文献情報
文献番号
200301280A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢神経系に影響を与える内分泌かく乱化学物質の順位付けとヒトでのリスク予測と回避法の研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
舩江 良彦(大阪市立大学大学院医学研究科生体機能解析学分野)
研究分担者(所属機関)
- 福島昭治(大阪市立大学大学院医学研究科都市環境病理学)
- 伏木信次(京都府立医科大学大学院医学研究科分子病態病理学)
- 山野恒一(大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学)
- 今岡進(関西学院大学理工学部生命科学科)
- 植田弘師(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命薬科学専攻分子薬理学研究室)
- 長田真優子(大阪市立大学大学院医学研究科生体機能解析学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(化学物質リスク研究事業)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、内分泌かく乱化学物質が、内分泌系・生殖器系に対してのみならず、神経系や免疫系にも様々な影響を与えていることが報告されている。中枢神経系への作用に関しては、「内分泌かく乱化学物質と行動異常や知能低下との関連性」が示唆され、現在問題視されているにも関わらず、未だ作用機序など不明な点が多い。そこで、本研究では、内分泌かく乱化学物質の中枢神経系への作用を予測するスクリーニング法を開発し、ヒトでのリスク予測とリスク回避法を開発するのが目的である。
研究方法
ヒトPDI遺伝子をクローニングし、大腸菌で発現させたヒスチジン融合PDIを用いてT3との競合的結合実験をもとに、BPAをはじめとする内分泌攪乱作用を及ぼす可能性のある物質についてスクリーニングを行った。(舩江)ホルモンかく乱作用を有することがすでに知られている化学物質を含む培養液でPC12細胞を30分間培養し、超音波破砕し、遠心した後、このときの上清に含まれるドパミン量を細胞内ドパミン量として定量した。定量にはHPLCを用い、ECDで検出した。(長田)微小管重合能測定:マウス脳より精製したチューブリンとMAP2の混合による濁度上昇を計測し、被験物質存在下の効果を解析した。培養海馬神経細胞突起伸長測定:17日胚ラット海馬神経細胞の培養2日後に被験試薬を添加し、その2日後に伸長した突起を蛍光免疫染色により観察し測定した。マウス学習行動解析:被験試薬脳室内投与1日目のマウスをステップスルー型学習試験装置によりトレーニングし、その24時間後に学習効果の試験を行った。(植田)ヒト培養細胞Hep3Bの低酸素誘導性遺伝子エリスロポエチン(EPO)をマーカーにしたアッセイ系にBPAおよびその誘導体を添加して影響を調べた。アフリカツメガエルの受精卵および尾芽胚にBPAおよびその誘導体を投与して影響を調べた。(今岡)妊娠マウス(ICR)に胎生12.5日から18.5日までBPAを投与し、胎生18.5日で胎仔脳を摘出、PLP固定液で固定後パラフィン包埋切片を作成し、免疫組織化学的染色を施行した。一次抗体として、抗PDI抗体、抗Nestin抗体、抗TUJ1抗体、抗MAP2抗体、抗Neurofilament抗体を用いた。胎生18.5日の脳ホモジネートでWestern blotを行った。以上をBPA投与群、非投与群で比較した。(伏木)ICR系マウスを用い、BPA 1mg/Lを含む飲料水で飼育した母マウスから生まれた仔を実験群、正常飲料水で飼育された母マウスからの仔を対照群とし、両群で比較した。(1)脳重と大脳のDNA量、蛋白量を測定し、細胞密度(DNA量/蛋白量)を検討した。(2)両群の生後0, 4,8,10, 15日目の海馬でのERαとsynaptophysinの発現を免疫組織化学的に検索した。(3)血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定した。(山野)11週齢のF344ラットを用い、妊娠を確認した母動物に妊娠0日から出生児の離乳までBPAを0, 0.05,および200 mg/kg体重/日の用量で毎日、強制経口投与した。また、ENUを10 mg/kg体重の用量で妊娠18日目に1回、静脈内投与した。F1雄動物を生後40週まで無処置で飼育・観察した。生後13週で脳のドーパミン測定を、40週で神経系の腫瘍発生を病理学的に検索した。(福島)
結果と考察
ヒトPDIに対するT3結合阻害活性を指標に、内分泌攪乱作用が疑わ
れている化学物質の影響について調べた。ラットPDIとの種間による大きな差はみられず、BPAをはじめとするフェノール基含有化合物によってT3の結合が阻害された。フェノール基を有する化合物がすべてこのような作用を示すわけではないので、もう少し化合物をしぼりこむ必要がある。(舩江)脳内ドパミンの減少により神経発達に悪影響を及ぼす危険性を有する化学物質を見つけ出す簡便な評価法として、PC12細胞内のドパミン量変化が指標になると考えた。その結果、BPAと同等なもしくはそれ以上の強いドパミン減少作用を有する化学物質が存在することが明らかになった。PC12細胞膜に存在するエストロゲンリセプター(ER)を介し、BPAは作用していると推察されるので、ドパミンの分泌作用してはエストロゲン作用を有する化学物質の関与を考える必要がある。(長田)MAP2依存的微小管重合作用した。BPAは単独作用は示さずプレグネノロンによる重合促進作用を阻害した。ノニルフェノールは単独で微小管重合を阻害した。培養海馬神経細胞の樹状突起伸長に対し、BPAは単独で無影響であったが、プレグネノロンによる樹状突起伸長促進作用や突起数増加作用を抑制した。一方、ノニルフェノールは単独で樹状突起の伸長をほぼ完全に抑制し、この効果はプレグネノロンあるいはプロゲステロンにより抑制された。学習能はノニルフェノール投与で低下が観察された。(植田)ヒト培養細胞を用いた低酸素応答のアッセイ系にBPAを添加したところ、顕著なEPO発現抑制がみられた。BPAの誘導体を合成して検討したところ、BPA-OMeでは、同様に誘導阻害がみられたが、BPFでは見られず、この活性にはBPAのジメチルの構造が必要であることが明らかになった。(今岡)PDIの発現パターンは、免疫組織化学的には、嗅球、海馬、基底核、視床、視床下核ではBPA投与群、非投与群間で差異は見られなかった。背側の終脳壁からなる皮質板、subplateでは、BPA投与群でPDIの発現が明らかに低下し、正常の中枢神経系発生のいずれの時期にも観察されないパターンを示した。皮質板では、PDI免疫反応性のradial patternの消失、MAP2の皮質板浅層から深層へかけてのgradientの消失、TUJ1発現線維の減少とNestin陽性線維の残存などが見られた。PDIは、主として、分化した神経細胞に強く発現するものと考えられるが、胎児へのBPA曝露は、正常の大脳皮質発生に影響を及ぼすことが示唆された。(伏木)対照群、実験群の血中TSH値はそれぞれ2.02~3.53ng/ml、 2.94~3.50ng/mlの範囲にあった。BPAに曝露された仔の脳の細胞密度の高値は神経細胞の成熟の遅れを示唆している。しかし、認知、記憶、学習の中枢である海馬ではBPAの受容体であるERαとsynaptophysinは正常に発現し、BPAが海馬のシナプス形成に影響を与える積極的な結果は得られなかった。また、BPAが仔の甲状腺ホルモンを攪乱させている結果は得られなかった。(山野)分娩状況において、分娩時の平均出生児数は対照群とBPA投与群との間に有意差を認めず、妊娠期間にも有意差を認めなかった。雄児動物の飼育期間中における体重増加および摂餌量に差を認めなかった。13週齢での脳ドパミン量においては差を認めなかった。40週齢時における脳の絶対および相対重量に有意な差は認められず、また肉眼的所見においても脳、脊髄で種々の変化が認められたものの群間に有意な差を認めなかった。現段階ではBPAの神経系腫瘍の発生に及ぼす影響は見られていない。(福島)
れている化学物質の影響について調べた。ラットPDIとの種間による大きな差はみられず、BPAをはじめとするフェノール基含有化合物によってT3の結合が阻害された。フェノール基を有する化合物がすべてこのような作用を示すわけではないので、もう少し化合物をしぼりこむ必要がある。(舩江)脳内ドパミンの減少により神経発達に悪影響を及ぼす危険性を有する化学物質を見つけ出す簡便な評価法として、PC12細胞内のドパミン量変化が指標になると考えた。その結果、BPAと同等なもしくはそれ以上の強いドパミン減少作用を有する化学物質が存在することが明らかになった。PC12細胞膜に存在するエストロゲンリセプター(ER)を介し、BPAは作用していると推察されるので、ドパミンの分泌作用してはエストロゲン作用を有する化学物質の関与を考える必要がある。(長田)MAP2依存的微小管重合作用した。BPAは単独作用は示さずプレグネノロンによる重合促進作用を阻害した。ノニルフェノールは単独で微小管重合を阻害した。培養海馬神経細胞の樹状突起伸長に対し、BPAは単独で無影響であったが、プレグネノロンによる樹状突起伸長促進作用や突起数増加作用を抑制した。一方、ノニルフェノールは単独で樹状突起の伸長をほぼ完全に抑制し、この効果はプレグネノロンあるいはプロゲステロンにより抑制された。学習能はノニルフェノール投与で低下が観察された。(植田)ヒト培養細胞を用いた低酸素応答のアッセイ系にBPAを添加したところ、顕著なEPO発現抑制がみられた。BPAの誘導体を合成して検討したところ、BPA-OMeでは、同様に誘導阻害がみられたが、BPFでは見られず、この活性にはBPAのジメチルの構造が必要であることが明らかになった。(今岡)PDIの発現パターンは、免疫組織化学的には、嗅球、海馬、基底核、視床、視床下核ではBPA投与群、非投与群間で差異は見られなかった。背側の終脳壁からなる皮質板、subplateでは、BPA投与群でPDIの発現が明らかに低下し、正常の中枢神経系発生のいずれの時期にも観察されないパターンを示した。皮質板では、PDI免疫反応性のradial patternの消失、MAP2の皮質板浅層から深層へかけてのgradientの消失、TUJ1発現線維の減少とNestin陽性線維の残存などが見られた。PDIは、主として、分化した神経細胞に強く発現するものと考えられるが、胎児へのBPA曝露は、正常の大脳皮質発生に影響を及ぼすことが示唆された。(伏木)対照群、実験群の血中TSH値はそれぞれ2.02~3.53ng/ml、 2.94~3.50ng/mlの範囲にあった。BPAに曝露された仔の脳の細胞密度の高値は神経細胞の成熟の遅れを示唆している。しかし、認知、記憶、学習の中枢である海馬ではBPAの受容体であるERαとsynaptophysinは正常に発現し、BPAが海馬のシナプス形成に影響を与える積極的な結果は得られなかった。また、BPAが仔の甲状腺ホルモンを攪乱させている結果は得られなかった。(山野)分娩状況において、分娩時の平均出生児数は対照群とBPA投与群との間に有意差を認めず、妊娠期間にも有意差を認めなかった。雄児動物の飼育期間中における体重増加および摂餌量に差を認めなかった。13週齢での脳ドパミン量においては差を認めなかった。40週齢時における脳の絶対および相対重量に有意な差は認められず、また肉眼的所見においても脳、脊髄で種々の変化が認められたものの群間に有意な差を認めなかった。現段階ではBPAの神経系腫瘍の発生に及ぼす影響は見られていない。(福島)
結論
フェノール基含有の一部の化合物は、甲状腺ホルモンを攪乱する可能性が示唆された。(舩江)BPAおよびその他の化合物は、PC12細胞膜に存在するタンパク質に作用し、細胞内のドパミンを分泌することが示唆された。(長田)MAP2が新たな内分泌かく乱化学物質の標的となり、微小管重合能、神経樹状突起伸長作用をかく乱し、その結果中枢神経機能である学習能に変調をきたすことが明らかとなり、化学物質評価系として利用可能であることが示された。(植田)BPAの新しい結合因子HSP90を見いだした。この結合にはBPAのジメチル構造が必要であり、HSP90と結合することでHIF-1を不安定化し、発生過程特に中枢
神経形成過程で重要な因子の発現に影響を与えている可能性が示唆された。(今岡)胎生12.5日から18.5日における胎児脳へのBPA曝露は、大脳皮質板でのPDI発現の異常、正常の皮質板成熟のかく乱をきたし、神経細胞の遊走後の分化、軸索伸長、投射、シナプス形成などにも影響を及ぼす可能性が示唆された。(伏木)BPAに曝露された仔の脳では神経細胞の成熟の遅れが示唆された。しかし海馬ではERαとsynaptophysinも正常に発現し、BPAが海馬のシナプス形成に影響を与える積極的な結果は得られなかった。また、BPAが仔の甲状腺ホルモンのかく乱させているような結果は得られなかった。(山野)ラットを用いて神経系腫瘍の発生に及ぼすBPAの経胎盤および授乳曝露による影響を検討したところ、肉眼的に脳および脊椎腫瘍の発生に影響は見られていない。(福島)
神経形成過程で重要な因子の発現に影響を与えている可能性が示唆された。(今岡)胎生12.5日から18.5日における胎児脳へのBPA曝露は、大脳皮質板でのPDI発現の異常、正常の皮質板成熟のかく乱をきたし、神経細胞の遊走後の分化、軸索伸長、投射、シナプス形成などにも影響を及ぼす可能性が示唆された。(伏木)BPAに曝露された仔の脳では神経細胞の成熟の遅れが示唆された。しかし海馬ではERαとsynaptophysinも正常に発現し、BPAが海馬のシナプス形成に影響を与える積極的な結果は得られなかった。また、BPAが仔の甲状腺ホルモンのかく乱させているような結果は得られなかった。(山野)ラットを用いて神経系腫瘍の発生に及ぼすBPAの経胎盤および授乳曝露による影響を検討したところ、肉眼的に脳および脊椎腫瘍の発生に影響は見られていない。(福島)
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