水道におけるダイオキシン類の実態等の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200301305A
報告書区分
総括
研究課題名
水道におけるダイオキシン類の実態等の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
眞柄 泰基(北海道大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 国包 章一(国立保健医療科学院)
  • 安藤 正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 相沢 貴子(横浜市水道局)
  • 亀井 翼(北海道大学大学院工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
66,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道水のダイオキシン類については、平成11年12月に水質基準を補完する項目の監視項目として位置づけられ、その指針値を1pg-TEQ/Lとされた。しかし、ダイオキシン類の一日耐用摂取量が見直される可能性も高く、監視項目指針値が見直される可能性が高い。しかし、ダイオキシン類は監視項目であるため水道事業体による測定データが少ないため、その実態が十分に明らかにされていない。
これまでの調査研究により、過去にCNPやPCP等の農薬を使用していた水系において、ダイオキシンの検出頻度が増加する傾向があること。低濃度ではあるが、水道水の塩素処理によって、ダイオキシン類の増加した事例があること。水道事業者自らが測定している事例はなく、全て外部機関への委託している。しかし、これらの機関の測定精度等についての調査はなされていないこと。臭素化ダイオキシンについての水道における検出実態は、現時点では未把握であること等が明らかとなっている。
そこで、ダイオキシン類についての全国的な状況を明らかにするとともに、水道原水中の農薬との相関、水道の塩素処理による生成、精度管理、臭素化ダイオキシン類について検討を行い、水道におけるダイオキシン類対策の在り方についての提言を行うことにより、水道水の安全性を確保に資することを目的とする研究を行った。
研究方法
水道水中のダイオキシン類についての調査では、これまで調査が実施されていなかった地域での調査に重点を置いて行い、全国すべての都道府県の水道におけるダイオキシンのリスク評価を行う。
また、ダイオキシン類が高く農薬類との関係が深い水道について、綿密な調査を水田の代掻きから田植えの時期に行い、農薬類ダイオキシン類の管理手法についての提言を行う。さらに、臭素化ダイオキシン類についての調査を行うための分析法の開発をおこない、それを基に水道におけるダイオキシン類の調査を行う。浄水場におけるダイオキシン類の挙動を明らかにするため、汎用されている急速砂濾過、高度浄水処理およびNF膜処理の実験プラントの挙動調査を行う。
精度管理については、精度管理マニュアルの作成に資する知見を得るため、ダイオキシン類測定機関の協力を得て、外部精度管理調査を行う。
結果と考察
これまでダイオキシン類の調査を行っていなかった12浄水場における水道原水及び浄水の調査を行ったことから全ての都道府県でダイオキシン類のリスク評価が可能となった。今回調査の対象として12の浄水場では水道原水でPCDDS+PCDFsで1.1pg/lから120 pg/l、Co-PCBsで0.61 pg/l から89 pg/lの範囲で分布していた。PCDDS+PCDFs が高い水道とCo-PCBsが高い水道とは異なっている。ダイオキシン類について毒性当量では、水道原水で0.005~0.19pg-TEQ/lであり、浄水では0.002~0.014pg-TEQ/lの範囲であり、水道水の監視項目の評価値である1pg-TEQ/lを超える所はなく、最も水道原水で高い濃度のところでも除去率は90%以上であった。このことから、水道における浄水システムによるダイオキシン類の除去率は高いことが確認されたものと考える。なお、調査の対象とした水道で食塩電解による次亜塩素酸ソーダを利用している例について、次亜塩素酸ソーダ中のダイオキシン類を測定したところ、微量ではあるがダイオキシン類が不純物として精製されていることが、昨年度の調査と同じように確認された。
これまでの調査でダイオキシン類が高い結果が得られている水道について調査したところ、ダイオキシン類で1.7~440pg/lの範囲で分布しており、毒性等量でも0.0お18~0.67pg-TEQ/lと上記の今年度実施した水道に比べて高い結果が得られた。しかし、このようなところでも浄水では最大0.027pg-TEQ/lと評価値に比べれば低い濃度であった。
水田の代掻きから田植えの期間を対象として信濃川および琵琶湖周辺の水道原水のダイオキシン類と濁度等一般水質項目を測定した。その結果、琵琶湖ではダイオキシン類の濃度は0.14~0.063pg-TEQ/lと全国の平均濃度かそれ以下であり、代掻き時期の特徴は見られなかった。しかし、信濃川流域では代掻き時期の河川水濁度と相関が見られ、また、この測定でのダイオキシン類の最高濃度は、PCDDs+PCDFsが1300pg//lおおよび Co-PCBs15pg/lであり、毒性等量ででは1.6pg-TEQ/lと指針値を大きく超え、最も高いダイオキシン類が1.6pg-TEQ/lが2回測定された。なお、この河川の代掻き時期以外の測定値は0.16pg-TEQ/lである。また、この時期のCNP濃度は2~3μg/lと高い値を示し、また、同族体や異性体の構成も農薬由来の特徴が見られた。
浄水処理過程におけるダイオキシン類の挙動については、凝集沈殿砂濾過処理により原水の10%以下に低減されることが明らかとなった。その低減率は塩素付加数が高いほど高いことが認められた。オゾン・活性炭吸着と同じような有機物除去性能を有するとされるNF膜濾過によるダイオキシン類の除去について調べたところ、原水中のダイオキシン類は0.04pg-TEQ/lから、処理水でトラベルブランクと等しい濃度である0.001pg-TEQ/lまで低下したことから、NF膜濾過も高度浄水処理として有効であることが明らかとなった。
臭素化ダイオキシン類についての測定法として、ポリブロモジベンソーパラージオキシンおよびポリブロモジベンゾフランの暫定調査方法(環境省環境管理局)に準拠して、水道原水および浄水について測定した結果それらの濃度はごく微量であることが明らかとなった。
ダイオキシン類の測定精度管理マニュアルを作成することを前提にして、今年度は1機関に対して、共通試料を送付し、測定された結果を基にダイオキシン類の測定精度について検討した。その結果z-scoreにおいても±3を超える機関は少なかったが、分析室の雰囲気(クリーンルーム仕様)やガラス器具の洗浄などに対する細心の注意が必要であることが今年度の結果からも明らかとなった。
結論
水道におけるダイオキシン類の調査研究を実施した結果は、水道水由来のダイオキシン類の暴露量は低く、実質的な安全なレベルであることが明らかとなった。しかし、地域的には水道原水のダイオキシン類の濃度が高く、しかもその発生源は過去に使用されていたCNP等現在では使用されていない農薬中の不純物であるダイオキシン類が水道水源流域に残存し、降雨流出とともに徐々に流出していることが明らかとなった。このようなことから、環境中に残存する農薬類が流出しやすい代掻き時や田植え時の水道原水にはダイオキシン類が高くなるので、そのような地域でのダイオキシン類については、モニタリングを行い、リスクを評価する体制を整備すべきと考える。
また、水道でのダイオキシン類の測定は民間の分析機関に委託して行なわれることが多いと考えられることから、精度管理を適確に行うため「水道原水および浄水中のダイオキシン類調査マニュアル(平成11年厚生省水道整備課)」を改定する必要があると考える。

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