文献情報
文献番号
200301283A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質・ダイオキシン類の小児、成人の汚染実態及び暴露に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山田 健人(慶應義塾大学医学部病理学教室)
研究分担者(所属機関)
- 渡辺 昌(東京農業大学応用生物科学部)
- 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
- 田辺 信介(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
19,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌かく乱物質は、農薬やプラスチック、PCB等の生産過程や廃棄物の処理過程等で発生すると考えられているが、人体において、その影響がどの程度起こりえているのかを評価することが必要不可欠である。本研究は、1)成人および小児の各種臓器の暴露状況を把握し、2)特定の疾患や病態と蓄積の相関関係を得るための基礎デ-タとする、ことを目的としたものである。さらに我が国におけるバックグラウンド値を明らかにすることによって、人体影響デ-タを比較するためのデ-タベ-スが構築される。また肪組組織、肝、血液、胆汁の測定結果から、内分泌かく乱物質の代謝経路についても研究・考察した。また平成15年度は、多くの症例を迅速に分析しうる方法の確立が急務であることから、特に臓器・組織からの抽出の簡便化・迅速化を図るため、既に環境試料で使用実績のある高速溶媒抽出(ASE)法による様々な臓器からの脂肪およびダイオキシン類の迅速な抽出方法を検討し、至適化した。測定する臓器は、これまでの肝臓、血液、胆汁、脂肪組織とともに腎臓、膵臓、脾臓、中枢神経(大脳)、乳腺について測定を始めた。近年、臭素系難燃剤を含む廃棄物の焼却に伴って、ダイオキシン類と同様な生体作用と毒性をもつ臭素系ダイオキシン類が発生していることが明らかにされ、その人体汚染が注目されている。そこで、これらの剖検例におけるpolybrominated diphenyl ether (PBDE)の測定法の開発を試み、脂肪組織、血液、肝臓、胆汁中の濃度を測定、異性体ごとに比較した。一方、現在、ファイリングが進行中の臓器・組織は東京近郊在住の患者さんの剖検症例であることから、食習慣の異なる魚類の摂取量が多い地方との比較を進める目的で、愛媛県に着目し、愛媛大学医学部の協力を得て、同地における病理解剖症例における肝臓での内分泌撹乱物質の測定を開始した。
研究方法
1)剖検症例の主要臓器(項部脂肪組織(褐色脂肪に相当)、腋窩脂肪組織、腸間膜脂肪組織、腹壁脂肪組織、下垂体、脳(開頭症例のみ)、肝、脾、腎、膵、胃粘膜、上行結腸粘膜、乳腺、骨髄)、血液、胆汁を採取した。2)臓器・組織に含有される内分泌かく乱物質(PCB,HCB,コプラナおよびモノオルトPCB、ダイオキシン類、ブチル化スズ化合物, HCH,DDT、TCP、重金属、微量元素 )を測定し、標準的なバックグランド暴露値を年齢、階級、性別に得た。測定は、脂質抽出、クリ-ンアップ後、高分解能ガスクロマトグラフ、二重収束型質量分析計あるいはGCMSで行った。また迅速なASE法の検討のためには、アセトン:ヘキサン比を(1:2)、(1:1)及び(2:1)にて100℃、1500psiで抽出後、さらに150℃、2000psi、アセトン・ヘキサン(1:3)で抽出した。愛媛大学でのヒト肝臓試料は、2003年12月に愛媛大学医学部附属病院での病理解剖によって得られ、分析時まで-80℃で保存したものである。愛媛大学では、ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、DDT及びその代謝物(DDT)、クロルダン及びその類縁化合物(CHL)、ヘキサクロロシクロヘキサンのα、β、γ異性体(HCH)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)などの化学物質を分析対象とした。これら化学物質の分析ではPCDD/DFとコプラナPCBs(ダイオキシン類)の定性・定量は高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計(HRGC-HRMS)で、PCBと有機塩素系農薬(DDTs、CHLs、HCHs、HCB)の定量は電子捕獲型検出器付ガスクロマトグラフ(GC-ECD)によった。ダイ
オキシン類の毒性等量(TEQs)の算出には、WHOが設定したヒト/哺乳動物の毒性等価係数(TEF)を用いた。
(倫理面への配慮)剖検にあたって研究対象者に対する人権擁護上の配慮および研究方法による研究対者に対する利益・不利益等の説明を遺族に対して行い、インフォ-ムドコンセントを得て、遺族の同意の署名を剖検承諾書へ記入していただいた。愛媛大学での分析に供した試料についても、愛媛大学医学部付属病院臨床研究倫理委員会承認下に、家族のインフォームドコンセントを得ている。
オキシン類の毒性等量(TEQs)の算出には、WHOが設定したヒト/哺乳動物の毒性等価係数(TEF)を用いた。
(倫理面への配慮)剖検にあたって研究対象者に対する人権擁護上の配慮および研究方法による研究対者に対する利益・不利益等の説明を遺族に対して行い、インフォ-ムドコンセントを得て、遺族の同意の署名を剖検承諾書へ記入していただいた。愛媛大学での分析に供した試料についても、愛媛大学医学部付属病院臨床研究倫理委員会承認下に、家族のインフォームドコンセントを得ている。
結果と考察
結果=平成14年度にヒト血清および全血からのASE抽出法と従来法(大塚アッセイ研究所およびドイツERGO社)を比較検討し、環境試料のダイオキシン類分析に汎用されているASEの条件(温度150℃、圧力2000psi)が生体試料のMono-ortho-PCBs抽出でも適していることが明らかとなった。そこで実際に種種のヒト臓器組織中のMono-ortho-PCBs分析を行ったところ、血液やいずれの臓器でもlipid basisでは同程度(2倍の範囲内)のMono-ortho-PCBsが検出された。また、8種類のMono-ortho-PCBsの異性体相対比は同一であり、血清のみならず臓器においても本法が有効であることが明らかとなった。
同一症例における血液、肝、胆汁中のダイオキシン類濃度の測定から、血液と胆汁中の濃度がよく相関し、肝では脂肪重量あたりの濃度が血液、胆汁よりも高いことを報告してきたが、平成15年度に測定し、増加した症例においても蓄積レベル、ダイオキシンの異性体種類別濃度に相違はなかった。胆汁からの排泄量においても異性体による差異がこれまでと同様に認められた。また農薬を含む有機塩素化合物では、脂肪組織中の残留パターンは、DDTs>PCBs>HCHs>CHLs>HCB>TCPMe>TCPMOHの順であった。TCPの胆汁からの排泄傾向もこれまで同様であった。またPCBや一部の農薬の体内蓄積量が、ダイオキシン類より数桁多く、PCB自体の直接的な人体への毒性だけでなく、ダイオキシン類等他の内分泌かく乱物質の人体への複合的な毒性を考える必要性がいまだに存在すると考えられた。さらに国際比較の結果、日本人のPCB濃度は途上国の一般人より明らかに高く、先進国の中でも高いレベルにあることが判明した。年齢とダイオキシン・PCB・有機塩素化合物の蓄積に相関があるかどうか検討したところ、年齢に伴ってダイオキシン・PCBの蓄積が増加することが明らかとなったが、性差は認められなかった。東京近郊在住の人における蓄積状況と比較する目的で、愛媛在住の人についてその剖検例の肝臓(3症例)を測定した。
その結果、愛媛県在住の人におっけるダイオキシン類の残留濃度に大きな差は認められなかったが、肝臓中PCDD/DFs組成を、これまでの東京在住の人の結果と比較したところ、愛媛県の試料で高い割合の1,2,3,6,7,8-H6CDDの残留がみられた。ダイオキシン類を除く化学物質では、HCHおよびDDTが東京在住者と比べて、愛媛県在住者の肝臓で高く、次いでPCBs、CHLs、HCBの順であった。また1症例(49歳男性)においては、肝臓中HCH濃度は、東京在住者のデータの最大値を超えていた。最後に本研究過程で、膵癌および悪性リンパ腫で平均値の数倍~10倍以上の内分泌撹乱物質蓄積例がそれぞれ1例見いだされた。特にダイオキシン類の高濃度暴露が明らかとなった膵癌症例(59歳、男性、腺扁平上皮癌)について、H-ras, K-ras変異を検索した結果、K-rasにおいて、コドン12, 61に新たな変異を見出した。一方、悪性リンパ腫においては、K-rasに変異はなかった。
同一症例における血液、肝、胆汁中のダイオキシン類濃度の測定から、血液と胆汁中の濃度がよく相関し、肝では脂肪重量あたりの濃度が血液、胆汁よりも高いことを報告してきたが、平成15年度に測定し、増加した症例においても蓄積レベル、ダイオキシンの異性体種類別濃度に相違はなかった。胆汁からの排泄量においても異性体による差異がこれまでと同様に認められた。また農薬を含む有機塩素化合物では、脂肪組織中の残留パターンは、DDTs>PCBs>HCHs>CHLs>HCB>TCPMe>TCPMOHの順であった。TCPの胆汁からの排泄傾向もこれまで同様であった。またPCBや一部の農薬の体内蓄積量が、ダイオキシン類より数桁多く、PCB自体の直接的な人体への毒性だけでなく、ダイオキシン類等他の内分泌かく乱物質の人体への複合的な毒性を考える必要性がいまだに存在すると考えられた。さらに国際比較の結果、日本人のPCB濃度は途上国の一般人より明らかに高く、先進国の中でも高いレベルにあることが判明した。年齢とダイオキシン・PCB・有機塩素化合物の蓄積に相関があるかどうか検討したところ、年齢に伴ってダイオキシン・PCBの蓄積が増加することが明らかとなったが、性差は認められなかった。東京近郊在住の人における蓄積状況と比較する目的で、愛媛在住の人についてその剖検例の肝臓(3症例)を測定した。
その結果、愛媛県在住の人におっけるダイオキシン類の残留濃度に大きな差は認められなかったが、肝臓中PCDD/DFs組成を、これまでの東京在住の人の結果と比較したところ、愛媛県の試料で高い割合の1,2,3,6,7,8-H6CDDの残留がみられた。ダイオキシン類を除く化学物質では、HCHおよびDDTが東京在住者と比べて、愛媛県在住者の肝臓で高く、次いでPCBs、CHLs、HCBの順であった。また1症例(49歳男性)においては、肝臓中HCH濃度は、東京在住者のデータの最大値を超えていた。最後に本研究過程で、膵癌および悪性リンパ腫で平均値の数倍~10倍以上の内分泌撹乱物質蓄積例がそれぞれ1例見いだされた。特にダイオキシン類の高濃度暴露が明らかとなった膵癌症例(59歳、男性、腺扁平上皮癌)について、H-ras, K-ras変異を検索した結果、K-rasにおいて、コドン12, 61に新たな変異を見出した。一方、悪性リンパ腫においては、K-rasに変異はなかった。
結論
同一剖検症例における各種の臓器での内分泌かく乱物質の蓄精機状況を明らかにすることで、それぞれの化学物質の臓器別の蓄積傾向が明らかになる。この臓器による蓄積傾向の相違が明らかになることで、特定の臓器・組織の機能と蓄積化学物質との関連や疾患との相関を探索することが可能であり、今後の課題としたい。さらに加齢との相関が明らかであるダイオキシン類や一部の塩素系農薬がある一方、加齢と相関しない化学物質もあり、ヒトにおける代謝経路の解明が必要である。本研究では、血液、肝、胆汁における測定から、化学物質(ダイオキシン類、PCB類、TCP類)の腸肝循環を介した代謝経路の一端が明らかなっており、他の化学物質についても解析しうると考える。本研究により難燃剤から発生すると考えられているPBDEのヒトでの蓄積はPCBに匹敵する可能性が示された。しかいPBDEの毒性については、いまだに不明であり、Toxicity Equivalent Factorも数1,000分の1から数万分の1に設定されている。最近は このPBDEの人体での蓄積が増加してきているとの報告もあり、今後、年齢や疾患との相関を明らかにして必要があると考えられた。日本にける内分泌かく乱物質の蓄積状況を地域別に評価する試みは、母乳、血液で行われてきている。その中で、母乳で高い蓄積が見られた愛媛県在住者での病理解剖症例での蓄積調査は、これまで明らかになってきた東京都在住者での蓄積状況との比較から、食生活、環境などとの関連を探る予定である。最後に、バックグランドとは言えない濃度のダイオキシン類、PCB、有機塩素系化合物、有機スズ化合物の蓄積を認めた悪性腫瘍症例が見いだされ、新たな癌遺伝子K-Rasの点突然変異を発見したことは、内分泌撹乱物質が関与する悪性腫瘍の存在の可能性を十分に考慮しながら今後、検討する必要があることを認識させた。これからも引き続き、日本人における内分泌撹乱物質暴露状況をモニターしていく必要性があると考えられた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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