR法にて定量化した結果、最も変動したのは薬物代謝酵素でダイオキシンにより誘導されることが知られているCyp1a1であり、10倍以上の顕著な増加が認められた。その他、複数のケラチン遺伝子及び扁平上皮のマーカーであるsprr1bの増加が認められたが、これらの変化は表皮由来の遺伝子の変化を反映している可能性があると考えられた。さらに、口蓋に限局した遺伝子解析を行うため、口蓋からのRNA抽出法について検討し、抽出法を確立したので、今後の遺伝子解析に利用出来ることが期待された(江馬、高木)。アカゲザル児の対照群および30ng/kg群では乳歯および永久歯胚に異常は認められなかったが、300ng/kg群では8例中4例、300ng/kg追加群では2例中1例に歯あるいは歯胚の欠如が見出された。母体の血漿中TCDD濃度は、30ng/kg群で0.20 ±0.01 pg/gであった。300 ng/kg群では児に歯異常が認められなかった6母体の平均値±標準偏差が1.98±0.88 pg/kgであったのに対し、児に歯の異常があった5母体の平均値は5.42±2.48 pg/kgで、異常のない母体よりも有意に高かった。
この結果、アカゲザルでダイオキシン類の胎生期・授乳期曝露により歯の形成異常が誘発され、歯はダイオキシン類の発生障害作用に感受性の高い器官と考えられた(安田)。TCDDは1、10、100nM群ともES細胞の分化に影響しなかった。一方、培養4日後にES細胞の細胞数を計測した結果、LIF添加、非添加群とも、TCDDの用量相関的に有意な減少または減少傾向が認められた。また、RT-PCRの結果、LIF存在下でTCDD添加2日間培養後、TCDDの1nMからCyp1a1の増加を確認した。ES細胞を LIFが非存在ES培地で浮遊培養し、4日後に形成された胚様体(EB)の細胞数を計測した結果、100nM群で有意な増加が認められた。また、RT-PCR法によりCyp1a1の誘導が1nM群より確認された。以上の結果、ES細胞培養系はダイオキシン類の反応を調べる良い系であることが明らかになった(高木)。p53ヘテロ欠失マウスを用いた2段階発がん試験でP53ヘテロマウス群および野生型動物での中間用量群における腫瘍発生促進傾向が認められたが、全体としては、有意差は明瞭ではなかった。プロモーター作用高感受性動物としてTgACマウスを用いたTCDDの発がん作用の解析のためのマウスの樹立に関しては、昨年度来Tg.AC/AhRKOマウス作成に向けてのC57BL/6(TCDD高感受性マウス)へBack crossを行い、その過程でPapilloma 発生感受性がC57BL/6背景でも保たれることを確認し、さらに、前胃の乳頭腫が経口投与実験には観測項目として皮膚乳頭腫の代替として使用可能であることが示唆された。前胃の乳頭腫を標的としたTg.ACマウス経口投与による逆U字型用量相関の有無の追試検証を実施中である。また、TEF との関連における展開として、細胞アレイの結果に基づき、TCDD、TCDF及びindirubinの遺伝子発現プロファイリングを行い、その結果、リガンド依存的なプロファイル(の差)が存在することを明らかにした(菅野)。新たなパネルとして42種がん細胞パネルを用いてもTCDFの増殖阻害効果が見られるのかどうか、TCDDを対象に検討した。その結果、TCDFは、新たな42種がん細胞パネルにおいても多くの細胞株で顕著な細胞増殖阻害を示し、TCDDはほとんど効果を示さなかった。TCDFのFinger Printは、42種がん細胞パネルにおけるCOMPARE解析では、少なくとも既知の抗癌剤約70種類とは異なる固有のパターンであることが判明した。TCDFは、39種がん細胞パネルで見られた現象と同じく、42種がん細胞パネルにおいても顕著な細胞増殖阻害効果を示し、対照的にTCDDはほとんど効果を示さなかったので、両者のがん細胞に対する増殖阻害効果の違いは、かなり普遍的であると考えられる。TEFによる比較では、TCDFはTCDDの1/10の力価とされるが、本研究結果は、がん細胞増殖阻害効果で見る限り両者の力は逆転することを示すもので、この違いが固体レベルでも何らかの生物学的影響の差違を生ずるのかどうかも新たな問題と思われた(矢守)。モルモット、ラット、モンキー、マウス(C57B/6)と(DBA/2),ハムスターのAhRのダイオキシンに対する解離定数と各動物種のLD50及び薬物代謝酵素Cyp1a1誘導に対するED50はハムスターの場合を除いて,よい平行関係にあることが分った。ヒト化AhRマウス(C57BL/6)は、そのcDNAをマウス(C57BL/6)AhRの第1エクソンに相同組み換えによって導入することによって作製した。TCDD 100 _g/kgを投与すると(C57BL/6)マウスにおけるCyp1a1とCYP1A2は顕著に誘導され、低感受(DBA/2)マウスでは、中程度に誘導されるが、ヒト化AhR(C57BL/6)マウスでは、誘導の程度が(DBA/2)マウスよりも明らかに劣ることが分かった。また、妊娠マウスの12.5日目にTCDD 40 _g/kgを経口的に与え18.5日の胎児に水腎症と口蓋裂の発症を観察すると(C57BL/6)マウスでは、殆どすべての胎児マウスに口蓋裂と水腎症の発症が観察されたが、(DBA/2)マウスでは、水腎症は80%に観察され、口蓋裂は、軽度で胎児マウスの30%にその発症が認められた。一方、ヒト化AhR(C57BL/6)マウスでは、水腎症の発症は80%程度で(DBA/2)マウスと同程度であったが、口蓋裂は殆ど観察されないことが、明らかになった。ヒトAhRはダイオキシンの毒性発現に対して(DBA/2)マウス
のAhRと同程度か、それより低い感受性を動物に与えるものと推論される(藤井)。野生型マウスにMCを投与したところ、中心静脈周辺部に脂肪滴の蓄積(中心性小脂肪滴症)が認められた。一方、AhR欠損マウスでは脂肪滴の蓄積は認められなかった。MCによるPPARαシグナル伝達抑制の分子機構を検討するために、PPARαシグナル伝達の構成因子であるPPARαおよびRXRαの発現量を調べた。その結果、MCによりRXRαの発現量がmRNAおよびタンパク質の両レベルで減少した。また、MCによるRXRαの抑制の経時変化を調べたところ、mRNAはMC投与後約24時間で減少したのに対し、タンパク質はMC投与後約2時間で急速に減少することが明らかとなった。さらに、HepG2細胞にMC(5 μM)と26Sプロテアソーム阻害剤を共処置したところ、MCによるRXRαタンパク質量の減少は認められず、また、PPARα/RXRαを介した転写活性の抑制も認められなかった。RXRαはリン酸化修飾を受けることにより、その核外排出およびタンパク質分解が促進されることが知られている。このことから、AhRが直接的あるいは間接的にRXRαをリン酸化することにより、そのタンパク質分解を促進する可能性が考えられた(鎌滝)。TCDDの雄性副生殖器の重量増加抑制作用についてはいずれのTPの用量でもほとんど抑制しなかったが、各副生殖器について1mg/kgTPでの反応をTCDDがやや強く抑制するという類似したパターンが認められた。一方で、TPに対する反応率(重量増加作用)およびTCDDによるその抑制作用においては各副生殖腺で大きく異なっていた。これとは対照的に、胸腺についてはTPによる用量相関的な重量減少をTCDDはさらに低下させた。その低下の割合は平行的で、TPとTCDDの反応が相加的であることを示唆していた。しかし、発生期における母体投与では明らかに雄性副生殖器は影響を受けるので、成熟動物でのAR-AhR相互作用は胎生期とは異なっている可能性があり、成熟動物での雄性副生殖器の反応を指標としてTEFを求めるのは少し無理がある可能性があると思われた(鈴木)。卵巣試料についてTCDD濃度およびcytochrome P450 (CYP)1A1 mRNA発現量を測定し、TCDDが卵巣に到達し、誘起排卵後まで残存してその間aryl hydrocarbon rexeptor (AhR)を活性化していることを確認した。既報より高い用量のTCDDを用いて、既報が再現されないことを確認するとともに、卵胞発育に関連する数種の遺伝子を定量したが、投与の影響は認められなかった。さらに、TCD-furan (TCDF)を投与して組織中濃度および影響をTCDD投与によるものと比較したところ、1) TCDFの肝臓における残留性はTCDDと比較して乏しく、重量にも影響を及ぼさないこと、2)胸腺および卵巣中濃度はTCDDと同様であったが、卵巣には用量に依存したCY1A1の誘導は行わないこと、3) TCDFのTEFはエンドポイントによって異なっていた(松木)。米国ニューヨーク州のニューヨーク医科大学にて開かれた、化学物質安全アセスメント:毒性病理特に発癌性に関する研究検討会に出席し、化学発がんの閾値問題、最新のマイクロアレイ等の遺伝子解析のリスクアセスメントへの応用、受容体原性の発がん、ホルモンを介した卵巣発がん機構等、いずれもダイオキシンのリスクアセスメントに関連する課題について情報の収集・討議を行った。今後も、引き続き、国際的な視野に立ち、科学的認識に基づいた研究交流、科学的情報の行政への反響等を継続していくことの重要性が認識された(井上)。海外における最新のダイオキシン類の汚染・暴露状況や健康影響に関する研究の進展状況に関する情報を収集するため、米国のボストン開かれたDioxin'2003で得られたリスク評価上有用な知見について整理した(広瀬)。既に存在する内分泌かく乱化学物質試験スキームを解析し、ダイオキシン独自、あるいは、内分泌かく乱化学物質のためのスキームを「受容体原性毒性試験スキーム」として拡張、一本化するかを検討した。また、virtual screening系の情報収集を行った結果、現在、直ちに利用可能な適切な系は存在しないことが判明した。in vitro試験系として、リガンド検出系としてはArntに対する抗体を利用し
たELISA測定法がある。Calux法、酵母、CHO細胞などを用いたレポーターアッセイが利用可能であった。in vivo試験系としては、従来どおりの暴露-Cyp1a1誘導(酵素活性測定を含む)の系等が研究レベルで実施されている。体系化された、あるいはガイドライン化されたものは今のところ存在しなかった。この結果、受容体原性毒性評価を包括的に支援する試験スキームを、現存する「内分泌かく乱化学物質試験スキーム」を元に拡張することが、もっとも適切であることが考えられた(高木、菅野)。
結論
1. 口蓋裂誘導能とTEFは良い相関性を示した。TCDDは胎児上顎において扁平上皮化に関連する遺伝発現を誘導した。TCDDの胎生期・授乳期曝露は児のアカゲザルの歯の形成を障害し、そのLOAELはげっ歯類における発生毒性のLOAELとほぼ同じ桁にあると考えられた。TCDDはES細胞培養系において、細胞数に影響し、Cyp1a1の発現を強く誘導したことから、この系が、ダイオキシンの影響を調べる良い系であることが明かとなった。
2. p53ヘテロ欠失マウスを用いた2段階発がん試験でP53ヘテロマウス群および野生型動物での中間用量群における腫瘍発生促進傾向が認められた。Tg.ACマウスをC57BL/6(TCDD高感受性マウス)へBack crossを行い、その過程でPapilloma 発生感受性がC57BL/6背景でも保たれることを確認した。TCDD、TCDF及びindirubinの遺伝子発現プロファイリングを行い、リガンド依存的なプロファイル(の差)が存在することを明らかにした。TCDDとTCDFを新規42種がん細胞パネルで評価した結果、TCDFは顕著な細胞増殖阻害効果を示したが、TCDDはほとんど効果を示さなかった。
3. ヒト型AhRを導入した高感受性(C57BL/6)マウスは,ダイオキシンに対して低感受性(DBA/2)マウスと同程度あるいは、それ以下になることが分かった。AhRシグナル伝達系はRXRαタンパク質の分解を促進することにより、PPARαシグナル伝達系を抑制することを明らかにした。
4. TPによる精巣摘出ラットでの雄性副生殖器重量増加に対する抑制効果はほとんど認められなかった。TCDDは卵巣に到達してAhRを活性化できるが、性腺刺激ホルモンによる卵巣重量増加抑制や排卵数の減少といった既報にあるような影響を卵巣には及ぼさず、本モデルは雌性生殖の影響評価におけるTEFの検証には用いることはできないと結論された。また、胸腺重量および体重増加抑制から試算されたTCDFのTEFは従来の値を下回っていると結論された。
5. 各種の受容体を介したシグナル伝達系とそれらの複雑なクロストークを介する受容体原性としての包括的なスキームが必要であり、そのためには「内分泌かく乱化学物質試験スキーム」を元にダイオキシンを組み込んだ拡張作業が、もっとも適切な手段であると考えられた。
以上、本研究班における研究の進展の結果、これまで全く説明することの困難であったダイオキシンの生体影響本体の解明に近づきつつある。他方、解明される分子種をTEF設定することにより、より現実的なリスクアセスメントに寄与することが期待された。

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