ダイオキシン類汚染に起因する悪性新生物死亡の超過リスクに関するコホート研究

文献情報

文献番号
200301290A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類汚染に起因する悪性新生物死亡の超過リスクに関するコホート研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
丹後 俊郎(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤田利治(国立保健医療科学院)
  • 谷畑健生(国立保健医療科学院)
  • 簑輪眞澄(国立保健医療科学院)
  • 国包章一(国立保健医療科学院)
  • 内山巌雄(京都大学)
  • 田中 勝(岡山大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日焼却施設から排出されるダイオキシン類の及ぼす健康影響について国民の関心が高まりその的確な対策が急がれている。しかし,マスコミ等で様々な暴露状況,健康影響に関する報道が繰り返されているがダイオキシン類の測定の困難性から測定法上問題の多いデータが一人歩きして,見かけの影響,誤った解釈が国民を混乱に陥らせている可能性もある。本研究は、国民の間のいたずらな混乱・不安を解消するとともに、有効な施策のための的確な情報を提供するため、日本全国の焼却施設の中から排出量の多い中規模以上の焼却施設を選び、その周辺における住民への影響、特にダイオキシン類の健康影響として欧米でその影響が示唆されている悪性新生物死亡への超過リスクを人口動態死亡票を利用した日本で初めての大規模後ろ向きコホート研究により解明することを目的とする。
研究方法
平成15年度は前年度に決定された研究プロトコールにしたがい、以下の個別研究を実施する。(1) ごみ焼却施設、施設周辺の市区町村、死因の選定に関する研究(分担者:谷畑健生、藤田利治、簔輪眞澄、丹後俊郎):悪性新生物死亡(13死因)について、前年度に選定された51施設それぞれに1980年から2000年までの過去21年間の周辺地域の人口動態調査死亡票の目的外使用の申請を行う。人口データは5年毎の国勢調査データを利用し、必要な年度の人口は線形補間で推定する。(2) 固定発生源周辺における超過リスク検出のための統計モデルに関する研究(分担者:丹後俊郎):固定発生源周辺における超過リスク検出のための統計モデルに関する研究を昨年度に引き続き行うとともに、各施設の1980年から2000年までの過去21年間の施設周辺の悪性新生物死亡状況の推移を人口動態死亡票を利用して「出生コホート」として解析できるように再編集する方法を検討する。その際、調査対象である死亡者の住所,ゴミ焼却施設の地理的位置(緯度・経度)情報を収集し、前年度に選定したGISソフトを利用して2次元平面上にプロットできるコンピュータ・システムを構築する。 (3)ごみ焼却施設由来の土壌中ダイオキシン類の曝露評価に関する研究(分担者 国包章一、田中勝、内山巌雄、丹後俊郎):昨年度の調査結果をまとめるとともに、本年度も施設周辺ダイオキシン類土壌中濃度の空間的広がりの分布を評価するモデルを構築するための有力な情報として代表的なごみ焼却施設を選定し、発生源由来の土壌中ダイオキシン類測定調査を行う。厚生省が平成9年4月に緊急対策の判断規準として示した「排煙1立方メートル当たり80ng-TEQを越えた施設」を対象候補施設として選定する。(4) ごみ焼却施設周辺の湖沼底質年代評価に関する研究(分担者 内山巌雄、田中勝、国包章一、丹後俊郎):昨年度の調査結果をまとめるとともに、本年度も周辺地域におけるダイオキシン類の経年変化を追い、曝露年代を推定することを目的として、ごみ焼却施設周辺の湖沼底質中のダイオキシン類濃度及び低質項目について測定を行う。(5)ダイオキシン類の悪性新生物リスクに関するメタ・アナリシス(分担者:丹後俊郎):前年度の研究予定に入っていなかったが、本研究の方法、結果の歴史上の相対的位置を確認するために、ダイオキシン類が生体に及ぼす影響に関する疫学的研究(コホート研究)について系統的な文献レビューを始めた。この研究は平成16年度前半に終了する予定。
結果と考察
(1) ごみ焼却施設、施設周辺の市区町村、死因の選定に関する研究:(2) 固定発
生源周辺における超過リスク検出のための統計モデルに関する研究:ごみ焼却施設などの固定発生源周辺の問題している疾病の発生(死亡)状況の経年的推移の大きさと固定発生源からの距離をモデル化して、環境汚染により超過リスクを鋭敏に検出する方法論を検討した。前年度は単一年齢層を追跡する際に、市区町村別の死亡数がゼロとなる場合を考慮した方法を新しく検討したが、今年度は、全年齢層の21年間のヒストリカル・コホートデータに基づいて、出生コホートの効果を調整したプロスペクティブなPoisson回帰モデルを検討した。 (3)ごみ焼却施設由来の土壌中ダイオキシン類の曝露評価に関する研究:昨年度の調査は、選定された施設から半径5kmの円内の20地点の土壌を測定したものであるが、ダイオキシン類の平均値は 19pg-TEQ/g、範囲は5.1-75pg-TEQ/gの値であった。ただ、施設からの距離とダイオキシン類濃度との関係にはわずかながらも距離減衰が認められた。今年度の調査は、あらたに選定された1施設の周辺20数箇所を選択し土壌サンプルを採取した。(4)ごみ焼却施設周辺の湖沼底質年代評価に関する研究:昨年度の調査結果は次の通り。1948年で4.3pg-TEQ/g、1960年頃で15pg-TEQ/g、1975年頃で34pg-TEQ/gと濃度が上昇し、その後、年代が同定された3時点(1988, 1996, 2002年)では40pg-TEQ/g程度で濃度の変動は少なかった。今年度の調査は、新に選択した焼却施設周辺の湖沼を選定し、錯乱がないと思われる場所より測定コアを用いて底質を採取して年代測定を行うとともに、底質に含まれていたダイオキシン類を測定した。分担研究(3),(4)の測定は、分析精度の優れている分析会社に業務委託を行った。分析に時間がかかるため、分析結果は来年度の初期頃に判明する予定である。
結論
「固定発生源周辺における超過リスク検出のための統計モデルに関する研究」で開発された超過リスク検出のための統計モデルにより来年度の総合的なデータ解析に向けての準備が整ったと言える。「ごみ焼却施設由来の土壌中ダイオキシン類の曝露評価に関する研究」での昨年度の調査結果から、過去2回調査した結果と同様に、ごみ焼却施設周辺のダイオキシン類濃度レベルはさほど高くないものの、施設からの距離とダイオキシン類濃度との関係にはわずかながらも距離減衰が認められたことは、ダイオキシン類濃度がごみ焼却施設周辺ではバックグラウンド地域と比較して、僅かであるが、高いことが示唆された。「ごみ焼却施設周辺の湖沼底質年代評価に関する研究」で1988, 1996, 2002年の3時点でほぼ同様の40pg-TEQ/g程度での濃度が観測された結果は、この施設が1986年に稼動を開始していることを考えあわせると、この施設の排ガス中のダイオキシン類がもたらした周辺への影響は少かったことを示唆している。
本研究が順調にすすめば,平成16年度初期に解析が開始され、焼却施設周辺における住民の周産期への健康影響として、悪性新生物死亡への超過リスクが日本で初めての大規模後ろ向きコホート研究により解明することができる。

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