内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーションに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301289A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーションに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 肇子(慶應義塾大学商学部)
研究分担者(所属機関)
  • 内山巌雄(京都大学大学院工学研究科)
  • 大前和幸(慶應義塾大学医学部)
  • 楠見孝(京都大学大学院教育学研究科)
  • 岡本真一郎(愛知学院大学文学部)
  • 杉本徹雄(上智大学経済学部)
  • 織朱實(関東学院大学法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
21,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーションについて、実証的な検討を行い、主に厚生労働省が行うべきリスクコミュニケーションのあるべき姿について提案を行うことにある。本年度は主として、内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーションガイドラインの作成の基本的な資料となるべき実験および調査を行うとともに、諸外国のリスクコミュニケーションの状況についても比較検討した。
研究方法
1.小学校児童の蛍光灯安定器破裂によるPCB曝露、および園舎の改築工事に伴う乳幼児のアスベスト曝露の事例について、実際に行われた健康リスクの評価方法および保護者に対する健康リスクの説明方法をまとめ、評価した。またビスフェノールAを例としてリスクコミュニケーションのためのリスク評価を試みた。(内山)
2.前年度及び今年度に収集した内分泌攪乱物質による量影響・量反応関係を系統的に整理し、リスクコミュニケーションツールを作成した。(大前)
3.昨年実施した社会調査結果をさらに詳細に分析した。また、20歳代から60歳代の一般男女を対象として、内分泌攪乱物質に関する矛盾する情報によって、どのようにリスク認知が変化するのか、批判的思考態度や信念がどのように影響するのかを検討した。(楠見)
4.内分泌攪乱物質に関する概説の表現からどのような推意が生じる可能性があるかを分析した。また現存の化学物資に関するリスクコミュニケーションのマニュアルで、使用すべきであると推奨されたり、望ましくないとされている表現の言語特徴を分析した(岡本)。
5.内分泌撹乱物質に関する社会的な認知状況やマスメディアによる報道の状況を分析した。また、企業に対して調査を行なった。(杉本)
6.欧米各国の行政機関を含めた各セクターがどのようにリスクコミュニケーションに関わってきているかの調査を行った。(織)
7.ガイドライン案を作成し、班会議で検討を重ねた。(全員参加)
結果と考察
1.分析した2事例は、保護者の意見の確認をとりながら、慎重を期して行われており、この手法はリスクコミュニケーションの方法を考える際にも大いに参考になると思われる。ワーストケースを仮定した際のMOEの併記があってこそ、住民に理解されやすくなるものと考えられる。ワーストケースにおけるリスクの併記は、リスク計算の信頼性を高めるとともに、住民に安心感を与えるためにも重要であるといえよう。ビスフェノールAの推計摂取量とNOEALの幅(MOE)は最大に見積もっても100 以上であり、現状では特に問題はないと推計された。(内山)
2.一般人口を対象としていることをふまえて、平易な表現にする、誤って理解されないように描画・記述する、省略できるところは思い切って省略する、等、質の向上に関する課題が持ち越された。リスクコミュニケーション対象集団の特性、健康リスクの大きさと重大さ、暦年によっても、健康リスクコミュニケーションの最終ゴールである「正しく理解させる」ためのツール・技術は異なってくると考えられることから、「ツール作成→実施→情報フィードバックによるツール改訂」は、必須のプロセスである。(大前)
3.社会調査の分析結果から、マスメディア接触量が非常に重要な要因であることがわかった。正しい情報をマスメディアに提供することが、人々に正しく内分泌攪乱物質を理解してもらい、そして正しく行動してもらうために重要であるといえる。また、批判的思考態度がマスメディア接触や情報要求を高め、人々のリスク回避に関する意識に大きな影響を及ぼし、その結果人々のリスク回避行動を規定していることが明らかになった。とくに、客観的な思考態度が新聞やニュースなどのマスメディアの接触量を高めていること、探求心の高い人は、どのような食品・製品に内分泌攪乱物質が入っているか情報を求め、行政に対して、物質名や食品リストの公表や企業の指導を求める傾向があることがわかった。(楠見)
4.リスクコミュニケーションの具体的指針として、暫定的なものであるが、以下のような点を示すことができる。1)リスクを説明する際には、必要以上に過剰な危険が伝わることがないように、また、必要以上に安心感が伝わることがないように、どのような推意が生じるか、表現内容に配慮することが必要である。2)曖昧な保証は不信感を生む。しかし強すぎる保証は逆効果のおそれがある。3)事態が不明なときは「情報がない」ことを明言すべきである。4)危険があるときには、危険を明確に言明するほうが信頼感を生む。5)危険が少ないときには、それを保証した上で、実態を確認する方針を明示すべきである。6)不確かな見通しなら、示さないほうが感じよく受け入れられる。7)ネガティブなことを後に述べるほうが信頼感を生む。8)丁寧な表現は信頼感や安心感を生む。9)どういう対象にコミュニケーションを行うのかによって表現を考慮する必要がある。(岡本)
5.内分泌攪乱物質に関する記事のうち、企業関連記事については、食料品業界についての記事が最も多かった。これらの記事は、カップ麺の容器からスチレンダイマーやスチレンポリマーが溶出する恐れがあることを指摘したものだけではなく、商品の安全性を訴えた企業側の反論や紙容器に変更されたことについても掲載されたことが、記事件数が多くなった要因ではないかと思われる。また、企業の行政に対する期待は、非常に大きかった。行政によるガイドラインや情報公開を十分に行なわれることを望んでいる。企業自体も、情報公開や消費者に対する対応については、たいへん前向きであることが伺える。行政・企業・消費者が連携し、大方にとってわかりやすい情報提供、情報内容、使用するメディア等が適切に組み合わされることが必要である。(杉本)
6.欧米諸国の内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーションの取組について調査を行ったが、欧米では内分泌攪乱物質のみに着目した施策を実施していないという点に留意しなければならない。基本的には、内分泌攪乱物質については化学物質の作用であり、そうした作用を有する化学物質を全て含め化学物質リスクマネジメント施策を展開している。EUの統合が進む中、国別のアプローチはほとんど見られなくなってきている。EUまたEU加盟国自体も、市民がどのような環境リスクの情報を知りたがっているのか、どこから発信された情報を最も信頼するのかという意識調査を継続的に行っている。同様に米国でも平常時のコミュニケーション拡充を積極的に行っている。専門家が情報を発信すると理解しにくくなるため、化学物質管理部局に広報担当者をおき、わかりやすいリスク情報提供のための努力を行っている点が特色である。(織)
結論
本年度は、内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーションガイドラインの作成の基本的な資料となるべき実験および調査を行うとともに、諸外国のリスクコミュニケーションの状況についても比較検討した。次年度は、これらのガイドライン案、作成途上にあるコミュニケーションツールを実際に利用した上で評価を行い、最終的なガイドラインの作成を行う。また、これらの成果を元に、シンポジウムを実施し、広く一般に内分泌攪乱物質問題の普及啓発をはかる予定である。

公開日・更新日

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