アルミニウムなどの金属とアルツハイマー病発祥機構との因果関係に関する研究

文献情報

文献番号
200301298A
報告書区分
総括
研究課題名
アルミニウムなどの金属とアルツハイマー病発祥機構との因果関係に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
武田 雅俊(大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座プロセシング異常疾患分野(精神医学))
研究分担者(所属機関)
  • 大河内正康(大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座 プロセシング異常疾患分野(精神医学))
  • 飯塚舜介(鳥取大学医学部医学科医療環境学講座)
  • 遠山正彌(大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学講座 プロセシング機能形態学分野(解剖学第二講座))
  • 高島明彦(理化学研究所 脳科学総合研究センターアルツハイマー病研究チーム)
  • 橋本亮太(国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第3部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
39,360,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究成果の概要
飯塚は当研究計画の基礎であるアルミニウムの体内・脳内への取り込み・排泄・代謝について詳細に検討している。 前年度はAl-アミノ酸錯体を用い、マウス大脳アストロサイトによるAlの取り込み測定したところ、よく取り込まれ、アミノ酸の種類によって取り込み量が大きく異なっていることを報告した。 そこで、アミノ酸トランスポーターの選択的あるいは、非選択的ブロッカーの存在状態で、Al-アミノ酸錯体の取り込みを測定した。 実験にはグルタミン酸およびグリシンのトランスポーターEAAT2およびGlyT1の選択的ブロッカーであるジヒドロカイニン酸、サルコシン、また、非選択的ブロッカーであるtrans-pyrollidine-2,4-dicarboxylic acid および、Doxepinを用いた。 いずれのブロッカーについてもAl-アミノ酸錯体を用いたAlの取り込みに対する阻害作用は観測されなかった。 ウワバインの存在下においても、同様に取り込みの阻害作用は観測されなかった。 したがって、Alの取り込みは、アミノ酸輸送経路を通ってAl-アミノ酸錯体として取り込まれるのではなく、受動的拡散作用によることがわかった。 アミノ酸錯体の効果は、Al錯体の溶解度が高いことによって説明されるかもしれない。 現在のところ、取り込みの経路は不明である。 Al-Glyを培養液に添加して、毒性の発現を観察した。 0.0125mMのAl-Gly濃度でアストロサイトにアポトーシスが観測された。 6時間暴露し、その後数日間培養した。 Hoechist33258色素で染色したところ、細胞核の凝縮が10%以上の細胞に観測された。 このような低濃度のアルミニウムでアポトーシスが観測されたのは例がない。 アルミニウムの毒性は一層の研究が必要である。 また、低濃度短時間暴露の実験条件で、培養細胞のアポトーシスに関係するたんぱく質をWestern blottingで分析した。 PARP、およびLaminは2つのバンドに分裂して観測された。 これは、caspase familyのたんぱく質分解酵素活性により引き起こされたものと考えられる。 また、Bcl-2、Baxはアルミニウムの添加によってバンドに変化は見られなかった。 これらの結果より、低濃度のアルミニウムでもアストロサイトに取り込まれ、caspase cascadeの活性化によりアポトーシスを引き起こすことが示された。
遠山と大河内は今回アルミニウムの神経毒性とアミロイドβ蛋白の神経毒性の間の関連性について検討した。 遠山はこれまでに、アルミニウムは小胞体ストレストランスデューサー群(IRE1, ATF6,PERK)の活性化を阻害して小胞体ストレス(ツニカマイシン、カルシウムイオノフォア等刺激)時、小胞体分子シャペロンGRP78発現誘導の減弱あるいはタンパク質翻訳抑制の減弱により、小胞体ストレスに対する感受性を増強させることを明らかにした。 さらに詳細な解析から、アルミニウムは培養細胞の生育や機能に全く影響を及ぼさない用量(2.5,25μM)でHigh Mobility Groupタンパク質A1a(HMGA1a)の発現上昇を促進させ、アルツハイマー病関連遺伝子プレセニリン2(PS2)のエクソン5を欠く異常スプライシング変種(PS2V)産生を促進させた。 さらに、アルミニウムにより誘導促進されたPS2Vがヒト神経芽細胞腫(SK-N-SH細胞)の小胞体ストレスへの感受性を増強させ細胞死を促進することを報告してきた。 一方、我々は以前から孤発性アルツハイマー病患者の脳内において、PS2Vが高頻度に発現していること、PS2Vを発現しているヒト神経芽細胞腫は各種小胞体ストレスに対し脆弱で、さらにその培養液中で有意なAβの産生上昇が認められることを報告してきた。 従って、アルミニウムはPS2V産生機構に影響を与え、孤発性アルツハイマー病の発症に関与する可能性が示唆される。 そこで今回、アルツハイマー病に特徴的な病理学的所見として報告されているAβの凝集・沈着がアルミニウム・PS2Vにより影響を受けるか否かについて、他の金属群との比較を含めて検討した。 その結果、アルミニウムを含む金属によるAβの凝集は促進されたが、βシート構造形成については抑制される傾向が明らかとなった。 また、PS2V蛋白質を用いた検討によっても同様の結果を得た。 以上のことより金属・PS2V共に老人斑で見られるAβのβシート構造構築には直接関わらないもののAβ凝集には影響を与えAD発症に関わる可能性が示唆された。
大河内らは遠山らの研究に関連して以下のような研究を行った。 近年、アミロイドベータ蛋白フィブリル形成の中間段階には、アミロイド・プロトフィブリルが存在することが明らかとなり、さらにその前駆体であるアミロイドベータ蛋白オリゴマーがアルツハイマー病脳で検出された。 アミロイドベータ蛋白フィブリルには毒性がなく、この前駆体にシナプス障害などの神経毒性があるという考え方が有力となりつつある。 我々はアミロイドベータ蛋白フィブリル形成およびその中間段階であるアミロイド・プロトフィブリル形成について検討を重ねてきた。 アルミニウムなどの金属イオンが試験管内では、アミロイド蛋白のベータ重合を阻害すること、またフィブリル形成やその中間段階であるプロトフィブリル形成の遅延に関与していることを明らかにした。 本年度、我々はアルミニウムなどの金属がアミロイドベータ蛋白凝集過程にどのような影響を及ぼすのか、生細胞を用いて検討した。 その結果、驚くべきことにアルミニウム負荷により分泌されるアミロイドベータ蛋白単量体は対象に比べ有意に減少していた。 また検討したアルミニウム濃度ではアポトーシスは誘導されておらず、アミロイドベータ蛋白の基質であるCTF-ベータ蛋白の減少は認められなかった。 さらに近年我々の確立したアミロイドベータ蛋白産生を定量かつ定性できるシステムを用いて、アルミニウム負荷は、産生されるアミロイドベータ蛋白単量体の量やその分子種にはなんら影響を及ぼしていないことを明らかにした。 これらの結果と試験管内の結果を統合すると、アルミニウムなどの金属はアミロイドベータ蛋白の単量体が神経毒性を呈するオリゴマーに移行するのを促進し、かつプロトフィブリル形成速度を遅延することによって、最終的にオリゴマーが組織に長期間留まる可能性が示唆された。
我々が毎年報告しているアルミニウムの神経毒性のメカニズムについて橋本と武田が以下のような結果を報告した。 橋本はアルツハイマー病では、前脳基底核を中心とするコリン作動性ニューロンの障害・脱落が重要であると考えられている。そこで、神経細胞へのアルミニウムなど金属の影響を神経細胞の生存度と形態の二つの側面から検討した。初代神経培養細胞系において、アルミニウムは、他の金属(ルビジウム、セシウム、リチウム)と比較して、低濃度で短期間暴露による神経毒性があった。さらに低濃度にてアルミニウムの長期間暴露を行ったが、神経毒性や神経細胞の形態における顕著な変化は認められなかった。しかし、低濃度アルミニウムの長期間暴露は、酸化ストレスによる神経細胞死を亢進した。この効果は、短期間の低濃度アルミニウム暴露では認められず、栄養因子欠乏やグルタミン酸による興奮毒性においても認められなかった。また、興味深いことにある低濃度域では、アルミニウム暴露は、酸化ストレスによる神経細胞死を抑制した。一方、リチウムにおいては、グルタミン酸刺激による神経細胞死を抑制し、ルビジウムやセシウムではそのような効果は認められなかった。これらの結果より、アルミニウムなどの金属は、その濃度、投与期間、神経細胞死の誘導法によって、神経細胞毒性または保護作用を持つことが示唆された。
一方、武田は新しい見地からアルミニウムの神経毒性について考察を加えた。 アルツハイマー病の前駆状態としてのMCIが注目され、神経の変性に至る前の神経可塑性の変化の検討は重要である。本研究は、MCIをみすえたアルミニウムの神経可塑性への影響について検討するために、AMPA刺激後のグルタミン酸受容体の神経細胞内移行を観察した。アルミニウムは神経細胞のプロテアソーム活性を直接減弱するか、ERストレス反応を減弱することによってプロテアソームに負荷をかけることにより、グルタミン酸受容体の細胞内移行を減弱した。従って、アルミニウムはLTD形成に影響する可能性が示唆され、神経可塑性を変化させる可能性が示唆された。
最後に実験動物モデルを用いた本年度の結果では残念ながらアルミニウム接種による神経原線維変化の出現やその促進は認められなかった。 高島らは以下のように報告した。 アルツハイマー病は老人斑、神経原線維変化,神経細胞脱落が病理学的特徴である。 金属イオンとアルツハイマー病発症の関係はこれまで多くの報告が存在するが明確に肯定あるいは否定する論拠とはなっていない。 われわれは、アルツハイマー病の発症は神経原線維変化を伴う脳老化が起きている状況下においてアミロイドが神経細胞に作用して神経原線維変化と神経細胞死を加速することによって記名力低下から痴呆症を生ずると考えている前回アミロイド毒性に対する金属イオンの効果を調べたところ金属イオンはアミロイドが引き起こす細胞毒性を減弱することを示した。 今回、神経原線維変化形成に対するアルミニウムの効果を調べるため、タウトランスジェニックマウスにアルミニウムを接種して検討を行った。 これまで一回接種で30日後までを調べたが、対照と比べて有意な差は見出されなかった。





研究方法
結果と考察
結論

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-