ダイオキシン類のヒト暴露状況の把握と健康影響に関する研究

文献情報

文献番号
200301306A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類のヒト暴露状況の把握と健康影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 昌(東京農業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田秀明(摂南大学)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研)
  • 大滝慈(広島大学)
  • 鎌滝哲也(北海道大学)
  • 臼杵靖晃(大塚アッセイ研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
21,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は以下の7つの課題を研究した。イ)低濃度ダイオキシン類曝露が人体にどの程度の影響を及ぼしているかについて基礎的研究を行う。ロ)いままでの本研究でリスクとしてあがった糖尿病について症例対照研究によりリスクの大きさを推定する。ハ)低濃度曝露者の体内曝露量の半減期を計算し、将来のリスク推定を可能にする。ニ)少量の血液で安定した測定ができるようにする。ホ)大量の検体をあつかう疫学調査用にGCMSによらない簡易測定方法の有用性を検討する。へ)曝露の指標となる生化学的生体指標の有用性について検討する。ト)近年問題となっている臭素化環状炭化水素について予備的に測定し、人体曝露の実態を明らかにする。
研究方法
本研究では、ダイオキシン類の健康影響を明らかにするために、平成10年より一定のフォーマットにより、焼却場周辺および対照地域、厚生省多目的コホート地域の住民を対象に厚生労働省、府県、市町村、保健所などが協力して選択し、全国17地域(岩手、秋田、宮城、神奈川、新潟、長野、大阪、鳥取、島根、長崎、沖縄)でボランテイアーの研究協力者を集めた。原則として各地域に居住する30~60歳代の男女を対象とし、インフォームドコンセントをとって、生活習慣に関するアンケート調査、身体測定、採血を行ない、ダイオキシン類測定(PCDD7種、PCDF10種、コプラナーPCB12種)と血液検査、生化学検査、免疫検査、ホルモン検査をおこなった。調査を完了した者は合計740名である。その結果はすべてデータベースとして入力し、SPSS Ver11.5を用いて解析した。
糖尿病のリスクとしてダイオキシン類の関与を明らかにするために症例対照研究をおこなった。佐久総合病院において平成16年1月26日から30日の間に内科(糖尿病外来)を受診した者のうち、本研究への参加の承諾が得られた50歳代(男性10名、女性13名)、60歳代(男性15名、女性7名)に対し生活習慣に関するアンケート調査、食物摂取頻度調査票による食習慣の調査および採血(60ml)を行った。対照は同病院において同期間中に人間ドックを受診した者のうち本研究への参加の承諾が得られた50歳代(男性28名、女性23名)、60歳代(男性13名、女性8名)の健康なヒトで、症例と同様の調査を行なった。身体測定値、一般血液検査値はカルテから調査票に転記した。採取した血液はダイオキシン類(PCDD、PCDF)及びPCB、糖尿病に関連する指標(遊離脂肪酸、レプチン、アディポネクチン、TNF-α、レジスチン)の測定に用いた。
半減期の研究には焼却場作業者の高曝露者の経年データ、および佐久住民の4年間おいた再調査データから血液中のダイオキシン類濃度の半減期を統計数学的に推定した。解析は,血中薬物濃度の時間的推移を表現した1-コンパートメントモデルに基づいて行った。
ダイオキシン類曝露のマーカーとしてCYP1A1およびCYP1B1が知られている。これらがヒトにおいても特定の曝露に対応して生体指標になるかどうか、ダイオキシン類への高曝露が疑われるヒトの凍結末梢血より全RNAを調製し, ダイオキシン類で誘導されることが知られているCYP1A1およびCYP1B1のmRNA量を高感度リアルタイムPCR法により定量した。
高分解能GCMSによる測定は高価で時間もかかる。簡便で、安価に、また同時に多数の検体を処理できるAh-immunoassay法を、全血及び血漿を用いてその有用性を検討し改良した。Ahを一定量含むサイトゾルに検体を入れ、核内蛋白質Arntを結合させ、抗Arnt抗体によるimmuno assay法である。また、少量の血液でダイオキシン類測定ができるようにASE抽出法をさまざまな温度と圧力で検討した。大量溶媒注入装置を装着したGC/MS測定を組み合わせた高感度迅速分析法を検討した。
臭素化ダイオキシンの測定法を開発し、脂肪抽出→硫酸シリカゲル処理による脂肪除去→硝酸銀シリカゲルカラム精製→活性炭分散シリカゲルカラム精製→高分解能GC/高分解能MS分析による方法を開発した。最も低極性の塩素化ダイオキシン類と最も高極性の臭素化ダイオキシン類を含む標準品を利用することにより、血液試料を対象とした全臭素系ダイオキシン類の分析を試みた。
結果と考察
イ) 日本各地の住民の血中ダイオキシン類調査により食事との関係や生活歴、職歴等との関係を明らかにした。既往歴で糖尿病や高血圧、高脂血症との関係が疑われ、低濃度曝露であっても健康影響のあることを示した。
ロ) ダイオキシン類蓄積が糖尿病のリスクとしてどれくらいか明らかにするために糖尿病患者を症例とした症例・対照研究を計画し、あとダイオキシン類の測定終了をまつ状態である。対象者は糖尿病群59名(男性38名、女性21名)、境界型糖尿病群(2時間後血糖値140mg/dl以上200mg/dl未満)12名(男性8名、女性4名)、対照群46名(男性20名、女性26名)、合計117名で、各グループの平均年齢はそれぞれ59.0±5.6歳、58.2±5.7歳、56.6±4.6歳であった。糖尿病関連指標の測定結果より、遊離脂肪酸の血中濃度は糖尿病群が境界型、対照群で有意に高値を示した。レプチンは有意ではないが対照群に比べて境界型、糖尿病群で高い傾向であった。糖尿病患者ではレプチン濃度ではなくレプチンに対する感受性が低下している可能性が示された。アディポネクチンは対照群に比べて境界型、糖尿病群で有意に低く、TNF-αは対照群よりも糖尿病群で有意に高値であった。境界型を含む糖尿病患者のうち、薬を服用している者は服用していない者に比べて血中TNF-α濃度が有意に高値であり、遊離脂肪酸、レプチン、アディポネクチンは有意ではないが薬を服用している者が高い傾向であった。これら結果をダイオキシン類濃度と関連させて分析する。
ハ) 低濃度曝露ダイオキシン類の半減期を知るために、平成10年度に調査した参加者から同一人を14年度に54人選択し、再調査を行った。ダイオキシン類の測定も終え、現在モデル計算による解析中である。半減期に関して、IDDモデルで1.77年、個体別モデルで0.43~3.59年、変動効果モデルで1.19~2.24年という推定結果を得た。これまでの報告と比較すると短い半減期の推定結果を得た。
ニ) 従来法は100ml以上の採血をおこなっていたが、30ml程度に押えることを目的に高感度測定法を検討し、試料量が少くても安定して測定できる方法を開発した。
ホ) ダイオキシン類のAhレセプターを用いた簡易測定法は予想したような感度がでず、現在はダイオキシン類の簡易抽出法を試験中である。前処理を適切にすればGC/MS法及びAh-immunoassay法で得られた測定値の間には相関係数r=0.851と有意な相関関係がえられた。さらに、四元分割表による分析を行った結果、診断感度80.0%、診断特異度42.9%、有効度68.2%であり、ヒト血中ダイオキシン類のスクリーニング法に使用できる可能性が示せた。今年度、製品化できると思われる。
へ)迅速かつ高感度な定量的リアルタイムRT-PCR法を開発し、この方法を用いてダイオキシン類に曝露したヒトリンパ球におけるCYP分子腫のmRNAの発現を調べた。その結果、CYP1B1がヒトにおいてダイオキシン類に対する生体応答を評価する上での高感度なマーカーになることが明らかとなった。ダイオキシン類で誘導されることが知られているCYP1A1およびCYP1B1のmRNA量を高感度リアルタイムPCR法により定量した結果、ダイオキシン類によるCYP1B1誘導は三峰性を示した。CYP1B1誘導を指標としたときの最小ダイオキシン類濃度は6.5 pg/g lipidであった。これは生体曝露の良い指標となることが示せた。
ト)臭素系ダイオキシン類汚染について、分析法が完成し、現在プール血清を用いて分析を進めている段階であり、近々汚染実態が明らかにできる予定である。現在までの成果としては、1)臭素化ダイオキシン類は2,3,7,8-TBDFを除いて定量下限値以下である、2)臭素化ダイオキシンに比べてモノ臭素化ダイオキシン類、ポリ塩素化ダイオキシン類が高濃度に存在している。
結論
平成10年度以来測定してきた地域住民は100pgTEQ/g脂肪以上のダイオキシン類曝露をしめしたものは居なかった。今までの全平均20.0pgTEQ/g脂肪は欧米の住民濃度とほぼ同じ水準である。健康に影響がでる可能性のあるダイオキシン類濃度は83ngTEQ/kg体重以上とされ、これは脂肪量あたりに換算すると250-400pgTEQ/g脂肪程度になる。今回の対象者の濃度は健康影響を起こす下限の10分の1以下といえる。検査結果から体内蓄積ダイオキシン類によって異常値を示したというものはなかったが、高血圧、高脂血症等生活習慣病既往の頻度はダイオキシン類濃度の高い群に多く、ホルモン等正常範囲内ではあっても濃度依存性の変化を示す傾向があり、今後の検討が必要である。職業では農業が高値をしめし、昔の農薬中に混在したダイオキシン類曝露の影響がいまだに残っていると思われる。
塩化ダイオキシンと同様に最近臭素化ダイオキシン類の汚染が問題になっている。ヒトへの曝露状況を検討するために超微量の臭素化ダイオキシン類の測定が可能になったので残余血液でヒト曝露の実態を検討可能になった。

公開日・更新日

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