ダイオキシン類の生体毒性発現機構の解析

文献情報

文献番号
200301295A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の生体毒性発現機構の解析
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山下 敬介(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 解剖学・発生生物学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野雅元(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 免疫学研究室)
  • 横崎恭之(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 公衆衛生学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
16,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は肝臓酵素誘導作用、生殖発生毒性、免疫毒性などさまざまな毒性を有する。本研究は、ダイオキシン類の肝臓への影響・発生毒性・免疫毒性に焦点を絞り、これらの毒性発現機序について明らかにしようとするものである。ダイオキシンはダイオキシン受容体(別名:アリール炭化水素受容体、以下AhRと略)を介して毒性を発現すると考えられている。ダイオキシン類の毒性発現に対するAhRの関与の有無について検討することも本研究の目的である。
研究方法
マウスを用いて研究を進めた。マウスの系統はダイオキシンに対する感受性が最も高いとされる系統のC57BL/6Jを用いた。AhRの関与を見るため、AhR遺伝子欠損マウス(AhR-/-)マウス(Mimura et al., 1997)を使用した。また、さらに、AhRの発現により誘導されてくる蛋白のうち、アリール炭化水素受容体抑制因子(Aryl hydrocarbon receptor repressor, AhRRと略)の遺伝子欠損マウスも使用した。
ダイオキシンは、ダイオキシン類のうち最も毒性が強いとされる、2,3,7,8四塩化ジベンンゾパラジオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, 以下TCDDと略、Cambridge Isotope Laboratories Japan, CIL Japan、製品番号 ED-901)をコーン油を溶媒として溶解した。溶媒投与(5,000μl/kg体重)を対照群とした。
発生毒性を見る研究においては、C57BL/6jマウス、AhR遺伝子欠損マウスホモ、AhRR遺伝子欠損マウスホモの妊娠マウスを得て(膣栓発見日を妊娠0日とする)、妊娠12.5日にTCDDを強制経口投与した。
免疫毒性を見る研究においては、5週齢の雄マウスを購入し、飼育環境に慣らすため、1週間飼育した。6週齢で、マウスにTCDDを40μg/kg体重の割合で1回強制経口投与した。投与後7日でマウスをネンブタール深麻酔により屠殺した。AhR遺伝子欠損マウスにも同量のTCDDを投与して7日後に屠殺し、AhRの関与を見た。
(倫理面への配慮)実験はヒトを対象としないので、倫理問題は生じない。また、実験動物はマウスを使用した。ヘルシンキ条約に基づき、動物は愛護的に扱い、十分な麻酔下にて屠殺、あるいは頚椎脱臼により屠殺した。
結果と考察
(山下の実験)ダイオキシンは、アリール炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor, AhR)を介してその毒性を発現することが明らかにされてきた。AhR-ARNT系によって、その下流領域で発現してくる遺伝子産物にアリール炭化水素受容体抑制因子(Aryl hydrocarbon receptor repressor, AhRR)がある。この遺伝子欠損マウスが作製された。AhR-ARNT系によって、AhRRが誘導されてくることは、負のフィードバックループが形成されることを意味する。AhR系が発現してくると、この作用を抑えるべく、AhRR遺伝子発現がおこると考えられる。AhRR遺伝子発現をなくすることは、このフィードバックループが破綻して、AhR-ARNT系がオンになった状態が続くことが予想された。これにより、ダイオキシンの作用は増強する。今回は、ダイオキシンによる、マウス胎児の発生毒性を具体的なエンドポイントとして、実験を行った。AhRR-/-マウス胎児では、ダイオキシンによる発生毒性(口蓋裂・腎盂拡大)が増強することが予想された。結果は、予想に反して、「不変」であった。この予想と反する結果をもたらした原因については、現在解析中である。
実験について説明する。C57BL/6Jのオスとメス(野生型)を交配し、妊娠12.5日にTCDDを、0(溶媒投与、対照群), 0.625, 1.25, 2.5, 5, 10, 40μg/kgの割合で強制経口投与した。胎児の遺伝子型はAhR+/+, AhRR+/+となる。TCDD 10, 40μg/kg投与群の野生型胎児(AhR+/+)において、口蓋裂が観察された。
同様にして、AhRR-/-のオスとメスを交配して、胎児の口蓋裂、腎盂拡大の有無を観察した。胎児の遺伝子型は、AhR+/+, AhRR-/-となる。AhRR-/-の胎児においては、口蓋裂の誘発率がAhRR+/+のそれと殆ど同じであった。腎盂拡大については、予想とは逆にAhRR-/-群が野生型群よりも誘発率が若干低いという結果が得られた。
以上の結果は、AhRR-/-の胎児においても、ダイオキシンに対する感受性は増強することなく、AhRR+/+の胎児の感受性と比較して、それが増強することはなかったということを意味する。
この結果をどのように解釈できるであろうか。口蓋は、左右の口蓋突起が正中で癒合して、口蓋が形成され、口腔と鼻腔の境が形成される。口蓋裂は、左右の口蓋突起が正中で癒合しないためにおこる、異常である。AhRRが口蓋突起で発現してこないと考えると、AhRRの遺伝子を欠損したマウスにおいても、ダイオキシンの口蓋裂誘発作用は不変であると予想される。そこで、現在、口蓋突起において、AhRRが発現するかどうかについて、検討中である。
(菅野の実験)本研究では、「ダイオキシン類の免疫系・血球系への作用を解析する」という目的でスタートした。今まで、ダイオキシン類の免疫系に及ぼす作用の分子免疫学的解析は殆ど行われていない。 今回ダイオキシンを1回経口投与しただけで、 (1)免疫系にとって非常に重要な胸腺が劇的に委縮し、細胞数が激減し、効果が1か月以上持続することがわかった。(2)造血系幹細胞の性状が変化することが分かった。この様な複数の異常により免疫不全症になることが分かった。以上より、「どのような細機構が関与しているのか?」、「Ahレセプターとダイオキシン投与による胸腺萎縮作用との関連は?」、などの問いに答えることを全体計画とし、将来的には、「この免疫不全症に対処する方法は何か?」の問いに対する答えの基盤を提供することを目的とした。
(横崎の実験)インテグリンは、細胞膜表面にあって、細胞外基質を認識する受容体である。インテグリンはTGF βの発現を上昇させる。マウスで、インテグリンのαvβ6遺伝子を欠損させると、1)ブレオマイシンによって誘発される肺線維症に抵抗性となる。2)肺気腫を誘発するという報告があり、呼吸器難病の病態解明には、インテグリンの研究が必要である。
今回は、オステオポンチンに着目して、インテグリンとの関連を調べた。酸性糖蛋白オステオポンチンは、組織リモデリングや炎症の制御などの多彩な局面で作用を示す細胞外マトリックスで、骨形成、線維化、冠動脈狭窄や腫瘍の転移に関する報告が多くみられる。横崎はオステオポンチンが7種類のインテグリンを受容体とすることから、オステオポンチンとインテグリンの相互作用に関して検討した。まず、α9β1の他のリガンドであるトランスグルタミナーゼにより重合を受ける事に注目し、重合化オステオポンチンの作用を検討した。さらに、インテグリンα9β1は生体では上皮も含め広く発現しているが、細胞株では限られたもののみに発現がみられているため、発現調節機構に関して検討した。また、インテグリンαvβ6はTGFβを活性化することが判明したが、オステオポンチンのこの機構への関与を検討した。これらより、オステオポンチンの多彩な作用は、リガンド側の翻訳後修飾とそれに関連した受容体の種類の変化によって制御される可能性が示された。
結論
以上、ダイオキシンによる発生毒性・免疫毒性発現機序を検討した。また、肺線維症、肺気腫という、呼吸器難病である疾患の病態を解明するため、インテグリンについて、基礎的研究を行った。

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